助産師のためのフィジカルイグザミネーション
助産師が知っておきたいフィジカルイグザミネーションを網羅した1冊
もっと見る
本書は、問診や聴診、触診から超音波診断装置による診察法にいたるまで、助産師に必要なフィジカルイグザミネーションの知識と技法を網羅している。妊娠期・分娩期・産褥期のフィジカルイグザミネーションのみならず、乳房や新生児のフィジカルイグザミネーションや子ども虐待発見のためのフィジカルイグザミネーションまで広く解説している。
- 販売終了
更新情報
-
更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。
- 序文
- 目次
- 書評
序文
開く
まえがき
近年,フィジカルアセスメントやフィジカルイグザミネーションを扱った出版物は数多く見受けられるようになったが,助産師が専門とする生殖領域のフィジカルイグザミネーションを扱った出版物は,国内外ともに見当たらない,あるいはわずかなページ数が割かれているのみで詳細に記述されていない。筆者らは,助産師が助産診断を行なうために必要不可欠なPhysical Examination(身体診察法)の実際について,真に役立つ参考書の必要性を痛感してきた。
助産師教育では,保健師・看護師教育と比較すると,技術教育のウエイトが大きい。しかし,これまでの大学教育では,看護専門職として広い教育基盤に支えられた豊かな人間性の醸成が重視され,臨床実習の時間数が削られる方向性にあった。さらに,1996(平成8)年の改正カリキュラムでは,分娩の取り扱いが「10回以上」から「10回程度」とされたが,これは欧米諸国での助産師の資格取得のために必要な臨床経験(分娩介助数20~60例)と比較すると2分の1以下にすぎない。しかも,それらの欧米諸国では,我が国では決められていない分娩介助件数以外の他の技術項目や継続ケースの経験数をも決められており,欧米に比べると日本の助産師の資格取得のための技術経験数はきわめて低いと言わざるを得ない。
このような状況のなかで教育される学生の卒業時の技術能力の低下への批判から,看護職の技術教育のあり方が高い専門性を追求する方向性にあり,修士課程の教育においても研究者育成のための教育よりも高度実践指導者育成のための教育が重視されるようになっている。すなわち,1998年大学審議会は「21世紀の大学像」のなかで,研究者養成に傾きがちだった大学院から,高い専門知識をもった職業人を養成するための実務型大学への転換を打ち出し,2003年には高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識および卓越した能力を培うことを目的とした専門職大学院設置基準が制定された。
しかし,助産学領域に目を転じると,分娩件数の減少や妊産褥婦の権利保護などから学生の受け持ち経験数がますます減少し,学校教育や臨床経験のなかでは助産師の診断能力や技術能力を育成し,錬磨することは非常に困難になってきている。このような現状から,臨床に出る前の演習および,貴重でわずかな臨床経験のなかで,正確なフィジカルイグザミネーション技法を身につけることが,以前にも増して切実に求められるようになってきた。
さらに昨今,少子化の進行,産科医不足,分娩取り扱い施設の閉鎖などにより出産の場所がない妊婦=「出産難民」といわれる現象が全国のあちこち(特に地方や過疎地)に生じ,社会問題化し,連日のようにマスメディアでも取り上げられている。出産手当金の増額や女性産科医の職場復帰支援などの方策を含めて,産科医の減少防止対策が取られようとしているが,現在の産科医の高齢化・それに伴う退職,新人医師の産科希望の減少などを考慮すると,この潮流を止めることは非常に難しいと考えられる。
このような産科医不足や分娩取り扱い施設の閉鎖は,一方では施設助産師の活用を促進する動きを生み出し,「助産師外来」「院内助産院」の創設が各地で報告されるようになってきた。地域医療に関する関係省庁連絡会議においても,「病院・診療所における正常妊産婦を対象とした助産師による外来や助産所との連携を図ることにより,産科医師と助産師の役割の分担・連携を進める」という方向性が示されている(平成17年8月11日)。すなわち,今や開業助産師だけでなく,施設助産師においても正常妊産褥婦の健康診査の実施,正常出産の取り扱い,正常から逸脱した場合の判断などを自立して行なえなければ,その職責を果たせない社会情勢や職場環境が作られようとしている。
