医者が心をひらくとき(下)
A Piece of My Mind
世界中の読者の心をゆさぶる感動の名エッセイ集の下巻
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忘れ得ぬ患者たち。多くの医師が、患者を癒すことは実は自らの心を癒すことだと思い知らされる。JAMA(米国医師会誌)の名物エッセイ「A Piece of My Mind」の傑作選が日本語で登場。その下巻では、医療とは、患者から学び続ける不断の過程に他ならないことが描かれる。患者から学ぼうとしない医師に医師の資格はない。
編 | ロクサーヌ K. ヤング |
---|---|
訳 | 李 啓充 |
発行 | 2002年09月判型:四六頁:330 |
ISBN | 978-4-260-13900-7 |
定価 | 2,200円 (本体2,000円+税) |
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【思い出をありがとう】
金曜の午後 ジョン・T・リン三世 医師
リーキのスープ ジェームズ・F・ガードナー三世 医師
クレタの歴史 セルタ・ハリソン・コームズ 医師
往診 ロナルド・F・ギャロウェイ 医師
もう一つの言語 マルシア・ゴルドフト 医師
私のヒーローたち ニーナ・K・レジェビク 医師
回復 ロバート・H・ローキー 医師
キャプテン ジーグフリード・J・クラ 医師
死ぬほど生きたくて エリック・G・アンダーソン 医師
障害者ブルース ディーン・シリンジャー 医師
リビア ジョエル・ラザー 医師
ジョシュアは知っていた リアナ・ロクサーヌ・クラーク 医師
神さま,癌にしてくれてありがとう デイビッド・M・マムフォード 医師
告知 L・スチュワート・マサド 医師
放浪の詩人 スティーブ・シュロツマン 医師
秋の色 フレッド・レオナード 医師
クリスティーナ ペギー・ハンセン 医師
小さな絵 バリー・ゲルマン 医師
胡椒まで バーナディン・Z・ポールショック 医師
心の痛み ジョーゼフ・K・イゼス 医師
数字で ナンシー・L・グリーンゴールド 医師
ラフロイグ ジョン・T・リン三世 医師
バーブー マーク・S・スミス 医師
監獄ブルース ジョーゼフ・E・パリス 医師
最後の死の歌 スティーブン・F・ゴードン 医師
粉ふき男 ロナルド・A・カッツ 医師
自分が癌と知らなかった男 アドリア・バロウズ 医師
純粋に美容的な処置 アラン・ロックオフ 医師
賛美歌 デイビッド・N・リトル 医師
月曜の朝のエイズ・クリニック アビゲイル・ズーガー 医師
舞踏症 ロナルド・H・ランズ 医師
詩情夜話 ウォルター・シュミット 准看護師
消灯ラッパ ローリー・L・ブラウン 医師
【患者の視点】
神よ平和を ナオミ・G・スミス
長い待機 ジャニス・F・ラリコス 医師
30年後 ノーマ・C・ワーク
お母さんをどうしよう? エバリン・モーガン・クィゼンベリー 美術学士
私に触って メグ・ベアリース
死者への敬意 ダイアン・G・スミス
細い緑色の線 スコット・ワターズ
彼が目を上げた ナンシー・キーン
窓 フランク・D・キャンピオン
私は信じている キャシー・スワックハマー
相互投資会社 シェリル・モレイ=ヤング
私の病室に入るとき スティーブン・A・シュミット 教育学博士
耳 ローリー・ウマンスキー・オーネク
鏡の国の患者 ヘスター・ヒル・シュニッパー 医療ソーシャルワーカー
ベネチアン・ブラインド リー・リトビナス
私の後についてきてください ルイス・M・プロフェタ
遠い昔の今日 ジョーゼフ・J・ガロ 医師
技量も知恵もいたりませんが,勇気と真情で ニナ・ハーマン
視点の変換 ダニエル・シャピロ 博士
訳者あとがき
金曜の午後 ジョン・T・リン三世 医師
リーキのスープ ジェームズ・F・ガードナー三世 医師
クレタの歴史 セルタ・ハリソン・コームズ 医師
往診 ロナルド・F・ギャロウェイ 医師
もう一つの言語 マルシア・ゴルドフト 医師
私のヒーローたち ニーナ・K・レジェビク 医師
