ポートフォリオ評価とコーチング手法
臨床研修・臨床実習の成功戦略!
医療者はもとよりすべての教育関係者に
もっと見る
ポートフォリオは学習や研修を進めていく中で得られる資料・情報、そして自分の気づき、思いをもファイリングした活動・成長のプロセスが入ったファイルのこと。このポートフォリオを用いた評価の実践的な手法や具体的な効果について、教育のプロが著した意欲作。個々人の本来持っている能力や可能性を引き出すコーチングについても写真を用いて具体的に詳述。
著 | 鈴木 敏恵 |
---|---|
発行 | 2006年04月判型:B5頁:160 |
ISBN | 978-4-260-00053-6 |
定価 | 3,300円 (本体3,000円+税) |
- 販売終了
更新情報
-
更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。
- 目次
- 書評
目次
開く
第I章【理論編】 ポートフォリオが「評価」を変える!
1. 臨床研修の「成長」と「成果」をどう評価するか
2. これまでの「評価」を捨てよう!
3. ポートフォリオは,人を成長させる
第II章【手法編】 臨床研修にポートフォリオを活かす!
1. 臨床研修の流れとポートフォリオ活用手法
2. 1人プロジェクトで成長する
3. “気づく力”を引き出すコーチング
4. 人は1人では成長できない
第III章【実践編】 研修医が成長する臨床研修
Capability:学び続ける医師となる
A 研修医回診
B ランチタイムカンファレンス
C 1人プロジェクト
D 評価
E 再構築
第IV章【応用編】 ポートフォリオでよりよき医療を!
―医師・看護師・患者…すべての人々のために―
1. いろいろな人に役立つポートフォリオ
2. 医療や健康にポートフォリオを活かす
(資料集)活用シート集
1. 目標書き出しシート
2. 目標シート
3. ふりかえりシート
4. 体験シート
5. 成長エントリーシート
6. 成長報告書(オモテ)
7. 成長報告書(ウラ)
8. 患者状況確認シート
索引
1. 臨床研修の「成長」と「成果」をどう評価するか
2. これまでの「評価」を捨てよう!
3. ポートフォリオは,人を成長させる
第II章【手法編】 臨床研修にポートフォリオを活かす!
1. 臨床研修の流れとポートフォリオ活用手法
2. 1人プロジェクトで成長する
3. “気づく力”を引き出すコーチング
4. 人は1人では成長できない
第III章【実践編】 研修医が成長する臨床研修
Capability:学び続ける医師となる
A 研修医回診
B ランチタイムカンファレンス
C 1人プロジェクト
D 評価
E 再構築
第IV章【応用編】 ポートフォリオでよりよき医療を!
―医師・看護師・患者…すべての人々のために―
1. いろいろな人に役立つポートフォリオ
2. 医療や健康にポートフォリオを活かす
(資料集)活用シート集
1. 目標書き出しシート
2. 目標シート
3. ふりかえりシート
4. 体験シート
5. 成長エントリーシート
6. 成長報告書(オモテ)
7. 成長報告書(ウラ)
8. 患者状況確認シート
索引
書評
開く
ポートフォリオ活用に悩む人に渡りに船の1冊
書評者: 新宮 尚人 (聖隷クリストファー大准教授・作業療法学)
私は,昨年の授業からポートフォリオを導入している。しかし,苦労して作ったポートフォリオを十分に活用できず,単なる資料集の作成で終わる学生が少なからずいることに自分の力量のなさを痛感し,何か対策が必要であると感じていた。そんな時,本書を手にする機会に恵まれた。新学期が始まると直前のことである。私にとっては“渡りに船”であった。
リハビリテーションには,生活上の不自由(障がい)を持ちながらも,よりよく生きるためにはどうすればよいかを,対象者とともに考え答えを見つけていくことが求められる。それゆえに,原因を特定し予防や治療を行う医学に比べ,介入方法を一定の法則や原理に落とし込むことはより困難であると言える。このような不確実で個別の問題への対処が求められる能力を,いかに育て到達度を測るかということは大変な難問であると感じている。
