医療者のための結核の知識 第6版
初学者から管理者まで 結核とNTM症の最新知識をわかりやすく
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結核診療を1冊で見通せる定番書の最新版。日本の結核罹患率はコロナ禍を経て低下したが、公衆衛生上の重要性に変わりはない。結核への対応は専門施設・専門医、感染症管理に携わる医師、看護師、保健師にとどまらない。すべての医療職が知識をもち、結核発病リスクの高い免疫不全患者、高齢者、がん患者などの医療・ケアにあたらねばならないであろう。増加中のNTM症についても最新情報を掲載している。
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第6版 序
本書『医療者のための結核の知識』は2001年に刊行され,好評のうちに第6版まで版を重ねてきた。結核は二類感染症で,医師は患者が結核であると診断した際は直ちには最寄りの保健所に届け出をし,感染症法に基づいた治療を行う。そして詳しい患者状況,治療内容,治療成績などが都道府県から厚生労働省に報告され,それに基づいて施策が決定される。最新の結核に関する情報をわかりやすく記載したこの第6版を,日々の業務の参考にしていただければ幸いである。
初版が刊行された当時,2000年の日本の結核罹患率は人口10万対31.0であったが,2021年には初めて10を割り込み9.2となった。日本が長い間目標としてきた結核低まん延国への仲間入りをはたし,以後もこの状態は続いている。このまん延状況の改善には国の施策に加え,結核研究に携わった各自の地道な努力や,結核患者に日々接する現場の医療者,保健所の保健師等の貢献も大きな力となっている。
日本の新登録結核患者は極端に高齢化し,後期高齢者が半数以上を占める。この状況で結核病棟の閉鎖が相次ぎ,2024年4月1日現在の結核病棟を有する指定医療機関は166病院・2,777病床に減少した。感染症病床は359病院・1,797床,いわゆるモデル病床は107病院・482床である。感染症病床やモデル病床に入院した患者は,結核病棟に入院した患者とは異なり,退院まで自分の病室から全く出ることができない。話し相手にも事欠き,また家族の面会もままならずに孤独であり,高齢者では認知症の進行が懸念される。病床さえ確保すればよいのではない。是非これ以上結核病棟の閉鎖が進まないよう,また療養環境の改善が図られるよう願うばかりである。
結核菌は人類の歴史とともにあり,伝播は人の移動と密接に関連する。明治期の日本の殖産興業は結核のまん延も招いた。近年では,外国出生の新登録結核患者数が増加傾向にある。そこで出入国在留管理庁(法務省),外務省の協力を得て,厚生労働省では,日本国内で新登録結核患者数が多い国籍を有し,中長期間(3か月以上)の在留を予定する者に対し,入国前に結核のスクリーニング検査を実施して,結核を発病していないことを確認したうえで入国を認めることとした。そして2020年7月以降に調整の整った対象国から開始するところであったが,COVID-19のパンデミックと時期が重なり,出入国管理業務は多忙を極めていたため実施に至らなかった。その後,COVID-19が二類感染症相当から五類感染症に移行し,発生状況も落ち着いていることをふまえ,2024年12月に再度「入国前結核スクリーニングの実施について」との通知が発出され,2025年3月以降に準備の整った対象国から順次実施する運びとなった。この制度が確実に機能すれば,すでに活動性結核を発病している外国出生者を渡航前に発見し入国を阻止できるため,日本国内での感染伝播が減少し,長い目で見ればきわめて有効な結核対策になると期待される。
日本結核病学会は北里柴三郎らにより1923年に設立され,同年に第1回総会・学術講演会が開催された。2020年には学会名を日本結核・非結核性抗酸菌症学会へと変更し,2023年に学会創立100周年を迎えた。なお日本医学会(16の分科会が合同して1902年創設)の分科会は現在143学会あるが,日本結核病学会は20番目に加盟(1923年)した老舗の学会である。1944~1946年の3年間は太平洋戦争および戦後の混乱のため学術講演会は開催されなかったが,2025年6月に横浜市において開催される学術講演会が第100回の節目になる。長年積み重ねられてきた多くの先人たちの尽力に敬意を表する。本書の上梓とあわせて第100回記念総会を祝したい。