回復 ロバート・H・ローキー 医師
キャプテン ジーグフリード・J・クラ 医師
死ぬほど生きたくて エリック・G・アンダーソン 医師
障害者ブルース ディーン・シリンジャー 医師
リビア ジョエル・ラザー 医師
ジョシュアは知っていた リアナ・ロクサーヌ・クラーク 医師
神さま,癌にしてくれてありがとう デイビッド・M・マムフォード 医師
告知 L・スチュワート・マサド 医師
放浪の詩人 スティーブ・シュロツマン 医師
秋の色 フレッド・レオナード 医師
クリスティーナ ペギー・ハンセン 医師
小さな絵 バリー・ゲルマン 医師
胡椒まで バーナディン・Z・ポールショック 医師
心の痛み ジョーゼフ・K・イゼス 医師
数字で ナンシー・L・グリーンゴールド 医師
ラフロイグ ジョン・T・リン三世 医師
バーブー マーク・S・スミス 医師
監獄ブルース ジョーゼフ・E・パリス 医師
最後の死の歌 スティーブン・F・ゴードン 医師
粉ふき男 ロナルド・A・カッツ 医師
自分が癌と知らなかった男 アドリア・バロウズ 医師
純粋に美容的な処置 アラン・ロックオフ 医師
賛美歌 デイビッド・N・リトル 医師
月曜の朝のエイズ・クリニック アビゲイル・ズーガー 医師
舞踏症 ロナルド・H・ランズ 医師
詩情夜話 ウォルター・シュミット 准看護師
消灯ラッパ ローリー・L・ブラウン 医師
【患者の視点】
神よ平和を ナオミ・G・スミス
長い待機 ジャニス・F・ラリコス 医師
30年後 ノーマ・C・ワーク
お母さんをどうしよう? エバリン・モーガン・クィゼンベリー 美術学士
私に触って メグ・ベアリース
死者への敬意 ダイアン・G・スミス
細い緑色の線 スコット・ワターズ
彼が目を上げた ナンシー・キーン
窓 フランク・D・キャンピオン
私は信じている キャシー・スワックハマー
相互投資会社 シェリル・モレイ=ヤング
私の病室に入るとき スティーブン・A・シュミット 教育学博士
耳 ローリー・ウマンスキー・オーネク
鏡の国の患者 ヘスター・ヒル・シュニッパー 医療ソーシャルワーカー
ベネチアン・ブラインド リー・リトビナス
私の後についてきてください ルイス・M・プロフェタ
遠い昔の今日 ジョーゼフ・J・ガロ 医師
技量も知恵もいたりませんが,勇気と真情で ニナ・ハーマン
視点の変換 ダニエル・シャピロ 博士
訳者あとがき
書評
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日本に失われた「人間の医学」を取り戻せ
書評者: 日野原重明 (聖路加国際病院理事長)
◆世界中で読まれる「JAMA」の傑作エッセイ集
世界で一番発行部数の多い医学雑誌といえば,アメリカ医師会誌「JAMA」であろう。これには最新の臨床医学の論文と医療情報が載せられ,その主要論文の抄録が添えられた日本版もある。この雑誌には1980年以来,「A Piece of Mind」というタイトルのコラムが掲載されて今日にいたっている。これは「give a person a piece of mind(人に本心を打ち明ける)」という慣用句からとられた言葉であると,この本の訳者の李啓充博士は註釈している。
日本の指導的医師の多くは,このJAMAに必ず目を通しているが,1980年以来,毎号掲載されているこの冒頭の小文を果たして何人の日本人医師が目を通しているかは疑問である。アメリカでは過去に,このコラムの文章が単行本にまとめられて,第1選集(絶版),第2選集として原文で出版されたが,今回,1980年に京大医学部を卒業し,日本での10年の臨床経験の後,マサチューセッツ総合病院で,ハーバード大学医学部助教授として骨代謝研究を続けてこられた李先生が,これをどうしても日本の指導的医師や良心的開業医に広く読んでほしいとの意欲から,多忙な研究生活の中にもかかわらず時間をかけてこれを翻訳され,医学書院から出版された。
◆なぜ医師になったのか――自らの経験を綴った医師たちの思い