本書は,この難問を解く手がかりを与えてくれる実践的な書である。冒頭で著者は「成長するための評価」について強調している。評価は「日々の成果を省み,よりよいものを目指すために行う」これには異論がないであろう。しかし,筆記試験でできなかったところを指摘し,やり直しをさせるという方法では大きな成果は得られないという。取り組む過程で,その人のプラス面を発見し,具体的にどこがよかったかというポイントをフィードバックすることで自然によりよいものを目指そうという意欲が沸き,自己修正しながら成長していくものであるという。このように,ポートフォリオ評価は「結果」ではなく「プロセス」からプラス面を発見することを重視していることに特徴がある。私は,自身のトライ・アンド・エラーによる内省に加え,他者からの正のフィードバックを受ける中に,コミュニケーション能力,問題解決能力など,リハビリテーション専門職に求められる力を育てるポイントがあるように感じた。確かに,筆記試験というモノサシでは“それを知っているか”は確認できるが,“それを実際に活用できるか”を確認することは難しい。
ポートフォリオの活用法について最も興味を惹かれたのは「凝縮ポートフォリオ」の作成である。これは“「元ポートフォリオ」から重要なことだけをギュッと抽出し再構築したもの”だそうだ。やってきたことを一通り終えた後,その全体を俯瞰することで忙しい日々の最中には気づかない「最も大事なこと」に気づくことができると述べている。私にとっては“一晩寝かせるとおいしくなる料理”を思い出させるフレーズであった。
さらに,凝縮ポートフォリオは,同級生同士のディスカッションや教員や先輩などが適切な指導やアドバイスをするツールとして活用できることが示されている。これをもとに発表会や個人面接をするのもよいであろう。実際には,凝縮ポートフォリオの作成自体が学生への新たな負担となることも考えられるので,元ポートフォリオを十分俯瞰できる工夫からはじめるなど,段階的な導入を検討したい。
教員・学生のみならず,臨床家にもぜひ一読いただきたい1冊である。
読んだ者にエネルギーを与える実践書
書評者: 郡 義明 (天理よろづ相談所病院総合診療教育部)
著者はポートフォリオの重要な点は,「気づき」を促す場を提供することと,教育の成果(成長の軌跡)が研修医自身にも指導医にも評価可能な点であると述べている。
医学教育にとって,知識や技術の習得が重要なことは論を俟たないが,さらに重要なことは,学び続ける意志,学び取る能力である。こうした能力の獲得向上には,内省的な振り返りを通した「気づき」が欠かせない。ポートフォリオは,そのような気づきを促す格好の媒体となりうると著者は強調している。内省と言えば失敗から学ぶことがまず頭に浮かぶが,著者は一歩進めてもっとポジティブな面をとらえようとする。振り返りの中で,自らの成長を確認することで,さらに前進しようとする力が湧いてくるというのだ。
考えてみれば,優れた研究者や臨床家は,このような作業を目には見えなくとも頭の中で実践してきたに違いない。その“技”を誰にでもわかりやすく利用できるようにしたものがポートフォリオなのかもしれない。
実際の教育現場を見ると,いまだに教育は理論や信念に基づいて行われていることが意外と多い。その最大の原因は教育方法の実効性を証明することが困難なためである。しかし,ポートフォリオでは,あらかじめ評価の観点を設定することで評価が可能だと著者は述べている。
タイトルはポートフォリオ評価となっているが,本書では評価だけでなく,実際にどのように活用すればよいか具体例を多数挙げているので実践の場で活用しやすい。
また,昨今,企業でも注目されているコーチング手法についても紹介している。そのエッセンスは「静かな誘い水にも似たコーチングの問いは,頭の中に起きている思考の紡ぎを助けます。それは,余分な糸くずが混ざった糸の絡みが自然に解け,すっと1本の糸が自ら浮かびあがり,解決させるかのようです。その1本の糸は,本人の中にはじめからあるものであり,決して他者が教えたり,与えたりするといったものではない」という文章の中に凝縮されている。対話コーチングのポイントやコツがわかりやすく説明されており,現場での指導に大いに役立つであろう。コーチングの手法は,臨床教育の場にもっと利用されるべきものである。
