精神看護学[2]
精神看護の展開 第6版
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- 本巻では、さまざまな現場における精神看護の具体的な方法論を学びます。臨床・臨地において患者の個別性をふまえた多様なケアが実践できるエッセンスを提供しています。
- 第8章では、アドボカシー、自己開示、自己一致、患者-看護師関係のアセスメント、患者への対応など、精神看護の実践における原則を学びます。その後、精神の障害をもつ人のさまざまな回復のかたちやその支援、地域で暮らすことを前提としたケアを学んだうえで、病院を含むさまざまな実践の場におけるケアの実際を学びます。
- 学生が具体的なイメージをもちやすいよう、随所に、事例やエピソードを盛り込んでいます。さまざまな症状をもつ患者への対応や、患者の力を引き出すような効果的なかかわり、地域での暮らしとケア、薬物有害反応への対処、入院治療と退院などをストーリー展開で学べます。
- 第6版では、精神の障害をもつ人が地域で暮らすことを当たり前の前提とし、地域でのケアをより重視して,構成や内容を大きく変更しました。
- 「系統看護学講座/系看」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ | 系統看護学講座-専門分野 |
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著 | 武井 麻子 |
発行 | 2021年02月判型:B5頁:452 |
ISBN | 978-4-260-04214-7 |
定価 | 2,530円 (本体2,300円+税) |
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はしがき
第6版への序
今回,第6版を刊行するにあたり,従来の内容を見直し,大幅な改訂を行うことにした。その背景には,近年における日本の精神科医療および精神保健福祉サービスのあり方の急激な変化がある。これまでも,国は精神保健福祉対策として,精神科病院を中心とした入院治療から地域ケアへという方針を打ち出してはいたが,現実にはその転換は遅々として進まず,入院患者の大幅減少とはならなかった。したがって,精神看護といえば,必然的に入院時のケアが中心となっていた。
しかし,いまや日本でも多くの精神科病院に急性期病棟が設置されるなどして,入院患者の早期退院がはかられるようになってきた。その結果,全体として精神病床の数は減らないものの,平均在院日数は明らかに短縮してきている。実際には,長期入院患者の退院はさほど進んではおらず,急性期の入院患者の回転が速くなってきているのである。そのため,急性期病棟の看護は,従来の慢性期の患者,とくに長期入院の患者に対する治療やケアが中心であったころとは,看護業務の内容も看護師の役割も大きくかわってきている。また,障害者権利条約の発効などもあり,患者の権利擁護についての要請も高まってきている。
一方病院外では,地域の状況に応じた精神保健福祉サービスのシステム構築が求められるようになった。当事者(患者)や家族などのためのさまざまな事業が全国で行われ,多様なサービスが提供されるようになった。地域ではたらく看護師も増え,訪問看護をはじめとして看護ケアのあらたな方法が模索され,実践されるようになった。それに伴い,精神障害をもちながら地域で生活している人々と看護師との関係にも,あらたな発想が求められるようになってきた。すなわち,当事者中心の考え方である。
そこでは,疾患の治療よりも回復(リカバリー)が目標となる。そして,回復のビジョンは当事者1人ひとりによって異なる。しかも,地域で暮らす当事者のニーズは医療に限られたものではない。そこで看護師には,患者の介護や指導といった役割ではなく,自己実現に向けて回復への道のりを進んでいこうとする当事者のパートナーとしての役割が期待されるようになった。それは,これまで病院という枠のなかであたり前のように行ってきたケアとは異なるものである。
当事者中心のケアやエンパワメントという考え方の重要性は,従来の精神看護においても違いはなく,これまでの版でも強調してきたつもりである。しかし,地域においてはさらにその側面が強くあらわれてくる。
そこで第6版では,第2巻にあたる『精神看護学[2]精神看護の展開』において,地域における看護ケアを前提として,入院時のケアをそのなかに位置づけることにした。すなわち,看護は入院からはじまるのではなく,地域で暮らすことから出発するのである。また,さまざまな地域での実践例を豊富に紹介することで,当事者中心の地域ケアのイメージを明確に示していくことにした。
また,第1巻にあたる『精神看護学[1]精神看護の基礎』においても,大きな改訂を行った。それは,「トラウマ」についての理解である。第5版でも,東日本大震災をはじめとするかずかずの大規模災害を経て,多くの人々がトラウマ体験をくぐりぬけ,その影響をこうむってきたことから,トラウマを重要な視点として取り上げてきた。
