アセスメントからはじまる高齢者ケア
生活支援のための6領域ガイド
ケアにつながるアセスメントをしよう
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「“なぜそのケアを行うのか”を意識したアセスメントができれば、高齢者1人ひとりにあわせた的確なケアを、自信をもって提供できる」という考え方を基本にまとめられた。アセスメントシートとその使い方・考え方について、高齢者ケアに携わる看護職に活用しやすく解説。6領域ごとに作られた詳細なアセスメントシートにより、対象者に関する丁寧な情報収集が行える。
著 | 六角 僚子 |
---|---|
発行 | 2008年11月判型:B5頁:248 |
ISBN | 978-4-260-00699-6 |
定価 | 2,860円 (本体2,600円+税) |
更新情報
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
開く
序
高齢者をどう視るかで,ケアが変わる
筆者は1年前まで看護学部で老年看護領域の教員をしていました.学生は,基礎看護,急性期看護,慢性期看護,終末期看護,地域看護,総合看護などのさまざまな実習に明け暮れている状態です.その中で筆者の担当する老年看護実習は,老人保健施設やグループホームで実習を進めていました.
その様子を見ていて気づいたことがあります.学生たちは,高齢者に温かいまなざしを向ける一方で,「高齢者特有の穏やかでゆったりと時間が流れる空間」に巻き込まれてしまい,高齢者のケアをしていくための視点が定まらないようなのです.具体的にいえば,ニコニコしながら一日中じっと椅子に座っている高齢者の姿が,学生にとってはまさしく,穏やかでゆったりと流れる時間そのものなのです.それゆえに高齢者の身体内部で起きている出来事が見えない状況に陥ります.下肢をむくませながら座っている高齢者に対し,“余暇時間の活用”と称して折り紙を持ってくる学生も少なくありません.
いくつもの合併症のある高齢者の体は,いつ急変を起こしても不思議ではありません.それを予測して,予防的なケアをしていくのが私たちケア提供者の役割だと考えます.
折り紙を持ってきた学生を連れて,再度受け持ち高齢者をいっしょに観察してみました.まず下肢の状態を観察し,靴を確認しました.さらに持ち合わせているいくつかの疾患を見直し,薬の作用・副作用を調べました.これまでの健康の自己管理方法,栄養状態,活動と休息のバランス,排泄状況などのアセスメントを進めていった結果,学生は次の日から,折り紙ではなくフットケアを毎日のケアに取り入れるようになりました.
つまり,高齢者への視点を明確に示すことで,ケアが変わっていくのです.これは学生に限らず,看護師やケア提供者も同様だと考えます.与えられたアセスメントツールでアセスメント項目を追い,疑問を持たずに生活課題を提示していくと,ケアは画一的になっていくでしょう.しかしそれでは予防的な高齢者ケアはできません.
その人に適したケアの実践は,まずアセスメントから始まります.アセスメントとは,その人を知るために観察という方法を用い,多様な視点で情報を収集し,対象者の全体像を把握し,さらに総合的な判断をもって課題やニーズを明らかにすることです.そして,それらに基づいたケアプランをチームスタッフが共通に理解し,専門的にケア実践すること,さらにはチームでケアの効果判定や見直しを定期的に行い,次のケアにつなげていくことです.この一連の過程が,高齢者のQOLの向上を目指すトータルケアであると考えられます.その際に重要なよりどころとなるのがアセスメントの視点です.
アセスメント項目としては,医学的診断,身体状況,服薬作用・副作用にとどまらず,生活行動の状態(ADL,IADL),その人の生活習慣や生活歴,生活環境,家族,社会的背景,価値観など,生活の全体像を明らかにするような項目があげられます.たとえば,「その人がどのような人なのか」「何を考え,何を望んでいるのか」「どんな暮らしをしてきて,人との営みをどのように展開してきたのか」「現在の身体状況はどうか」「現在の生活はどうか」「現在の生活をよりよくするための課題は何か」など,いろいろな項目があります.それゆえに,なおさら正確で慎重なアセスメントが要請されるのです.そして項目に沿った情報が,その人にとってどのような意味を持つのか,ケアにどのように活かせるのかを考えていくことが大切です.
適切な支援をするためには,高齢者に対する正確なアセスメントが求められるのです.
