内視鏡所見のよみ方と鑑別診断
下部消化管
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第1章 内視鏡検査のために必要な局所解剖,正常内視鏡像
第2章 内視鏡検査の位置づけと診断手順
第3章 腫瘍性疾患の内視鏡所見のよみ方と鑑別診断
第4章 炎症性疾患の内視鏡所見のよみ方と鑑別診断
第2章 内視鏡検査の位置づけと診断手順
第3章 腫瘍性疾患の内視鏡所見のよみ方と鑑別診断
第4章 炎症性疾患の内視鏡所見のよみ方と鑑別診断
書評
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座右に備えれば,大腸内視鏡検査・診断に自信が持てる
書評者: 棟方 昭博 (弘前大教授・内科学)
◆「大腸疾患研究会」30数年にわたる見事な症例検討の集積
敬愛する多田正大博士らにより,このたび『内視鏡所見のよみ方と鑑別診断―下部消化管』が上梓された。多田博士は大腸診断学,特に大腸内視鏡診断での日本の第一人者であり,大腸ファイバースコープの黎明期から挿入法,色素内視鏡,スコープの改良などや,また最近では“コロナビ”の普及など大腸内視鏡の発展に大きく貢献してきた。多田博士は,超一流の内視鏡医であると同時に,玄人並みの写真家でもあり,その目の肥えたフィルターを通した見事な写真から本書が構成されている。
本書には,大阪の「大腸疾患研究会」で,30年近くの間に140回に及ぶ検討と集積により,選び抜かれた質の高い多数の症例から構築された内視鏡のよみ方と鑑別診断が示されている。
消化管疾患の形態診断には地道な症例の積み重ねから,詳細な分析,考察の下に論理を導入し,体系化することが重要である。そのためにも,内視鏡のみならずX線検査との協調の必要性を述べている著者の考えは,王道を歩む者の考えである。従来の診断学書では各疾患での所見が述べられているが,本書でのユニークな点は,まず「所見」を認識し,その所見を呈する疾患群の鑑別診断について述べており,臨床の場で内視鏡を実際に施行している大腸内視鏡医にとっては,手元に置くことにより鑑別診断の大きな助けとなる実用的な書である。初学者からベテランまで第一線で活躍する内視鏡医が,この書で学ぶことにより大腸内視鏡検査・診断に自信を持てるようになるであろう。
◆コロノスコピストにとって必携の書
本書は4章から構成されており,第1章では正常を知る意味から内視鏡の局所解剖,正常内視鏡像を解説している。第3,4章の圧倒されるような内視鏡写真群の前に,第2章では内視鏡検査の位置づけと診断手順が述べられており,本書の目的である鑑別診断にいたる前の重要なアクセントである。特に内視鏡検査とX線検査の優劣を述べており,内視鏡診断をより容易に理解するうえでの両検査法の短所・長所が強調されている。読者に対する著者の心配りが感じられる。第3章の腫瘍性疾患では形態から主分類し,そのうえで表面性状などから亜分類していることにより診断が絞り込まれ,最終診断するうえでの鑑別診断のポイントと,鑑別すべき疾患などが記されている。第4章では,炎症性腸疾患が述べられている。腸管の炎症性疾患は数多く,長年大腸疾患診断に携わってきたコロノスコピストでも経験していないまれな症例まで提示されている。病因からの分類,病変範囲や潰瘍・びらんの形態などの所見からの鑑別診断について整理された説明のうえで,各疾患の炎症パターンの特徴を簡潔・明瞭に記されており,本書を熟読することにより大腸内視鏡検査がさらに身近になると思われる。
本書は,コロノスコピストにとって必携の書であり,座右に備えることをお勧めする。
消化管の画像診断を向上させるための必読書
書評者: 飯田 三雄 (九大大学院教授・病態機能内科学)
多田正大,大川清孝,三戸岡英樹,清水誠治の4氏によって執筆された『内視鏡所見のよみ方と鑑別診断―下部消化管』が,このたび出版された。1年前に出版され,破格の売れ行きを示していると言う『内視鏡所見のよみ方と鑑別診断―上部消化管』の姉妹書である。本書も,以下のような理由から上部消化管編以上に好評を博することは間違いないと考える。
◆厳選された症例で語る下部消化管疾患のすべて
