「治る力」を引き出す
実践!臨床栄養
治るための栄養、生きるための栄養
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序文
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本書を読まれるみなさんへ
2000年1月1日、この日は私にとって重大な意味をもつ日となった。
1996年11月、突然の人事で長年勤めた大学病院から鈴鹿中央総合病院に配属となり、そこでたった5名で“鈴鹿メタボリッククラブ”なる勉強会を立ち上げ、本当に小規模で寂しいながらも楽しい仲間たちとともに新たな道の開拓に乗り出した。
このちっぽけな勉強会は徐々に人々を集め、ついには140名を超える人だかりのする勉強会へと発展する。実際に近隣の愛知県や岐阜だけでなく東京や大阪からもたくさんの方々が鈴鹿にやってきてくれた。
勉強会のテーマは、まずは基礎的な生理学や生化学から始まり、代謝学、そして栄養学・栄養管理へと進んでいった。当初は、毎月1回の実施がきつく、院内でも理解が得られず人も集まらずで、もうやめたいなあと思ったこともあった。しかし、一度もさぼることなく必ず月一で開催した。
講師は、院内の医師や薬剤師、そして看護師、管理栄養士らにお願いし、時にはその家族にも登壇していただき、あらゆる方々とあらゆる題材を巻き込んでの勉強会であった。幸い、探せばすばらしい人材が隠れていることがわかり、時には1人で飽き足らず複数名の講師をお願いすることもあった。
ここまでお話しすると、「なぜ? なんでこんな勉強会がそんなに話題になったのだろう?」と思う方が大半だと思う。それには当然理由があった。
講演内容は、①誰にでもわかるように、②重要なことは何度も提示する、③基本的なことを重視する、④易しいことから難しいこと(ほんの少しでもかまわないので)まで含む、⑤最新のトピックスを少なくとも1つは必ず加える……が基本条件だった(この5つの特色は、そのまま本書の特色にもなっている)。
また、その後の討論にも基本姿勢があった。①会場の聴衆はすべて医療人として対等、②思ったことは何でも発言する(間違ったことでも関係なし)、③討論・激論なんでもあり(ただし、相手を傷つける行為や発言はご法度)、④納得がいくまで話し合う、⑤司会者が聴衆を指名して何も答えられなかった場合(パス)は通算3回まではOK(ただし、これを超えるとみんなの前で鈴鹿音頭を歌うこと)が私たちの原則であった。実際には鈴鹿音頭を歌った人はいなかったが……。
そして、記念すべき日を迎えた。1998年6月1日、日本初いや世界初(少し……、いや、かなり偉そうだが……)のPPM(Potluck Party Method:兼業兼務型)方式による全科型NST(栄養サポートチーム)が鈴鹿の地に誕生した。
その後、この“鈴鹿メタボリッククラブ”に変化が生じた。かつてはとにかく身体の生理学、病態学、代謝学の基礎から応用までをむさぼるように取り上げて討論してきたが、それだけではなく教育的な要素が加わったのだ。要するにNST活動が医療の現場でルーチン化し始めたのである。すべての職員に代謝・栄養学を理解してもらう時がやってきたのだ。
そこで、“Old & New”という教育プログラムを、この“鈴鹿メタボリッククラブ”に組み込むこととなった。“Old & New”とは、以前からNSTで活動するスタッフ(old……すみません、年齢ではありません)がその知識や技術を再確認するとともに、新たに加わったスタッフや新人職員(new)が栄養管理に関する基本的な知識・技術を習得するために、経静脈栄養編と経腸栄養編に分けたNST教育用ツールのことである。この“Old & New”の内容は、この鈴鹿だけでなく、尾鷲総合病院(尾鷲メタボリッククラブ)、そして現在の藤田保健衛生大学七栗サナトリウム(七栗メタボリッククラブ)にも活き活きと受け継がれている。
そして、2000年1月1日――。それは私が心血を注いだ鈴鹿を離れ、初めて尾鷲という三重県の南、紀伊半島の先端近くの地に足を踏み入れた日だ。この時はまだ、この尾鷲総合病院という高齢者医療の最前線にて懸命に奉仕する医療施設に、新たなNSTを立ち上げるなどとは思っていなかった。ところが勤務初日、尾鷲総合病院の医療人たちにこう言われたのである。
「いつから“尾鷲メタボリッククラブ”を始めるの?」
本書は、かつて鈴鹿でメタボリッククラブを立ち上げたその時から、現在までも脈々と続いている私のわが国のNSTに寄せる熱い思いを詰め込んだものとなったように思う。「実践!臨床栄養」、これはかつて鈴鹿で誰も栄養管理を重視しなかったとき、私が心の中で唱え続けた言葉に他ならない。
この書を、鈴鹿中央総合病院初代NSTディレクター山口 恵先生のご主人で、私の大切な仲間であり、鈴鹿メタボリッククラブの講師を務めてくださった山口和政先生に捧ぐ。
藤田保健衛生大学医学部外科・緩和医療学講座教授 東口高志
2000年1月1日、この日は私にとって重大な意味をもつ日となった。
1996年11月、突然の人事で長年勤めた大学病院から鈴鹿中央総合病院に配属となり、そこでたった5名で“鈴鹿メタボリッククラブ”なる勉強会を立ち上げ、本当に小規模で寂しいながらも楽しい仲間たちとともに新たな道の開拓に乗り出した。