本書は,JAMAの編集責任者の一人で,生命科学の専門家であるロクサーヌ K. ヤング氏が20年間に掲載された文章の中から100を選び,傑作選としてアメリカ医師会出版局が出版したものの翻訳である。JAMAに20年間に投稿された総数は,8000にもおよび,その中の800が「JAMA」に採用され,さらにその中の100が本選集に収載されたということである。
この作品のほとんどは医師により書かれたものであるが,少数のものは医学生,看護師,医業に関心をもつ医療者以外の弁護士や基礎科学者または患者自身により書かれたものである。
忙しい医師が自分の若き日にたどってきた体験を,このようにあからさまに分析した心理状態を編者は分析して,「これは筆者のカタルシスになるものではないか」と指摘している。また,この文を書くことにより抑えている問題―罪悪感や,恐怖や挫折感―と直面し,心の中での折り合いをつけることについての助けとなる作品とも評している。中には,医療が現在の形に変わってしまったことについてのやるせない思いを分析しつつ執筆したと思われるものがあるという。
この中の出来事には,救急外来での患者の死亡のほか,入院患者の死に関する物語も多い。そこでは担当医の立場として患者の「物語」を聞くことから,自分の人生を生きる上での重要な教訓が与えられたと告白される文もある。これを書いた医師は,自分たちはなぜ医師という職業についたかという理由を再確認したという心境ではないかと,編者はその心理を分析しているが,これは編者が生命科学の専門家であることからの発言としても読み取れるのである。
◆翻訳した李啓充氏の思い
この訳書(上・下)の上巻(四六版,314頁)には,まず「医者になること/医者であること」と題された章に28の文章が載せられ,それに次ぐ「家族」には11の文章が,最後の「暴力―医の対極にあるもの」には9の文章が選ばれている。下巻(四六版,330頁)の中の「思い出をありがとう」の章には33の文章が,次いで「患者の視点」には19の文章が載せられている。
下巻の最後におかれた訳者の「あとがき」では,この本の内容紹介と,なぜ李博士が翻訳して日本の読者に紹介したいのかの真意が書かれている。アメリカでは,週刊誌である「JAMA」を受け取ったアメリカ人医師の多くが,まず最初に,この短いコラムを読むという。医師をはじめ,その他の医療従事者や患者などから寄稿された過去800のそれらの作品群から,厳選された100選が本エッセイ集であり,李博士は,「日本のJAMAの読者だけでなく,日本の広い医師層や医学生,その他の医療に関係する1人でも多くの方々に読んでほしい」という思いで,この労作を手がけられたものと思う。
本著を読まれる方は,上・下巻という順序でなく,まずこの下巻の訳者の「あとがき」から読み始めてもらうのが一番よいと思う。李博士には1998年に『市場原理に揺れるアメリカの医療』(医学書院)という著作があり,変わっていくアメリカ医療の実態をわかりやすく日本の医師に伝え,日本はアメリカから何を学ぶべきか,輸入に何を警戒すべきかを日本の読者に考えさせるよい出版をされている。
このエッセイはアメリカの医師の心のケース・スタディとして受け取り,日本の医学生と卒後の専門医学の知識と技術に心を奪われている医師層に,また医学教育に関心のある大学や大病院の指導者たちにぜひ読んでもらい,日本の医学に失われた「人間の医学」を取り戻してほしいと思う。
「3つのi」を備えたトテモ稀有な本
書評者: 向井 万起男 (慶大助教授・病理診断部)
JAMA(米国医師会誌)に医師たちが自らの経験を綴ったエッセイの傑作選というだけで,何となく心がときめいてくる。さらに,訳者が,2冊の本(『市場原理に揺れるアメリカの医療』,『アメリカ医療の光と影』)で日本の医学界に強烈なインパクトを与えた李啓充となれば,読まずにはいられなくなってくる。そして,実際に読み始めると,途中でやめられなくなってくる。私は,この本(上下巻)を2日間で一気に読み終えた。
◆読む価値のある本の条件
この本を読み終えた私は,言わずにはいられなくなってきた。普段から私が考えていること。で,この本の内容に触れる前に,そのことを言わせていただきたい。