ヨーロッパ等の多くの国でなされている,異常出産は産科医,正常出産は助産師という役割分担が我が国でも根付き,助産師に求められる役割と責任が大きく拡大するか否かは,現在の助産師個々の努力や活動が極めて重要である。このチャンスを逃すことなく,各々の助産師が強い自覚を持って,より高い知識と技術を修得すべく努力研鑽し,活動を起こしたいものである。そうできることが妊産婦を主体にしたケアの推進・向上に大きく寄与し,医師中心の医学モデルから受益者中心の社会モデルへ真に転換を図ることになると考える。そのためにはまず,地域における「助産院」や施設における「助産師外来」や「院内助産院」などで,助産師が自立して活動するために必要不可欠である助産師のための診断能力の源となるフィジカルイグザミネーションの知識・技術を正確に身につけることが急務である。
このような状況から,助産師に必要なフィジカルイグザミネーションのスキルを「助産雑誌」にて連載し(59巻4号~60巻10号),多くの方の意見をいただきながら,このたび大幅に加筆・修正を行ない,単行本として世に出された。臨床および開業助産師の方々の臨床技術の向上に,また助産師教育機関における学習教材にと,さまざまな目的で活用していただければ幸いである。
2008年7月
我部山キヨ子・大石時子
近年,フィジカルアセスメントやフィジカルイグザミネーションを扱った出版物は数多く見受けられるようになったが,助産師が専門とする生殖領域のフィジカルイグザミネーションを扱った出版物は,国内外ともに見当たらない,あるいはわずかなページ数が割かれているのみで詳細に記述されていない。筆者らは,助産師が助産診断を行なうために必要不可欠なPhysical Examination(身体診察法)の実際について,真に役立つ参考書の必要性を痛感してきた。
助産師教育では,保健師・看護師教育と比較すると,技術教育のウエイトが大きい。しかし,これまでの大学教育では,看護専門職として広い教育基盤に支えられた豊かな人間性の醸成が重視され,臨床実習の時間数が削られる方向性にあった。さらに,1996(平成8)年の改正カリキュラムでは,分娩の取り扱いが「10回以上」から「10回程度」とされたが,これは欧米諸国での助産師の資格取得のために必要な臨床経験(分娩介助数20~60例)と比較すると2分の1以下にすぎない。しかも,それらの欧米諸国では,我が国では決められていない分娩介助件数以外の他の技術項目や継続ケースの経験数をも決められており,欧米に比べると日本の助産師の資格取得のための技術経験数はきわめて低いと言わざるを得ない。
このような状況のなかで教育される学生の卒業時の技術能力の低下への批判から,看護職の技術教育のあり方が高い専門性を追求する方向性にあり,修士課程の教育においても研究者育成のための教育よりも高度実践指導者育成のための教育が重視されるようになっている。すなわち,1998年大学審議会は「21世紀の大学像」のなかで,研究者養成に傾きがちだった大学院から,高い専門知識をもった職業人を養成するための実務型大学への転換を打ち出し,2003年には高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識および卓越した能力を培うことを目的とした専門職大学院設置基準が制定された。
しかし,助産学領域に目を転じると,分娩件数の減少や妊産褥婦の権利保護などから学生の受け持ち経験数がますます減少し,学校教育や臨床経験のなかでは助産師の診断能力や技術能力を育成し,錬磨することは非常に困難になってきている。このような現状から,臨床に出る前の演習および,貴重でわずかな臨床経験のなかで,正確なフィジカルイグザミネーション技法を身につけることが,以前にも増して切実に求められるようになってきた。
さらに昨今,少子化の進行,産科医不足,分娩取り扱い施設の閉鎖などにより出産の場所がない妊婦=「出産難民」といわれる現象が全国のあちこち(特に地方や過疎地)に生じ,社会問題化し,連日のようにマスメディアでも取り上げられている。出産手当金の増額や女性産科医の職場復帰支援などの方策を含めて,産科医の減少防止対策が取られようとしているが,現在の産科医の高齢化・それに伴う退職,新人医師の産科希望の減少などを考慮すると,この潮流を止めることは非常に難しいと考えられる。
