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ケースで学ぶ抗菌薬選択の考え方
耐性と抗菌メカニズムの理解で深掘りする

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抗菌薬適正使用に必要な、抗菌と耐性のメカニズムの本格的な解説が魅力。症例編では、なかなか効果が発揮されない抗菌薬治療を見直し、菌の同定、耐性の状況などを探っていく過程から、適切な処方選択・変更の考え方を学ぶことができます。

監修 矢野 寿一 / 笠原 敬
小川 吉彦
発行 2023年09月判型:B5頁:328
ISBN 978-4-260-05238-2
定価 6,380円 (本体5,800円+税)

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    2023.11.15

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    2023.11.15

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  • 目次
  • 書評
  • 付録・特典
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まえがき

 本書は,「学生や研修医の頃に一般的な感染症に関しての参考書は読んだけれども,一歩踏み込んだところの診療がしたい」という後期研修医や専攻医,非感染症専門医にまずは手に取ってほしいものとして執筆しました.薬剤耐性は世界規模で大きな問題になっており,院内の感染対策やASP(antimicrobial stewardship program)が日々重要になってくるなかで,最終的には感受性試験結果でどういった耐性機序を持っているのか? ということを薬剤師・検査技師とも共有することが第一に重要と考えました.
 また,日々の感染症診療において,世界的には質量分析や遺伝子検査が大きなウエイトを占めてくるようになったものの,まだまだグラム染色や培地などの評価による“classicalな”微生物検査は必要不可欠です.そんななかで,筆者個人は,大学病院から救急病院の感染症内科医として赴任し,そこで細菌検査室に入り浸るようになって,技師の当たり前が医師の当たり前ではなく,医師の当たり前が技師の当たり前ではないことを痛感しました.この本を手に取ってもらうことで,感染症診療・管理に携わる医師・臨床検査技師・薬剤師の知識のギャップが少しでも埋まればと考えている次第です.
 本書は2つのパートに分かれています.第1,2章は薬剤耐性機序の総論的な内容になります.各論(第3章)の耐性機序に関しては,第1,2章の総論が理解できないと非常に難解になってしまうので,まずこの第1,2章をなんとか理解していただいてから読み進めていくことをお勧めします(なかでもβ-ラクタムの耐性機序は必須).この2つの章は耐性菌のスペシャリストで,筆者個人の基礎分野の師である奈良県立医科大学・微生物細菌学講座教授の矢野寿一先生に監修していただきました.解釈の難しい用語についても可能な限り解説しています.
 第3章ではさまざまな菌ごとの耐性機序を学び,菌ごとの検査上の特徴・臨床像についてCaseを通して記載しました.この章は直接の上司である奈良県立医科大学・感染症内科学講座教授の笠原敬先生に監修していただきました.実際に当院で自身が担当した症例や抗菌薬適正使用チーム(AST)で検討対象となった症例ベースであり,グラム染色による分類別で順番に記載しています.第3章のCaseの解説でわからない単語が出てきた場合にはまずは第1,2章の解説を読み直してください.
 この本を通じて,何より検査室に行って培地を見る医師や,感受性を見て,検出された菌が持っている耐性機序・遺伝子に関しての議論が活発になされるようなASP実施施設が増えれば,医師・臨床検査技師・薬剤師の当たり前の共有が進むのではと思っております.

 令和5年初夏
 小川吉彦

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第1章 細菌の薬剤耐性の機序
  1-1 細菌と抗菌薬の関係
  1-2 グラム染色と薬剤感受性の関連性
  1-3 嫌気性菌と好気性菌
  1-4 腸内細菌科細菌から腸内細菌目細菌へ
  1-5 殺菌性と静菌性
  1-6 薬剤感受性試験結果とS/I/Rに関して──ブレイクポイント
  1-7 抗菌薬の基質特異性
  1-8 抗菌薬の安定性
  1-9 細胞壁の構造:ペプチドグリカン
  1-10 抗菌薬の使用により耐性化するのか?
  1-11 耐性を理解するための遺伝子の話

第2章 抗菌薬の作用機序とその耐性
  2-1 introduction
  2-2 β-ラクタム系抗菌薬とその耐性
  2-3 β-ラクタマーゼ
  2-4 β-ラクタマーゼ阻害薬
  2-5 グリコペプチド系抗菌薬とその耐性
  2-6 細胞膜をターゲットとする薬剤群
  2-7 タンパク合成阻害
  2-8 DNA/DNA複製阻害

