看護師の実践力と課題解決力を実現する!
ポートフォリオとプロジェクト学習
看護教育分野でも注目を集めるポートフォリオ・プロジェクト学習の決定版!
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看護教育の分野でも、今、ポートフォリオやプロジェクト学習について、興味が高まりつつあるが、本書はこの道のパイオニアである著者によるいわば決定版。看護基礎教育にはもちろんのこと、臨地実習、新人研修、認定/専門看護師の育成の場において、さらにはリスク教育や目標管理を導入する際にも、学習者のモチベーションを高め成長を促す手法として大いに期待されている。関係者必読の書。
著 | 鈴木 敏恵 |
---|---|
発行 | 2010年04月判型:B5頁:304 |
ISBN | 978-4-260-00730-6 |
定価 | 3,850円 (本体3,500円+税) |
更新情報
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
開く
序 成長を願う人のために…
ポートフォリオはもともと,クリエーターやデザイナーなどが持っている作品集のことです.プロジェクト学習の“プロジェクト”とは夢をかなえることです.私も建築家としてたくさんの夢をかなえてきました.心をこめた作品はみなポートフォリオに綴じてあります.ポートフォリオを見ればうれしさや誇りが湧きあがります.それは建物ができあがるまでの心血注いだ月日,苦労など,にがさとともにある誇りです.
がんばってきた私がそこにいる.さあ明日は何を創りだそう!とポートフォリオを見るたびに未来へ心を馳せる力が湧きます.そしてそのために今日より明日成長したいと願います.私のポートフォリオがそうであるように,誰のポートフォリオも世界にひとつしかありません.だから夢を叶える力になるのです.
21世紀は変化の時代です.変化とは新しいシーンが次々に目の前に現れるということ.そこではこれまでのやり方ですむものはありません.先人がいない新しいシーンなのですから誰かに判断を仰いだだけですむこともありません.1人ひとりが自分の目の前の現実を見て自分で考え判断し行動することが求められます.ここに意志ある学びを理念とする未来教育プロジェクト学習(以下,プロジェクト学習)やポートフォリオの存在が応えます.
今,看護教育も変化を求められています.日々新しい知識が増えていき,社会状況も刻々と変化を遂げる中,必要なのは自ら学び成長し続ける看護師,何より新しい事態にひるむことなくチャレンジする前向きさと,正解のない課題に対しクリエイティブに解決する意志をもっている看護師を,未来は待っています.
【知識や手法の前に】
この本は,ポートフォリオやプロジェクト学習が成果をもたらす方法を,看護師がひとりの人間として向上していくキャリアステージごとに書いたものです.今この本を手にしている「成長したい」と願うあなたのために,そして学校や看護の現場で患者さんとスタッフのために「成長しつづける仕組み」を創りたいと願う人のために書きました.知識や手法の修得ではなく,自らの成長を望み続ける生き方こそこの本の求めるものです.
【1人ひとりを大切にする】
すでにポートフォリオやプロジェクト学習を実施しているところも多くあります.また,これからコンピテンシーや実践力,課題解決力などを高めたい人たちにさらに広がっていくでしょう.そのときポートフォリオやプロジェクト学習が1人ひとりの存在を大切に,意志ある学びを叶えるためにあるという理念とともに活かされることを願っています.意志とはその意味を知り,志をもって未来に向かう決意でもあります.第I章,第II章ではそれを忘れないようプロジェクト学習の理念と手法をあわせ意味や意図が伝わるイメージ図を添えました.
【プロジェクト学習で意欲的になる学生】
第III章では,学校や職場における活用を目的にお伝えしています.
看護師としてのスタートには,まず自尊感情が大切だと思います.そして自分を信じてまっすぐ成長していく前向きな気持ちと1つひとつ経験することから学ぶ姿勢が大事です.ここにパーソナルポートフォリオが活きます.自ら目標を決め意欲的に向かえる授業や臨地実習にプロジェクト学習をどう活かすのかも具体的に説明しました.また学生を理解し伸ばすために,教員,指導看護師がどうポートフォリオを活かした評価をするのか,目的に応じたポートフォリオ活用を提案しています.学生が自らどんどん学ぶようになり,高い成果をあげた実践例も紹介しています.
