精神科看護管理の実際

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精神科特有の看護管理について基本概念から始まり、患者の安全・安楽や物品管理、医療経済、人材確保などあらゆる側面を解説し、災害時での対応にまで触れている。さらに、米国の精神科看護の現状や日本の精神科看護の展望についても述べており、この1冊で精神科看護管理を網羅している。精神科看護で管理職の立場にいる看護師の方々に読んでいただきたい書。
編著 川野 雅資
発行 2007年04月判型:B5頁:168
ISBN 978-4-260-00315-5
定価 2,530円 (本体2,300円+税)
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執筆者/川野雅資(編者)



 精神科看護管理のめざすところは患者の安全,安心,自立であり,さらに患者が病の体験に意味を見出せるよう精神科医療・看護の状況を整えることにある。時代が変わっても,この理念に変わりはない。しかし一方で,精神科医療・看護に対する患者や家族,地域の期待も変わり,社会の要請も変わってきている。さらに自立支援法施行など法律も変わった。これらの変化が精神科看護の現場にさまざまな影響を及ぼし,看護の内容も変わらざるをえなくなっている。そういう意味では,精神科看護管理は大きな変革の時期にある。

 本書は,この変革の時代に精神科看護管理に携わる実践者の参考になるように,また,管理学を学ぶ学生にとっても役に立つように実践的な内容を中心に展開した。そのために,臨床の管理者に執筆協力をいただき,具体的に内容を紹介している。看護管理者は,臨床・教育・研究・管理の4つの役割を担っている。その4つの役割のバランスをどのように保持するか,それは管理者の力による。本書はそのような主任・師長・看護部長など管理者にとって,さらに管理者教育の参考書として活用できるように企画した。

 本書は企画から完成までに6年の歳月を要し,その間に残念ながら編者や一部の著者が交代した。精神科という特徴的な領域の看護管理についてまとめるにあたり,執筆は難航した。最新の内容にふさわしいものにするために,一度書き上げた原稿を加筆修正する必要が生じたのも,さらに時間を要した理由のひとつになった。

 第I部では精神科における看護管理として理論的な内容を中心に記述した。

 第II部では,まず精神科看護管理の中核となる患者の安全・安楽・自立について触れ,看護システムや看護記録,ケアの質の評価など,どこの病院でも生じている課題を中心に述べた。

 第III部では医療・看護チームのスタッフの協働や教育について記述し,人材確保についても触れた。

 第IV部では日米の精神科看護の現状と今後の方向性について論考した。

 このような最新で,具体的で,豊富な内容を備えた本書はこれまでに類を見ない。本書が,日本の精神科看護の発展にわずかでも寄与できれば願ってもないことである。

 最後になったが,長期にわたって原稿の整理を粘り強くそして堅実に行った医学書院看護出版部3課の藤居尚子氏の努力なくして本書は完成しなかった。この場を借りて心より深謝する。

 2007年3月

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I 精神科における看護管理
 1. 精神科看護管理の目的と対象
 2. 精神科看護管理のプロセスと手法
 3. 精神科看護管理者に求められる能力
 4. 精神保健福祉法と看護管理
 5. 地域精神保健福祉活動における看護管理
II 精神科での看護管理の実際
 1. 患者の安全
 2. 患者の安楽
 3. 患者の自立
 4. 看護システム
 5. 看護過程と看護記録
 6. ケアの質の評価
 7. インフォームドコンセント
 8. 司法精神看護
 9. 大規模災害と精神科看護管理
III 医療・看護チームのスタッフ
 1. 医療チームの協働
 2. 看護職の能力開発と教育
 3. 精神科看護職員の人材確保
 4. 経済性と看護管理
 5. 物品管理と精神科看護
IV 精神科看護管理の今後の方向性
 1. 米国の精神科看護
 2. 日本の精神科看護
索引

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精神科看護のあり方,方向性を示す
書評者: 小川 明子 (国立精神・神経センター国府台病院・看護部長)
 2004年9月に「精神保健医療福祉の改革ビジョン」が取りまとめられ,「入院医療中心から地域生活中心へ」という精神保健医療福祉の基本方針が呈示されています。2006年には障害者自立支援法が施行され,精神科医療を取り巻く環境は目まぐるしい変化の時期にあります。その中で本書が6年の歳月をかけ,精神科看護管理の実践を最新の内容で出版されたことに編者の熱意を感じると共に敬意を表します。

 本書の特徴は,各項目が看護管理を具体的な事例をもとに詳細に述べられているため,わかりやすく親しみやすい形になっていることです。看護管理は精神科だから特別なのかと問われる方もいるかもしれませんが,本書の構成は見事にその疑問に回答をしてくれます。第I部で精神科看護管理の理論を,第II部で実践を通して患者の安全・安楽・自立についてどの病院でも共通する課題を中心に述べられており,第III部では医療・看護チームのスタッフの協働や教育について,そして第IV部では日米の精神科看護の現状と方向性について述べられています。

 どの項にも,精神科看護管理のエキスパートである執筆者らの精神科看護に対する情熱が感じ取られ,取り組みから成果までを記述した事例は,「私もやってみよう」と思わせる管理の過程がわかる内容となっています。

 本書のもう1つの特徴は,今後の精神科看護のあり方についても述べ,看護の方向性を示している点です。今後,精神科医療は早期に集中的なケアを行い,短期間で状態を改善し,早期退院・社会参加を促進することによって在院日数を短縮するという精神科救急と療養型病床の二極化が進み,地域での精神科医療・看護にシフトしていくと思われます。本書はその中での専門的なスタッフ教育や離職防止を具体的に述べています。また,地域を担う看護師や地域生活を考えられる看護師,他の職種と協働して治療・看護を担える看護師の育成も必要となってきます。医療チームのあり方,看護としての多職種との連携も具体的に述べられています。本書は,今後のあり方を含め,これからの精神科看護管理を啓蒙していく1冊であると思われます。

 最後に,第II部「精神科病院における接遇教育」において,10年間の接遇教育の取り組みの過程と成果が述べられている内容の一部を紹介し,この評を閉じたいと思います。

 「院内の接遇委員会での取り組みだけでなく,看護部管理者が毎朝スタッフの出勤を通用口で迎え,笑顔で挨拶を行うことを続けてきた。この活動は,スタッフに管理者自らが襟を正すことを感じてもらうため,1日を笑顔のポジティブストロークを受けとることで始めてもらうこと,そして今日も1日看護に励んでもらうことへの感謝の挨拶として始めたものである」と筆者は記しています。どんな困難に遭遇しても職員のモチベーションを下げないために,どのような取り組みをしたらよいのか試行錯誤していた評者にとっての示唆となりました。

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