内視鏡,X線にかかわらず消化管の画像診断学を向上させるには,検討に耐え得る資料がそろった症例をできるだけ多数経験することに尽きる。その際,著者の序文にも書かれているように,1人の医者が自分で経験できる症例数は限られているので,他人の症例を見聞きすることが大切である。このような目的から全国各地で消化器関連の研究会が多数開催されており,著者らが常連の大阪の大腸疾患研究会や,東京の早期胃癌研究会もその1つである。これらの研究会では,1例1例についてX線,内視鏡,病理所見の対比が徹底的に討論され,診断力の向上に大いに役立っている。本書の執筆代表者,多田正大博士は,早期胃癌研究会の機関誌である雑誌『胃と腸』の編集委員長を長年務められた消化管診断学の権威者である。そのため,本書にも『胃と腸』誌の基本的な編集方針を随所に垣間みることができる。すなわち,呈示された内視鏡写真はいずれも美麗かつシャープであり,また適宜挿入されているX線や病理などの内視鏡以外の画像もすべて良質なものが厳選されており,画像をみているだけでも楽しくなる。
本書は4章から構成されており,最初の2章で内視鏡検査に必要な局所解剖や,正常内視鏡像などの基本的事項が述べられており,比較的経験の浅い内視鏡医にも理解しやすい内容となっている。そして,後半の2章では,腫瘍性および炎症性疾患別に,病変の種類,分類,鑑別診断のポイントが解説され,最後に内視鏡所見別に実際の症例が呈示されている。
◆認定医試験にも配慮された内容
この症例呈示は,全体の約2/3にあたる頁数が割かれており,本書の最重要部分と言える。1例が見開き2頁にわたって記載されており,左頁に2枚の内視鏡写真(大部分は電子内視鏡写真)とその所見の解説,右頁に診断名とともに,病理肉眼・組織所見や超音波内視鏡・X線所見など診断の根拠となる画像が示されている。しかもポピュラーな疾患から比較的稀な疾患まで多種類にわたる疾患が呈示されており,かなり経験を積んだ内視鏡医にとっても役立つ内容となっている。また,これから消化器内視鏡学会の認定医試験を受験予定の医師にとっても,左頁の内視鏡写真だけをみて,所見や診断の成否を試すことができるように配慮されている。
本書では,原則として2頁で4症例が呈示され,右頁の端に疾患の解説がコンパクトに箇条書きで記載されている。比較的ポピュラーな疾患であればいろいろの内視鏡所見を呈し,何度も登場する。例えば,潰瘍性大腸炎をみると,発赤,アフタ様病変,全周性潰瘍・びまん,縦走潰瘍,不整形潰瘍,敷石像,炎症性ポリープ,血管透見の消失ないし低下など15項目の所見について15例が呈示されているが,疾患の解説は重複がないように配慮されている。また,左頁の内視鏡写真とともに,腫瘍性疾患については病変の存在部位と大きさ,炎症性疾患については年齢,性,主訴が記載されており,内視鏡写真の読影を自身で試してみる際の参考となるように工夫されている。
このように,本書は,初心者からベテランに至るまでのすべての消化器内視鏡医にとって,大変参考になる必読の書である。カラー写真で埋めつくされているわりには価格も手頃であり,ぜひ購読されることをお勧めしたい。
名著中の名著と言える大腸疾患診断書
書評者: 武藤 徹一郎 (癌研究会附属病院長)
大腸疾患に関する内視鏡の成書はすでに数多く出版されており,それぞれに個性と特色に満ちた名著が多い。しかし,本書はその中でも飛び切りの個性と内容に富んだ,名著中の名著と言って過言ではない。それは28年間,140回に及ぶ大阪の「大腸疾患研究会」の例会を通して,選び抜かれた症例の経験が本書に集約されているからに他ならない。まだ大腸疾患に注意が払われていなかった1973年に,この研究会を立ち上げて以来,弛むことなく症例の検討と集積を継続してこられた,執筆者代表の多田正大博士をはじめとする同志の方々の努力と炯眼に,心より敬意を表したい。
◆群をぬく症例の量と質の凄さ
本書は4章から構成されているが,第3章「腫瘍性疾患の内視鏡所見のよみ方と鑑別診断」,第4章の「炎症性疾患の内視鏡所見のよみ方と鑑別診断」の2章が全体の90%を占めている。各章の前半10%はそれぞれ内視鏡診断に必要な腫瘍性疾患と炎症性疾患に関する基礎的事項が要約されているが,これが実に簡潔にして必要十分な情報を含んでいて,他に類を見ないほどである。偽茎(pseudopedicle)を有茎として提示されている報告例が決して少なくない中で,本書では,きちんとその鑑別の要点が記されており感心させられた。しかし,本書の圧巻は,何と言っても鑑別診断に提示されている症例の量と質の凄さであろう。見開き2頁の左側に基本スタイルとして4症例,各症例2枚のカラー写真が呈示されている。