【新人看護師からポートフォリオ研修】
看護師1年目は社会人としてのスタートでもあります.オリエンテーションでプロジェクト学習,ポートフォリオについて伝えスタートすることで,新人看護師の自立と自ら学ぶ姿勢を叶えます.ポートフォリオがあることで,多忙ですれ違いがちなプリセプターや仲間とも理解し合えます.理解し合える人がいる職場では離職が減ります.そして成長できる職場には優秀な人が集まります.2010年1月には厚生労働省「新人看護師研修ガイドライン」において,ポートフォリオを活用することが有効と全国の病院に示されました.
【中堅看護師の「知」を顕在化】
中堅看護師は職場の宝物です.価値ある臨床知をたくさんもっています.この人たちの経験をポートフォリオの活用で顕在化することで,職場に互いを尊敬する雰囲気や活気が生まれます.師長はスタッフに愛情や応援する気持ちをもっています.スタッフを伸ばしてあげたい,応援してあげたいと思っている看護師長たちへ向けて,目標管理にポートフォリオを活かすことでスタッフが元気になるコツや目標面接のコーチングをくわしくお伝えしました.リスクマネージメントや認定看護,そして成長し続けていくキャリアポートフォリオなどさまざまな領域における発展的な応用も書きました.
看護師1人ひとりが自分のよさや可能性に気づき,さらに成長していくためにこの本が役立つこと,そして人を幸せにできる看護という仕事をより多くの社会の人たちが敬意をもって理解し,子どもたちが素晴しいこの仕事に一層あこがれる未来を願っています.
ここ数年,全国の看護師に出会ってきました.看護師は病んだ人のつらい気持ちを察し,そこにプロフェショナルとして尽くす力をもっています.直感的に観る力,察する心,共感する気持ち,現実への解決力……それは職業を超え人間として高い能力です.これからITや人工知能がいくら進化しても叶わない普遍的な知性だと思います.
看護師ほど成長しつづける自分を望んでいる人たちはいないと思います.日々多忙な仕事をしながら多くの研修,自己研鑽も欠かしません.他者のために自らの最善を尽くすその姿勢,強さを内在した謙虚さ,その1人ひとりとの出会いから多くの価値あることを気づかせてもらいました.この本はそのおかげで世に出すことができたものです.心から感謝しています.
この本を,敬意をこめて看護師さんたちへ捧げます.
2010年4月
鈴木敏恵
ポートフォリオはもともと,クリエーターやデザイナーなどが持っている作品集のことです.プロジェクト学習の“プロジェクト”とは夢をかなえることです.私も建築家としてたくさんの夢をかなえてきました.心をこめた作品はみなポートフォリオに綴じてあります.ポートフォリオを見ればうれしさや誇りが湧きあがります.それは建物ができあがるまでの心血注いだ月日,苦労など,にがさとともにある誇りです.
がんばってきた私がそこにいる.さあ明日は何を創りだそう!とポートフォリオを見るたびに未来へ心を馳せる力が湧きます.そしてそのために今日より明日成長したいと願います.私のポートフォリオがそうであるように,誰のポートフォリオも世界にひとつしかありません.だから夢を叶える力になるのです.
21世紀は変化の時代です.変化とは新しいシーンが次々に目の前に現れるということ.そこではこれまでのやり方ですむものはありません.先人がいない新しいシーンなのですから誰かに判断を仰いだだけですむこともありません.1人ひとりが自分の目の前の現実を見て自分で考え判断し行動することが求められます.ここに意志ある学びを理念とする未来教育プロジェクト学習(以下,プロジェクト学習)やポートフォリオの存在が応えます.