今回は,最近のトラウマに関する脳神経学的研究の進展をふまえ,新たな生物学的知見を付け加えた。それによって,これまでの心理学的な知見の妥当性が裏づけられているのである。自然災害のような突発的なトラウマだけでなく,児童虐待などの日常的なトラウマが生み出す愛着障害は,近年とくに注目されているテーマであり,看護においても「むずかしい患者」の理解ともつながる重要な視点を提供するものである。
このように,今回の改訂では,さまざまな領域で注目されている多くの情報を盛り込み,広い視野で精神看護を考えることができるようなテキストとすることにした。多くの読者の皆さまに,知的な楽しみを味わいながら,精神看護学を学んでいってほしいと願っている。
2021年1月
著者を代表して
武井麻子
目次
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第8章 ケアの人間関係
A ケアの前提
1 自分について知ること
2 ケアする相手を知ろうとすること
3 関係性を理解すること
B ケアの原則
1 人としての尊厳を尊重する
2 互いの境界をまもる
3 応答性を保つ
4 現実検討をする
C ケアの方法
1 そばにいること
2 遊ぶこととユーモア
3 話すこと,聞くこと
4 自分自身であること
D 関係をアセスメントする
1 なぜ関係のアセスメントが必要なのか
2 プロセスレコードの活用
3 「異和感の対自化」を使う
E 患者─看護師関係における感情体験
1 転移・逆転移
2 感情の容器になる
3 「肯定的感情」と「否定的感情」にまつわる誤解
F 関係の視点からみた困難事例
1 攻撃される
2 拒否される
3 何度も同じことを繰り返される
4 ふりまわされる
G チームのダイナミクス
1 チームのダイナミクス
2 チームのスプリッティング(分裂)
3 カンファレンスでおこること
第9章 回復を支援する
A 回復の意味
1 回復とはどういうことか
2 リハビリテーションからリカバリーへ
B リカバリーのビジョン
1 リカバリーは1人ひとりのユニークな旅
2 リカバリーの中心はエンパワメント
C 治療の場におけるリカバリーの試みと看護の視点
1 急性期病棟におけるリカバリーの事例
2 慢性期病棟におけるリカバリーの事例
3 誰にでも回復の可能性はある
4 看護師にとってのリカバリー
D リカバリーを促す環境
1 心の成長と環境
2 浦河べてるの家の“非”援助の思想
3 コミュニティミーティングという方法
E リカバリーを促す方法としてのグループ
1 治療の中心となるグループプログラム
2 グループの原則
3 グループのセッティングとリーダーの任務
4 スタッフのグループへの参加の仕方
5 グループのレビューと記録
F さまざまな回復のためのプログラム
1 疾病管理とリカバリー(IMR)
2 ソーシャルスキルトレーニング(SST)
3 認知行動療法(CBT)
4 浦河べてるの家の当事者研究
5 マインドフルネス認知療法(MBCT)
G リカバリーのプロセス
1 生きにくさのはじまり
2 死の淵をさまよい,医療にたすけを求める
3 回復の糸口を見つけるための実験の日々
4 リカバリーを支える社会を構築する
第10章 地域におけるケアと支援
A 「器」としての地域
1 病院から地域へ
2 地域をメンタルヘルスケアの「器」に
3 「器」としての地域づくりの実践例
B 地域における生活支援の方法
1 地域で精神障害者を支援する際の原則
2 地域生活を支えるシステムと社会資源
C 地域におけるケアの方法と実際
1 ケアマネジメントという方法
2 アウトリーチと多職種連携
3 複合的な問題をかかえた長期入院患者の退院を支援する
4 再発の危機を乗りこえる
5 クライエントとしての家族/パートナーとしての家族
D 学校におけるメンタルヘルスと看護
1 学校におけるメンタルヘルスの現状と課題
2 学校における児童・生徒への支援
3 チームとしての学校
4 特別な配慮が必要な児童・生徒への支援
E 職場におけるメンタルヘルスと精神看護
1 働く人の心の健康(メンタルヘルス)の現状
2 職場におけるメンタルヘルスケアと職場復帰支援制度
3 職場でのメンタルヘルス支援の実際
第11章 入院治療の意味
A 精神科を受診するということ
1 日常生活での「つまづき」
2 入院という体験
3 日本の精神科病棟の特徴
B 治療の器としての病院・病棟
1 なんのために入院するのか
2 治療的環境としての病棟
C 入院中の観察とアセスメント
1 入院時のオリエンテーション
2 観察とアセスメントの方法
D ケアの方向性を考える
1 患者の日常生活状況を知る
2 患者の参加とケアプランのたて方
E 退院に向けての支援とその実際
1 長期入院がもたらすもの
2 地域生活への橋渡し
3 多職種連携による地域移行支援
4 患者─看護師関係の終わり方