本書には,随所に「成長は真摯な自己評価と共にある」,「人は皆,自己成長する潜在力を持っている」といった力強いメッセージがこめられている。そこには常に人間の可能性を信じて疑わない著者の前向きな姿勢が現れている。本書がノウハウ本を超えて,読んだ者にエネルギーを与える所以である。研修医や指導医が待ち望んでいた実践の書である。
書評 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 白浜 雅司 (佐賀市立国民健康保険三瀬診療所長佐賀大学医学部臨床教授)
最近,医学教育,看護教育関係の学会や雑誌で取り上げられることの多くなった,「ポートフォリオ評価とコーチング手法」についてのテキストが出版された。「臨床研修・臨床実習の成功戦略!」と副題があるように,今回のテキストは,その手法を臨床研修・臨床実習に役立たせることを目的に作られたのが,私のように最近,卒後臨床研修の一部を担当するようになった医師には大変参考になった。
臨床現場の教育では,教えることに専念できる人はいない。だが,臨床の現場には学生や研修医が学べること,学んでほしいことがたくさんあり,それが机上の空論でなく,日々動いている。自分たちがどう動くかで次の展開も変わってくる。研修目標を設定し,その目標に向かってどのように毎日を送るか,そしてそれをどうふり返るかで,学ぶことの中味が違ってくる。本書からは,これまでと違った役立つたくさんの視点や手法を与えてもらったというのが率直な読後の感想である。当然同じような立場で,看護学生や若い看護師の教育に当たっている方々にも役立つ本だと思う。
まず第1章の理論編では,ポートフォリオ評価の理論が書かれている。私は「自分のやってきた仕事をコツコツとまとめていって,自分の能力,個性など,テストで数値化できない成長を評価できるようにしたもの」と理解した。最近の評価第一主義の風潮について,その評価も点数で表わされるものばかり重視されることに疑問をもっていた私にとっては,この章は大変納得できるものであった。
評価に対して私が持っていた違和感は,著者の鈴木敏恵氏が書かれているように,従来の評価は「結果」から「マイナス」を探すものであったからである。ポートフォリオ評価は,「プロセス」から「プラス」を見出すもの,相互評価,自己評価によって自分をふり返る道具であるという視点である。私は臨床倫理の教育をしているのだが,その最終目標は,臨床の現場で患者・家族と一緒に考え,悩んで最善の対応を見出すことだと考えていて,共感することが多かった。
第2,3章は,臨床研修にポートフォリオを生かす具体的な取り組みが書かれている。これは著者だけのアイデアというより,この本の誕生のきっかけとなった出雲市民病院の森敬良先生との実践記録という感じで,さまざまな工夫が提示されており,忙しい診療の中での研修の時間をどう確保するかの参考になる。またところどころの小さなコラムも秀逸である。
一方,われわれ指導者にとって大事な,“気づく力”を引き出すコーチングについてもたくさんの示唆があった。これまでの一方的に正解を教え,理解させるティーチングとは違うことが述べられている。正解がない医療現場の問題にどう対応するかを気づかせるという意味で,このコーチングの手法はますます必要になるだろう。
自分でテーマを選び,自分でそれに向かって前進する学生,研修医を育てていくのは大きな課題であるが,それには,われわれ指導者が,問題にぶつかりながらも,前向きに前進しているロールモデル,何かあったとき,一緒に考えられるコーチ役になれるよう研鑽しなくてはと思った。
(『看護教育』2006年8・9月合併増大号掲載)
学びや成長がもの足りなく感じている研修医・医学生に
書評者: 武田 裕子 (東京大学教育国際協力研究センター)
ポートフォリオという単語はもともと,写真やパンフレット,文書などの資料を投げ込んで保存する二つ折りの“紙ばさみ”を指していた。それが次第に,建築家やデザイナーが自らの作品をまとめてファイルし,自分の仕事の成果や実力を示すものという意味で使われるようになった。現在では,学習を刺激しその過程を俯瞰する学習・評価ツールとして,教育の領域で広く用いられている。特に近年,多岐にわたる能力(コンピテンシー)が求められ,内省しつつ成長することが期待される医療者教育に導入されている。ポートフォリオの中身や形式は目的によってさまざまであるが,その意義や効果に関する論文は急増している。