最近,本を読む人が少なくなったと喧伝されている。実際,本がホントに売れなくなっているらしい。こうした傾向の原因として,読む側の知的好奇心の低下,テレビのような受動的媒体とだけ触れる生活習慣などを指摘する人がいる。しかし,私はそうは思わない。読む側に問題が全くないとは言わないが,もっと問題にすべき点は本の側にあると私は思う。テレビにも負けない内容が盛り込まれた,読む価値のある本が少なすぎるのだ。
では,読む価値のある本の条件とは何か。そんなの簡単だ。「3つのi」に集約されてしまうから。informative(貴重な情報を与えてくれる),interesting(メチャクチャ面白い),inspiring(激しく感動させてくれる)。本というのは,この「3つのi」のうち少なくとも1つは備えていなければいけない。もし備えていなければ,売り出す意味もない。2つ備えていれば,結構イケル本。読み終わった後,「あぁ読んでよかった」と思える。3つ全部揃っていれば最高で,誰にでも薦められる。最近,iを2つ備えている本や3つ備えている本が少なすぎるのだ。特に,3つ備えている本が。
さて,もうお気づきだろうが,この本は「3つのi」を備えた,最近ではトテモ稀有な本なのだ。こう言ってしまうと,もう内容についてオマエなんかにイチイチ説明して貰わなくてもイイと思われるかもしれない。まさにその通りなのだが,まるっきり説明しないで書評を終えるわけにもいかないので,チョットだけ説明させてほしい。
◆この本を読んでわかる感動の事実
この本には,米国の大勢の医師が医療を通じて経験したさまざまな苦悩,挫折,悲哀,涙,夢,喜びが語られている。どれもが,エッセイを書く機会を得て初めて公表したに違いないと思わせる内容だ。当然,医師たちが実際に遭遇した患者さんが大勢登場してくる(実に多くの,さまざまな病気の,そしてさまざまな年代の患者さんが登場してくる)。で,語られている苦悩,挫折,悲哀,涙,夢,喜びは,語っている医師自身だけのものというわけではなく,患者さんのものでもある。いや,医師と患者さんが共有したものと言ったほうがイイのかもしれない。
エッセイを書いているのは主に医師だが,看護師が書いているものもあるし,さらに,患者さんが書いているものもある。どのエッセイ1つをとっても,「3つのi」のうち少なくとも1つが含まれている。もちろん,2つ含んでいるもの,3つ含んでいるものもある。
しかし,この本の本当に凄いところは,ここから先にある。医師や看護師といった医療関係者が読んでも,患者さんが読んでも,つまり誰が読んでも,読み終えた後に或る事実に気づくのだ。それは,それ自身だけで「3つのi」を含んだ事実だ。貴重な情報であり,メチャクチャ面白いことであり,激しく感動させられる事実。それは,「米国の医師も患者さんも,私たちと同じじゃないか。ずっと前から私たちの心の中にありながら,私たちが気づかずにいたことを書いてくれている」という事実。
「医師」という職業の意味を発見する100の物語
書評者: 鈴木 荘一 (日本プライマリ・ケア学会副会長/鈴木内科医院長)
本書の意義については,ノースウェスタン大学医学部「倫理と人間性の価値についてのプログラム」キャスリン・モントゴメリ博士が序文に的確に述べておられる。その序文の内容をほんの要点だけを以下に紹介してみたい。
●本書は,JAMA(アメリカ医師会誌)のコラム『A Piece of My Mind』から編まれた主に医師,時に患者らによって書かれた100篇のエッセイ集である。
●本書は,医学生臨床教育の話で始まり,おそらくベテランの教育者である医師が,絶望的な病気で自分が若い医師の患者となる話で終わる。
●著者たちは世界に挑戦したり病気を征服しようという「白衣の戦士」ではない。患者とその家族をケアしながら,常にさまざまな考えや思いを抱える人々であり,恐怖や嫌悪感を克服しながら,自分たちの職業の意味を発見する。
●長い1日の終わりに,ほっとするような体験話も読むことができる。