今,看護教育も変化を求められています.日々新しい知識が増えていき,社会状況も刻々と変化を遂げる中,必要なのは自ら学び成長し続ける看護師,何より新しい事態にひるむことなくチャレンジする前向きさと,正解のない課題に対しクリエイティブに解決する意志をもっている看護師を,未来は待っています.
【知識や手法の前に】
この本は,ポートフォリオやプロジェクト学習が成果をもたらす方法を,看護師がひとりの人間として向上していくキャリアステージごとに書いたものです.今この本を手にしている「成長したい」と願うあなたのために,そして学校や看護の現場で患者さんとスタッフのために「成長しつづける仕組み」を創りたいと願う人のために書きました.知識や手法の修得ではなく,自らの成長を望み続ける生き方こそこの本の求めるものです.
【1人ひとりを大切にする】
すでにポートフォリオやプロジェクト学習を実施しているところも多くあります.また,これからコンピテンシーや実践力,課題解決力などを高めたい人たちにさらに広がっていくでしょう.そのときポートフォリオやプロジェクト学習が1人ひとりの存在を大切に,意志ある学びを叶えるためにあるという理念とともに活かされることを願っています.意志とはその意味を知り,志をもって未来に向かう決意でもあります.第I章,第II章ではそれを忘れないようプロジェクト学習の理念と手法をあわせ意味や意図が伝わるイメージ図を添えました.
【プロジェクト学習で意欲的になる学生】
第III章では,学校や職場における活用を目的にお伝えしています.
看護師としてのスタートには,まず自尊感情が大切だと思います.そして自分を信じてまっすぐ成長していく前向きな気持ちと1つひとつ経験することから学ぶ姿勢が大事です.ここにパーソナルポートフォリオが活きます.自ら目標を決め意欲的に向かえる授業や臨地実習にプロジェクト学習をどう活かすのかも具体的に説明しました.また学生を理解し伸ばすために,教員,指導看護師がどうポートフォリオを活かした評価をするのか,目的に応じたポートフォリオ活用を提案しています.学生が自らどんどん学ぶようになり,高い成果をあげた実践例も紹介しています.
【新人看護師からポートフォリオ研修】
看護師1年目は社会人としてのスタートでもあります.オリエンテーションでプロジェクト学習,ポートフォリオについて伝えスタートすることで,新人看護師の自立と自ら学ぶ姿勢を叶えます.ポートフォリオがあることで,多忙ですれ違いがちなプリセプターや仲間とも理解し合えます.理解し合える人がいる職場では離職が減ります.そして成長できる職場には優秀な人が集まります.2010年1月には厚生労働省「新人看護師研修ガイドライン」において,ポートフォリオを活用することが有効と全国の病院に示されました.
【中堅看護師の「知」を顕在化】
中堅看護師は職場の宝物です.価値ある臨床知をたくさんもっています.この人たちの経験をポートフォリオの活用で顕在化することで,職場に互いを尊敬する雰囲気や活気が生まれます.師長はスタッフに愛情や応援する気持ちをもっています.スタッフを伸ばしてあげたい,応援してあげたいと思っている看護師長たちへ向けて,目標管理にポートフォリオを活かすことでスタッフが元気になるコツや目標面接のコーチングをくわしくお伝えしました.リスクマネージメントや認定看護,そして成長し続けていくキャリアポートフォリオなどさまざまな領域における発展的な応用も書きました.
看護師1人ひとりが自分のよさや可能性に気づき,さらに成長していくためにこの本が役立つこと,そして人を幸せにできる看護という仕事をより多くの社会の人たちが敬意をもって理解し,子どもたちが素晴しいこの仕事に一層あこがれる未来を願っています.
ここ数年,全国の看護師に出会ってきました.看護師は病んだ人のつらい気持ちを察し,そこにプロフェショナルとして尽くす力をもっています.直感的に観る力,察する心,共感する気持ち,現実への解決力……それは職業を超え人間として高い能力です.これからITや人工知能がいくら進化しても叶わない普遍的な知性だと思います.
