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母乳育児支援スタンダード 第3版

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母乳育児支援の基礎知識から臨床技術までをまとめたテキストの10年ぶりの改訂第3版。母乳育児の重要性や母親の悩みにどう寄り添うかなど、支援者に必要な知識や技術を網羅。筆者はすべて国際認定ラクテーション・コンサルタント(IBCLC)であり、根拠を明らかにした解説を行っている。今版では産後ケアや、働く親への支援のテーマを新たに追加した。母乳育児支援にかかわるすべての人に勧めたいテキストの決定版。

編集 NPO法人 日本ラクテーション・コンサルタント協会
発行 2025年02月判型:B5頁:560
ISBN 978-4-260-05704-2
定価 5,060円 (本体4,600円+税)

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第3版 まえがき

 二十数年前,私が新生児科医として臨床の現場に立ったとき,日本にはまだ母乳バンクもなく,新生児医療は主に呼吸と循環の管理が中心でした。当時,母乳育児支援についての知識や技術を学ぶ機会は医師にはほとんどありませんでした。私も母乳がよいとは知っていましたが,どのように支援するのかは,ほとんど知識をもっていませんでした。しかし,私が担当していた超低出生体重児のお母さんが「入院中,一度もおっぱいを吸わせないままに,母乳が止まってしまったのです」と,晴れがましいはずの退院のときに寂しさを訴えられたのです。そのとき,母乳育児支援について学ぶ必要性を非常に強く感じたことを今でも鮮明に覚えています。
 その後,科学的根拠に基づく母乳育児支援を学ぼうと,私自身が国際認定ラクテーション・コンサルタント(IBCLC)の勉強のための教科書としたのは『Breastfeeding and Human Lactation』という洋書でした。そして2007年,日本で科学的根拠に基づく母乳育児支援の教科書が初めて発刊された際には,大変な感銘を受けました。その本こそ,本書の初版である『母乳育児支援スタンダード』です。
 今回の第3版の発行まで,2015年の第2版の発行から早10年の歳月が経ち,この間,日本の母乳育児に関する環境も非常に大きく変わりました。
 WHO/UNICEFが1989年に共同声明で出した「母乳育児成功のための10カ条」が,2018年に「母乳育児がうまくいくための10のステップ」となり,1981年に世界保健総会で可決された「母乳育児代用品のマーケティングに関する国際規準」(以下,「国際規準」)の順守がさらに重要視されました。本書の初版が発刊された2007年以降,第2版の2014年を経て,母乳育児支援に目が向けられるようになり,日本の母乳育児率も徐々に上昇していました。しかしながら,2019年末からのCOVID-19のパンデミックを経験し,すべての母子にソーシャル・ディスタンスが適応され,妊娠中の産前クラス,分娩立ち会い,早期母子接触,入院中の面会,フォローアップ健診,退院後のサークルの開催は軒並み中止に追い込まれ,このような母乳育児支援不足が母乳育児を阻害し,現在(第3版の発行時)は,母乳育児の重要性に対する認識も希薄になり母乳育児率の低下の兆しも現れ,母乳育児支援者も無力感に苛まれているようにも見受けられます。
 「国際規準」の前文には,「すべての子どもたちと,すべての妊娠中または授乳中の女性には,健康になるために,あるいは健康を維持するために,適切な栄養をとる権利がある」と書かれており,すべての乳幼児が適切な栄養を与えられること,すなわち,赤ちゃんを母乳で育てることのできる環境と,母乳で育てられない赤ちゃんの養育者にはさらなる支援が提供される環境を整え,母乳育児を保護・推進・支援していくことが今こそ求められています。
 今回,本書の改訂には,母乳育児を保護・推進・支援することは,母乳育児にこだわる,あるいは母乳育児を押し付けることとは明らかに異なるということがよく理解できるように,助産師をはじめ,看護師,産科医,小児科医,ラ・レーチェ・リーグ認定リーダーなどさまざまな背景をもちIBCLCの資格を有するメンバーにご尽力をいただきました。
 非常に多忙ななか,熱い思いで本書の改訂に協力していただいた,日本全国のIBCLCの皆様に感謝いたします。また,非常に膨大な改訂作業を完成まで導いていただいた医学書院の皆様に感謝いたします。
 最後に,助産師でIBCLCの1人として,長年にわたり母乳育児支援活動に尽力された,本書の執筆者の1人である武市洋美さんが,2024年9月に急逝されました。武市さんはNPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会(JALC)の創設者の1人で,その後の活動においても多大なる貢献をされ,私たち全員にとって非常に大切な存在でした。武市さんは生前このように述べられていました。