著者が本書のなかで繰り返し述べているように,ポートフォリオが役立つかどうかは,作成する研修医・医学生自身がその意義を理解し,“「やらされている」ではなく「自分の成長につながる」と思えるかどうかが最大の鍵”となる。自分自身を客観的に見つめたり,立ち止まって考える,振り返ることが,医療者にとって不可欠な行為であることに疑いの余地はない。この本は,そのような態度・行動を具体的に言葉で表現し,実行できるようにサポートしてくれる実践的な書である。
しかし必要性を認識することと,行動に移すことの間には,かなり大きな壁が存在する。日記が不得意だと,たとえ1行でも毎日自分の思いや自己評価を書きとめ,さまざまな記録物をファイルしていくのは至難の業に思える。“成長するためには「意志」がいる!”とハッパをかけられても自信がない。そこで本書は後半に,セルフコーチングあるいは指導医によるコーチングや日々の研修におけるフィードバックについて紹介している。例としてあげられた“卒後3年目の医師によるコーチング”は,初期研修医との距離が遠いという印象をもったが,これを指導医の役割と考えるとなるほどと思わされる。また,研修医自身が参加しさまざまな職種を交えての「研修委員会による“オープン評価”」は,多くの研修教育病院の参考になると感じた。
著者の鈴木先生は,“(ローテーションの)区切りに「間」を設けて1人で思考する”こと,しかも“2日程度”と本書で勧められている。ローテーション最終日は,深夜までかかって担当患者の入院経過のサマリーをカルテに記載していた身としては,不可能!と反応してしまったが,医療界以外のところで活動されてきた鈴木先生だからこそ,必要なことを率直に伝えて下さっていると受け止めた。これまでの自分の学びや成長を何となくもの足りないと感じている研修医・医学生のあなたにぜひお薦めしたい1冊である。
病院に熱い眼差しを向け,精力的に教育の分野で活動されている一級建築士の鈴木先生,これからも医学教育への忌憚ないご提言を,よろしくお願いいたします。
医療専門職の成長をガイドするポートフォリオ評価
書評者: 正木 治恵 (千葉大教授・看護学部)
待望の医療人向けポートフォリオ評価の実践書が出版された。医師の卒後臨床研修の必修化が始まり,新人看護職員研修の必要性も叫ばれている昨今,医療現場ではまさに専門職として成長していく,そのプロセスの支援が求められている。そんな時代の要請に応えるように,本書が出版された。本書は,今までの“評価”に欠けていたものを明確に示す。すなわち,「結果」から「マイナス」を探すこれまでの評価に対して,ポートフォリオ評価は「プロセス」から「プラス」を見いだす。ポートフォリオは,自己の成長を見つめる評価を形成的に機能させることを可能にする。
ポートフォリオとは,元来紙ばさみ,書類鞄など,バラバラの情報を一元化するためのいわばファイルのようなものを意味し,その人のこれまでやってきた成果や記録などの実績歴,あるいはその人自身が見えてくるような活動歴などを,未来に活かす意図で自分の意志で一元化したものとある。その具体的内容,効果については,鈴木先生ご自身の医療現場でのポートフォリオ適用例の展開から理解できる。
本書を読み進めていくと,時折さりげない言葉に立ち止まる。「そこであなたがいかにキラキラと生き,人間を大切にしているかをどうぞ私にみせて欲しいのです」。医療人魂がくすぐられる。ついつい医療人として動き出したくなる。また,本書は,個々人の本来持っている能力や可能性を引き出すコーチングについても提示している。ポートフォリオ評価は医療人をreflective practitionerへと導く。本書が医療人の基礎教育や卒後研修の充実の一助となることと期待する。
書評者: 新宮 尚人 (聖隷クリストファー大准教授・作業療法学)
私は,昨年の授業からポートフォリオを導入している。しかし,苦労して作ったポートフォリオを十分に活用できず,単なる資料集の作成で終わる学生が少なからずいることに自分の力量のなさを痛感し,何か対策が必要であると感じていた。そんな時,本書を手にする機会に恵まれた。新学期が始まると直前のことである。私にとっては“渡りに船”であった。