看護師ほど成長しつづける自分を望んでいる人たちはいないと思います.日々多忙な仕事をしながら多くの研修,自己研鑽も欠かしません.他者のために自らの最善を尽くすその姿勢,強さを内在した謙虚さ,その1人ひとりとの出会いから多くの価値あることを気づかせてもらいました.この本はそのおかげで世に出すことができたものです.心から感謝しています.
この本を,敬意をこめて看護師さんたちへ捧げます.
2010年4月
鈴木敏恵
目次
開く
第I章 新しい教育と理念
1 学び続ける人になる
2 「意志ある学び」を叶えるプロジェクト学習
3 ポートフォリオの基本と理解
第II章 コンピテンシー教育手法―どう人を伸ばすか
1 コンピテンシーを高めるプロジェクト学習の手法
2 意欲と実践力がアップするプロジェクト手法による研修
3 今,看護師に求められる能力とポートフォリオ・プロジェクト学習
第III章 実践と応用
A.学生として
1 自ら学ぶ学生「パーソナルポートフォリオ」
2 看護基礎教育を「プロジェクト手法」で行う
3 ポートフォリオの「再構築」とその評価
4 臨地実習の効果を生む「実習ポートフォリオ」導入手順
B.プロフェッショナルをめざして
5 採用にポートフォリオを活かす
6 オリエンテーションからポートフォリオ開始
7 「自立」を実現する新人研修
8 臨床研修の意義と課題
9 教育担当・プリセプターに役立つ「インパクトシート」
10 情報と課題解決力/情報リテラシー/コンピテンシー
11 スタッフが活き活き成長する「目標管理」
12 気づく力のリスクマネージメント教育
C.スペシャリストを目指して
13 認定看護
14 効果的な「患者指導」
15 訪問看護に役立つライフポートフォリオ
16 ライフポートフォリオとQOL
17 キャリアポートフォリオ
第IV章 活用シート
ゴールシート
目標達成シート
個人目標リスト
アクションシート
プロジェクトのフェーズ展開表【身につく力とコーチング例】
インパクトシートA【実習用】
インパクトシートB【新人用】
インパクトシートC【指導者/プリセプター用】
インパクトシートD【リスク用】
身体シート
生活シート
成長報告書1/3【価値ある成長と展望】
成長報告書2/3【成長エントリー】
成長報告書3/3【講義俯瞰】
索引
実践者の声
Case 1:プロジェクト手法で管理職研修
Case 2:授業改善と評価
Case 3:意欲ある実習,国家試験トライ
Case 4:新カリキュラムに対応するプロジェクト学習
Case 5:凝縮ポートフォリオの効果
Case 6:新人のスタートを大切にしたいから
Case 7:1人ひとりの心に届くフィードバック
Case 8:目標も成果も共有しよう
1 学び続ける人になる
2 「意志ある学び」を叶えるプロジェクト学習
3 ポートフォリオの基本と理解
第II章 コンピテンシー教育手法―どう人を伸ばすか
1 コンピテンシーを高めるプロジェクト学習の手法
2 意欲と実践力がアップするプロジェクト手法による研修
3 今,看護師に求められる能力とポートフォリオ・プロジェクト学習
第III章 実践と応用
A.学生として
1 自ら学ぶ学生「パーソナルポートフォリオ」
2 看護基礎教育を「プロジェクト手法」で行う
3 ポートフォリオの「再構築」とその評価
4 臨地実習の効果を生む「実習ポートフォリオ」導入手順
B.プロフェッショナルをめざして
5 採用にポートフォリオを活かす
6 オリエンテーションからポートフォリオ開始
7 「自立」を実現する新人研修
8 臨床研修の意義と課題
9 教育担当・プリセプターに役立つ「インパクトシート」
10 情報と課題解決力/情報リテラシー/コンピテンシー
11 スタッフが活き活き成長する「目標管理」
12 気づく力のリスクマネージメント教育
C.スペシャリストを目指して
13 認定看護
14 効果的な「患者指導」
15 訪問看護に役立つライフポートフォリオ
16 ライフポートフォリオとQOL
17 キャリアポートフォリオ
第IV章 活用シート