 「IBCLCに挑戦したことは,私自身とてもよかったと評価している。自分が今までに行ってきたケアや指導内容に多くの科学的根拠を見出すことができ,あらたな自信と喜びを得た。多様な母乳育児の形態を知り,母乳に関する学問的深さと可能性を学ぶことは必要なものであると思う。日本の助産婦は,ドゥーラであり母乳相談の担い手でもあった。その技術を伝承し,母子にとって最適な母乳育児支援者であることを自覚し,さらに世界に共通の母乳育児に関する科学的根拠に基づいた知識基盤も手にしてほしいと思う」(要約)
 (武市洋美:助産婦として国際認定ラクテーション・コンサルタントの資格を得て.
 助産婦雑誌,第53巻5号,423-428,1999)

 本書の第1版の素案は武市さんも中心メンバーの1人として考えてくださり,上記の思いのもと,構成も非常に緻密に考えられています。今回の改訂でも,その思いを引き継ぎ,日本のIBCLCの総力を結集して,多くの母乳育児支援者が待ち望んでいた内容に仕上がったと自負しております。
 母乳で育てたいという母親の願いが叶えられるためには,医療,地域,社会のサポートがきわめて重要です。本書の改訂が,母乳育児支援者のアップデートに役立つだけでなく,教育活動を行う多くの教育機関やサポートを行う地域の臨床の場での教科書や参考図書として,非常に役に立つものと確信しており,母乳で育てる願いが叶えられた母親が1人でも多くなる一助となれば,望外の幸せです。

 2024年11月
 NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会(JALC)理事長
 編集委員長 小児科医・IBCLC 滝 元宏

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第1章 母乳育児の重要性
 1 母乳育児の重要性

第2章 母乳育児の保護・推進・支援
 2 母乳育児の保護・推進・支援
 3 WHO/UNICEFによる母乳育児の保護・推進・支援
 4 母乳育児支援における倫理──IBCLCの業務と行動規範に学ぶ

第3章 母子を中心にした乳幼児栄養の意思決定支援
 5 乳幼児栄養における意思決定支援の必要性と考え方
 6 母親に寄り添うコミュニケーションスキル

第4章 母乳育児の解剖・生理・生化学
 7 乳汁分泌の解剖・生理
 8 母乳の生化学・免疫学
 9 人工乳についての基礎知識
 10 乳児の吸啜と嚥下

第5章 妊娠中の母乳育児支援
 11 母乳育児の準備──出産前クラスを中心に

第6章 入院中の母乳育児支援
 12 出生直後の母乳育児支援
 13 授乳支援の基礎
 14 新生児のアセスメント
 15 追加の支援が必要となる場合

第7章 退院後の母乳育児支援
 16 母乳で育つ子どもの成長・発達,乳児健診
 17 地域での継続支援
 18 産後ケアにおける母乳育児支援

第8章 補完食開始後の母乳育児支援
 19 補完食(離乳食)の開始と進め方
 20 母乳育児と妊娠──きょうだい同時期授乳
 21 母乳をやめる・やめないの支援
 22 母乳育児中の不妊治療

第9章 子育て環境と母乳育児支援
 23 働く親の母乳育児
 24 災害時の乳児栄養 理論編・実践編
 25 多様化する社会と母乳育児支援

第10章 母乳育児のよくある心配事への支援
 26 母乳不足感と母乳不足への支援
 27 母乳分泌過多
 28 乳頭痛・乳頭損傷のある母親への支援
 29 乳腺炎・乳管閉塞・乳管狭窄の予防・治療
 30 母乳育児中の母親の食事
 31 新生児・乳幼児の睡眠

第11章 特別な支援を必要とするとき──赤ちゃん
 32 早産児・極低出生体重児
 33 後期早産児および早期正期産児
 34 先天性疾患をもつ新生児・乳児
 35 母乳育児とアレルギー

第12章 特別な支援を必要とするとき──母親
 36 母乳育児と薬
 37 母親の身体疾患
 38 周産期の気分障害など精神神経疾患
 39 母乳のみで育てなかった女性,混合栄養やミルクを希望する女性への支援
 40 母乳分泌再開(母乳復帰)と養子の母乳育児

巻末資料
 1 母乳代用品のマーケティングに関する国際規準(全文)
 2 母乳育児がうまくいくための10のステップ
 3 乳幼児の栄養に関する世界的な運動戦略(WHO/UNICEF 2003)
 4 乳幼児の栄養に関するイノチェンティ宣言 2005年版
 5 エビデンスの質についての評価基準
 6 「母乳と母乳育児に関する方針宣言」 2022年版抄訳
 7 「支援する力」の検証ツール 業績評価指標リスト
 8 NPO法人 日本ラクテーション・コンサルタント協会

索引

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