このちっぽけな勉強会は徐々に人々を集め、ついには140名を超える人だかりのする勉強会へと発展する。実際に近隣の愛知県や岐阜だけでなく東京や大阪からもたくさんの方々が鈴鹿にやってきてくれた。
勉強会のテーマは、まずは基礎的な生理学や生化学から始まり、代謝学、そして栄養学・栄養管理へと進んでいった。当初は、毎月1回の実施がきつく、院内でも理解が得られず人も集まらずで、もうやめたいなあと思ったこともあった。しかし、一度もさぼることなく必ず月一で開催した。
講師は、院内の医師や薬剤師、そして看護師、管理栄養士らにお願いし、時にはその家族にも登壇していただき、あらゆる方々とあらゆる題材を巻き込んでの勉強会であった。幸い、探せばすばらしい人材が隠れていることがわかり、時には1人で飽き足らず複数名の講師をお願いすることもあった。
ここまでお話しすると、「なぜ? なんでこんな勉強会がそんなに話題になったのだろう?」と思う方が大半だと思う。それには当然理由があった。
講演内容は、①誰にでもわかるように、②重要なことは何度も提示する、③基本的なことを重視する、④易しいことから難しいこと(ほんの少しでもかまわないので)まで含む、⑤最新のトピックスを少なくとも1つは必ず加える……が基本条件だった(この5つの特色は、そのまま本書の特色にもなっている)。
また、その後の討論にも基本姿勢があった。①会場の聴衆はすべて医療人として対等、②思ったことは何でも発言する(間違ったことでも関係なし)、③討論・激論なんでもあり(ただし、相手を傷つける行為や発言はご法度)、④納得がいくまで話し合う、⑤司会者が聴衆を指名して何も答えられなかった場合(パス)は通算3回まではOK(ただし、これを超えるとみんなの前で鈴鹿音頭を歌うこと)が私たちの原則であった。実際には鈴鹿音頭を歌った人はいなかったが……。
そして、記念すべき日を迎えた。1998年6月1日、日本初いや世界初(少し……、いや、かなり偉そうだが……)のPPM(Potluck Party Method:兼業兼務型)方式による全科型NST(栄養サポートチーム)が鈴鹿の地に誕生した。
その後、この“鈴鹿メタボリッククラブ”に変化が生じた。かつてはとにかく身体の生理学、病態学、代謝学の基礎から応用までをむさぼるように取り上げて討論してきたが、それだけではなく教育的な要素が加わったのだ。要するにNST活動が医療の現場でルーチン化し始めたのである。すべての職員に代謝・栄養学を理解してもらう時がやってきたのだ。
そこで、“Old & New”という教育プログラムを、この“鈴鹿メタボリッククラブ”に組み込むこととなった。“Old & New”とは、以前からNSTで活動するスタッフ(old……すみません、年齢ではありません)がその知識や技術を再確認するとともに、新たに加わったスタッフや新人職員(new)が栄養管理に関する基本的な知識・技術を習得するために、経静脈栄養編と経腸栄養編に分けたNST教育用ツールのことである。この“Old & New”の内容は、この鈴鹿だけでなく、尾鷲総合病院(尾鷲メタボリッククラブ)、そして現在の藤田保健衛生大学七栗サナトリウム(七栗メタボリッククラブ)にも活き活きと受け継がれている。
そして、2000年1月1日――。それは私が心血を注いだ鈴鹿を離れ、初めて尾鷲という三重県の南、紀伊半島の先端近くの地に足を踏み入れた日だ。この時はまだ、この尾鷲総合病院という高齢者医療の最前線にて懸命に奉仕する医療施設に、新たなNSTを立ち上げるなどとは思っていなかった。ところが勤務初日、尾鷲総合病院の医療人たちにこう言われたのである。
「いつから“尾鷲メタボリッククラブ”を始めるの?」
本書は、かつて鈴鹿でメタボリッククラブを立ち上げたその時から、現在までも脈々と続いている私のわが国のNSTに寄せる熱い思いを詰め込んだものとなったように思う。「実践!臨床栄養」、これはかつて鈴鹿で誰も栄養管理を重視しなかったとき、私が心の中で唱え続けた言葉に他ならない。
この書を、鈴鹿中央総合病院初代NSTディレクター山口 恵先生のご主人で、私の大切な仲間であり、鈴鹿メタボリッククラブの講師を務めてくださった山口和政先生に捧ぐ。
藤田保健衛生大学医学部外科・緩和医療学講座教授 東口高志
目次
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執筆者一覧
はじめに――治るための栄養、生きるための栄養
1章 臨床栄養管理をするまえに
1 栄養管理のインパクト――4つの臨床栄養体験記
【看護師編】
奇跡の社会復帰――全身熱傷の患者を救った栄養管理と“大手術”
【理学療法士編】
栄養なくして、リハビリなし――リハビリテーションを変えた重大な気づき
【医師編】
経腸栄養のインパクト――ICUでの超重症患者の事例より
【栄養士編】
食べることは「生命」の根源――「食べる」意味を見直そう
2 臨床栄養に必要な「消化」の知識
食物の行く道をたどる――消化管の解剖と機能
三大栄養素の「体内」への旅を追う――消化・吸収機能と栄養素の行方
使えるならば、腸を使え!――経腸栄養>経静脈栄養のワケ
3 臨床栄養に必要な「代謝」の知識
生まれ変わる身体、姿を変える栄養素――生命を維持する「代謝」と病態
三大栄養素、それぞれの役割――糖質、タンパク質、脂質の「代謝」
2章 「臨床栄養」とは、何をすることか?