リハビリテーションには,生活上の不自由(障がい)を持ちながらも,よりよく生きるためにはどうすればよいかを,対象者とともに考え答えを見つけていくことが求められる。それゆえに,原因を特定し予防や治療を行う医学に比べ,介入方法を一定の法則や原理に落とし込むことはより困難であると言える。このような不確実で個別の問題への対処が求められる能力を,いかに育て到達度を測るかということは大変な難問であると感じている。
本書は,この難問を解く手がかりを与えてくれる実践的な書である。冒頭で著者は「成長するための評価」について強調している。評価は「日々の成果を省み,よりよいものを目指すために行う」これには異論がないであろう。しかし,筆記試験でできなかったところを指摘し,やり直しをさせるという方法では大きな成果は得られないという。取り組む過程で,その人のプラス面を発見し,具体的にどこがよかったかというポイントをフィードバックすることで自然によりよいものを目指そうという意欲が沸き,自己修正しながら成長していくものであるという。このように,ポートフォリオ評価は「結果」ではなく「プロセス」からプラス面を発見することを重視していることに特徴がある。私は,自身のトライ・アンド・エラーによる内省に加え,他者からの正のフィードバックを受ける中に,コミュニケーション能力,問題解決能力など,リハビリテーション専門職に求められる力を育てるポイントがあるように感じた。確かに,筆記試験というモノサシでは“それを知っているか”は確認できるが,“それを実際に活用できるか”を確認することは難しい。
ポートフォリオの活用法について最も興味を惹かれたのは「凝縮ポートフォリオ」の作成である。これは“「元ポートフォリオ」から重要なことだけをギュッと抽出し再構築したもの”だそうだ。やってきたことを一通り終えた後,その全体を俯瞰することで忙しい日々の最中には気づかない「最も大事なこと」に気づくことができると述べている。私にとっては“一晩寝かせるとおいしくなる料理”を思い出させるフレーズであった。
さらに,凝縮ポートフォリオは,同級生同士のディスカッションや教員や先輩などが適切な指導やアドバイスをするツールとして活用できることが示されている。これをもとに発表会や個人面接をするのもよいであろう。実際には,凝縮ポートフォリオの作成自体が学生への新たな負担となることも考えられるので,元ポートフォリオを十分俯瞰できる工夫からはじめるなど,段階的な導入を検討したい。
教員・学生のみならず,臨床家にもぜひ一読いただきたい1冊である。
読んだ者にエネルギーを与える実践書
書評者: 郡 義明 (天理よろづ相談所病院総合診療教育部)
著者はポートフォリオの重要な点は,「気づき」を促す場を提供することと,教育の成果(成長の軌跡)が研修医自身にも指導医にも評価可能な点であると述べている。
医学教育にとって,知識や技術の習得が重要なことは論を俟たないが,さらに重要なことは,学び続ける意志,学び取る能力である。こうした能力の獲得向上には,内省的な振り返りを通した「気づき」が欠かせない。ポートフォリオは,そのような気づきを促す格好の媒体となりうると著者は強調している。内省と言えば失敗から学ぶことがまず頭に浮かぶが,著者は一歩進めてもっとポジティブな面をとらえようとする。振り返りの中で,自らの成長を確認することで,さらに前進しようとする力が湧いてくるというのだ。
考えてみれば,優れた研究者や臨床家は,このような作業を目には見えなくとも頭の中で実践してきたに違いない。その“技”を誰にでもわかりやすく利用できるようにしたものがポートフォリオなのかもしれない。
実際の教育現場を見ると,いまだに教育は理論や信念に基づいて行われていることが意外と多い。その最大の原因は教育方法の実効性を証明することが困難なためである。しかし,ポートフォリオでは,あらかじめ評価の観点を設定することで評価が可能だと著者は述べている。
タイトルはポートフォリオ評価となっているが,本書では評価だけでなく,実際にどのように活用すればよいか具体例を多数挙げているので実践の場で活用しやすい。
また,昨今,企業でも注目されているコーチング手法についても紹介している。そのエッセンスは「静かな誘い水にも似たコーチングの問いは,頭の中に起きている思考の紡ぎを助けます。それは,余分な糸くずが混ざった糸の絡みが自然に解け,すっと1本の糸が自ら浮かびあがり,解決させるかのようです。その1本の糸は,本人の中にはじめからあるものであり,決して他者が教えたり,与えたりするといったものではない」という文章の中に凝縮されている。対話コーチングのポイントやコツがわかりやすく説明されており,現場での指導に大いに役立つであろう。コーチングの手法は,臨床教育の場にもっと利用されるべきものである。