このような産科医不足や分娩取り扱い施設の閉鎖は,一方では施設助産師の活用を促進する動きを生み出し,「助産師外来」「院内助産院」の創設が各地で報告されるようになってきた。地域医療に関する関係省庁連絡会議においても,「病院・診療所における正常妊産婦を対象とした助産師による外来や助産所との連携を図ることにより,産科医師と助産師の役割の分担・連携を進める」という方向性が示されている(平成17年8月11日)。すなわち,今や開業助産師だけでなく,施設助産師においても正常妊産褥婦の健康診査の実施,正常出産の取り扱い,正常から逸脱した場合の判断などを自立して行なえなければ,その職責を果たせない社会情勢や職場環境が作られようとしている。
ヨーロッパ等の多くの国でなされている,異常出産は産科医,正常出産は助産師という役割分担が我が国でも根付き,助産師に求められる役割と責任が大きく拡大するか否かは,現在の助産師個々の努力や活動が極めて重要である。このチャンスを逃すことなく,各々の助産師が強い自覚を持って,より高い知識と技術を修得すべく努力研鑽し,活動を起こしたいものである。そうできることが妊産婦を主体にしたケアの推進・向上に大きく寄与し,医師中心の医学モデルから受益者中心の社会モデルへ真に転換を図ることになると考える。そのためにはまず,地域における「助産院」や施設における「助産師外来」や「院内助産院」などで,助産師が自立して活動するために必要不可欠である助産師のための診断能力の源となるフィジカルイグザミネーションの知識・技術を正確に身につけることが急務である。
このような状況から,助産師に必要なフィジカルイグザミネーションのスキルを「助産雑誌」にて連載し(59巻4号~60巻10号),多くの方の意見をいただきながら,このたび大幅に加筆・修正を行ない,単行本として世に出された。臨床および開業助産師の方々の臨床技術の向上に,また助産師教育機関における学習教材にと,さまざまな目的で活用していただければ幸いである。
2008年7月
我部山キヨ子・大石時子
目次
開く
序章 フィジカルイグザミネーションの基本
1 フィジカルイグザミネーションにおける助産師の基本的姿勢
2 フィジカルイグザミネーションの基本的技術
第I章 妊娠期のフィジカルイグザミネーション
1 問診:すべての診察の基礎
2 身体計測・骨盤計測
3 頭部,頸部,胸部,四肢
4 腹部(視診・触診・聴診・胎児心拍数モニタリング)
5 生殖器のフィジカルイグザミネーション
6 妊娠期のトラブルと胎児の診察・アドバンスト編
第II章 超音波診断装置によるフィジカルイグザミネーション
1 超音波診断装置(電子スキャン)の使用法
2 妊娠初期の超音波検査
3 胎児の評価
4 胎児環境の評価
5 分娩・産褥期の超音波検査
6 その他の超音波検査
第III章 分娩期のフィジカルイグザミネーション
1 分娩開始した産婦の全身状態
2 胎児と分娩進行のアセスメント
3 乳房
4 分泌物・破水
5 分娩進行度
6 胎児健康度
第IV章 産褥期のフィジカルイグザミネーション
1 分娩後2時間(分娩第4期)の子宮の変化とフィジカルイグザミネーション
2 産褥期の全身の変化とフィジカルイグザミネーション
3 産褥期の心理・精神の変化とフィジカルイグザミネーション
4 乳房のフィジカルイグザミネーション
第V章 新生児のフィジカルイグザミネーション
1 出生直後のフィジカルイグザミネーション(24時間まで)
2 正常新生児の出生から退院までのフィジカルイグザミネーション
第VI章 子ども虐待発見のフィジカルイグザミネーション
1 子ども虐待とは
2 身体的虐待
3 ネグレクト
さくいん
Another Step Advanced
臨床的骨盤計測法
胎向と児頭嵌入の診断
マニングのスコア
妊娠中の検査に必要な検体採取の技術
分娩監視装置による継続モニタリングの効果の検討
1 フィジカルイグザミネーションにおける助産師の基本的姿勢
2 フィジカルイグザミネーションの基本的技術
第I章 妊娠期のフィジカルイグザミネーション
1 問診:すべての診察の基礎
2 身体計測・骨盤計測
3 頭部,頸部,胸部,四肢
4 腹部(視診・触診・聴診・胎児心拍数モニタリング)