1 「臨床栄養」とは?――看護師の役割
2 臨床栄養のプロセス① 栄養スクリーニング
3 臨床栄養のプロセス② 栄養アセスメント
いつする? なぜする? 誰がする?――栄養アセスメントの意義
主観的栄養評価(SGA)と客観的栄養評価
――アセスメントツール(評価項目の意味と測定方法)
4 臨床栄養のプロセス③ 栄養プランニング
どの道を選ぶか?――栄養管理法(投与ルート)の選択
何をどれだけ入れるか?――栄養投与成分の決定(成分プランニング)
5 臨床栄養のプロセス④ アウトカム評価
3章 全科共通! 栄養管理計画の7大ポイント
1 褥瘡
2 摂食・嚥下障害
3 感染症
4 周術期・集中治療
5 呼吸障害
6 終末期
7 高齢者
4章 臓器・疾患別栄養管理計画
1 脳:脳卒中
2 心臓:心不全
3 肺:COPD
4 消化管:食道がん
5 肝臓:慢性肝炎・肝硬変
6 腎臓:透析期腎不全・ネフローゼ症候群
7 膵臓:糖尿病
8 骨:大腿骨頸部骨折
9 皮膚:外傷・熱傷
5章 安全・確実・安楽な 臨床栄養管理の「実施」
1 臨床栄養管理「実施」における看護師の役割
2 輸液・経腸栄養剤の成分を知る重要性
3 投与経路別「実施」のポイント
【経静脈栄養①】末梢静脈栄養
【経静脈栄養②】中心静脈栄養
【経腸栄養①】経鼻経管栄養
【経腸栄養②】胃ろう・腸ろう
4 栄養管理に伴う合併症の予防と対策
5 栄養剤の変更・投与経路の変更に伴うトラブルシューティング
用語索引
執筆者一覧
はじめに――治るための栄養、生きるための栄養
1章 臨床栄養管理をするまえに
1 栄養管理のインパクト――4つの臨床栄養体験記
【看護師編】
奇跡の社会復帰――全身熱傷の患者を救った栄養管理と“大手術”
【理学療法士編】
栄養なくして、リハビリなし――リハビリテーションを変えた重大な気づき
【医師編】
経腸栄養のインパクト――ICUでの超重症患者の事例より
【栄養士編】
食べることは「生命」の根源――「食べる」意味を見直そう
2 臨床栄養に必要な「消化」の知識
食物の行く道をたどる――消化管の解剖と機能
三大栄養素の「体内」への旅を追う――消化・吸収機能と栄養素の行方
使えるならば、腸を使え!――経腸栄養>経静脈栄養のワケ
3 臨床栄養に必要な「代謝」の知識
生まれ変わる身体、姿を変える栄養素――生命を維持する「代謝」と病態
三大栄養素、それぞれの役割――糖質、タンパク質、脂質の「代謝」
2章 「臨床栄養」とは、何をすることか?
1 「臨床栄養」とは?――看護師の役割
2 臨床栄養のプロセス① 栄養スクリーニング
3 臨床栄養のプロセス② 栄養アセスメント
いつする? なぜする? 誰がする?――栄養アセスメントの意義
主観的栄養評価(SGA)と客観的栄養評価
――アセスメントツール(評価項目の意味と測定方法)
4 臨床栄養のプロセス③ 栄養プランニング
どの道を選ぶか?――栄養管理法(投与ルート)の選択
何をどれだけ入れるか?――栄養投与成分の決定(成分プランニング)
5 臨床栄養のプロセス④ アウトカム評価
3章 全科共通! 栄養管理計画の7大ポイント
1 褥瘡
2 摂食・嚥下障害
3 感染症
4 周術期・集中治療
5 呼吸障害
6 終末期
7 高齢者
4章 臓器・疾患別栄養管理計画
1 脳:脳卒中
2 心臓:心不全
3 肺:COPD
4 消化管:食道がん
5 肝臓:慢性肝炎・肝硬変
6 腎臓:透析期腎不全・ネフローゼ症候群
7 膵臓:糖尿病
8 骨:大腿骨頸部骨折
9 皮膚:外傷・熱傷
5章 安全・確実・安楽な 臨床栄養管理の「実施」
1 臨床栄養管理「実施」における看護師の役割
2 輸液・経腸栄養剤の成分を知る重要性
3 投与経路別「実施」のポイント
【経静脈栄養①】末梢静脈栄養
【経静脈栄養②】中心静脈栄養
【経腸栄養①】経鼻経管栄養
【経腸栄養②】胃ろう・腸ろう
4 栄養管理に伴う合併症の予防と対策
5 栄養剤の変更・投与経路の変更に伴うトラブルシューティング
用語索引
書評
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看護の基本そのものである「臨床栄養」の具体的な方法解説書 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 富田 真佐子 (四国大学看護学部看護学科)
「栄養」というと,管理栄養士の仕事では?と言われることがあります。私は,栄養は看護の基本そのものであると考えています。ナイチンゲールは,「看護とは患者の生命力の消耗を最小限にするように整えること」であると唱えています。すべての人には自然治癒力があって,治ろうとする力を持っています。それに働きかけるのが看護です。栄養状態を整えることは,患者の生命力を引き出すことに繋がります。その意味で,この本のタイトルでもある「“治る力”を引き出す」というのは看護の本質に他なりません。