第3章 症例で学ぶ検査室からの感染症診療
 1. グラム染色の読み方と細菌検査
  intro-1 菌の同定だけではないグラム染色の応用
  intro-2 シャルコー・ライデン結晶
       肺炎はないが,呼吸困難からのCPA症例
  intro-3 ヘマトイジン結晶
       髄膜炎の経過で軽快中の髄液で認められた黄金(こがね)色の結晶
 2. グラム陽性菌
  GPB グラム陽性菌の見方
  GPC-1 褥瘡感染とG群溶血性連鎖球菌
       連鎖球菌1:Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis
  GPC-2 溶血は弱いものの完全溶血が疑われる菌
       連鎖球菌2:Streptococcus agalactiae
  GPC-3 蜂窩織炎からの悪寒
       連鎖球菌3:Streptococcus pyogenes
  GPC-4 感染性心内膜炎の原因となりうるGNRと原因として有名なGPCの混合感染症例
       連鎖球菌4:Streptococcus anginosus
  GPC-5 横隔膜下の感染が予想される連鎖球菌の場合
       連鎖球菌5:Enterococcus faecalis
  GPC-6 『Tokyo Guidelines2018』と黄色変化
       連鎖球菌6:Enterococcus casseliflavus
  GPC-7 楕円≒E. faecalisで正円≒E. faeciumなのか?
       連鎖球菌7:E. faecium
  GPC-8 重症の大葉性肺炎を見たら
       連鎖球菌8:Streptococcus pneumoniae1
  GPC-9 ワクチンでの重症化予防が必要な疾患
       連鎖球菌9:Streptococcus pneumoniae2
  GPC-10 あえてCRPに言及する
       連鎖球菌10:Streptococcus pneumoniae3
  GPC-11 血液寒天培地では発育せず,チョコレート寒天培地で発育した菌
       連鎖球菌11:Granulicatella adiacens
  GPC-12 微細なGram positive or Gram variableな菌
       連鎖球菌12:Gemella morbillorum
  GPC-13 コアグラーゼ陽性で背景への染み出しを認めるブドウ球菌
       ブドウ球菌1:Staphylococcus aureus1
  GPC-14 MSSAかMRSAか?
       ブドウ球菌2:Staphylococcus aureus2
  GPC-15 カテーテル感染が疑われ,田んぼの田の字がほとんどの場合
       ブドウ球菌3:Staphylococcus epidermidis
  GPC-16 コアグラーゼ陽性のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌
       ブドウ球菌4:Staphylococcus lugdunensis
  GPC-17 若年女性の尿から検出されるブドウ球菌
       ブドウ球菌5:Staphylococcus saprophyticus
  GPR-1 アミノ酸製剤投与中のGPRによる菌血症といえば…
       Bacillus cereus
  GPR-2 Coryne formのグラム陽性桿菌による肺炎
       Corynebacterium pseudodiphteriticum
  GPR-3 下痢→グラム小型陽性桿菌による菌血症の場合
       Listeria monocytogenes
 3. グラム陰性菌
  intro グラム陰性菌の見方
  GNC-1 気管支炎・副鼻腔炎でグラム陰性双球菌が認められた場合
       グラム陰性双球菌:Moraxella catarrhalis
  GNSR-1 気管支炎・副鼻腔炎でグラム陰性短桿菌が認められた場合
       グラム陰性短桿菌1:Haemophilus influenzae
  GNSR-2 感染性心内膜炎の起因菌としてのグラム陰性短桿菌
       グラム陰性短桿菌2:Aggregatibacter aphrophilus
  GNSR-3 HACEK group再び
       グラム陰性短桿菌3:Eikenella corrodens
  Entero-1 尿路感染症といえば…
       グラム陰性腸内細菌1:Escherichia coli
  Entero-2 粘稠度の高い糸を引くコロニーが形成された場合
       グラム陰性腸内細菌2:Klebsiella pneumoniae
  Entero-3 pHが高い尿の場合には塗抹を弱拡大から観察
       グラム陰性腸内細菌3:Proteus mirabilis
  Entero-4 AmpC のhyper-producer
       グラム陰性腸内細菌4:Enterobacter cloacae
  Entero-5 脳外科手術後のSSIで腸内細菌GNRが認められた場合
       グラム陰性腸内細菌5:Serratia marcescens
  Hemo-GNR-1 GNRによる胆管炎で溶血性が確認された場合①
       溶血性グラム陰性桿菌1:Aeromonas hydrophila
  Hemo-GNR-2 GNRによる胆管炎で溶血性が確認された場合②
       溶血性グラム陰性桿菌2:Edwardsiella tarda
  GNF-1 ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌
       overview
  GNF-2 入院患者の尿路感染症
       ブドウ糖非発酵GNR1:Pseudomonas aeruginosa1
  GNF-3 尿の亜硝酸還元反応を考える
       ブドウ糖非発酵GNR2:Pseudomonas aeruginosa2
  GNF-4 質量分析で同定された特徴的なコロニー性状の菌
       ブドウ糖非発酵GNR3:Pseudomonas oryzihabitans
  GNF-5 カルバペネム自然耐性のグラム陰性菌
       ブドウ糖非発酵GNR4:Stenotrophomonas maltophilia
  GNF-6 カルバペネム系抗菌薬が第一選択となりうるGNR
       ブドウ糖非発酵GNR5:Acinetobacter baumannii complex
  GNF-7 カルバペネム系抗菌薬やST合剤が第一選択となる感染症
       ブドウ糖非発酵GNR6:Achromobacter xylosoxidans
 4. 嫌気性菌
  AB-1 Bacteroides fragilisか否か,それが問題だ
       Bacteroides thetaiotaomicron
  AB-2 グラム陰性のClostridium
       Clostridium clostridioforme
 5. グラム不定性菌
  GVB-1 オレンジ色の喀痰の重症肺炎
       Legionella
  GVB-2 グラム染色で透明の紐状のものが目立つとき
       結核菌
 6. 真菌
  FUN-1 β-d-グルカンが4桁を超える症例
       Candida属1
  FUN-2 カテーテル関連血流感染症としての真菌感染症
       Candida属2
  FUN-3 人工呼吸器管理下の真菌性呼吸器感染症
       Aspergillus fumigatus
  FUN-4 アスペルギルスの次に臨床上問題となる糸状菌
       Mucor
  FUN-5 真菌性髄膜炎といえば…
       Cryptococcus