ゴールシート
目標達成シート
個人目標リスト
アクションシート
プロジェクトのフェーズ展開表【身につく力とコーチング例】
インパクトシートA【実習用】
インパクトシートB【新人用】
インパクトシートC【指導者/プリセプター用】
インパクトシートD【リスク用】
身体シート
生活シート
成長報告書1/3【価値ある成長と展望】
成長報告書2/3【成長エントリー】
成長報告書3/3【講義俯瞰】
索引
実践者の声
Case 1:プロジェクト手法で管理職研修
Case 2:授業改善と評価
Case 3:意欲ある実習,国家試験トライ
Case 4:新カリキュラムに対応するプロジェクト学習
Case 5:凝縮ポートフォリオの効果
Case 6:新人のスタートを大切にしたいから
Case 7:1人ひとりの心に届くフィードバック
Case 8:目標も成果も共有しよう
書評
開く
自ら考え自ら行動する学習者が育つ学習支援の宝庫 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 根岸 貴子 (さいたま市立高等看護学院教務主任)
◆過密カリキュラム下でいかに学生を育てるか
平成21年にカリキュラム改正があり,看護実践力をつけるための教育課程が編成され,その理想に向けた教育が始まっている。一年間が経過し運営していく中で,カリキュラムは過密になり,学生にゆとりのない状況となっている。このような状況で,自ら考え自ら行動できる学生を育てることはできるのだろうか,どのような教育法を取り入れればそのような学生が育つのかを模索していた。
その問いに答えたのが本書である。これまで「ポートフォリオ=意志ある学び」とは多少なりとも知ってはいたが,実際に教育上どのように運用できるのかは分らないままであった。本書はポートフォリオとは何か,どのように実践するのか,プロジェクトの学習の進め方まで具体的に示している。しかも,授業・実習からスペシャリストを目指す内容まで,活用範囲が広く紹介され,ポートフォリオ学習について初めての方から,実際に導入したい方まで幅広く活用できる構成になっている。著者が看護のめざすところ,看護教育の中で問題になることについて,現状をよく把握されており,読み進めていくと現実に起きていることが手にとるようにわかる。そして胸中の疑問や戸惑いを的確にと言い当ててくれており,共感でき次々と読み進めたくなる本である。そしてこの本の魅力的なところは,現場の問いに対応しながら具体的な例を示し,ポートフォリオ評価とプロジェクト学習を紹介している点である。読者がイメージしながら読めるので非常にわかりやすい。ある程度わかりかけたところへ,実際の取り組みを紹介しているので納得いくものとなる。例えば“情報を見極める力のコーチングの場面”では「どういう見方をしたらいいと思う?」から始まり,その時の姿勢・進め方を紹介している。コーチングということばから実際の行動のイメージ化ができるということは,読者が容易に取り入れやすいものである。
◆教員自身の「俯瞰」の薦め
本書の中で特に惹きつけられたことに「俯瞰」するということがある。自分自身を客観視したり,プロセスを俯瞰し次なる課題を発見したりと,俯瞰することで自己肯定観や自己成長を感じるようになる。自らが気づくという意義は大きい。俯瞰はいろいろな場面で行うことができ,特に教育・看護の中では効果が大きいと考える。
看護教育の中で長い間いわれてきた「対象と人間関係を築き,自ら考え行動できる人を育てる」─その教育法の要素がつまっているのがポートフォリオである。著者は看護師を「次世代のロールモデル。未来の人」と言い,その思いをこめて本書を書きあげている。質の高い看護教育・看護師をめざす人に必読の書である。
(『看護教育』2010年10月号掲載)
「与えられた学び」から「意志ある学び」へ
書評者: 飯村 富子 (日赤広島看護大教授・地域看護学)