臨床現場では今,栄養管理が浸透しつつあります。栄養管理をチームで行うNST(栄養サポートチーム)の必要性が認知され,診療報酬改定により平成18年度には栄養管理実施加算,今年度は栄養サポートチーム加算が新設されました。栄養管理は医療現場において注目をあびているものの一つと言えるでしょう。現在の看護基礎教育では,「代謝・栄養学」についてわずか2~4単位しか割り当てられておらず,看護にとって重要な科目だと認識されているとは言えません。また新卒看護師の看護基本技術に関する実態調査でも疾患別の食事指導や栄養状態のアセスメントといった栄養に関わる項目は一人で実施できる割合が低い結果であり,学習の効果が表れているとは言えません。著者らが述べているように看護師は,栄養管理をベットサイドで行う最終的な実行者です。看護基礎教育や卒後教育においてもっと力を入れていくべき分野であると考えます。
本書は,わが国におけるNSTの第一人者である東口高志先生をはじめ,各領域で活躍されているさまざまな分野の先生が臨床に即して執筆されています。臨床栄養の基礎から応用まで網羅されており,初心者はもちろん,熟練者にも読み応えのある充実した内容になっています。本を開いてまず目についたのは,図や表がカラフルで見やすくわかりやすいことです。学生や新人看護師にとって難しいと思われるような言葉についてはNOTEとして注釈が多数あげられており,理解に役立ちます。学習する上ではただ丸暗記していくのではすぐ忘れてしまいますが,なぜなのかその意味を理解することによって,しっかりと自分のものにし,どのような時も応用できる力がつきます。看護師に苦手意識の強い代謝学や生理学に基づく根拠が随時盛り込まれ,なぜなのかその「根拠」と何を,どれだけ,どこから,どのようにしたらよいのか「方法」が具体的にわかりやすく提示されています。この本は,これから「栄養学」をしっかりと身につけたいと思う看護師や学生に適しています。また看護教員にとっても授業などにおいて活用できそうな図やイラストが多数含まれており,役立つ1冊になるはずです。
(『看護教育』2010年8月号掲載)
栄養管理から生き方を考える―医療の未来に向けられた一冊 (雑誌『看護管理』より)
書評者: 坂本 すが (東京医療保健大学看護学科学科長・教授)
◆患者の栄養管理をするのは誰?
机上で考えれば,栄養のことなら栄養士ということになる。同様に,薬のことなら薬剤師,処置や観察なら看護師と単純に考えられがちであるが,実際の現場では決してそうではない。
かつて友人が消化器系のがんの手術をしたあと,手術はうまくいったと言われながら急激に痩せていったのを目にした。見舞いに行った病室で,彼女はか細い声で「口から食べられないから」と言った。このとき,何が起こっているのか,手術でなぜこれほど痩せてしまったのか,手術と栄養状態の関連はどうなっているのか,このままではがんではなく栄養失調で死んでしまうのではないか,と不安になったことを覚えている。
誰が患者の栄養管理をするのか。そもそも病院のなかで,栄養士の数は多くない。いつも患者さんのそばで,その人の衣食住を気にかけ,病状を観察し必要な処置を判断・実施するのは,多くの場合,ベッドサイドの看護師である。しかし,患者さんがどれだけ食事を取れたか,どのようなものなら食べられるか,栄養アセスメントとなるとそこまでできるかは疑問である。
そこで,NST(栄養サポートチーム),すなわち医師や看護師,栄養士たちが,職種の壁を越え患者の栄養管理を行なう“チーム医療”が導入されるようになった。著者の東口高志氏は,日本でNSTを推進してきた第一人者である。氏の講演がきっかけで,当時勤めていた病院でもさっそくNSTを立ち上げたという経験がある。10年以上前のことだ。いまでこそ診療報酬でも評価されるようになったNSTであるが,当時はチームで横断的に活動することで経費がかかったり,専門の異なるメンバー同士でうまくいかなかったり,導入施設ではさまざまな苦労があったと思われる。
◆看護師自身のための栄養管理という視点
そんなとき本書があったなら……。これからNSTを立ち上げようとしている方,あるいは現在活動中であるが問題を抱えている方に,きっとヒントを与えてくれると思う。本書は「いつ」「誰が」「どのように」に加えて,「なぜ」栄養管理を行なうかが丁寧に解説されている。さまざまな専門分野から栄養を捉え,生理的・病理的な原理を述べたうえで,アセスメントをする方法を示している。本書をチームの媒介物(道具)にすれば,チームにとって必要な情報を共有しやすく,より活動がスムーズになるだろう。
さらに本書は,詳しい栄養管理の本というだけでなく,医療職の生き方も考えさせられる。東口氏も述べられているように,「患者さんのため」,ひいては医療者である「あなた自身のため」になる知識にあふれている。NST看護師だけでなく,栄養管理の最終実行者であるベッドサイドの看護師,そして看護学生たちにもぜひ読んでもらい,将来,積極的に栄養管理にかかわってほしいと思っている。
(『看護管理』2010年7月号掲載)
医療専門職者のそれぞれの視点から栄養を見据える
書評者: 佐藤 禮子 (兵庫医療大副学長)
『「治る力」を引き出す 実践!臨床栄養』,まずこのタイトルである。裏表紙には,「治るための栄養」「生きるための栄養」の大文字が跳ねる。このタイトルは,編者である東口高志先生のイメージそのものであると,感じ入りわくわくして頁をめくった。