第12章 身体をケアする
A 精神科における身体のケア
1 精神療法としての身体のケア
2 身体化する患者の世界
3 精神科におけるフィジカルアセスメントのむずかしさ
B 精神科における身体を通した看護ケアの実際
1 急性期における身体のケア
2 回復期における身体のケア
3 慢性期における身体のケア
4 日常生活における身体のケア
5 睡眠とそのケア
C 精神科の治療に伴う身体のケア
1 薬物療法を受ける患者のケア
2 電気けいれん療法を受ける患者のケア
D 身体合併症のアセスメントとケア
1 メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)
2 やせ(るい瘦)
3 肺炎
4 骨折
5 窒息
6 悪性新生物(がん)
E 精神科における終末期ケア
第13章 安全をまもる
A リスクマネジメントの考え方と方法
1 安全の条件
2 リスクマネジメントと行動制限
B 緊急事態に対処する
1 緊急事態とはなにか
2 自殺
3 暴力
4 無断離院
5 感染症
C 緊急事態とスタッフの支援
1 当事者となったスタッフへのケア
2 ピアサポートとしてのグループディブリーフィング
第14章 医療の場におけるメンタルヘルスと看護
A 身体疾患をもつ患者のメンタルヘルス
1 メンタルヘルスと慢性身体疾患
2 身体疾患患者が示す精神症状
B リエゾン精神看護とその活動
1 リエゾン精神看護とはなにか
2 リエゾン精神看護の歴史
3 リエゾンナースの役割
C リエゾンナースの活動の実際
1 精神疾患をもつ患者が一般病棟で治療を受けるとき
2 手術後の患者にせん妄がみられるとき
3 痛みのために患者が「死にたい」と訴えているとき
4 怒りで患者がチームを分裂させるとき
D 看護師のメンタルヘルスへの支援
第15章 災害時のメンタルヘルスと看護
A 災害時における心のケア
1 災害時における心のケアの必要性
2 災害時の心のケアにおける個人とコミュニティの視点
3 災害弱者としての精神障害者
4 災害派遣精神医療チーム(DPAT)の活動
B 災害にみまわれた人の心理とケア
1 災害にみまわれた人の心理
2 災害急性期の心のケア
3 病院が被災したとき
C 支援者のメンタルヘルスとケア
1 緊急事態ストレスマネジメント(CISM)の方法
2 CISMの介入方法
第16章 看護における感情労働と看護師のメンタルヘルス
A 看護師の不安と防衛
B 感情労働としての看護
1 感情労働とは
2 看護における感情ルール
3 なぜ,感情ワークが必要になるのか
C 看護師の感情ワーク
1 表層演技
2 深層演技
3 「職場での自分」と「本当の自分」の分割
4 感情麻痺
D 看護における共感の光と影
1 看護師を悩ませる共感とは
2 共感のさまざまなかたち
3 共感ストレス
4 共感疲労と二次的外傷性ストレス障害
5 共感疲労をおこしやすい人,おこしにくい人
E 感情労働の代償と社会
1 現代社会がつくり出す「むずかしい患者」という存在
2 「むずかしい患者」とトラウマ
3 感情労働が看護師のメンタルヘルスに及ぼす影響
4 感情労働が職場の人間関係に及ぼす影響
F 共感疲労を予防するためのいくつかのヒント
1 レジリエンスを高める
2 新たなケアの文化を創造する
索引
Column・NOTE
共同注視
〈看護の理論家たち①〉ペプロウ
〈看護の理論家たち②〉オーランド
〈看護の理論家たち③〉トラベルビー
『絲的ココロエ――「気の持ちよう」では治せない』
〈看護の理論家たち④〉オレムとアンダーウッド
〈看護の理論家たち⑤〉セシュエー
パトリシア=ディーガン
ある日のコミュニティミーティング
アサーティブトレーニング
認知的不協和
マインドフルネスストレス低減法
マゼンタリボン運動
回復をはかる尺度の例
ソーシャルビジネス
メアリー=エレン=コープランド
ハウジングファースト
障害者雇用率制度
ジョブコーチ
特例子会社制度
アドボカシー
意図的なピアサポート(IPS)
エンパワメントとケアマネジメント
入院のとらえ方
ストレスチェック制度
過労死
精神保健審判所
ソテリア─ベルン
施設がつくり出す病い――施設病(症)
生活療法と生活臨床
入院患者の退院先
毛づくろい信号としての身体症状
〈看護の理論家たち⑥〉シュヴィング
足医者
「副作用どめ」としての抗パーキンソン薬の害
水中毒への対応
持効性注射薬とその注意点
ルール違反を治療的に取り扱う
さまざまな拘束のかたち
ニュージーランド人患者死亡事件
隔離・拘束防止のための6つのコア戦略
心理学的剖検
患者の興奮がおさまらない場合の対応:受動的拘束の方法
世界的健康リスクとしてのアルコール関連問題
精神科リエゾンチーム
せん妄とベンゾジアゼピン系薬剤
スピリチュアルペイン
災害弱者と人権問題
福祉避難所
ロジスティクス
共感の原語は?
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