本書には,随所に「成長は真摯な自己評価と共にある」,「人は皆,自己成長する潜在力を持っている」といった力強いメッセージがこめられている。そこには常に人間の可能性を信じて疑わない著者の前向きな姿勢が現れている。本書がノウハウ本を超えて,読んだ者にエネルギーを与える所以である。研修医や指導医が待ち望んでいた実践の書である。
書評 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 白浜 雅司 (佐賀市立国民健康保険三瀬診療所長佐賀大学医学部臨床教授)
最近,医学教育,看護教育関係の学会や雑誌で取り上げられることの多くなった,「ポートフォリオ評価とコーチング手法」についてのテキストが出版された。「臨床研修・臨床実習の成功戦略!」と副題があるように,今回のテキストは,その手法を臨床研修・臨床実習に役立たせることを目的に作られたのが,私のように最近,卒後臨床研修の一部を担当するようになった医師には大変参考になった。
臨床現場の教育では,教えることに専念できる人はいない。だが,臨床の現場には学生や研修医が学べること,学んでほしいことがたくさんあり,それが机上の空論でなく,日々動いている。自分たちがどう動くかで次の展開も変わってくる。研修目標を設定し,その目標に向かってどのように毎日を送るか,そしてそれをどうふり返るかで,学ぶことの中味が違ってくる。本書からは,これまでと違った役立つたくさんの視点や手法を与えてもらったというのが率直な読後の感想である。当然同じような立場で,看護学生や若い看護師の教育に当たっている方々にも役立つ本だと思う。
まず第1章の理論編では,ポートフォリオ評価の理論が書かれている。私は「自分のやってきた仕事をコツコツとまとめていって,自分の能力,個性など,テストで数値化できない成長を評価できるようにしたもの」と理解した。最近の評価第一主義の風潮について,その評価も点数で表わされるものばかり重視されることに疑問をもっていた私にとっては,この章は大変納得できるものであった。
評価に対して私が持っていた違和感は,著者の鈴木敏恵氏が書かれているように,従来の評価は「結果」から「マイナス」を探すものであったからである。ポートフォリオ評価は,「プロセス」から「プラス」を見出すもの,相互評価,自己評価によって自分をふり返る道具であるという視点である。私は臨床倫理の教育をしているのだが,その最終目標は,臨床の現場で患者・家族と一緒に考え,悩んで最善の対応を見出すことだと考えていて,共感することが多かった。
第2,3章は,臨床研修にポートフォリオを生かす具体的な取り組みが書かれている。これは著者だけのアイデアというより,この本の誕生のきっかけとなった出雲市民病院の森敬良先生との実践記録という感じで,さまざまな工夫が提示されており,忙しい診療の中での研修の時間をどう確保するかの参考になる。またところどころの小さなコラムも秀逸である。
一方,われわれ指導者にとって大事な,“気づく力”を引き出すコーチングについてもたくさんの示唆があった。これまでの一方的に正解を教え,理解させるティーチングとは違うことが述べられている。正解がない医療現場の問題にどう対応するかを気づかせるという意味で,このコーチングの手法はますます必要になるだろう。
自分でテーマを選び,自分でそれに向かって前進する学生,研修医を育てていくのは大きな課題であるが,それには,われわれ指導者が,問題にぶつかりながらも,前向きに前進しているロールモデル,何かあったとき,一緒に考えられるコーチ役になれるよう研鑽しなくてはと思った。
(『看護教育』2006年8・9月合併増大号掲載)
学びや成長がもの足りなく感じている研修医・医学生に
書評者: 武田 裕子 (東京大学教育国際協力研究センター)