期待通りの内容が展開されていた。実は,あるセミナーでご一緒した折に,人間の身体や心の仕組みと栄養問題に対する東口先生の洞察の深さに敬嘆し感動を受けたからである。東口先生の軽妙な語り口による講演は,生きた学問を具体的現実的に伝授するもので,会場を大いに沸かせた。
私事であるが,看護教師になり思い立って大学で教育学を専攻し,教養科目の授業で目からウロコの落ちる体験を何度かした。生物学では「動物である人間が,生き物としての植物と大きく異なる点は,外界から栄養を取り入れなければ生存することができない」ということ,心理学では「生活体である人間は,基本的欲求(fundamental basic need)として栄養があり,栄養物質の欠乏により生じる空腹動因が備わっている」という知識である。看護教育では,専門基礎知識として多くを学んでいたはずであるが,それらが「人間の身体」というイメージの中にしっかり納まっていなかったということである。
患者と対峙する医療者は,病者が発する「身体の声」,そして「心の声」を正確に聴取・把握しなければならない。以来,60兆個の細胞で成り立つ人間の身体,感情と情緒,基本的欲求(一次的欲求)と社会的欲求(二次的欲求)といったさまざまな側面から人間をとらえ,最終的に,身体-心理-社会的に統合された統一体である人間,在りようは個々別々である人間,そして生活を営む個人として考えるようになっている。
本書の特徴であり優れている点として,4つ挙げられる。
1つは,栄養の意味を,人間が生きられるための源として直結させ,その全体像が示されており,編者・執筆者らの人間への強い関心に裏打ちされた人間愛が根底を貫いている点である。
“本書を読まれるみなさんへ”には,比類なき人間性を感じた。そして“はじめに”を読んで,東口先生は早くから「患者その人に目を向け,心を向けていた」と実感したが,人間への関心,人間への愛があればこその結実であろう。この精神は,全編を通して執筆者らにも共有されている。素晴らしい。だからこそ私たちは,この書を読む気がいっそう増すのである,と言いたい。
2つめは,人の生きる仕組みの源である栄養について,生命を存続させるために機能する栄養と,生命活動の質を向上させるために機能する栄養とに,大きく分けて構成されている点である。
“第1章 臨床栄養管理をするまえに”は,人間の生存・生きる,すなわち,生命を維持し活動し続ける仕組みにおいて栄養の果たす役割・価値について,栄養素の摂り入れに始まり,消化,吸収,代謝のプロセスに沿って解説されている。人が生きるために必要となる身体と栄養についての全体像,専門家として患者を援助するために必要な知識,などが端的にまとめられ,実践的にわかりやすく解説され,利用しやすいよう工夫されている。必読の章である。
3つめは,栄養を医療専門職者のそれぞれの専門的視点に立って見据えさせ,専門性発揮の実を高めると同時に,多職種協働による専門連携の必要性を浮き彫りにしている点である。
“第2章 「臨床栄養」とは,何をすることか?”では,自分の知識を整理し,必要と思う箇所にはタグを貼り,いつでも読み返すことができるように使える。“第3章 全科共通! 栄養管理計画の7大ポイント”“第4章 臓器・疾患別栄養管理計画”“第5章 安全・確実・安楽な臨床栄養管理の「実施」”。いずれの章も明確に焦点が絞られており活用しやすい。
4つめは,図が巧みに用いられ,実践レベルの知識が強調されている点である。
視覚的に工夫されているだけでなく,随所に「NOTE」として用語解説が満載されている。
以上,本書は,昨今注目されているNSTに限らず,患者にかかわるすべての医療職者が有効利用して,患者の療養の質を高める可能性が秘められていると確信する。
NST活動に必携 完全型チーム医療への教典
書評者: 平田 公一 (札幌医大教授 外科腫瘍学・消化器外科学/日本静脈経腸栄養学会理事長)
本書を読み終えてみると,さすが東口高志編とうならされた。同氏の高邁な精神性と教育力の高さを反映し,気遣いの余白も実に適切,各ページの文字とともに説得力のある図や表の提示が,われわれを次のページを読みたいと掻き立てるのである。知識が感性的に身につきやすい教育図書となっている。おのおののページに向ける眼力にいっそう力が知らず知らずのうちに加わってしまうという。そのような工夫が設定されている。また見事に多くの共著者陣として素晴らしい専門家が並んでいる。
昨今,NST活動へ評価は高く保険診療にも大きく反映されたことは周知のことである。その質を支えそしてチーム医療を向上させるにはもってこいの書であり,そしてTPOを得た発刊ともいえる。多くの医療従事者や教育担当者は日々の勤務の中で負担を背負いつつ,努力による前進が成されている。その努力の結果として,医療の原点ともいえる「ヒポクラテス医学」の心と信念を日常臨床の場にその理念の導入とその普及へとつなげようとする各種医療職の考え方にさらに向上がみられる。そのような日本的努力の成されている今日,本書による具体的で良質な臨床栄養学の次世代も読んだ提案は,次への目標設定と励みを提供していると考える。ありがたいことである。
