神経内視鏡手術ハンドブック
神経内視鏡手術の理と技を磨く。手技選択の基本と局面打開の一手を学ぶ実践テキスト。
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神経内視鏡手術の理論と実践を体系的に学べる実践テキスト。脳室内・傍鞍部病変を中心に解剖学・生理学の知見を踏まえ、手技選択の基礎を培う。各論の26症例をもとに、ピットフォールへの対応や局面を打開する工夫を解説。論理と証拠から手術を捉え、適切な判断と正確な操作を可能にする「思考と技術のプロセス」を提示する。神経内視鏡をサブスペシャルティとして目指す若手脳神経外科医、教育を担う指導医の指針となる一冊。
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序文
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序
内視鏡の特性を考えた場合,理想的な適応は管腔臓器病変であることは自明であろう。歴史的にも神経内視鏡手術は水頭症,脳室内病変の観察,処置から始まっていることからもうなずける事実である。ただし,脳神経外科領域では管腔臓器と呼べる組織構造は限られ,永く神経内視鏡手術の守備範囲は,水頭症関連疾患と鼻・副鼻腔を経由する下垂体病変に限られていた。
過去20年の本邦の神経内視鏡手術の変化に目を向けると,各術式の段階的な保険収載に加え2006年には日本神経内視鏡学会によって神経内視鏡技術認定制度が整備され,神経内視鏡術者の人口は順当に増加傾向を示している。また,内視鏡の高精細化,手術機器の多様化など,周辺技術の進歩を背景にして,一般的な脳神経外科医の神経内視鏡手術に対する認識は明らかに変化してきたと考えられる。さらに,外視鏡の出現は脳神経外科手術に「鏡視下手術」という新たな概念をもたらし,いわゆる Heads-up surgeryが脳神経外科手術の1つの常識となってきた。同じ Heads-up surgeryである神経内視鏡手術は外視鏡と併用が容易であるという利点を有し,今後さらに裾野の広がりが期待される。
本書はこうした本邦の現状をふまえ,これから内視鏡手術に取り組みたいと考える若手脳神経外科医から後進の育成に携わる脳神経外科医まで,幅広い読者を想定し企画した。神経内視鏡手術は道具に依存する部分が大きく,術式に応じた特有の道具がまず手元にあることが必要である。またその先には,狭い術野での手術機器と内視鏡との干渉やレンズ面の汚れに悩まされ,機器の配置や助手との位置関係に苦心するといった現実がある。こうした点が従来の顕微鏡手術とは大きく異なり,一見顕微鏡手術の常識が通用しない世界が存在する。しかし,これは単にモダリティの違いによる結果と捉えるべきであり,両者とも手術の目的に対して理にかなったアプローチを選択する姿勢が重要である点に違いはないのである。
本書の編集方針の柱は,読者に対して①読みやすいこと,②使える情報であること,③普遍的な内容であることの3点である。全体の構成は「総論」と「各論」の2部とした。
「総論」では,脳室内病変と傍鞍部病変の神経内視鏡手術において必要な知識を基礎と臨床の両面から解説する。細分化と多様化が日々進む神経内視鏡手術の現状にあえて逆らうようだが,この2つが神経内視鏡手術の大きな柱であるとの理由からである。
「各論」では総論で得た背景知識をふまえ,実践の場で使える情報を記載した。ここでは単なる症例提示ではなく,一見簡単そうに見える病変に潜むピットフォール,内視鏡の特性を配慮したアプローチの方法,手詰まりになりそうな局面を打開する工夫,そのような場面をピックアップして読者のもつ引き出しを少しでも増やせるよう構成を工夫した。さらに教育的側面も重視し,卓上でのトレーニング用に自作できる模型や練習法など,ユニークな試みも紹介している。