5 生殖器のフィジカルイグザミネーション
6 妊娠期のトラブルと胎児の診察・アドバンスト編
第II章 超音波診断装置によるフィジカルイグザミネーション
1 超音波診断装置(電子スキャン)の使用法
2 妊娠初期の超音波検査
3 胎児の評価
4 胎児環境の評価
5 分娩・産褥期の超音波検査
6 その他の超音波検査
第III章 分娩期のフィジカルイグザミネーション
1 分娩開始した産婦の全身状態
2 胎児と分娩進行のアセスメント
3 乳房
4 分泌物・破水
5 分娩進行度
6 胎児健康度
第IV章 産褥期のフィジカルイグザミネーション
1 分娩後2時間(分娩第4期)の子宮の変化とフィジカルイグザミネーション
2 産褥期の全身の変化とフィジカルイグザミネーション
3 産褥期の心理・精神の変化とフィジカルイグザミネーション
4 乳房のフィジカルイグザミネーション
第V章 新生児のフィジカルイグザミネーション
1 出生直後のフィジカルイグザミネーション(24時間まで)
2 正常新生児の出生から退院までのフィジカルイグザミネーション
第VI章 子ども虐待発見のフィジカルイグザミネーション
1 子ども虐待とは
2 身体的虐待
3 ネグレクト
さくいん
Another Step Advanced
臨床的骨盤計測法
胎向と児頭嵌入の診断
マニングのスコア
妊娠中の検査に必要な検体採取の技術
分娩監視装置による継続モニタリングの効果の検討
書評
開く
助産師が知っておきたいフィジカルイグザミネーションを網羅した1冊 (雑誌『助産雑誌』より)
書評者: 水上 尚典 (北海道大学大学院医学研究科産科生殖医学分野教授)
「助産師にはもっと活躍して欲しい!」と私は常々思っている。
英国で行なわれた研究を紹介する。研究目的は助産師が責任を持って妊娠分娩を管理した場合,妊娠予後はどうなるか?である。2,734名のローリスク妊婦が無作為に2対1の割合(1,819名と915名)で助産師管理群と医師管理群に分けられた。医師管理病棟と助産師管理病棟はわずかに15mしか離れてない状況での研究である。
結果,50%の妊婦は妊娠中あるいは分娩中に医師管理群となった(異常出現のため)が,46%の妊婦は助産師管理のまま分娩が終了した。予後は当初振り分けられた1,819名(助産師管理群)と915名(医師管理群)の2群間で比較された。早産率,自然経腟分娩率,帝王切開率,吸引鉗子分娩率,周産期死亡率,NICU入室率のいずれにも2群間で差は認められず,分娩中の妊婦自由度は助産師管理群で高かった。
本邦では99%の分娩が産婦人科医師の立ち会い(責任)のもとに行なわれているが,世界を見渡してみるとそのような国は珍しい。多くの国で,助産師がより多くの妊娠・分娩で主導的役割を果たしている。研究報告の多くは「助産師が責任を持ち,助産師が深く関与した妊娠・分娩においては当該褥婦の満足度が高いこと」を指摘している。
また,全分娩の約3割は妊娠全期間を通じて数回の医師の診察のみ(助産師が妊娠分娩管理を行なう)で良好な妊娠予後が得られることが示唆されている。一方,本邦の周産期医療においては,さまざまな要因により産婦人科医は多忙を極めている。そのこともあり,助産師のより一層の活躍が期待されている。
妊婦健診の目的は異常の早期発見にある。どのような状態が異常かをあらかじめ医師との間で決めておき,その異常発見のための検査法もあらかじめ決めておけば,助産師の妊婦管理における役割増大が期待できる。また,分娩中の異常についてもあらかじめ医師との間で決めておき,異常発見後,医師管理とするような取り決めを行なえば,分娩における助産師の役割増大が期待できる。
本書は,妊娠中の問診,聴診,触診から超音波診断装置による診察法にいたるまで,助産師が主体性を持って異常妊娠を識別するうえで必要なフィジカルイグザミネーションの知識と技法を解説している。また,産褥期のフィジカルイグザミネーション,乳房や新生児のフィジカルイグザミネーション,子ども虐待発見のためのフィジカルイグザミネーションも網羅されており,助産師の知識や技術の向上がはかられるような書となっている。このような時期に本書が世に出ることは,非常に時宜を得たものであり,本書をお薦めする次第である。
(『助産雑誌』2008年12月号掲載)
「自信がない」助産師の,背中を押す指南書