さて本書を一読した後の第一印象として,編者・執筆者である東口高志先生と共著者の方々の医療への信念が,読者である医療実践者に「ヒポクラテス医学の心」をチーム医療の基本に置くべしとの理念を強く訴えようとしていることが,一貫して伝わってくる。
同時に,「全く異質の新しい考え方を導入し,多くの医療者にその体得と早期実践を」との要望も直感できる。新しいチーム医療の在り方を知ってもらいたいとの思いが本書には込められている。学ぶ者に従順的姿勢の重要性を訴え,「忠実に素朴に病状を観察しようとする姿勢の重要性」を勧めている。
共著者の先生方の今日に至るまでの多年にわたる経験,特に消化器外科医や緩和医療あるいは広く臨床栄養学での実践的苦労から得た熟考性,そして生来から有する才能が,編者が求めた該博な企画の一つひとつに答える形となっており,それぞれの項目としての『真髄』にしっかり触れた解説文と図が駆使され,NSTを担当する者の胸を強く打つ内容がいずれのページでも完結している。
同時に厳格な雰囲気の中で,常に努力せよとの天の声ともいえる教示的ともいえる表現が一貫して各所に垣間見ることができる。患者を自然体でみること,疑問に対しては学問をすること,がいかに大切かをも訴えている。未来のために想像する力,潜んでいる既存の能力,を導き出すとともに,臨床栄養学とは何かの真髄を伝えようとする緊張感と熱気を込めた心意気が伝わってくる。併せて医療者としての道徳・哲学,医療者として身につけておくべきあたりまえの礼儀・規律についても指導展開をしている。
まずは,臨床栄養学の知識整理,そして手工業的な技術への深い理解を核心に設定し,私心をしりぞけ配慮,慎み,威厳,平静,判断,清潔,知力,自由,忠誠などを勧めている。若い医療従事者にわかりやすく解説することに配慮し,その中で人として豊かな関与をすべきことも唱えている。
このように医学教育指導者における臨床栄養学の教育法の在り方と今後の方向性を広く示唆した貴重な書と言える。われわれに何が要求されているのか,何をすべきかを教えてくれる名著である。
書評者: 富田 真佐子 (四国大学看護学部看護学科)
「栄養」というと,管理栄養士の仕事では?と言われることがあります。私は,栄養は看護の基本そのものであると考えています。ナイチンゲールは,「看護とは患者の生命力の消耗を最小限にするように整えること」であると唱えています。すべての人には自然治癒力があって,治ろうとする力を持っています。それに働きかけるのが看護です。栄養状態を整えることは,患者の生命力を引き出すことに繋がります。その意味で,この本のタイトルでもある「“治る力”を引き出す」というのは看護の本質に他なりません。
臨床現場では今,栄養管理が浸透しつつあります。栄養管理をチームで行うNST(栄養サポートチーム)の必要性が認知され,診療報酬改定により平成18年度には栄養管理実施加算,今年度は栄養サポートチーム加算が新設されました。栄養管理は医療現場において注目をあびているものの一つと言えるでしょう。現在の看護基礎教育では,「代謝・栄養学」についてわずか2~4単位しか割り当てられておらず,看護にとって重要な科目だと認識されているとは言えません。また新卒看護師の看護基本技術に関する実態調査でも疾患別の食事指導や栄養状態のアセスメントといった栄養に関わる項目は一人で実施できる割合が低い結果であり,学習の効果が表れているとは言えません。著者らが述べているように看護師は,栄養管理をベットサイドで行う最終的な実行者です。看護基礎教育や卒後教育においてもっと力を入れていくべき分野であると考えます。
本書は,わが国におけるNSTの第一人者である東口高志先生をはじめ,各領域で活躍されているさまざまな分野の先生が臨床に即して執筆されています。臨床栄養の基礎から応用まで網羅されており,初心者はもちろん,熟練者にも読み応えのある充実した内容になっています。本を開いてまず目についたのは,図や表がカラフルで見やすくわかりやすいことです。学生や新人看護師にとって難しいと思われるような言葉についてはNOTEとして注釈が多数あげられており,理解に役立ちます。学習する上ではただ丸暗記していくのではすぐ忘れてしまいますが,なぜなのかその意味を理解することによって,しっかりと自分のものにし,どのような時も応用できる力がつきます。看護師に苦手意識の強い代謝学や生理学に基づく根拠が随時盛り込まれ,なぜなのかその「根拠」と何を,どれだけ,どこから,どのようにしたらよいのか「方法」が具体的にわかりやすく提示されています。この本は,これから「栄養学」をしっかりと身につけたいと思う看護師や学生に適しています。また看護教員にとっても授業などにおいて活用できそうな図やイラストが多数含まれており,役立つ1冊になるはずです。
(『看護教育』2010年8月号掲載)
栄養管理から生き方を考える―医療の未来に向けられた一冊 (雑誌『看護管理』より)
書評者: 坂本 すが (東京医療保健大学看護学科学科長・教授)
◆患者の栄養管理をするのは誰?