書名にある「ポートフォリオ」とは,何か? 語義からは,紙挟み,作品集,ファイルを指すが,「意志ある学び―未来教育」の提唱者として知られる著者の鈴木敏恵氏によると「モノであり,同時に考え方や,やり方でもある」という。また,日々成長している「自分を発見」できるもの,それは学びの「基軸」,成長の「記録」であり,何より「自分の意志」で「未来を開くための切り札」という。「与えられた学び」から,「意志ある学び」へと熱く説く著者の理念をひもとく重要なキーワードの一つである。
本書は,看護学生や現場の看護師が,他者のために自らの最善を尽くしてケアを提供するための能力開発の手引書であり,学生や看護師自身が人間として成長・向上するための学習方法や学び方の手順・道筋を示した解説書である。本書はまた,教師や現場の指導者にとって,対象者の気付きを促す手順や教育方法を丁寧に示した指導書であり,従来実施してきた授業や現任教育を見直す改善書でもある。
本書は,4つの章で構成され,第1・第2章はポートフォリオとプロジェクト学習についてとその教育手法について書かれ,第3章は実践・応用編となっている。最終章は学生やスタッフが実践の場で活用できるシート類を紹介した活動シート集で,出典を明記すれば自由に活用してよいと書かれているのがうれしい。
本書を読んで,特に私が深い感銘を受けたのは第3章である。第3章は,多くの実践例をもとに「学生として」,「プロフェッショナルをめざして」,「スペシャリストをめざして」と,看護師としての成長段階に合わせて,どのようにポートフォリオを活用し,学習を積み重ねていったらよいか,具体的に書かれている。
さらに,要所・要所に実践者の声が収集され,読者は「なるほど,なるほど」と納得できる。これこそ著者が説く「エビデンスを大切に」を見事に実現した強みにほかなるまい。また,全国の看護教育や現場で,著者が関係者と協働して個々人が所有する情報を掘り起こし,収集し,共有し,関連させ,そこから目的や意味を持つ情報に変容させる原動力として取り組んでこられた成果である。
昨年7月の保健師助産師看護師法の改正で,看護師等は免許を受けた後も,臨床研修その他の研修を受け資質の向上を図ることが努力義務となった。また,看護師等の人材確保法では,国や病院開設者の責務も明記された。この動きに対応するものとして,昨年12月に出された厚生労働省の「新人看護職研修ガイドライン」には,新人看護師が獲得した能力や成果を蓄積する研修手帳として,ポートフォリオの有効性が評価されている。
本書は全国の看護学生,現場の看護師の方々,看護教育や現任教育関係者にぜひ一読をお勧めしたい1冊である。
書評者: 根岸 貴子 (さいたま市立高等看護学院教務主任)
◆過密カリキュラム下でいかに学生を育てるか
平成21年にカリキュラム改正があり,看護実践力をつけるための教育課程が編成され,その理想に向けた教育が始まっている。一年間が経過し運営していく中で,カリキュラムは過密になり,学生にゆとりのない状況となっている。このような状況で,自ら考え自ら行動できる学生を育てることはできるのだろうか,どのような教育法を取り入れればそのような学生が育つのかを模索していた。
その問いに答えたのが本書である。これまで「ポートフォリオ=意志ある学び」とは多少なりとも知ってはいたが,実際に教育上どのように運用できるのかは分らないままであった。本書はポートフォリオとは何か,どのように実践するのか,プロジェクトの学習の進め方まで具体的に示している。しかも,授業・実習からスペシャリストを目指す内容まで,活用範囲が広く紹介され,ポートフォリオ学習について初めての方から,実際に導入したい方まで幅広く活用できる構成になっている。著者が看護のめざすところ,看護教育の中で問題になることについて,現状をよく把握されており,読み進めていくと現実に起きていることが手にとるようにわかる。そして胸中の疑問や戸惑いを的確にと言い当ててくれており,共感でき次々と読み進めたくなる本である。そしてこの本の魅力的なところは,現場の問いに対応しながら具体的な例を示し,ポートフォリオ評価とプロジェクト学習を紹介している点である。読者がイメージしながら読めるので非常にわかりやすい。ある程度わかりかけたところへ,実際の取り組みを紹介しているので納得いくものとなる。例えば“情報を見極める力のコーチングの場面”では「どういう見方をしたらいいと思う?」から始まり,その時の姿勢・進め方を紹介している。コーチングということばから実際の行動のイメージ化ができるということは,読者が容易に取り入れやすいものである。