●そして何よりも,経験豊富な医師たちが身につけた知恵について語られるだけでなく,そのような知恵を身につけることがどれだけ困難で苦痛を伴うものであるか,いかにして死と対峙し,どのようにして医師としての感情を制御するのか,生き残るためにはどうすべきか,そして,医の一生にはどのような報償が待っているのかという,これまでに語られることのなかったカリキュラムが明らかにされている。
◆精神風土の違いを越え感動を呼びさます
したがってこの本は,医師を主とした医療人の体験した患者との心の物語である。米国という多民族国家の中で,医師らの心の内が告白され,それが,異なる精神風土の中で活動している私たちにも感動を呼びさますのは,翻訳された李啓充氏が,「あとがき」に述べているように,どなたも「人間の顔」を向いて,かなり文学的に書かれているからだと思う。まさに「心のケーススタディ100例」であり,それぞれの「物語」を通じて医療とは何かを考える機会となる。
永年にわたり「人間の医学」そして究極の医学として「プライマリ・ケア」を主張してきた,同じ医療に携わる者として私は,この書を大いにお勧めしたい。医学生,研修医のみならず,多くの臨床医,そして看護師ら医療人にもぜひお読みいただきたい。李啓充氏は,豊富な語学力を駆使して翻訳され,これら物語の中の特殊用語の解説も加えている。
書評者: 日野原重明 (聖路加国際病院理事長)
◆世界中で読まれる「JAMA」の傑作エッセイ集
世界で一番発行部数の多い医学雑誌といえば,アメリカ医師会誌「JAMA」であろう。これには最新の臨床医学の論文と医療情報が載せられ,その主要論文の抄録が添えられた日本版もある。この雑誌には1980年以来,「A Piece of Mind」というタイトルのコラムが掲載されて今日にいたっている。これは「give a person a piece of mind(人に本心を打ち明ける)」という慣用句からとられた言葉であると,この本の訳者の李啓充博士は註釈している。
日本の指導的医師の多くは,このJAMAに必ず目を通しているが,1980年以来,毎号掲載されているこの冒頭の小文を果たして何人の日本人医師が目を通しているかは疑問である。アメリカでは過去に,このコラムの文章が単行本にまとめられて,第1選集(絶版),第2選集として原文で出版されたが,今回,1980年に京大医学部を卒業し,日本での10年の臨床経験の後,マサチューセッツ総合病院で,ハーバード大学医学部助教授として骨代謝研究を続けてこられた李先生が,これをどうしても日本の指導的医師や良心的開業医に広く読んでほしいとの意欲から,多忙な研究生活の中にもかかわらず時間をかけてこれを翻訳され,医学書院から出版された。
◆なぜ医師になったのか――自らの経験を綴った医師たちの思い
本書は,JAMAの編集責任者の一人で,生命科学の専門家であるロクサーヌ K. ヤング氏が20年間に掲載された文章の中から100を選び,傑作選としてアメリカ医師会出版局が出版したものの翻訳である。JAMAに20年間に投稿された総数は,8000にもおよび,その中の800が「JAMA」に採用され,さらにその中の100が本選集に収載されたということである。
この作品のほとんどは医師により書かれたものであるが,少数のものは医学生,看護師,医業に関心をもつ医療者以外の弁護士や基礎科学者または患者自身により書かれたものである。
忙しい医師が自分の若き日にたどってきた体験を,このようにあからさまに分析した心理状態を編者は分析して,「これは筆者のカタルシスになるものではないか」と指摘している。また,この文を書くことにより抑えている問題―罪悪感や,恐怖や挫折感―と直面し,心の中での折り合いをつけることについての助けとなる作品とも評している。中には,医療が現在の形に変わってしまったことについてのやるせない思いを分析しつつ執筆したと思われるものがあるという。
この中の出来事には,救急外来での患者の死亡のほか,入院患者の死に関する物語も多い。そこでは担当医の立場として患者の「物語」を聞くことから,自分の人生を生きる上での重要な教訓が与えられたと告白される文もある。これを書いた医師は,自分たちはなぜ医師という職業についたかという理由を再確認したという心境ではないかと,編者はその心理を分析しているが,これは編者が生命科学の専門家であることからの発言としても読み取れるのである。