机上で考えれば,栄養のことなら栄養士ということになる。同様に,薬のことなら薬剤師,処置や観察なら看護師と単純に考えられがちであるが,実際の現場では決してそうではない。
かつて友人が消化器系のがんの手術をしたあと,手術はうまくいったと言われながら急激に痩せていったのを目にした。見舞いに行った病室で,彼女はか細い声で「口から食べられないから」と言った。このとき,何が起こっているのか,手術でなぜこれほど痩せてしまったのか,手術と栄養状態の関連はどうなっているのか,このままではがんではなく栄養失調で死んでしまうのではないか,と不安になったことを覚えている。
誰が患者の栄養管理をするのか。そもそも病院のなかで,栄養士の数は多くない。いつも患者さんのそばで,その人の衣食住を気にかけ,病状を観察し必要な処置を判断・実施するのは,多くの場合,ベッドサイドの看護師である。しかし,患者さんがどれだけ食事を取れたか,どのようなものなら食べられるか,栄養アセスメントとなるとそこまでできるかは疑問である。
そこで,NST(栄養サポートチーム),すなわち医師や看護師,栄養士たちが,職種の壁を越え患者の栄養管理を行なう“チーム医療”が導入されるようになった。著者の東口高志氏は,日本でNSTを推進してきた第一人者である。氏の講演がきっかけで,当時勤めていた病院でもさっそくNSTを立ち上げたという経験がある。10年以上前のことだ。いまでこそ診療報酬でも評価されるようになったNSTであるが,当時はチームで横断的に活動することで経費がかかったり,専門の異なるメンバー同士でうまくいかなかったり,導入施設ではさまざまな苦労があったと思われる。
◆看護師自身のための栄養管理という視点
そんなとき本書があったなら……。これからNSTを立ち上げようとしている方,あるいは現在活動中であるが問題を抱えている方に,きっとヒントを与えてくれると思う。本書は「いつ」「誰が」「どのように」に加えて,「なぜ」栄養管理を行なうかが丁寧に解説されている。さまざまな専門分野から栄養を捉え,生理的・病理的な原理を述べたうえで,アセスメントをする方法を示している。本書をチームの媒介物(道具)にすれば,チームにとって必要な情報を共有しやすく,より活動がスムーズになるだろう。
さらに本書は,詳しい栄養管理の本というだけでなく,医療職の生き方も考えさせられる。東口氏も述べられているように,「患者さんのため」,ひいては医療者である「あなた自身のため」になる知識にあふれている。NST看護師だけでなく,栄養管理の最終実行者であるベッドサイドの看護師,そして看護学生たちにもぜひ読んでもらい,将来,積極的に栄養管理にかかわってほしいと思っている。
(『看護管理』2010年7月号掲載)
医療専門職者のそれぞれの視点から栄養を見据える
書評者: 佐藤 禮子 (兵庫医療大副学長)
『「治る力」を引き出す 実践!臨床栄養』,まずこのタイトルである。裏表紙には,「治るための栄養」「生きるための栄養」の大文字が跳ねる。このタイトルは,編者である東口高志先生のイメージそのものであると,感じ入りわくわくして頁をめくった。
期待通りの内容が展開されていた。実は,あるセミナーでご一緒した折に,人間の身体や心の仕組みと栄養問題に対する東口先生の洞察の深さに敬嘆し感動を受けたからである。東口先生の軽妙な語り口による講演は,生きた学問を具体的現実的に伝授するもので,会場を大いに沸かせた。
私事であるが,看護教師になり思い立って大学で教育学を専攻し,教養科目の授業で目からウロコの落ちる体験を何度かした。生物学では「動物である人間が,生き物としての植物と大きく異なる点は,外界から栄養を取り入れなければ生存することができない」ということ,心理学では「生活体である人間は,基本的欲求(fundamental basic need)として栄養があり,栄養物質の欠乏により生じる空腹動因が備わっている」という知識である。看護教育では,専門基礎知識として多くを学んでいたはずであるが,それらが「人間の身体」というイメージの中にしっかり納まっていなかったということである。
患者と対峙する医療者は,病者が発する「身体の声」,そして「心の声」を正確に聴取・把握しなければならない。以来,60兆個の細胞で成り立つ人間の身体,感情と情緒,基本的欲求(一次的欲求)と社会的欲求(二次的欲求)といったさまざまな側面から人間をとらえ,最終的に,身体-心理-社会的に統合された統一体である人間,在りようは個々別々である人間,そして生活を営む個人として考えるようになっている。
本書の特徴であり優れている点として,4つ挙げられる。
1つは,栄養の意味を,人間が生きられるための源として直結させ,その全体像が示されており,編者・執筆者らの人間への強い関心に裏打ちされた人間愛が根底を貫いている点である。
“本書を読まれるみなさんへ”には,比類なき人間性を感じた。そして“はじめに”を読んで,東口先生は早くから「患者その人に目を向け,心を向けていた」と実感したが,人間への関心,人間への愛があればこその結実であろう。この精神は,全編を通して執筆者らにも共有されている。素晴らしい。だからこそ私たちは,この書を読む気がいっそう増すのである,と言いたい。