書評者: 佐藤 喜根子 (東北大教授・助産学)
周産期医療の大変革期にある現在,助産師に求められる社会からの期待は極めて大きい。助産師の量と質の確保が早急に求められる中で,助産師職をめざすコースは8コースとなった。このさまざまなコースは量の確保の解決として期待されよう。では,質の保証はどのようになされなければいけないか。どのコースをたどろうとも保助看法に定められた助産師の責務である「助産または妊婦,じょく婦若しくは新生児の保健指導を行うことを業とする女子」であり,「臨時応急の手当てをし,または助産師がへその緒を切り……」という内容,つまり正常妊産褥婦の健康診査の実施と,正常出産の取り扱い,正常からの逸脱の判断を行わなければいけない。現在,どの教育コースをとろうともその最低限の能力の保証(いわゆる標準化)を考える検討がさまざまな所で実施されている。
本書はまさにそのような意味で大変貴重で有用な助産師業務の標準化を示した教科書ともいえる。
一方現場では,産科医不足や産科医の高齢化,女性産科医の増加など地方での産科窓口閉鎖が加速している。この傾向はしかし都市部も同様となってきた。その結果かつて周産期医療に参加していた助産師は看護師となり,助産師としての本領発揮ができないまま,時間の経過とともに助産師業務の実施への自信喪失に拍車がかかる。だがしかし,社会ではそのような状況とは無関係に,助産師の働きへの期待が高まっている。助産師は女性とその家族の健康を支える職能として,業務拡大がなされてきた背景がある。歴史をひも解けば,「産婆さん」は,地域に根ざして母子とその家族の健康をリードしていた。地方の産科の窓口閉鎖の動きは,次世代の生産や育児の脆弱化をきたし,地域の活性化を消失させることは明白である。「助産師外来」「育児支援対策」「新生児全戸訪問」などの動きは,何とかこれに歯止めをかけようとするものである。ぜひ助産師は本来の業務に戻り,国民の要望に応えてほしいものと切望する。
しかし大変に残念なことは,産科医不在の「外来」や「助産」に率先して参加するという助産師が少ないということである。日ごろ,助産師の言動をみると,参加したい気持ちを持ちながらも,しり込みをしてしまう助産師のなんと多いことか。その原因が「自信がない」である。これまでも産科医とはチーム医療であったが,その産科医との距離が長くなり,face to faceが不可能となり,即座にアドバイスが得られにくくなったことに起因する「自信喪失」と考える。
本書はまさに「自信がない」助産師に,「頑張ろう,頑張れそう,大丈夫」という意気込みを吹き込んでくれる指南書にほかならない。妊産褥期の多くの部分で図や写真(特に超音波検査は豊富)・グラフ・チェックリスト等を豊富に配置し,必要な個所を開いただけで,瞬時に疑問が解決する構成になっている。
教育現場では参考書として,医療現場では助産師の座右の書として推奨したい一冊である。
書評者: 水上 尚典 (北海道大学大学院医学研究科産科生殖医学分野教授)
「助産師にはもっと活躍して欲しい!」と私は常々思っている。
英国で行なわれた研究を紹介する。研究目的は助産師が責任を持って妊娠分娩を管理した場合,妊娠予後はどうなるか?である。2,734名のローリスク妊婦が無作為に2対1の割合(1,819名と915名)で助産師管理群と医師管理群に分けられた。医師管理病棟と助産師管理病棟はわずかに15mしか離れてない状況での研究である。
結果,50%の妊婦は妊娠中あるいは分娩中に医師管理群となった(異常出現のため)が,46%の妊婦は助産師管理のまま分娩が終了した。予後は当初振り分けられた1,819名(助産師管理群)と915名(医師管理群)の2群間で比較された。早産率,自然経腟分娩率,帝王切開率,吸引鉗子分娩率,周産期死亡率,NICU入室率のいずれにも2群間で差は認められず,分娩中の妊婦自由度は助産師管理群で高かった。
本邦では99%の分娩が産婦人科医師の立ち会い(責任)のもとに行なわれているが,世界を見渡してみるとそのような国は珍しい。多くの国で,助産師がより多くの妊娠・分娩で主導的役割を果たしている。研究報告の多くは「助産師が責任を持ち,助産師が深く関与した妊娠・分娩においては当該褥婦の満足度が高いこと」を指摘している。