◆翻訳した李啓充氏の思い
この訳書(上・下)の上巻(四六版,314頁)には,まず「医者になること/医者であること」と題された章に28の文章が載せられ,それに次ぐ「家族」には11の文章が,最後の「暴力―医の対極にあるもの」には9の文章が選ばれている。下巻(四六版,330頁)の中の「思い出をありがとう」の章には33の文章が,次いで「患者の視点」には19の文章が載せられている。
下巻の最後におかれた訳者の「あとがき」では,この本の内容紹介と,なぜ李博士が翻訳して日本の読者に紹介したいのかの真意が書かれている。アメリカでは,週刊誌である「JAMA」を受け取ったアメリカ人医師の多くが,まず最初に,この短いコラムを読むという。医師をはじめ,その他の医療従事者や患者などから寄稿された過去800のそれらの作品群から,厳選された100選が本エッセイ集であり,李博士は,「日本のJAMAの読者だけでなく,日本の広い医師層や医学生,その他の医療に関係する1人でも多くの方々に読んでほしい」という思いで,この労作を手がけられたものと思う。
本著を読まれる方は,上・下巻という順序でなく,まずこの下巻の訳者の「あとがき」から読み始めてもらうのが一番よいと思う。李博士には1998年に『市場原理に揺れるアメリカの医療』(医学書院)という著作があり,変わっていくアメリカ医療の実態をわかりやすく日本の医師に伝え,日本はアメリカから何を学ぶべきか,輸入に何を警戒すべきかを日本の読者に考えさせるよい出版をされている。
このエッセイはアメリカの医師の心のケース・スタディとして受け取り,日本の医学生と卒後の専門医学の知識と技術に心を奪われている医師層に,また医学教育に関心のある大学や大病院の指導者たちにぜひ読んでもらい,日本の医学に失われた「人間の医学」を取り戻してほしいと思う。
「3つのi」を備えたトテモ稀有な本
書評者: 向井 万起男 (慶大助教授・病理診断部)
JAMA(米国医師会誌)に医師たちが自らの経験を綴ったエッセイの傑作選というだけで,何となく心がときめいてくる。さらに,訳者が,2冊の本(『市場原理に揺れるアメリカの医療』,『アメリカ医療の光と影』)で日本の医学界に強烈なインパクトを与えた李啓充となれば,読まずにはいられなくなってくる。そして,実際に読み始めると,途中でやめられなくなってくる。私は,この本(上下巻)を2日間で一気に読み終えた。
◆読む価値のある本の条件
この本を読み終えた私は,言わずにはいられなくなってきた。普段から私が考えていること。で,この本の内容に触れる前に,そのことを言わせていただきたい。
最近,本を読む人が少なくなったと喧伝されている。実際,本がホントに売れなくなっているらしい。こうした傾向の原因として,読む側の知的好奇心の低下,テレビのような受動的媒体とだけ触れる生活習慣などを指摘する人がいる。しかし,私はそうは思わない。読む側に問題が全くないとは言わないが,もっと問題にすべき点は本の側にあると私は思う。テレビにも負けない内容が盛り込まれた,読む価値のある本が少なすぎるのだ。
では,読む価値のある本の条件とは何か。そんなの簡単だ。「3つのi」に集約されてしまうから。informative(貴重な情報を与えてくれる),interesting(メチャクチャ面白い),inspiring(激しく感動させてくれる)。本というのは,この「3つのi」のうち少なくとも1つは備えていなければいけない。もし備えていなければ,売り出す意味もない。2つ備えていれば,結構イケル本。読み終わった後,「あぁ読んでよかった」と思える。3つ全部揃っていれば最高で,誰にでも薦められる。最近,iを2つ備えている本や3つ備えている本が少なすぎるのだ。特に,3つ備えている本が。
さて,もうお気づきだろうが,この本は「3つのi」を備えた,最近ではトテモ稀有な本なのだ。こう言ってしまうと,もう内容についてオマエなんかにイチイチ説明して貰わなくてもイイと思われるかもしれない。まさにその通りなのだが,まるっきり説明しないで書評を終えるわけにもいかないので,チョットだけ説明させてほしい。