6領域のアセスメントからケアプラン作成・実践へ
1.日常生活でも行っているアセスメント
アセスメントは,日本では「評価」「査定」といった意味で使われています.日常生活では耳慣れない言葉ですから,ケア提供者は「アセスメント」という言葉を難しくとらえてしまう傾向にあるようです.
実は,アセスメントからケアプラン作成・実践という過程は,日常生活でも常に行われています.たとえば「今日の服は何にしよう?」と洋服ダンスをチェックする,つまり「情報収集」です.季節に合わない服はその時点で収集から外されています.これからの行動に必要な情報と必要ではない情報をふるい分けているのです.それが「情報のふるい分け」です.ケア現場では,アセスメント項目に情報を記載することが「情報のふるい分け」に相当します.ただし,活用しているアセスメントシートによって項目立てが違っています.
次に「そういえばこの服は似合うっていわれたっけ」「今日は気温が下がるらしい!」などと考えます.これが「情報の解釈」です.最後に,「外出にふさわしい洋服」という目的と,「情報収集」と「情報の解釈」から出てきた内容をすり合わせ,「寒さにも耐えられ,人と会うのに見栄えがよく,私に似合うといわれた洋服」という結論を導き出すのです.このプロセスが,まさしくアセスメントからケアプラン作成・実践といえます.
日常生活上のアセスメントとケア現場のアセスメントで違うのは,記録といえるでしょう.ケア現場では,ケアに必要な項目に情報を記載し,さらに情報の解釈内容を記載し,思考過程をまとめ,課題抽出をしていきます.そしてケアプラン作成を行い,ケア実施に至るわけです.
2.アセスメントの6領域
高齢者ケアは暮らし重視であり,障害を持っていたとしてもこれまでの暮らしが継続されることが大切です.私たちは,これまでの暮らしが継続できるように,高齢者と家族に対してチームケアの機能を十全に果たすことが求められています.
具体的には,施設・在宅での暮らしをアセスメントし,暮らしに沿ったプランニングを行います.他職種とケアカンファレンスを行い,共通理解を図っていきます.こうした一連の流れのスタートは,まずアセスメントにあります.つまり普通の暮らしを支えるためのケアプランと,その実践を本当に実のあるものにしていくのがアセスメントということです.
また,よく「このツールは使えない」という話を聞きますが,使えないのはツールではなく,使っているその人自身なのかもしれません.ツールはあくまでも道具です.人間は道具(ツール)を使いこなす能力を持っています.うまく使いこなす考え方と技を身につけましょう.
高齢者への優しいまなざしをより精確にするために,ここでは6領域の視点を提示していきたいと思います.提示するアセスメント項目は膨大です.すべての項目を埋めるためにツールを使うわけではありません.焦らず視点を正しく定めて情報を収集し,ケアに活かすことを考えましょう.
表(本サイトでは省略)にアセスメントの6領域の視点と本書で対応している章を示しました.「健康領域」は健やかに過ごすことを支えるための視点,「安全領域」は安全に過ごすことを支えるための視点,「自立支援領域」は今ある力を発揮することを支えるための視点,「安心領域」は安心で快い時間を確保することを支えるための視点,「個別性領域」はその人らしさ・暮らしの継続を支えるための視点,「支援体制領域」はお互いに支え合うための視点です.
それぞれの領域ごとにアセスメントシートを提案しています.
3.統合シートとフローシート
本書では,アセスメント領域として,「健康」「安全」「自立支援」「安心」「個別性」「支援体制」の6つをあげ,視点を明確にしていきます.この6つのアセスメント領域で,「問題」「伸ばしたい箇所」をアセスメント項目に沿って抽出し,その抽出した項目を統合シートに移していきます.文字として書き移すことにより,全体像がさらに明確になります.そしてそれぞれの領域の関連性を眺めながら,全人的かつ実践可能なプランを導き出します.
また,フローシートを使い,ケアプランの観察項目などのチェックを行い,本人の変化を観察していきます.評価(モニタリング)やケアの見直しにも同時に役立ちます.
1~6章までは,各領域のアセスメント項目と,それぞれのケアのあり方を考えていきます.どの領域においても,アセスメントを活用してケアが展開されます.
7章では,どのようにして各領域のアセスメント結果を統合し,ケアプランを導くかを解説し,さらにモニタリングを経てケアの見直しについても述べます.ここでは,アセスメント結果を活かしながらその人らしい個別性のあるプラス志向のプランをつくるため,その人の力に適した目標が設定されるよう留意します.