腫瘍性疾患の章では,「分葉のある病変」とか「陥凹を主体とする病変」のごとく,マクロ的な形態的特徴のあるものばかりが選ばれており,その中に必ず1例の癌が含まれている。2枚の写真ではしっかりと違う情報が提供されており,その横に必要にして十分な臨床データならびに内視鏡所見が箇条書きにまとめられている。右頁には各症例の確定診断,必要に応じて組織像,拡大観察像,エコー像などが提示され,病変に関する解説,鑑別診断のポイントまでが,箇条書きで簡潔にまとめられている。少なく見積もっても150症例300枚の見事なカラー写真が掲載されており,読者は一頁一頁の4症例を比較することによって,早期癌との鑑別診断を学ぶことができるようになっている。
炎症性疾患についても腫瘍性疾患と構成は同様であり,「発赤」,「アフタ様病変」,「縦走潰瘍」などの所見別に,さまざまな炎症性疾患の内視鏡所見が提示されている。アフタ様病変や縦走潰瘍が多彩な形態を呈するばかりでなく,さまざまな疾患が同名の所見を呈しうるという事実を,これほど見事に成書に顕した本は例をみない。病原性大腸菌O―157腸炎,クラミジア直腸炎などのめずらしい例も提示されており,150症例300枚以上のカラー写真を一頁一頁,各症例ごとに鑑別診断を考えていけば,自然に炎症性腸疾患の知識を増すことが可能である。百聞は一見に如かず,ぜひ手に取って写真を眺めることを勧めたい。
このようにマクロ的な内視鏡所見に基づいた症例の鑑別診断は,正に内視鏡医が日々直面していることである。症例提示による具体的な鑑別診断書が多田博士らによって,ここに完成されたことは喜びにたえず,どれだけ多くの医師ならびに患者さんが恩恵を受けるか計り知れないであろう。
◆「感動した!」,世界に発信できる名著
著者が内視鏡検査も診断のための1つの手段であり,X線との協調がなければ確定診断までに無駄な回り道をたどると述べているのは,まことに正論である。「本書を通して大腸診断学の精神を看破してほしい」という著者のメッセージに内視鏡への熱い情熱を感じるのは,筆者だけではあるまい。本書を通覧して「感動した!」というのが,筆者の第一印象であった。本書は経験者と未経験者とを問わず,すべての内視鏡医に推薦したい名著である。最後に,これだけの内容のものはぜひとも英文出版され,臨床的に有用な貴重な経験を世界に発信されることを期待したい。
書評者: 棟方 昭博 (弘前大教授・内科学)
◆「大腸疾患研究会」30数年にわたる見事な症例検討の集積
敬愛する多田正大博士らにより,このたび『内視鏡所見のよみ方と鑑別診断―下部消化管』が上梓された。多田博士は大腸診断学,特に大腸内視鏡診断での日本の第一人者であり,大腸ファイバースコープの黎明期から挿入法,色素内視鏡,スコープの改良などや,また最近では“コロナビ”の普及など大腸内視鏡の発展に大きく貢献してきた。多田博士は,超一流の内視鏡医であると同時に,玄人並みの写真家でもあり,その目の肥えたフィルターを通した見事な写真から本書が構成されている。
本書には,大阪の「大腸疾患研究会」で,30年近くの間に140回に及ぶ検討と集積により,選び抜かれた質の高い多数の症例から構築された内視鏡のよみ方と鑑別診断が示されている。
消化管疾患の形態診断には地道な症例の積み重ねから,詳細な分析,考察の下に論理を導入し,体系化することが重要である。そのためにも,内視鏡のみならずX線検査との協調の必要性を述べている著者の考えは,王道を歩む者の考えである。従来の診断学書では各疾患での所見が述べられているが,本書でのユニークな点は,まず「所見」を認識し,その所見を呈する疾患群の鑑別診断について述べており,臨床の場で内視鏡を実際に施行している大腸内視鏡医にとっては,手元に置くことにより鑑別診断の大きな助けとなる実用的な書である。初学者からベテランまで第一線で活躍する内視鏡医が,この書で学ぶことにより大腸内視鏡検査・診断に自信を持てるようになるであろう。
◆コロノスコピストにとって必携の書
