エビデンスをつくる
陥りやすい臨床研究のピットフォール

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臨床研究に必要な疫学的知識を整理した入門書。日常,臨床家が陥りやすいピットフォールを通して,デザインのしかた,データ処理の方法,倫理指針への対応などを解説し,エビデンスの作りかたを学べる。主要部分がクイズ形式になっており,随所にオリジナルの図表と,日常遭遇する疫学的なエピソードを挿入している。
川村 孝
発行 2003年10月判型:A5頁:176
ISBN 978-4-260-12712-7
定価 3,080円 (本体2,800円+税)
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  • 目次
  • 書評

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I. 研究デザイン編
 1. 治療・予防効果の研究
 2. 予後の研究
 3. 副作用の研究,発症要因の研究
 4. 診断の研究
 5. 実態調査
 6. 共通の課題
II. データ処理編
 1. 整理と集計
 2. 検定と推定
 3. 解釈と適用
III. 研究倫理編
 1. 倫理指針の適用
 2. 倫理の手続き
IV. 論文執筆編
 1. 論文の構成
 2. 執筆の手順
 3. 作文のポイント
 4. 日常のトレーニング
あとがき
索引

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より高いレベルの医療,臨床研究を志す人に
書評者: 山科 章 (東京医大教授・第二内科)
◆Evidenceはオールマイティーではない

 Evidence―based Medicine(EBM)という言葉が紹介されたのは10年あまり前のことである。その考え方は瞬く間に世界中に広まり,理論的根拠があっても臨床的有用性を示すEvidenceがないものは,実際の医療に導入できないと認識されてきた。次々と大規模臨床試験が実施され,その結果がEvidenceとして紹介され,そのEvidenceをもとにガイドラインが次々と作られている。そういったEvidenceのお陰により,われわれの行なう医療も,ある程度の根拠に基づく標準的なものとなってきた。

 一方で,われわれ臨床医が,そのEvidenceに振り回されているのも事実である。“○○の有用性が実証された”という情報のみがインプットされるからである。Evidenceはオールマイティーではない。有用性はどの程度なのか,少なくとも害を上回っているのか,目の前の患者さんにおいて有用なのか,判断したうえでないとそのEvidenceは利用できない。さらに厳しく言えば,そのEvidenceは真実ではないかもしれない。そういった評価,すなわち,批判的吟味(peer review)をする能力を身につけていなければEvidenceに翻弄されることになる。そういったこともあり,医局の抄読会(journal club)などで,peer reviewすることが多くなった。他人の論文には厳しいのである。

◆臨床研究のピットフォールに焦点

 ところで,われわれが行なっている臨床研究は果たしてどうだろうか。研究デザインの段階から“有用なEvidenceを”,と思って“臨床研究もどき”をはじめるが,いつのまにか統計的有意差の実証が目標となっていないだろうか。p<0.05で示される有意差を出すことを目標にExcellのデータを統計ソフトにかけていないだろうか。どんなデータでも20以上の項目を統計処理すれば,1つくらいは統計的有意差(p<0.05)がでる。その有意差をありがたく学会発表をし,論文にしていないだろうか。

 そういった臨床研究のピットフォールにフォーカスをあてた興味深い書が,このたび上梓された。著者は川村孝先生である。先生には,私が受講生となって参加した一昨年の第15回日本循環器病予防セミナーでの講演を聴講して以来,親しくしていただいている。川村先生は循環器内科医として一流のトレーニングを受けた後,保健センターで健診業務に従事する傍ら心臓生理の基礎研究をされ,さらにEBMのメッカであるMcMaster大学で臨床疫学,EBMを本格的に学ばれた。臨床医学,基礎医学,予防医学のすべてに通じるわが国でも数少ないdoctorである。本書はそういった先生の幅広い知識,経験に基づいて書かれており,大変に説得力がある。陥りやすいピットフォールが例をあげながら解説されているので,大変にわかりやすい。

 内容を紹介すると,まず,第1章は臨床研究デザインで,32のピットフォールがあげられている。臨床研究の成否はそのデザインにあると知りながら,われわれがおかす誤ちを的確に指摘している。思い当たることばかりである。

 第2章はデータ処理編である。ほとんどの臨床医は統計が最も苦手であるが,ここでは20のピットフォールがわかりやすく解説されている。例をあげると,“平均への回帰”を治療効果としたり,半定量のスコアを数量として解析したり,多数群の比較に各群間でt検定を繰り返したり,有意差が出るまで分類方法を何度も変えて検定したり,・・・。これまた身に覚えのあることばかりである。

 第3章では,昨年から大きく変わった臨床研究の倫理指針を含めて,その適用,手続きの仕方が具体的に示されており大変に参考になる。

 第4章は論文の書き方が紹介されている。論文の構成,執筆の手順,作文のポイントなど重要な22のピットフォールがあげられている。いずれも“なるほど”と思わされることばかりであるが,とくに最後のピットフォールは傑作である。ピットフォールIV―22論文を書くときになって急いで文献を読みだす。思い当たる方が多いのではないだろうか。日頃からトレーニングを兼ねて毎日1編レベルの高い論文に目を通すことがすすめられている。

 こういった日常トレーニングに加えて本書を繰り返し読むことが私自身のブラッシュアップに繋がると思った。そういった意味でも,Evidenceに関心があり,より高いレベルの医療,臨床研究を志す人に,必読の書として本書を薦める。

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