8章では,高齢者のケアを考えるうえで非常に重要かつ喫緊の課題でもあるターミナルケアについて考えます.ターミナルケアのあり方については,高齢者のみならず社会全体から大きな変革を求められているといえます.高齢者が自己決定に基づいて人生最後の舞台をどのように演じるかといったことなどを解釈していきたいと思います.
2008年10月
六角僚子
高齢者をどう視るかで,ケアが変わる
筆者は1年前まで看護学部で老年看護領域の教員をしていました.学生は,基礎看護,急性期看護,慢性期看護,終末期看護,地域看護,総合看護などのさまざまな実習に明け暮れている状態です.その中で筆者の担当する老年看護実習は,老人保健施設やグループホームで実習を進めていました.
その様子を見ていて気づいたことがあります.学生たちは,高齢者に温かいまなざしを向ける一方で,「高齢者特有の穏やかでゆったりと時間が流れる空間」に巻き込まれてしまい,高齢者のケアをしていくための視点が定まらないようなのです.具体的にいえば,ニコニコしながら一日中じっと椅子に座っている高齢者の姿が,学生にとってはまさしく,穏やかでゆったりと流れる時間そのものなのです.それゆえに高齢者の身体内部で起きている出来事が見えない状況に陥ります.下肢をむくませながら座っている高齢者に対し,“余暇時間の活用”と称して折り紙を持ってくる学生も少なくありません.
いくつもの合併症のある高齢者の体は,いつ急変を起こしても不思議ではありません.それを予測して,予防的なケアをしていくのが私たちケア提供者の役割だと考えます.
折り紙を持ってきた学生を連れて,再度受け持ち高齢者をいっしょに観察してみました.まず下肢の状態を観察し,靴を確認しました.さらに持ち合わせているいくつかの疾患を見直し,薬の作用・副作用を調べました.これまでの健康の自己管理方法,栄養状態,活動と休息のバランス,排泄状況などのアセスメントを進めていった結果,学生は次の日から,折り紙ではなくフットケアを毎日のケアに取り入れるようになりました.
つまり,高齢者への視点を明確に示すことで,ケアが変わっていくのです.これは学生に限らず,看護師やケア提供者も同様だと考えます.与えられたアセスメントツールでアセスメント項目を追い,疑問を持たずに生活課題を提示していくと,ケアは画一的になっていくでしょう.しかしそれでは予防的な高齢者ケアはできません.
その人に適したケアの実践は,まずアセスメントから始まります.アセスメントとは,その人を知るために観察という方法を用い,多様な視点で情報を収集し,対象者の全体像を把握し,さらに総合的な判断をもって課題やニーズを明らかにすることです.そして,それらに基づいたケアプランをチームスタッフが共通に理解し,専門的にケア実践すること,さらにはチームでケアの効果判定や見直しを定期的に行い,次のケアにつなげていくことです.この一連の過程が,高齢者のQOLの向上を目指すトータルケアであると考えられます.その際に重要なよりどころとなるのがアセスメントの視点です.
アセスメント項目としては,医学的診断,身体状況,服薬作用・副作用にとどまらず,生活行動の状態(ADL,IADL),その人の生活習慣や生活歴,生活環境,家族,社会的背景,価値観など,生活の全体像を明らかにするような項目があげられます.たとえば,「その人がどのような人なのか」「何を考え,何を望んでいるのか」「どんな暮らしをしてきて,人との営みをどのように展開してきたのか」「現在の身体状況はどうか」「現在の生活はどうか」「現在の生活をよりよくするための課題は何か」など,いろいろな項目があります.それゆえに,なおさら正確で慎重なアセスメントが要請されるのです.そして項目に沿った情報が,その人にとってどのような意味を持つのか,ケアにどのように活かせるのかを考えていくことが大切です.
適切な支援をするためには,高齢者に対する正確なアセスメントが求められるのです.
6領域のアセスメントからケアプラン作成・実践へ
1.日常生活でも行っているアセスメント
アセスメントは,日本では「評価」「査定」といった意味で使われています.日常生活では耳慣れない言葉ですから,ケア提供者は「アセスメント」という言葉を難しくとらえてしまう傾向にあるようです.
