運動学

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本書はPT・OTを目指す学生が、基礎科目の中でも重要な運動学を学ぶうえで必要となる基本的知識に焦点を絞って解説している。執筆陣はすべて教育現場の第一線で活躍するPT・OT。イラストや構成、頁数など、「使いやすい」教科書を目指した。
*「標準理学療法学・作業療法学」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ 標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野
シリーズ監修 奈良 勲 / 鎌倉 矩子
編集 伊東 元 / 高橋 正明
発行 2012年01月判型:B5頁:328
ISBN 978-4-260-00020-8
定価 5,500円 (本体5,000円+税)

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 運動学(kinesiology)は,人の身体運動を科学的に究明する学問であり,理学・作業療法学を学ぶ学生にとって基礎科目の1つとして位置づけられている.その領域は,力学,運動器の構造と働き,神経系システムの運動制御,四肢体幹を支える骨格連鎖システムのメカニズム,姿勢や歩行といった基本運動の仕組みに加え,動作獲得のための運動発達や学習理論なども含められる,とらわれることのないものである.まさに学際的な学問といえよう.人が動作を連続させて生活をしていく以上,その機能の障害は当然ながら大きな問題となる.だからこそ理学・作業療法士は,その機能再建を手助けする役目を担っており,大きな期待がかけられている.
 本書では,従来の運動生理学や機能解剖学に偏することなく,身体運動を主体とした構成とし,これから運動学を学び始める学生にとって必要十分な内容にすることを念頭においてまとめられた.また,各章の「学習目標」「復習のポイント」「理学・作業療法との関連事項」を参照することで,実習や卒業後の臨床の場において,ここで学んだことがどのように生きていくかをイメージする助けになるであろう.ぜひ,多くの人にこの教科書を活用いただけたら幸いである.
 最後に,本書は企画から発行までに非常に長い時間を要したものであり,辛抱強くご協力いただいた執筆者の先生方に多大なるご苦労をおかけしたことに対して,この場を借りて深謝申し上げる.

 2011年12月
 伊東  元
 高橋 正明

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序説 PT・OTと運動学のかかわり
第1章 運動学とは
  A 運動学の領域
  B 理学療法と作業療法の運動学
  C 運動学を学ぶにあたって
  D 理学・作業療法との関連事項
第2章 生体力学の基礎
  A 運動学と力学の関連
  B 運動をどう表現するか
  C 力の概念
  D 運動と力
  E 運動とエネルギー
  F 回転運動
  G 理学・作業療法との関連事項
第3章 運動に関連した生体の構造と機能
 I.運動器の構造と機能
  A 骨の構造と機能
  B 関節の構造と機能
  C 筋の構造と機能
  D 理学・作業療法との関連事項
 II.神経系の構造と機能
  A 神経系の基本構造
  B 反射運動
  C 神経系と随意運動
  D 理学・作業療法との関連事項
第4章 四肢・体幹の運動
 I.上肢の運動
  A 上肢の運動の特徴
  B 肩複合体
  C 肘関節と前腕
  D 手関節
  E 手,指
  F 理学・作業療法との関連事項
 II.下肢の運動
  A 下肢の構成
  B 股関節の運動
  C 膝関節の運動
  D 足関節および足部の運動
  E 下肢の運動連鎖
  F 下肢筋と運動連鎖の関係
  G 理学・作業療法との関連事項
 III.体幹の運動(呼吸を含む)
  A 脊柱の運動
  B 頸椎と頸部の運動
  C 胸椎と胸郭の運動
  D 腰椎と腰部の運動
  E 骨盤の構造と仙腸関節の運動
  F 理学・作業療法との関連事項
 IV.頭部の運動(顔面,咀嚼,嚥下を含む)
  A 顔面の運動
  B 咀嚼運動
  C 嚥下運動
  D 理学・作業療法との関連事項
第5章 姿勢
  A 姿勢とは
  B 姿勢の分類と表記
  C 静的姿勢
  D 姿勢の保持機構
  E 体格と体型
  F 最適姿勢と姿勢評価
  G 理学・作業療法との関連事項
第6章 歩行
  A 歩行とは
  B 歩行周期と距離時間因子
  C 歩行のキネマティクス
  D 歩行の運動力学
  E 歩行の筋電図
  F 歩行のエネルギー論と最適歩行
  G 歩行の開始と停止
  H 走行
  I 理学・作業療法との関連事項
第7章 運動の発達
  A 運動発達の指標
  B 運動発達の理論的背景
  C 姿勢の発達
  D 予測的姿勢調整機能の発達
  E 物品操作の発達
  F 基本動作の発達
  G 理学・作業療法との関連事項
第8章 運動の学習
  A 運動学習とは
  B 学習と記憶
  C 運動学習理論の歴史的展開
  D 生態学的アプローチ概論
  E スキーマ理論概論
  F 運動学習研究の技法
  G 運動学習の実験デザイン
  H 制御と学習-臨床への示唆
  I 理学・作業療法との関連事項