索引

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感染症診療の「苦手意識」のギャップを埋めてくれる
書評者:林 俊誠(前橋赤十字病院感染症内科部長)

 感染症診療のマニュアル本は持っているし,一般的な感染症はだいたい治療できている。とは言え,もしも耐性菌やそれに対する抗菌薬選択について聞かれたら,スムーズに答えられるほど詳しいわけでもない。いっそ専門書を読んでみたいけど,読める自信もない。見慣れない・聞き慣れない菌は,微生物学の本を読んでもしっくりこない。そんなあなたがギャップを乗り越えステップアップするのにおすすめなのが本書である。

 第1章は薬剤耐性の総論である。「MICの数字を横読みする」「CEZを使用し続けても,そのMSSAはMRSAにはなりません」など,耐性菌に対する抗菌薬選択に欠かせない基礎知識が満載だ。続く第2章は臨床で主に使用される抗菌薬に対する耐性機序の解説で,ここまでをじっくり読んでも2時間程度で理解できるのが嬉しい。最もよく出合うβ-ラクタマーゼについては特に図が豊富なので,この分野について初めて読む場合でもイメージしやすい。また,AmpCの「心変わり」や複雑怪奇なカルバペネマーゼがわかりやすく解説されてもいる。

 本書の真骨頂とも言えるのが第3章である。グラム陽性菌が20症例,グラム陰性菌が18症例,その他が11症例。それぞれ10分程度で読める分量なので,ちょっと空いた時間に一読できる。検査室の情報から起因菌を特定するためのコツや,その菌に対する治療戦略を考える上で必要な耐性機序の知識など,臨床現場で中堅が悩むときの感染症医の考え方を身につけることができる。取り上げられているのがマニアックな症例ではなく,臨床で日々問題となるようなものばかりなのもいい。腎盂腎炎や肺炎,胆管炎,髄膜炎などよく出合う感染症で,もしも耐性菌が検出されたときのシミュレーションができる。レンサ球菌群を溶血性などから分別する方法,グラム染色で見えているブドウ球菌が黄ブ菌なのかそれ以外か,痰でCorynebacterium属が検出された場合に治療すべきか,HACEKが血液培養から生えたらどうしたらいいか。菌が顕微鏡で見えた段階,菌が発育した段階,菌名が同定された段階,薬剤感受性結果も判明した段階,それぞれでどのように抗菌薬選択を考えるかも教えてくれる。あまりに記述がリアルなので,著者のもとで研修している感覚になってしまい,いつもなら本を読みながら手にしてしまうスマホの存在を忘れるくらい,症例の世界に入り込んでしまった。まるで読者の手をやさしく引っ張って,専門書を読むための基礎体力を鍛える手助けをしてくれるような一冊だ。

 本書にはさらに別の「使い方」もある。例えばグループ学習の題材として最適だ。週に一症例ずつ,指導医と勉強してみよう。指導医は初学者がどこにギャップを感じるかわかるし,指導医自身が「あれ,そうだったかしら」と改めて調べなおす機会にもなる。そのグループに臨床検査技師や薬剤師も交えて学び,気になったことを互いに聞くことで職種間のギャップを解消するためのツールにもなる。また,本書の洗練された薬剤感受性結果は菌別の「selective reporting」の見本として取り入れるべき資料的価値もある。COVID-19対応に奔走していた著者が「反骨精神のようなもの」で執筆した熱い想いが伝わってくる,あらゆるギャップを埋めてくれる一冊である。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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    2023.11.15

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