実は,アセスメントからケアプラン作成・実践という過程は,日常生活でも常に行われています.たとえば「今日の服は何にしよう?」と洋服ダンスをチェックする,つまり「情報収集」です.季節に合わない服はその時点で収集から外されています.これからの行動に必要な情報と必要ではない情報をふるい分けているのです.それが「情報のふるい分け」です.ケア現場では,アセスメント項目に情報を記載することが「情報のふるい分け」に相当します.ただし,活用しているアセスメントシートによって項目立てが違っています.
次に「そういえばこの服は似合うっていわれたっけ」「今日は気温が下がるらしい!」などと考えます.これが「情報の解釈」です.最後に,「外出にふさわしい洋服」という目的と,「情報収集」と「情報の解釈」から出てきた内容をすり合わせ,「寒さにも耐えられ,人と会うのに見栄えがよく,私に似合うといわれた洋服」という結論を導き出すのです.このプロセスが,まさしくアセスメントからケアプラン作成・実践といえます.
日常生活上のアセスメントとケア現場のアセスメントで違うのは,記録といえるでしょう.ケア現場では,ケアに必要な項目に情報を記載し,さらに情報の解釈内容を記載し,思考過程をまとめ,課題抽出をしていきます.そしてケアプラン作成を行い,ケア実施に至るわけです.
2.アセスメントの6領域
高齢者ケアは暮らし重視であり,障害を持っていたとしてもこれまでの暮らしが継続されることが大切です.私たちは,これまでの暮らしが継続できるように,高齢者と家族に対してチームケアの機能を十全に果たすことが求められています.
具体的には,施設・在宅での暮らしをアセスメントし,暮らしに沿ったプランニングを行います.他職種とケアカンファレンスを行い,共通理解を図っていきます.こうした一連の流れのスタートは,まずアセスメントにあります.つまり普通の暮らしを支えるためのケアプランと,その実践を本当に実のあるものにしていくのがアセスメントということです.
また,よく「このツールは使えない」という話を聞きますが,使えないのはツールではなく,使っているその人自身なのかもしれません.ツールはあくまでも道具です.人間は道具(ツール)を使いこなす能力を持っています.うまく使いこなす考え方と技を身につけましょう.
高齢者への優しいまなざしをより精確にするために,ここでは6領域の視点を提示していきたいと思います.提示するアセスメント項目は膨大です.すべての項目を埋めるためにツールを使うわけではありません.焦らず視点を正しく定めて情報を収集し,ケアに活かすことを考えましょう.
表(本サイトでは省略)にアセスメントの6領域の視点と本書で対応している章を示しました.「健康領域」は健やかに過ごすことを支えるための視点,「安全領域」は安全に過ごすことを支えるための視点,「自立支援領域」は今ある力を発揮することを支えるための視点,「安心領域」は安心で快い時間を確保することを支えるための視点,「個別性領域」はその人らしさ・暮らしの継続を支えるための視点,「支援体制領域」はお互いに支え合うための視点です.
それぞれの領域ごとにアセスメントシートを提案しています.
3.統合シートとフローシート
本書では,アセスメント領域として,「健康」「安全」「自立支援」「安心」「個別性」「支援体制」の6つをあげ,視点を明確にしていきます.この6つのアセスメント領域で,「問題」「伸ばしたい箇所」をアセスメント項目に沿って抽出し,その抽出した項目を統合シートに移していきます.文字として書き移すことにより,全体像がさらに明確になります.そしてそれぞれの領域の関連性を眺めながら,全人的かつ実践可能なプランを導き出します.
また,フローシートを使い,ケアプランの観察項目などのチェックを行い,本人の変化を観察していきます.評価(モニタリング)やケアの見直しにも同時に役立ちます.
1~6章までは,各領域のアセスメント項目と,それぞれのケアのあり方を考えていきます.どの領域においても,アセスメントを活用してケアが展開されます.
7章では,どのようにして各領域のアセスメント結果を統合し,ケアプランを導くかを解説し,さらにモニタリングを経てケアの見直しについても述べます.ここでは,アセスメント結果を活かしながらその人らしい個別性のあるプラス志向のプランをつくるため,その人の力に適した目標が設定されるよう留意します.