本書は4章から構成されており,第1章では正常を知る意味から内視鏡の局所解剖,正常内視鏡像を解説している。第3,4章の圧倒されるような内視鏡写真群の前に,第2章では内視鏡検査の位置づけと診断手順が述べられており,本書の目的である鑑別診断にいたる前の重要なアクセントである。特に内視鏡検査とX線検査の優劣を述べており,内視鏡診断をより容易に理解するうえでの両検査法の短所・長所が強調されている。読者に対する著者の心配りが感じられる。第3章の腫瘍性疾患では形態から主分類し,そのうえで表面性状などから亜分類していることにより診断が絞り込まれ,最終診断するうえでの鑑別診断のポイントと,鑑別すべき疾患などが記されている。第4章では,炎症性腸疾患が述べられている。腸管の炎症性疾患は数多く,長年大腸疾患診断に携わってきたコロノスコピストでも経験していないまれな症例まで提示されている。病因からの分類,病変範囲や潰瘍・びらんの形態などの所見からの鑑別診断について整理された説明のうえで,各疾患の炎症パターンの特徴を簡潔・明瞭に記されており,本書を熟読することにより大腸内視鏡検査がさらに身近になると思われる。
本書は,コロノスコピストにとって必携の書であり,座右に備えることをお勧めする。
消化管の画像診断を向上させるための必読書
書評者: 飯田 三雄 (九大大学院教授・病態機能内科学)
多田正大,大川清孝,三戸岡英樹,清水誠治の4氏によって執筆された『内視鏡所見のよみ方と鑑別診断―下部消化管』が,このたび出版された。1年前に出版され,破格の売れ行きを示していると言う『内視鏡所見のよみ方と鑑別診断―上部消化管』の姉妹書である。本書も,以下のような理由から上部消化管編以上に好評を博することは間違いないと考える。
◆厳選された症例で語る下部消化管疾患のすべて
内視鏡,X線にかかわらず消化管の画像診断学を向上させるには,検討に耐え得る資料がそろった症例をできるだけ多数経験することに尽きる。その際,著者の序文にも書かれているように,1人の医者が自分で経験できる症例数は限られているので,他人の症例を見聞きすることが大切である。このような目的から全国各地で消化器関連の研究会が多数開催されており,著者らが常連の大阪の大腸疾患研究会や,東京の早期胃癌研究会もその1つである。これらの研究会では,1例1例についてX線,内視鏡,病理所見の対比が徹底的に討論され,診断力の向上に大いに役立っている。本書の執筆代表者,多田正大博士は,早期胃癌研究会の機関誌である雑誌『胃と腸』の編集委員長を長年務められた消化管診断学の権威者である。そのため,本書にも『胃と腸』誌の基本的な編集方針を随所に垣間みることができる。すなわち,呈示された内視鏡写真はいずれも美麗かつシャープであり,また適宜挿入されているX線や病理などの内視鏡以外の画像もすべて良質なものが厳選されており,画像をみているだけでも楽しくなる。
本書は4章から構成されており,最初の2章で内視鏡検査に必要な局所解剖や,正常内視鏡像などの基本的事項が述べられており,比較的経験の浅い内視鏡医にも理解しやすい内容となっている。そして,後半の2章では,腫瘍性および炎症性疾患別に,病変の種類,分類,鑑別診断のポイントが解説され,最後に内視鏡所見別に実際の症例が呈示されている。
◆認定医試験にも配慮された内容
この症例呈示は,全体の約2/3にあたる頁数が割かれており,本書の最重要部分と言える。1例が見開き2頁にわたって記載されており,左頁に2枚の内視鏡写真(大部分は電子内視鏡写真)とその所見の解説,右頁に診断名とともに,病理肉眼・組織所見や超音波内視鏡・X線所見など診断の根拠となる画像が示されている。しかもポピュラーな疾患から比較的稀な疾患まで多種類にわたる疾患が呈示されており,かなり経験を積んだ内視鏡医にとっても役立つ内容となっている。また,これから消化器内視鏡学会の認定医試験を受験予定の医師にとっても,左頁の内視鏡写真だけをみて,所見や診断の成否を試すことができるように配慮されている。
本書では,原則として2頁で4症例が呈示され,右頁の端に疾患の解説がコンパクトに箇条書きで記載されている。比較的ポピュラーな疾患であればいろいろの内視鏡所見を呈し,何度も登場する。例えば,潰瘍性大腸炎をみると,発赤,アフタ様病変,全周性潰瘍・びまん,縦走潰瘍,不整形潰瘍,敷石像,炎症性ポリープ,血管透見の消失ないし低下など15項目の所見について15例が呈示されているが,疾患の解説は重複がないように配慮されている。また,左頁の内視鏡写真とともに,腫瘍性疾患については病変の存在部位と大きさ,炎症性疾患については年齢,性,主訴が記載されており,内視鏡写真の読影を自身で試してみる際の参考となるように工夫されている。