2つめは,人の生きる仕組みの源である栄養について,生命を存続させるために機能する栄養と,生命活動の質を向上させるために機能する栄養とに,大きく分けて構成されている点である。
“第1章 臨床栄養管理をするまえに”は,人間の生存・生きる,すなわち,生命を維持し活動し続ける仕組みにおいて栄養の果たす役割・価値について,栄養素の摂り入れに始まり,消化,吸収,代謝のプロセスに沿って解説されている。人が生きるために必要となる身体と栄養についての全体像,専門家として患者を援助するために必要な知識,などが端的にまとめられ,実践的にわかりやすく解説され,利用しやすいよう工夫されている。必読の章である。
3つめは,栄養を医療専門職者のそれぞれの専門的視点に立って見据えさせ,専門性発揮の実を高めると同時に,多職種協働による専門連携の必要性を浮き彫りにしている点である。
“第2章 「臨床栄養」とは,何をすることか?”では,自分の知識を整理し,必要と思う箇所にはタグを貼り,いつでも読み返すことができるように使える。“第3章 全科共通! 栄養管理計画の7大ポイント”“第4章 臓器・疾患別栄養管理計画”“第5章 安全・確実・安楽な臨床栄養管理の「実施」”。いずれの章も明確に焦点が絞られており活用しやすい。
4つめは,図が巧みに用いられ,実践レベルの知識が強調されている点である。
視覚的に工夫されているだけでなく,随所に「NOTE」として用語解説が満載されている。
以上,本書は,昨今注目されているNSTに限らず,患者にかかわるすべての医療職者が有効利用して,患者の療養の質を高める可能性が秘められていると確信する。
NST活動に必携 完全型チーム医療への教典
書評者: 平田 公一 (札幌医大教授 外科腫瘍学・消化器外科学/日本静脈経腸栄養学会理事長)
本書を読み終えてみると,さすが東口高志編とうならされた。同氏の高邁な精神性と教育力の高さを反映し,気遣いの余白も実に適切,各ページの文字とともに説得力のある図や表の提示が,われわれを次のページを読みたいと掻き立てるのである。知識が感性的に身につきやすい教育図書となっている。おのおののページに向ける眼力にいっそう力が知らず知らずのうちに加わってしまうという。そのような工夫が設定されている。また見事に多くの共著者陣として素晴らしい専門家が並んでいる。
昨今,NST活動へ評価は高く保険診療にも大きく反映されたことは周知のことである。その質を支えそしてチーム医療を向上させるにはもってこいの書であり,そしてTPOを得た発刊ともいえる。多くの医療従事者や教育担当者は日々の勤務の中で負担を背負いつつ,努力による前進が成されている。その努力の結果として,医療の原点ともいえる「ヒポクラテス医学」の心と信念を日常臨床の場にその理念の導入とその普及へとつなげようとする各種医療職の考え方にさらに向上がみられる。そのような日本的努力の成されている今日,本書による具体的で良質な臨床栄養学の次世代も読んだ提案は,次への目標設定と励みを提供していると考える。ありがたいことである。
さて本書を一読した後の第一印象として,編者・執筆者である東口高志先生と共著者の方々の医療への信念が,読者である医療実践者に「ヒポクラテス医学の心」をチーム医療の基本に置くべしとの理念を強く訴えようとしていることが,一貫して伝わってくる。
同時に,「全く異質の新しい考え方を導入し,多くの医療者にその体得と早期実践を」との要望も直感できる。新しいチーム医療の在り方を知ってもらいたいとの思いが本書には込められている。学ぶ者に従順的姿勢の重要性を訴え,「忠実に素朴に病状を観察しようとする姿勢の重要性」を勧めている。
共著者の先生方の今日に至るまでの多年にわたる経験,特に消化器外科医や緩和医療あるいは広く臨床栄養学での実践的苦労から得た熟考性,そして生来から有する才能が,編者が求めた該博な企画の一つひとつに答える形となっており,それぞれの項目としての『真髄』にしっかり触れた解説文と図が駆使され,NSTを担当する者の胸を強く打つ内容がいずれのページでも完結している。
同時に厳格な雰囲気の中で,常に努力せよとの天の声ともいえる教示的ともいえる表現が一貫して各所に垣間見ることができる。患者を自然体でみること,疑問に対しては学問をすること,がいかに大切かをも訴えている。未来のために想像する力,潜んでいる既存の能力,を導き出すとともに,臨床栄養学とは何かの真髄を伝えようとする緊張感と熱気を込めた心意気が伝わってくる。併せて医療者としての道徳・哲学,医療者として身につけておくべきあたりまえの礼儀・規律についても指導展開をしている。
まずは,臨床栄養学の知識整理,そして手工業的な技術への深い理解を核心に設定し,私心をしりぞけ配慮,慎み,威厳,平静,判断,清潔,知力,自由,忠誠などを勧めている。若い医療従事者にわかりやすく解説することに配慮し,その中で人として豊かな関与をすべきことも唱えている。
このように医学教育指導者における臨床栄養学の教育法の在り方と今後の方向性を広く示唆した貴重な書と言える。われわれに何が要求されているのか,何をすべきかを教えてくれる名著である。
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