8章では,高齢者のケアを考えるうえで非常に重要かつ喫緊の課題でもあるターミナルケアについて考えます.ターミナルケアのあり方については,高齢者のみならず社会全体から大きな変革を求められているといえます.高齢者が自己決定に基づいて人生最後の舞台をどのように演じるかといったことなどを解釈していきたいと思います.
2008年10月
六角僚子
目次
開く
第1章 健康領域のアセスメントとケア
I.健やかさを視る
II.健やかさを支える
第2章 安全領域のアセスメントとケア
I.安全に過ごせるかを視る
II.安全を守る
第3章 自立支援領域のアセスメントとケア
I.自立を視る
II.自立を支える
第4章 安心領域のアセスメントとケア
I.安心を視る
II.安心への援助
第5章 個別性領域のアセスメントとケア
I.個別性を視る
II.その人らしさを支える
第6章 支援体制領域のアセスメントとケア
I.支援体制への視点
II.支援体制への援助
III.社会資源を活用する
第7章 アセスメントの統合
I.各領域のアセスメントシートから統合シートへ
II.ケアカンファレンス
III.記録とは?
IV.報告とは?
V.ケアプラン作成
第8章 ターミナルケア
索引
I.健やかさを視る
II.健やかさを支える
第2章 安全領域のアセスメントとケア
I.安全に過ごせるかを視る
II.安全を守る
第3章 自立支援領域のアセスメントとケア
I.自立を視る
II.自立を支える
第4章 安心領域のアセスメントとケア
I.安心を視る
II.安心への援助
第5章 個別性領域のアセスメントとケア
I.個別性を視る
II.その人らしさを支える
第6章 支援体制領域のアセスメントとケア
I.支援体制への視点
II.支援体制への援助
III.社会資源を活用する
第7章 アセスメントの統合
I.各領域のアセスメントシートから統合シートへ
II.ケアカンファレンス
III.記録とは?
IV.報告とは?
V.ケアプラン作成
第8章 ターミナルケア
索引
書評
開く
著者自身が積み重ねたケア歴が導く実践チームケアの好著 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 加藤 基子 (前 国際医療福祉大学大学院・教授)
本書は,先に出版されている『高齢者ケアの考え方と技術』および『認知症ケアの考え方と技術』に続く本である。加齢と疾病(認知症含む)によって,暮らしていくことに手助けが必要になった高齢者に対し,優しいまなざしとその必要度に添って具体的な手の差し出し方を示してくれていたのが前書であるとすれば,本書は高齢者に必要なケアを進めていく過程を具体的に示し,著者の高齢者ケアの考え方と技術がケアチーム実践に結びつけられるように意図されている。本書の特徴は前2冊で示されていた考え方と技術を6領域に焦点化し,6領域をアセスメントシート,統合シート,ケアプラン作成の基本軸にして展開していることにある。著者は「高齢者ケアは暮らし重視であり,障害をもっていたとしてもこれまでの暮らしが継続できるように,高齢者と家族に対してチームケアの機能を十分に果たすことが求められています」(序から)と述べ,そのケアのために選択された6領域は,健康領域,安全領域,自立支援領域,安心領域,個別性領域,支援体制領域である。高齢者ケアの場は在宅,施設,病院と多種多様で,福祉と医療ニーズは重なりながら高齢者の暮らしの中にある。6領域は看護と介護の共通言語として,お互いの強みを生かし柔軟な発想でケアを創造していくことに貢献すると考える。
ケアは意図的な課題達成のための一連の実践活動である。そのためにアセスメントが重要であると著者は述べ,本書では情報項目とする理由と内容,アセスメントの根拠について前書2冊の内容も盛り込み丁寧に記述している。是非,この6領域で展開されているアセスメントシートを使って,チームで気になっているケースを取り上げ,事例検討に取り組むことをおすすめしたい。どこにあっても,高齢者の望む暮らしが継続できるよう柔軟で適切なケアプランを導くだろう。
さらに,ケアプランに基づくフロチャートとモニタリングシートが紹介され,最終章は高齢者のターミナルケアである。これらには適切な事例が豊富に紹介されており理解を深めてくれる。