このように,本書は,初心者からベテランに至るまでのすべての消化器内視鏡医にとって,大変参考になる必読の書である。カラー写真で埋めつくされているわりには価格も手頃であり,ぜひ購読されることをお勧めしたい。
名著中の名著と言える大腸疾患診断書
書評者: 武藤 徹一郎 (癌研究会附属病院長)
大腸疾患に関する内視鏡の成書はすでに数多く出版されており,それぞれに個性と特色に満ちた名著が多い。しかし,本書はその中でも飛び切りの個性と内容に富んだ,名著中の名著と言って過言ではない。それは28年間,140回に及ぶ大阪の「大腸疾患研究会」の例会を通して,選び抜かれた症例の経験が本書に集約されているからに他ならない。まだ大腸疾患に注意が払われていなかった1973年に,この研究会を立ち上げて以来,弛むことなく症例の検討と集積を継続してこられた,執筆者代表の多田正大博士をはじめとする同志の方々の努力と炯眼に,心より敬意を表したい。
◆群をぬく症例の量と質の凄さ
本書は4章から構成されているが,第3章「腫瘍性疾患の内視鏡所見のよみ方と鑑別診断」,第4章の「炎症性疾患の内視鏡所見のよみ方と鑑別診断」の2章が全体の90%を占めている。各章の前半10%はそれぞれ内視鏡診断に必要な腫瘍性疾患と炎症性疾患に関する基礎的事項が要約されているが,これが実に簡潔にして必要十分な情報を含んでいて,他に類を見ないほどである。偽茎(pseudopedicle)を有茎として提示されている報告例が決して少なくない中で,本書では,きちんとその鑑別の要点が記されており感心させられた。しかし,本書の圧巻は,何と言っても鑑別診断に提示されている症例の量と質の凄さであろう。見開き2頁の左側に基本スタイルとして4症例,各症例2枚のカラー写真が呈示されている。
腫瘍性疾患の章では,「分葉のある病変」とか「陥凹を主体とする病変」のごとく,マクロ的な形態的特徴のあるものばかりが選ばれており,その中に必ず1例の癌が含まれている。2枚の写真ではしっかりと違う情報が提供されており,その横に必要にして十分な臨床データならびに内視鏡所見が箇条書きにまとめられている。右頁には各症例の確定診断,必要に応じて組織像,拡大観察像,エコー像などが提示され,病変に関する解説,鑑別診断のポイントまでが,箇条書きで簡潔にまとめられている。少なく見積もっても150症例300枚の見事なカラー写真が掲載されており,読者は一頁一頁の4症例を比較することによって,早期癌との鑑別診断を学ぶことができるようになっている。
炎症性疾患についても腫瘍性疾患と構成は同様であり,「発赤」,「アフタ様病変」,「縦走潰瘍」などの所見別に,さまざまな炎症性疾患の内視鏡所見が提示されている。アフタ様病変や縦走潰瘍が多彩な形態を呈するばかりでなく,さまざまな疾患が同名の所見を呈しうるという事実を,これほど見事に成書に顕した本は例をみない。病原性大腸菌O―157腸炎,クラミジア直腸炎などのめずらしい例も提示されており,150症例300枚以上のカラー写真を一頁一頁,各症例ごとに鑑別診断を考えていけば,自然に炎症性腸疾患の知識を増すことが可能である。百聞は一見に如かず,ぜひ手に取って写真を眺めることを勧めたい。
このようにマクロ的な内視鏡所見に基づいた症例の鑑別診断は,正に内視鏡医が日々直面していることである。症例提示による具体的な鑑別診断書が多田博士らによって,ここに完成されたことは喜びにたえず,どれだけ多くの医師ならびに患者さんが恩恵を受けるか計り知れないであろう。
◆「感動した!」,世界に発信できる名著
著者が内視鏡検査も診断のための1つの手段であり,X線との協調がなければ確定診断までに無駄な回り道をたどると述べているのは,まことに正論である。「本書を通して大腸診断学の精神を看破してほしい」という著者のメッセージに内視鏡への熱い情熱を感じるのは,筆者だけではあるまい。本書を通覧して「感動した!」というのが,筆者の第一印象であった。本書は経験者と未経験者とを問わず,すべての内視鏡医に推薦したい名著である。最後に,これだけの内容のものはぜひとも英文出版され,臨床的に有用な貴重な経験を世界に発信されることを期待したい。
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