セルフアセスメント
索引

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理学療法学・作業療法学を学ぶ学生に必須の知識を詳細に記述
書評者: 濱岸 利夫 (中部学院大講師・理学療法学)
 32年前,旧金沢大学医療技術短期大学部で奈良勲先生(金城大学学長,広島大学名誉教授)と生田宗博先生(東京工科大学教授・作業療法学)から運動学の講義を受けていたとき,日本語で書かれたテキストは『基礎運動学』と『臨床運動学』(ともに医歯薬出版社より刊行)」の2冊のみであったと記憶している。

 また,『カパンジー機能運動学』(医歯薬出版社)は翻訳されておらず原書で講義を受けた。今思い出しても,運動学の講義にはまじめに取り組んだ学生ではなかったが,両先生が講義でご苦労なさっていた記憶は残っている。

 しかしながら,今日は多くの出版社から運動学の著書が出版されており,毎年学生の教科書を選定する際にはありがたい反面,戸惑うことが多い。このことは日本における運動学の発展を意味すると考えており,運動学を基礎学問とする理学療法学あるいは作業療法学にとっては非常に喜ばしいことである。

 今回,『標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野』からシリーズの一環として『運動学』が出版された。個人的には,以前より『運動学』のみが出版されていなかった点が気になっていた。また医学書院から『運動学』に関する教科書が出版されてこなかったことも意外であった。

 内容としては,従来からの多くの類書においてほとんどみられてこなかった顔面筋の運動について,第4章で個々の筋肉についての収縮時の表情が図で記述されており,表情筋収縮時の理解が得やすいと思われる。さらに近年,重要性が認識されてきている嚥下・咀嚼については多くの記載があり,運動学的な視点より詳細に記述してある点は注目に値する。理学療法学あるいは作業療法学を学ぶ学生には,必須の知識となってきている証しであろう。

 また,筆者が長く臨床活動にかかわってきた小児領域に関しては,第7章で子どもの図を多く取り入れてあり,運動発達については初年時の学生でも視覚的に理解し,学びやすくなっていると思われる。加えて随所にAdvanced Studiesという記述がされており,学生だけではなく臨床の第一線で活躍するセラピストの皆さまにも参考になると考えられる。

 最後に,シリーズのファンにとって,本書の発行は長く待ち望んだことであろう。また,大学や専門学校など,教育機関の図書館においては全巻取りそろえることが可能になり,理学療法学・作業療法学関連のさらなる図書の充実に寄与すると信じている。シリーズ全巻の刊行をあらためてお祝いしたい。
セラピストによるセラピストのための運動学の教科書
書評者: 中 徹 (鈴鹿医療科学大・理学療法学科長)
 「運動学」の存在感や響きは,理学療法・作業療法を学ぶ初学者にとって,今なおそのインパクトを失ってはいないだろう。それはその学問の重要性・基幹性に加えて,外国語の教科書が多数を占めていた数十年前から,運動学には定評のある日本語の教科書が存在していたことがその大きな要因であろう。初学者は自らの希望と使命感を持ってその教科書を読み始め,繰り返し読むことで多くのセラピストの底力を形成することに大きな役割を果たしてきた。これまで運動学の教科書は外国語の書籍や,医師や研究者が執筆したものが多かったが,セラピストの人数が指数関数的に増加するという歴史の中で,セラピストがセラピストの養成課程のために書いた定本となるような教科書が現れてもよい時期が到来している。

 ここに,素晴らしい運動学の教科書が生まれた。セラピストによるセラピストのための運動学の教科書の誕生である。著者陣は日本のリハビリテーション教育や臨床でながく運動学の歴史と付き合ってきた運動学のスペシャリストの方々である。安心して,しかし少し興奮して学習できるテキストがこのサイズで世に出ること自体が素晴らしいことである。

 本書は,運動学の歴史的記述は省かれてはいるが,バランスよく力学・運動機能解剖学・動作分析学・発達学が配置されていることが特徴である。運動生理学の領域は章が起こされておらず,ほかの分野で部分的に解説されていることに若干の意見もあるかもしれないが,従来よりも運動学習の領域が意欲的に拡張されていることで全く遜色を感じない。リハビリテーションはよくよく考えれば運動学習の理論によって構成される部分もあり,そこから介入方法の多様性も発展すると考えるのは,至極当然である。とてもよく編まれた教科書であり,初学者には負担なく運動学の基本的な内容の全貌が見渡せるものとなっている。

 最後に本教科書が行った「チャレンジ」と思われる点についてお伝えしたい。学生諸君が苦手であろう運動学において必要な数式や理論式が多く提示されており,その文化への融和と理解を求めている点が第一の点である。第二はAdvanced Studiesの存在である。そこには仮説も含めた斬新的な解釈や問題提起,さらには少々難解な論理も展開されている。これらはある意味では学生諸君への挑戦であるし,著者からのメッセージでもあろう。

 コンパクトに「スタンダード」が無理なくバランスよく整理されていることに加えて,一歩に踏み込んだ「チャレンジ」な記述が効果を発揮し,無難にではなく,よく思案されて編まれたチャレンジの教科書である。携帯性もいい書籍でもあるので,多くの学生諸君にぜひ使い込んでいただきたい。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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