2025年5月
四元 秀毅
山岸 文雄
永井 英明
長谷川直樹
露口 一成
目次
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I 結核の今と昔
A 世界と日本の結核の現状
B 結核の歴史と現在の課題
C 疫学的観点からみた結核の特徴と根絶への道程
D 結核の分子疫学
II 結核はどんな病気か
A 結核の起こり方──結核菌と結核
B 結核菌の特徴
C 結核の感染と発病の機序
D 結核の病理所見
E 結核はどんなときに起こりやすいか
F 結核の臨床像
G 肺結核後遺症
III 結核の検査のすすめ方
A どんなときに結核を疑い,どのように検査をすすめるか
B 肺および胸郭内結核の画像所見
症例 1 局所性の粒状影
症例 2 両肺の多発結節影(結核腫)
症例 3 広範な混合性陰影
C 結核菌の検査法
D 生検法
E 結核感染の検査法
IV 結核をどのように治すか
A 結核治療の流れ
B 結核の治療を始める前の手続き
C 結核の治療を始めるにあたって──「結核医療の基準」に関連した一般的事項
D 結核の化学療法の一般的事項
E 化学療法の実際
F 治療を成功させるための戦略:DOTS
G 入退院基準
H 結核患者の終末期医療
V 結核の広がりをどのように抑えるか
A 結核の発病をどのように抑えるか
B 医療従事者の結核集団感染防止のために
C 結核患者の早期発見と院内感染対策
D 感染症法に結核予防はどのように位置づけられているか
VI 免疫不全と結核
A 免疫不全に合併する結核の特徴
B 免疫不全に合併する結核の診断
C 免疫不全に合併する結核の治療
D 免疫不全における結核の発病予防
VII さまざまな結核──症例提示
症例 1 腰背部痛を主訴に長期間整体院に通っていた40代女性
──結核性脊椎炎,流注膿瘍,肺結核
症例 2 咳,食欲低下,体重減少とびまん性の小粒状影をみた80代男性
──気道散布型病変
症例 3 高熱で発症し全身状態の悪化をみた東南アジア出身の30代女性
──粟粒結核(播種性結核)
症例 4 喘息として治療されていた30代女性
──気管・気管支結核
症例 5 市中肺炎と診断されたが改善しなかった70代男性
──結核性肺炎
症例 6 誤嚥性肺炎として治療が続けられていた80代男性
──高齢者結核
症例 7 5か月間嗄声が続いた30代女性
──喉頭結核
症例 8 呼吸困難,発熱で発症した80代男性
──肺気腫に合併した肺結核
症例 9 手関節と足関節の腫脹,疼痛がみられた40代男性
──骨関節結核
症例 10 膝関節結核,粟粒結核(播種性結核)の治療中に頭痛・悪心が出現した20代男性
──脳結核
症例 11 視力障害のため眼科受診した50代男性
──脳結核,粟粒結核(播種性結核),副腎結核
VIII 非結核性抗酸菌症
A 非結核性抗酸菌とは
B 非結核性抗酸菌症の起こり方と臨床像
C 非結核性抗酸菌症の疫学と診断基準
D 主な肺非結核性抗酸菌症の治療
症例 1 少量の喀血を繰り返した40代女性
──肺MAC症
症例 2 右上葉の空洞影を呈した60代女性
──肺MAC症
症例 3 半年前から咳,喀痰が出現した慢性肺気腫の60代男性
──肺M. kansasii 症
症例 4 血痰と胸部空洞病変を呈した60代女性
──肺M. abscessus 症
付録 参考資料──感染症法関連の届出書式の例
参考文献
索引
column
入国前結核スクリーニング
結核罹患率の低下,そして病院も病床数も医師も…
学研分類から学会分類へ
肺結核の画像所見分類は「病型」を決める
結核の感染と発病の関係──「初感染発病学説」を中心に
「接触者」の捉え方
最近の小児結核
結核患者の人権
結核と文芸作品,そして「映画」