ポートフォリオという単語はもともと,写真やパンフレット,文書などの資料を投げ込んで保存する二つ折りの“紙ばさみ”を指していた。それが次第に,建築家やデザイナーが自らの作品をまとめてファイルし,自分の仕事の成果や実力を示すものという意味で使われるようになった。現在では,学習を刺激しその過程を俯瞰する学習・評価ツールとして,教育の領域で広く用いられている。特に近年,多岐にわたる能力(コンピテンシー)が求められ,内省しつつ成長することが期待される医療者教育に導入されている。ポートフォリオの中身や形式は目的によってさまざまであるが,その意義や効果に関する論文は急増している。
著者が本書のなかで繰り返し述べているように,ポートフォリオが役立つかどうかは,作成する研修医・医学生自身がその意義を理解し,“「やらされている」ではなく「自分の成長につながる」と思えるかどうかが最大の鍵”となる。自分自身を客観的に見つめたり,立ち止まって考える,振り返ることが,医療者にとって不可欠な行為であることに疑いの余地はない。この本は,そのような態度・行動を具体的に言葉で表現し,実行できるようにサポートしてくれる実践的な書である。
しかし必要性を認識することと,行動に移すことの間には,かなり大きな壁が存在する。日記が不得意だと,たとえ1行でも毎日自分の思いや自己評価を書きとめ,さまざまな記録物をファイルしていくのは至難の業に思える。“成長するためには「意志」がいる!”とハッパをかけられても自信がない。そこで本書は後半に,セルフコーチングあるいは指導医によるコーチングや日々の研修におけるフィードバックについて紹介している。例としてあげられた“卒後3年目の医師によるコーチング”は,初期研修医との距離が遠いという印象をもったが,これを指導医の役割と考えるとなるほどと思わされる。また,研修医自身が参加しさまざまな職種を交えての「研修委員会による“オープン評価”」は,多くの研修教育病院の参考になると感じた。
著者の鈴木先生は,“(ローテーションの)区切りに「間」を設けて1人で思考する”こと,しかも“2日程度”と本書で勧められている。ローテーション最終日は,深夜までかかって担当患者の入院経過のサマリーをカルテに記載していた身としては,不可能!と反応してしまったが,医療界以外のところで活動されてきた鈴木先生だからこそ,必要なことを率直に伝えて下さっていると受け止めた。これまでの自分の学びや成長を何となくもの足りないと感じている研修医・医学生のあなたにぜひお薦めしたい1冊である。
病院に熱い眼差しを向け,精力的に教育の分野で活動されている一級建築士の鈴木先生,これからも医学教育への忌憚ないご提言を,よろしくお願いいたします。
医療専門職の成長をガイドするポートフォリオ評価
書評者: 正木 治恵 (千葉大教授・看護学部)
待望の医療人向けポートフォリオ評価の実践書が出版された。医師の卒後臨床研修の必修化が始まり,新人看護職員研修の必要性も叫ばれている昨今,医療現場ではまさに専門職として成長していく,そのプロセスの支援が求められている。そんな時代の要請に応えるように,本書が出版された。本書は,今までの“評価”に欠けていたものを明確に示す。すなわち,「結果」から「マイナス」を探すこれまでの評価に対して,ポートフォリオ評価は「プロセス」から「プラス」を見いだす。ポートフォリオは,自己の成長を見つめる評価を形成的に機能させることを可能にする。
ポートフォリオとは,元来紙ばさみ,書類鞄など,バラバラの情報を一元化するためのいわばファイルのようなものを意味し,その人のこれまでやってきた成果や記録などの実績歴,あるいはその人自身が見えてくるような活動歴などを,未来に活かす意図で自分の意志で一元化したものとある。その具体的内容,効果については,鈴木先生ご自身の医療現場でのポートフォリオ適用例の展開から理解できる。
本書を読み進めていくと,時折さりげない言葉に立ち止まる。「そこであなたがいかにキラキラと生き,人間を大切にしているかをどうぞ私にみせて欲しいのです」。医療人魂がくすぐられる。ついつい医療人として動き出したくなる。また,本書は,個々人の本来持っている能力や可能性を引き出すコーチングについても提示している。ポートフォリオ評価は医療人をreflective practitionerへと導く。本書が医療人の基礎教育や卒後研修の充実の一助となることと期待する。
更新情報
-
更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。