また,全分娩の約3割は妊娠全期間を通じて数回の医師の診察のみ(助産師が妊娠分娩管理を行なう)で良好な妊娠予後が得られることが示唆されている。一方,本邦の周産期医療においては,さまざまな要因により産婦人科医は多忙を極めている。そのこともあり,助産師のより一層の活躍が期待されている。
妊婦健診の目的は異常の早期発見にある。どのような状態が異常かをあらかじめ医師との間で決めておき,その異常発見のための検査法もあらかじめ決めておけば,助産師の妊婦管理における役割増大が期待できる。また,分娩中の異常についてもあらかじめ医師との間で決めておき,異常発見後,医師管理とするような取り決めを行なえば,分娩における助産師の役割増大が期待できる。
本書は,妊娠中の問診,聴診,触診から超音波診断装置による診察法にいたるまで,助産師が主体性を持って異常妊娠を識別するうえで必要なフィジカルイグザミネーションの知識と技法を解説している。また,産褥期のフィジカルイグザミネーション,乳房や新生児のフィジカルイグザミネーション,子ども虐待発見のためのフィジカルイグザミネーションも網羅されており,助産師の知識や技術の向上がはかられるような書となっている。このような時期に本書が世に出ることは,非常に時宜を得たものであり,本書をお薦めする次第である。
(『助産雑誌』2008年12月号掲載)
「自信がない」助産師の,背中を押す指南書
書評者: 佐藤 喜根子 (東北大教授・助産学)
周産期医療の大変革期にある現在,助産師に求められる社会からの期待は極めて大きい。助産師の量と質の確保が早急に求められる中で,助産師職をめざすコースは8コースとなった。このさまざまなコースは量の確保の解決として期待されよう。では,質の保証はどのようになされなければいけないか。どのコースをたどろうとも保助看法に定められた助産師の責務である「助産または妊婦,じょく婦若しくは新生児の保健指導を行うことを業とする女子」であり,「臨時応急の手当てをし,または助産師がへその緒を切り……」という内容,つまり正常妊産褥婦の健康診査の実施と,正常出産の取り扱い,正常からの逸脱の判断を行わなければいけない。現在,どの教育コースをとろうともその最低限の能力の保証(いわゆる標準化)を考える検討がさまざまな所で実施されている。
本書はまさにそのような意味で大変貴重で有用な助産師業務の標準化を示した教科書ともいえる。
一方現場では,産科医不足や産科医の高齢化,女性産科医の増加など地方での産科窓口閉鎖が加速している。この傾向はしかし都市部も同様となってきた。その結果かつて周産期医療に参加していた助産師は看護師となり,助産師としての本領発揮ができないまま,時間の経過とともに助産師業務の実施への自信喪失に拍車がかかる。だがしかし,社会ではそのような状況とは無関係に,助産師の働きへの期待が高まっている。助産師は女性とその家族の健康を支える職能として,業務拡大がなされてきた背景がある。歴史をひも解けば,「産婆さん」は,地域に根ざして母子とその家族の健康をリードしていた。地方の産科の窓口閉鎖の動きは,次世代の生産や育児の脆弱化をきたし,地域の活性化を消失させることは明白である。「助産師外来」「育児支援対策」「新生児全戸訪問」などの動きは,何とかこれに歯止めをかけようとするものである。ぜひ助産師は本来の業務に戻り,国民の要望に応えてほしいものと切望する。
しかし大変に残念なことは,産科医不在の「外来」や「助産」に率先して参加するという助産師が少ないということである。日ごろ,助産師の言動をみると,参加したい気持ちを持ちながらも,しり込みをしてしまう助産師のなんと多いことか。その原因が「自信がない」である。これまでも産科医とはチーム医療であったが,その産科医との距離が長くなり,face to faceが不可能となり,即座にアドバイスが得られにくくなったことに起因する「自信喪失」と考える。
本書はまさに「自信がない」助産師に,「頑張ろう,頑張れそう,大丈夫」という意気込みを吹き込んでくれる指南書にほかならない。妊産褥期の多くの部分で図や写真(特に超音波検査は豊富)・グラフ・チェックリスト等を豊富に配置し,必要な個所を開いただけで,瞬時に疑問が解決する構成になっている。
教育現場では参考書として,医療現場では助産師の座右の書として推奨したい一冊である。
更新情報
-
更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。