10年以上前だが,著者が看護師として働いている千葉の病院(療養病床)へアクティビティケアの実際を見学するために赴いたことがある。そのケアの狙い,チームで取り組むためのスタッフ教育等の説明が論理的で,ケア中の高齢者に対する細やかな態度・物腰が強く印象に残っている。また,現在は大学教員を経て認知症ケア研究所,デイサービスセンターお多福を立ち上げ,ケア方法の開発と普及に携わっている。このような積み重ねを通して文章化しているため非常にわかりやすい。記述されている情景が目に浮かぶようである。高齢者にふさわしいケアをチームで進めていく道具として使いやすく役に立つ本である。
(『看護教育』2009年5月号掲載)
高齢者へのケアを変える,アセスメントの6領域を説く
書評者: 唐澤 千登勢 (日看協看護研修学校専任教員・認知症高齢者看護学)
「高齢者に対するケアをどのようにして合理的に実施するか?」という課題は,看護にかかわるすべてのスタッフにとって基本的かつ重要な課題である。とくに教育に携わり,これから実社会での看護スキルを学ぼうとしている学生たちに対し,より少ない困難で方法論を教える立場の教育者にとって,臨床実践の視点に立ったガイド教育の類は非常に少ないのが現状である。
本書の著者はまず,極めて重要な問題提起を行っている。それは,「学生たちは,高齢者に温かいまなざしを向ける一方で,“高齢者特有の穏やかでゆったりと時間が流れる空間”に巻き込まれてしまい,高齢者のケアをしていくための視点が定まらないよう」だとの指摘である。そして「高齢者への視点を明確に示すことで,ケアが変わっていく」,その視点を明確に設定し,その人に適したケアを実践するスタートとして,まずアセスメントが必要であるとの結論を明示している。その結論の明示が,その後に展開される「アセスメント各論」の内容を,読者により理解しやすいものにしている。
アセスメント各論において,著者はアセスメントの6領域(健康領域,安全領域,自立支援領域,安心領域,個別性領域,支援体制領域)の各々について,アセスメントシートを活用しつつ実践的な視点を解説している。アセスメントの上記6領域は,高齢者介護研究会報告書「2015年の高齢者介護」で掲げられた5つの考え方に準拠したものである。著者はその豊富な看護実践および教育・研究に基づき,6領域のより有効な活用方法を提言している。すなわち,各領域のアセスメント結果を統合することにより,より全人的な課題抽出とケア実践が可能となる。“各領域のアセスメントシートから統合シートへ”のプロセスを通じて,ケアプラン作成・実践の具体的な重要ポイントを深く認識し,習得することができるであろう。
実際のケア場面で,収集した情報をどのように整理・統合して適切に解釈し,高齢者に対する効果的なケアプランが作成・実践されていくべきなのか? そのプロセスを本書に示されたガイドラインに従い,生き生きとした形で身につけていくことができるであろう。
さらに高齢者の“ターミナルケア”という,これからの社会が抱える重要かつ結論が困難な問題についても果敢に言及している。「高齢者が自己決定に基づいて人生最期の舞台をどのように演じるのか」についての解釈は,人生経験に乏しい学生たちにとって困難であろうことは容易に推測できる。しかしながら,医療看護に携わる職業人にとって避けられない問題であることも真実である。学生たちが本書での学習・研鑽を通じて,ターミナルケアについての自分なりの考え方をつかんでくれることを望みたい。
書評者: 加藤 基子 (前 国際医療福祉大学大学院・教授)
本書は,先に出版されている『高齢者ケアの考え方と技術』および『認知症ケアの考え方と技術』に続く本である。加齢と疾病(認知症含む)によって,暮らしていくことに手助けが必要になった高齢者に対し,優しいまなざしとその必要度に添って具体的な手の差し出し方を示してくれていたのが前書であるとすれば,本書は高齢者に必要なケアを進めていく過程を具体的に示し,著者の高齢者ケアの考え方と技術がケアチーム実践に結びつけられるように意図されている。本書の特徴は前2冊で示されていた考え方と技術を6領域に焦点化し,6領域をアセスメントシート,統合シート,ケアプラン作成の基本軸にして展開していることにある。著者は「高齢者ケアは暮らし重視であり,障害をもっていたとしてもこれまでの暮らしが継続できるように,高齢者と家族に対してチームケアの機能を十分に果たすことが求められています」(序から)と述べ,そのケアのために選択された6領域は,健康領域,安全領域,自立支援領域,安心領域,個別性領域,支援体制領域である。高齢者ケアの場は在宅,施設,病院と多種多様で,福祉と医療ニーズは重なりながら高齢者の暮らしの中にある。6領域は看護と介護の共通言語として,お互いの強みを生かし柔軟な発想でケアを創造していくことに貢献すると考える。
