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「医療費抑制の時代」を超えて
イギリスの医療・福祉改革

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人手不足による過重労働を日々実感している医療者にとって,昨今の医療費抑制政策への不安は現実問題になりつつある。本書は厳しい医療費抑制政策により荒廃した英国の医療現場を生々しく伝え,ブレア政権以降の医療費拡大を前提とした「評価と説明責任」を核とする改革をモデルに,わが国の今後の医療・福祉像を鮮やかに提示する。
近藤 克則
発行 2004年05月判型:A5頁:336
ISBN 978-4-260-12720-2
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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  • 目次
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第1部 公的医療費抑制は医療現場の荒廃を招く
 -医療費拡大に転じたイギリスから学ぶ第三次医療革命
第2部 ブレアのNHS改革
第3部 イギリスの高齢者介護・福祉政策
第4部 イギリスのホスピス・緩和ケアプログラム
第5部 「評価と説明責任の時代」に向けて
第6部 介護政策における政策科学の試み
あとがき
索引

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日本の医療制度が検討すべき課題を具体的に記述
書評者: 矢島 鉄也 (厚労省社会・援護局障害保健福祉部精神保健福祉課長)
◆医療の最適化は容易ではない

 わが国の健康指標は世界最高水準にある。これは戦後のわが国の医療政策・国民皆保険体制の成果であるといってもよい。しかし,医療費は高齢化の進行,医療コストの上昇などから,近年,国民所得の伸びや経済成長率を大きく上回って急速に増加している。医療保険財政は深刻な状況に陥り,制度の持続可能性が大きく揺らいでいる。

 経済財政諮問会議が6月3日にまとめた「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004(骨太方針2004)」では4年続けて医療制度改革が取り上げられ,増大する高齢者医療費の伸びの適正化や,公的保険給付の範囲の見直しなどについて早期に検討・実施することが指摘されている。

 本書は,公的医療費を抑制した場合,どういう事態を招くかをイギリスの経験に基づき考え,それを手がかりにわが国の医療制度の実情を評価し,そして今後の医療の行方を考え,まとめたものである。イギリスの医療制度改革は,日本にとって大変参考になる。精神医療の分野でも学ぶべき点が多い。イギリスではNPM(New Public Management)と呼ばれる改革によって,民間企業のマネジメント手法と競争原理を積極的に導入している。

 拡大する医療費と経済のバランスをいかに保つかは,先進国共通の課題となっている。しかしながら,支払い者,患者,サービス提供者間の種々の利害が複雑に関連する医療の領域において,医療の最適化を行うことは容易ではない。特に経済的条件と医療サービスの内容との整合性を図りながら,また,絶えず革新途上にある医療技術を適正に評価しつつ,医療サービスの質と効率の向上を実現するためには,経済的側面と医療技術的側面の両方を検討するための指標(共通言語)が必要である。

◆日英にみる「医療の共通言語」

 日本では昨年から大学病院などでDPC(Diagnosis Procedure Combination)と呼ばれる診断群分類に基づく診療報酬の包括評価制度が導入された。これは本書が指摘するように日本の制度がNPMの流れを先取りしていることの一例と考えてもおかしくない。DPCという共通言語を用いることにより,医療情報の標準化,クリティカルパスなどを活用した病院間比較が可能となり,医療の最適化をめざすことが可能になったと言われている。

 イギリスも日本と同様,独自に診断群分類を開発している。イギリスではHRG(Health Resource Group)と呼ばれる診断群分類に基づく平均在院日数およびコストデータがNHS(National Health Service)によって毎年公表され,施設間の比較が行われ,この透明化された情報に基づいて各施設が自主的に診療行為の効率化を行うというベンチマーキング的なシステムが構築されている。米国のDRG(Diagnosis Related Group)が手術・処置を優先して(Procedure Dominant)事後的に作成される分類であるのに対し,日本のDPCは病名を優先して(Diagnosis Dominant)日常の臨床活動の中である程度の同時性をもって作成される分類である。日本の大学病院ではDPCが導入され平均在院日数は1年間で24.4日から19.3日まで約5日も減少した。医療にはまだ改善すべき点が多く残されており,提供される医療サービス内容を示したクリティカルパスなどを情報公開し,病院間比較を行い,どこに無駄があるのかを評価し,医療費の使い方やその成果を説明することなどの努力が進められている。

 医療費と経済のバランスに関する国民的議論と国民的理解を得るためには,医療情報の公開と評価と説明が必要で,DPCは有効な手法であると言われている。DPC導入から時間がないため本書では日本のDPCとイギリスのHRGに関する比較分析は行われていないが,今後に期待するところである。

 本書が指摘するように,日本では医療制度に関する実証的研究が遅れている。この分野の研究者が多くなり,国民やマスコミに公開できる情報が蓄積されることが必要である。DPCは病院間比較可能な標準的な情報を提供することになるので,実証的研究を行う専門家が増え,データが蓄積されることが期待できる。本書は,今後日本の医療制度が検討すべき課題について具体的に記述している。一読すれば役に立つ内容が多い。

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