標準救急医学 第4版

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事故や災害の多発、高齢人口の増加にあいまって年々高まる救急医療への社会的ニーズに応えて、日本救急医学会がその総力を挙げて編んだ救急医学教科書の最新版。心肺蘇生法や重症救急病態、災害医療など患者の救命に直結する救急医療のエッセンスをはじめ、医の原点とも言うべき救急医療のすべての領域について、将来の専門分野を超えて、医師として不可欠な知識と臨床スキルを懇切に解説。今回新たに「救急プライマリケア」の章を加え、編集・執筆陣も大幅に刷新して内容もさらに充実。
シリーズ 標準医学
監修 日本救急医学会
発行 2009年03月判型:B5頁:728
ISBN 978-4-260-00514-2
定価 9,350円 (本体8,500円+税)
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「標準救急医学第4版」の刊行にあたって(山本保博)/第4版 序(島崎修次)

「標準救急医学第4版」の刊行にあたって
 救急医療は医の原点であるとよく言われるが,現実はそれほど単純ではなく,複雑化した要因が重積している。
 最近,救急搬送における医療機関の受け入れと対応について,いわゆるたらい回し患者が各地で急増しつつあり,救急医療の崩壊危機とメディアで報じられることが多くなった。これは平成16年度から始まった新臨床研修制度により医師不足が顕在化してきたことが原因のひとつであろう。
 総務省消防庁から“救急・救助の現況”が毎年発表されているので,まずこのデータから話を進めてみたい。平成19年における全国での救急搬送は4,918,479人で,このうち,いわゆるたらい回しになりやすい重症以上の傷病者は530,671人であった。この数字には転院搬送人員が119,046人含まれているので,これを除いた411,625人について,病院が決定するまでに行った照会回数を調べている。
 重症以上の傷病者が受け入れ選定困難になることが多いのは当然であり,一般的に30分以上医療機関が決まらない,あるいは4回以上断られた症例と定義しているが,平成19年は20,859人,5.0%であった。最多困難事例は,重症以上では50回も断られた事案があったと報告されており,救命救急センターでは重症でない傷病者の63回が最多と報告されていた。
 全国における2次と3次救急医療機関で断った理由についての総務省消防庁のアンケート調査がある。2次救急病院では「処置困難」であり,3次の救命センターでは「ベッド満床」であった。2次救急病院がすでに疲弊しており,そのしわ寄せが3次の救命救急センターに押し寄せ,結果としてベッド満床になっているのだろう。選定困難事案のもうひとつは,出口問題である。蘇生時に装着せざるを得なかった人工呼吸器付きの高齢の慢性呼吸疾患患者は,自宅には帰れないし,後方病院で引き受けてくれるところはそうはないのが現状であろう。
 これら選定困難患者の対応策について考えてみると,まず各地域で行政の補助が必要となる。地域ネットワークを作り,ベッドと専門医やスタッフを確保し,当番を決めて待機させるシステムである。政令指定都市等では具体的にCCU,熱傷,結核,周産期,重症小児等がすでに活動している。このネットワークに急性中毒,多発外傷,重症骨折や外傷合併精神疾患等を含めて,地域全体で受け入れ困難性の高い救急医療に対応していくべきであろう。
 上述のように,日本の救急医療を取り巻く状況は,一刻もゆるがせにできない課題が山積しており,それぞれに対策が講じられなければならないことは言を俟たないが,中・長期的な視点に立ってみれば,救急医療の理論と実際を身につけた医師をひとりでも多く臨床現場に送り出すことが基本であり,そのための救急医学教育がいっそう重要性を増してきているといえよう。
 この「標準救急医学」は,そうした観点から日本救急医学会が総力を挙げて作り上げてきた教科書である。救急医学を学ぶ医学生や将来救急医療を志す臨床研修医だけでなく,すべての臨床医にとって最小限の必要不可欠な救急医学・救急医療の理論と実践が系統的に書かれている。本書が医学生だけでなくひとりでも多くの一般勤務医や救急救命士に愛読され,臨床の現場でも活用され,わが国の救急医療および救急医学の質的・量的向上に役立てられることを切に願っている。

 平成21年1月吉日
 日本救急医学会代表理事 山本保博


第4版 序
 昨今「たらい回し」や受け入れ医療機関が見つからず救急患者が死亡する事例が増えており,救急医療の崩壊とさえいわれている。
 「たらい回し」と批判されているのは実は医療機関の受け入れ拒否ではなく,「受け入れ不能」状態なのであるが,救急診療は経営上のメリットが少ないうえ,医療訴訟のリスクのみ高い等の理由で救急をやめる医療機関の増加と医師不足(特に救急専門医)がその背景にある。
 アメリカ・オレゴン州の衛生局の玄関には,医療の3原則を示した「オレゴン・ルール」が掲示されている。つまり,①すぐ診てもらえる(free & easy accessibility),②医療の質が高い(high quality),③安い医療費(low-cost)であるが,国民は3つのうち2つは自由に選択できるが,3つすべてを求めるのは不可能であるというものである。これは至極当たり前のことであり,アメリカの医療費が高いのは周知の事実であるが,日本では医療関係者の努力によって,この3つの要件をすべて満たしてきた。ところが,小泉政権下「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」(いわゆる骨太方針)での罪深い医療費抑制政策がボディブローとなり,救急医療は大きなダメージを被った。
 一方,ほぼ時を同じくして初期臨床研修が始まった。初期研修の最大の目的は自分の専門外を含め,幅広い医師としての基本的な臨床能力を身につけることであり,まさに「救急」はその絶好の研修の場であるはずである。しかしながら2年間の研修期間中,わずか3か月の救急(麻酔科を含む)研修ではその目的を達せられるとはとても思えない。一般救急医療機関等で救急患者を断る理由の6割近くが専門外と処置困難であることが,このことを如実に示している。救急医療はまさに医療の原点なのである。
 このような状況下,「標準救急医学」の第4版が刊行されることになった。本書は初版から日本救急医学会が監修し好評を得ているが,日進月歩の医学の進歩の中で,救急医学の新しい知見やさらには上述した社会情勢とも関連した救急プライマリケア(ER)も取り入れ,第4版を作製することになった。執筆者についてもほぼ半数を現場で日夜救急医療に従事している若い先生方に執筆依頼し,従来にもましてより充実した内容になっている。
 本書がより多くの医学生や研修医ばかりではなく救急救命士,看護師にも愛読され,わが国の救急医療のさらなる向上と発展に役立つことを願っている。

 平成21年2月
 杏林大学教授・財団法人日本救急医療財団理事長
 島崎修次

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 略語一覧

1 救急医学と救急医療
2 救急医療における法的諸問題
3 侵襲と生体反応
4 救急診断
5 緊急画像診断と治療への応用
6 救急処置
7 心肺蘇生法
8 救急医薬品
9 輸液・輸血
10 ショック
11 重症救急病態
12 重症救急患者管理
13 救急プライマリケア
14 感染症
15 敗血症
16 外傷
17 熱傷,化学損傷,電撃傷
18 急性中毒
19 環境異常,溺水,窒息,その他
20 中枢神経系救急疾患
21 心血管系救急疾患
22 呼吸器系救急疾患
23 消化器系救急疾患
24 その他の各科救急
25 脳死
26 災害医療

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