ケアは意図的な課題達成のための一連の実践活動である。そのためにアセスメントが重要であると著者は述べ,本書では情報項目とする理由と内容,アセスメントの根拠について前書2冊の内容も盛り込み丁寧に記述している。是非,この6領域で展開されているアセスメントシートを使って,チームで気になっているケースを取り上げ,事例検討に取り組むことをおすすめしたい。どこにあっても,高齢者の望む暮らしが継続できるよう柔軟で適切なケアプランを導くだろう。
さらに,ケアプランに基づくフロチャートとモニタリングシートが紹介され,最終章は高齢者のターミナルケアである。これらには適切な事例が豊富に紹介されており理解を深めてくれる。
10年以上前だが,著者が看護師として働いている千葉の病院(療養病床)へアクティビティケアの実際を見学するために赴いたことがある。そのケアの狙い,チームで取り組むためのスタッフ教育等の説明が論理的で,ケア中の高齢者に対する細やかな態度・物腰が強く印象に残っている。また,現在は大学教員を経て認知症ケア研究所,デイサービスセンターお多福を立ち上げ,ケア方法の開発と普及に携わっている。このような積み重ねを通して文章化しているため非常にわかりやすい。記述されている情景が目に浮かぶようである。高齢者にふさわしいケアをチームで進めていく道具として使いやすく役に立つ本である。
(『看護教育』2009年5月号掲載)
高齢者へのケアを変える,アセスメントの6領域を説く
書評者: 唐澤 千登勢 (日看協看護研修学校専任教員・認知症高齢者看護学)
「高齢者に対するケアをどのようにして合理的に実施するか?」という課題は,看護にかかわるすべてのスタッフにとって基本的かつ重要な課題である。とくに教育に携わり,これから実社会での看護スキルを学ぼうとしている学生たちに対し,より少ない困難で方法論を教える立場の教育者にとって,臨床実践の視点に立ったガイド教育の類は非常に少ないのが現状である。
本書の著者はまず,極めて重要な問題提起を行っている。それは,「学生たちは,高齢者に温かいまなざしを向ける一方で,“高齢者特有の穏やかでゆったりと時間が流れる空間”に巻き込まれてしまい,高齢者のケアをしていくための視点が定まらないよう」だとの指摘である。そして「高齢者への視点を明確に示すことで,ケアが変わっていく」,その視点を明確に設定し,その人に適したケアを実践するスタートとして,まずアセスメントが必要であるとの結論を明示している。その結論の明示が,その後に展開される「アセスメント各論」の内容を,読者により理解しやすいものにしている。
アセスメント各論において,著者はアセスメントの6領域(健康領域,安全領域,自立支援領域,安心領域,個別性領域,支援体制領域)の各々について,アセスメントシートを活用しつつ実践的な視点を解説している。アセスメントの上記6領域は,高齢者介護研究会報告書「2015年の高齢者介護」で掲げられた5つの考え方に準拠したものである。著者はその豊富な看護実践および教育・研究に基づき,6領域のより有効な活用方法を提言している。すなわち,各領域のアセスメント結果を統合することにより,より全人的な課題抽出とケア実践が可能となる。“各領域のアセスメントシートから統合シートへ”のプロセスを通じて,ケアプラン作成・実践の具体的な重要ポイントを深く認識し,習得することができるであろう。
実際のケア場面で,収集した情報をどのように整理・統合して適切に解釈し,高齢者に対する効果的なケアプランが作成・実践されていくべきなのか? そのプロセスを本書に示されたガイドラインに従い,生き生きとした形で身につけていくことができるであろう。
さらに高齢者の“ターミナルケア”という,これからの社会が抱える重要かつ結論が困難な問題についても果敢に言及している。「高齢者が自己決定に基づいて人生最期の舞台をどのように演じるのか」についての解釈は,人生経験に乏しい学生たちにとって困難であろうことは容易に推測できる。しかしながら,医療看護に携わる職業人にとって避けられない問題であることも真実である。学生たちが本書での学習・研鑽を通じて,ターミナルケアについての自分なりの考え方をつかんでくれることを望みたい。