◆教員自身の「俯瞰」の薦め
本書の中で特に惹きつけられたことに「俯瞰」するということがある。自分自身を客観視したり,プロセスを俯瞰し次なる課題を発見したりと,俯瞰することで自己肯定観や自己成長を感じるようになる。自らが気づくという意義は大きい。俯瞰はいろいろな場面で行うことができ,特に教育・看護の中では効果が大きいと考える。
看護教育の中で長い間いわれてきた「対象と人間関係を築き,自ら考え行動できる人を育てる」─その教育法の要素がつまっているのがポートフォリオである。著者は看護師を「次世代のロールモデル。未来の人」と言い,その思いをこめて本書を書きあげている。質の高い看護教育・看護師をめざす人に必読の書である。
(『看護教育』2010年10月号掲載)
「与えられた学び」から「意志ある学び」へ
書評者: 飯村 富子 (日赤広島看護大教授・地域看護学)
書名にある「ポートフォリオ」とは,何か? 語義からは,紙挟み,作品集,ファイルを指すが,「意志ある学び―未来教育」の提唱者として知られる著者の鈴木敏恵氏によると「モノであり,同時に考え方や,やり方でもある」という。また,日々成長している「自分を発見」できるもの,それは学びの「基軸」,成長の「記録」であり,何より「自分の意志」で「未来を開くための切り札」という。「与えられた学び」から,「意志ある学び」へと熱く説く著者の理念をひもとく重要なキーワードの一つである。
本書は,看護学生や現場の看護師が,他者のために自らの最善を尽くしてケアを提供するための能力開発の手引書であり,学生や看護師自身が人間として成長・向上するための学習方法や学び方の手順・道筋を示した解説書である。本書はまた,教師や現場の指導者にとって,対象者の気付きを促す手順や教育方法を丁寧に示した指導書であり,従来実施してきた授業や現任教育を見直す改善書でもある。
本書は,4つの章で構成され,第1・第2章はポートフォリオとプロジェクト学習についてとその教育手法について書かれ,第3章は実践・応用編となっている。最終章は学生やスタッフが実践の場で活用できるシート類を紹介した活動シート集で,出典を明記すれば自由に活用してよいと書かれているのがうれしい。
本書を読んで,特に私が深い感銘を受けたのは第3章である。第3章は,多くの実践例をもとに「学生として」,「プロフェッショナルをめざして」,「スペシャリストをめざして」と,看護師としての成長段階に合わせて,どのようにポートフォリオを活用し,学習を積み重ねていったらよいか,具体的に書かれている。
さらに,要所・要所に実践者の声が収集され,読者は「なるほど,なるほど」と納得できる。これこそ著者が説く「エビデンスを大切に」を見事に実現した強みにほかなるまい。また,全国の看護教育や現場で,著者が関係者と協働して個々人が所有する情報を掘り起こし,収集し,共有し,関連させ,そこから目的や意味を持つ情報に変容させる原動力として取り組んでこられた成果である。
昨年7月の保健師助産師看護師法の改正で,看護師等は免許を受けた後も,臨床研修その他の研修を受け資質の向上を図ることが努力義務となった。また,看護師等の人材確保法では,国や病院開設者の責務も明記された。この動きに対応するものとして,昨年12月に出された厚生労働省の「新人看護職研修ガイドライン」には,新人看護師が獲得した能力や成果を蓄積する研修手帳として,ポートフォリオの有効性が評価されている。
本書は全国の看護学生,現場の看護師の方々,看護教育や現任教育関係者にぜひ一読をお勧めしたい1冊である。
更新情報
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