物には順序があるように,神経内視鏡手術もステップを踏んでこそ新たな道が見えるものである。物事をロジックと知識で捉え,適切な判断を下し正確な操作を行うことの重要性を読者にお伝えできれば編者として本望である。
2025年10月
永谷 哲也
目次
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第I章 脳室病変に対する神経内視鏡手術
1 総説
脳室病変に対する神経内視鏡手術──歴史的背景と現状
2 解剖生理学の基礎知識
A 髄液の生理学──組成と人工髄液の可能性
B 脳室と髄液動態
C 水頭症と脳室──正常構造からの変化
3 手技のスキルアップをはかる
A ETV,嚢胞開窓のすべて
B 脳室内生検術
コラム① ハンズオンセミナーをどう実施するか
──目的と意義(自身で考案したモデルの活用例とIFNEでのコラボレーション)
C 硬性鏡を究める──シリンダー手術へのステップアップ
1 硬性鏡シリンダー手術に慣れよう
2 シリンダー手術の限界を知る
3 手術適応をどう考えるか
4 シリンダー手術の可能性を考える
D 軟性鏡を究める
コラム② 脳室病変と脳実質病変──身近な材料でできるモデル紹介
第II章 傍鞍部病変に対する神経内視鏡手術
1 総説
傍鞍部病変に対する神経内視鏡手術──歴史的背景と現状
2 解剖生理学の基礎知識
A 下垂体外科に必要な内分泌学と神経眼科学
B 下垂体近傍病変の鑑別診断
C 知っておくべき間脳下垂体腫瘍の病理
3 手技のスキルアップをはかる
A 解剖と生理に基づくトルコ鞍へのアプローチ
B トルコ鞍内操作のすべて──拡大法に向けて
コラム③ 傍鞍部病変──卵モデルの開発とトレーニングの実際
C 合併症回避と術後管理のポイント
第III章 神経内視鏡手術 術野別 Up to date
1 脳室内手術(15例)
A 穿頭位置,穿孔部位の選択(軟性鏡手術)
[症例1] ETV(中脳水道狭窄症,脳室拡大が顕著な例)
[症例2] ETV(水頭症シャント不全時におけるシャント離脱目的)
[症例3] ETV(非交通性水頭症を伴う松果体部腫瘍例)
B 脳室内手術の基本手技
[症例4] 腫瘍生検術(脳室拡大あり)
[症例5] 腫瘍生検術(脳室拡大なし)
[症例6] 嚢胞開窓術
[症例7] 嚢胞開窓術(後角穿刺)
C 鉗子類と外套の選択(硬性鏡手術)
[症例8] 生検術(側脳室前角)
[症例9] 生検術(側脳室体部)
[症例10] 腫瘍摘出術(Monro 孔近傍腫瘍)
[症例11] 腫瘍摘出術(視床~第三脳室)
D 止血テクニック(軟性鏡,硬性鏡)
[症例12] 静脈性出血(軟性鏡)
[症例13] 動脈性出血(軟性鏡)
[症例14] 静脈性出血(硬性鏡)
[症例15] 動脈性出血(硬性鏡)
2 経鼻手術(11例)
A 鼻腔・副鼻腔操作
[症例1] 初回手術,鼻中隔彎曲なし
[症例2] 初回手術,先端巨大症
[症例3] 再手術(アプローチの選択)
B トルコ鞍内・鞍上部操作
[症例4] 非機能性腫瘍 grade C(被膜外摘出)
[症例5] 非機能性腫瘍 grade D(被膜下摘出)
[症例6] 機能性腫瘍 grade E(海綿静脈洞アプローチ)
[症例7] 巨大下垂体腫瘍(術式選択)
[症例8] 微小腫瘍(Cushing病)
C 鞍底再建
▪ 鞍底再建の選択について
[症例9] 術中に髄液が漏れていない場合の再建
[症例10] 術中に髄液が漏れている場合の再建
[症例11] 再手術,鞍底形成
第IV章 資料集
1 内視鏡所見アトラス
A 脳室内内視鏡所見
B 傍鞍部の正常解剖
2 日本で使用できる主なモデル一覧
索引