◆この本を読んでわかる感動の事実
この本には,米国の大勢の医師が医療を通じて経験したさまざまな苦悩,挫折,悲哀,涙,夢,喜びが語られている。どれもが,エッセイを書く機会を得て初めて公表したに違いないと思わせる内容だ。当然,医師たちが実際に遭遇した患者さんが大勢登場してくる(実に多くの,さまざまな病気の,そしてさまざまな年代の患者さんが登場してくる)。で,語られている苦悩,挫折,悲哀,涙,夢,喜びは,語っている医師自身だけのものというわけではなく,患者さんのものでもある。いや,医師と患者さんが共有したものと言ったほうがイイのかもしれない。
エッセイを書いているのは主に医師だが,看護師が書いているものもあるし,さらに,患者さんが書いているものもある。どのエッセイ1つをとっても,「3つのi」のうち少なくとも1つが含まれている。もちろん,2つ含んでいるもの,3つ含んでいるものもある。
しかし,この本の本当に凄いところは,ここから先にある。医師や看護師といった医療関係者が読んでも,患者さんが読んでも,つまり誰が読んでも,読み終えた後に或る事実に気づくのだ。それは,それ自身だけで「3つのi」を含んだ事実だ。貴重な情報であり,メチャクチャ面白いことであり,激しく感動させられる事実。それは,「米国の医師も患者さんも,私たちと同じじゃないか。ずっと前から私たちの心の中にありながら,私たちが気づかずにいたことを書いてくれている」という事実。
「医師」という職業の意味を発見する100の物語
書評者: 鈴木 荘一 (日本プライマリ・ケア学会副会長/鈴木内科医院長)
本書の意義については,ノースウェスタン大学医学部「倫理と人間性の価値についてのプログラム」キャスリン・モントゴメリ博士が序文に的確に述べておられる。その序文の内容をほんの要点だけを以下に紹介してみたい。
●本書は,JAMA(アメリカ医師会誌)のコラム『A Piece of My Mind』から編まれた主に医師,時に患者らによって書かれた100篇のエッセイ集である。
●本書は,医学生臨床教育の話で始まり,おそらくベテランの教育者である医師が,絶望的な病気で自分が若い医師の患者となる話で終わる。
●著者たちは世界に挑戦したり病気を征服しようという「白衣の戦士」ではない。患者とその家族をケアしながら,常にさまざまな考えや思いを抱える人々であり,恐怖や嫌悪感を克服しながら,自分たちの職業の意味を発見する。
●長い1日の終わりに,ほっとするような体験話も読むことができる。
●そして何よりも,経験豊富な医師たちが身につけた知恵について語られるだけでなく,そのような知恵を身につけることがどれだけ困難で苦痛を伴うものであるか,いかにして死と対峙し,どのようにして医師としての感情を制御するのか,生き残るためにはどうすべきか,そして,医の一生にはどのような報償が待っているのかという,これまでに語られることのなかったカリキュラムが明らかにされている。
◆精神風土の違いを越え感動を呼びさます
したがってこの本は,医師を主とした医療人の体験した患者との心の物語である。米国という多民族国家の中で,医師らの心の内が告白され,それが,異なる精神風土の中で活動している私たちにも感動を呼びさますのは,翻訳された李啓充氏が,「あとがき」に述べているように,どなたも「人間の顔」を向いて,かなり文学的に書かれているからだと思う。まさに「心のケーススタディ100例」であり,それぞれの「物語」を通じて医療とは何かを考える機会となる。
永年にわたり「人間の医学」そして究極の医学として「プライマリ・ケア」を主張してきた,同じ医療に携わる者として私は,この書を大いにお勧めしたい。医学生,研修医のみならず,多くの臨床医,そして看護師ら医療人にもぜひお読みいただきたい。李啓充氏は,豊富な語学力を駆使して翻訳され,これら物語の中の特殊用語の解説も加えている。
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