精神看護学[1]
精神看護の基礎 第6版
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- 本巻では、精神看護の基礎として、現代社会におけるメンタルヘルスや精神医療の現状、精神保健・精神看護のニーズ、人間の心を理解するために必要な理論、集団の心理のとらえ方、主要な精神障害とその治療、精神障害と医療の歴史、精神障害に関連する主要な法律を学びます。
- 精神看護の実践においては、人間の心や人間関係についての深い理解が欠かせません。単なる知識の提供ではない系統的な解説により、学生に“深い理解”の基盤を育むことができるでしょう。
- 学生が具体的なイメージをもちやすいよう、随所に、事例やエピソードを盛り込んでいます。通常、なかなか想像しにくい精神症状や精神疾患についても、多くの事例を掲載しており、効果的な学習が行えます。
- 第6版では、近年のわが国の精神科医療の動向をふまえ、精神の障害をもつ人が地域で暮らすことを当たり前の前提とし、地域でのケアをより重視した改訂を行いました。また、第3章では、近年の脳神経科学の研究成果を多く取り入れたほか、第5章や第6章では、精神疾患や精神療法、精神科薬物療法の説明がさらにわかりやすくなるよう、看護の視点や事例を加えるなどの工夫を行いました。
- 「系統看護学講座/系看」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ | 系統看護学講座-専門分野 |
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著 | 武井 麻子 |
発行 | 2021年02月判型:B5頁:416 |
ISBN | 978-4-260-04213-0 |
定価 | 2,530円 (本体2,300円+税) |
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- 目次
序文
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はしがき
第6版への序
今回,第6版を刊行するにあたり,従来の内容を見直し,大幅な改訂を行うことにした。その背景には,近年における日本の精神科医療および精神保健福祉サービスのあり方の急激な変化がある。これまでも,国は精神保健福祉対策として,精神科病院を中心とした入院治療から地域ケアへという方針を打ち出してはいたが,現実にはその転換は遅々として進まず,入院患者の大幅減少とはならなかった。したがって,精神看護といえば,必然的に入院時のケアが中心となっていた。
しかし,いまや日本でも多くの精神科病院に急性期病棟が設置されるなどして,入院患者の早期退院がはかられるようになってきた。その結果,全体として精神病床の数は減らないものの,平均在院日数は明らかに短縮してきている。実際には,長期入院患者の退院はさほど進んではおらず,急性期の入院患者の回転が速くなってきているのである。そのため,急性期病棟の看護は,従来の慢性期の患者,とくに長期入院の患者に対する治療やケアが中心であったころとは,看護業務の内容も看護師の役割も大きくかわってきている。また,障害者権利条約の発効などもあり,患者の権利擁護についての要請も高まってきている。
一方病院外では,地域の状況に応じた精神保健福祉サービスのシステム構築が求められるようになった。当事者(患者)や家族などのためのさまざまな事業が全国で行われ,多様なサービスが提供されるようになった。地域ではたらく看護師も増え,訪問看護をはじめとして看護ケアのあらたな方法が模索され,実践されるようになった。それに伴い,精神障害をもちながら地域で生活している人々と看護師との関係にも,あらたな発想が求められるようになってきた。すなわち,当事者中心の考え方である。
そこでは,疾患の治療よりも回復(リカバリー)が目標となる。そして,回復のビジョンは当事者1人ひとりによって異なる。しかも,地域で暮らす当事者のニーズは医療に限られたものではない。そこで看護師には,患者の介護や指導といった役割ではなく,自己実現に向けて回復への道のりを進んでいこうとする当事者のパートナーとしての役割が期待されるようになった。それは,これまで病院という枠のなかであたり前のように行ってきたケアとは異なるものである。
当事者中心のケアやエンパワメントという考え方の重要性は,従来の精神看護においても違いはなく,これまでの版でも強調してきたつもりである。しかし,地域においてはさらにその側面が強くあらわれてくる。
そこで第6版では,第2巻にあたる『精神看護学[2]精神看護の展開』において,地域における看護ケアを前提として,入院時のケアをそのなかに位置づけることにした。すなわち,看護は入院からはじまるのではなく,地域で暮らすことから出発するのである。また,さまざまな地域での実践例を豊富に紹介することで,当事者中心の地域ケアのイメージを明確に示していくことにした。
また,第1巻にあたる『精神看護学[1]精神看護の基礎』においても,大きな改訂を行った。それは,「トラウマ」についての理解である。第5版でも,東日本大震災をはじめとするかずかずの大規模災害を経て,多くの人々がトラウマ体験をくぐりぬけ,その影響をこうむってきたことから,トラウマを重要な視点として取り上げてきた。
今回は,最近のトラウマに関する脳神経学的研究の進展をふまえ,新たな生物学的知見を付け加えた。それによって,これまでの心理学的な知見の妥当性が裏づけられているのである。自然災害のような突発的なトラウマだけでなく,児童虐待などの日常的なトラウマが生み出す愛着障害は,近年とくに注目されているテーマであり,看護においても「むずかしい患者」の理解ともつながる重要な視点を提供するものである。
このように,今回の改訂では,さまざまな領域で注目されている多くの情報を盛り込み,広い視野で精神看護を考えることができるようなテキストとすることにした。多くの読者の皆さまに,知的な楽しみを味わいながら,精神看護学を学んでいってほしいと願っている。
2021年1月
著者を代表して
武井麻子
目次
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第1章 精神看護学で学ぶこと
A 精神看護学とはなにか
1 精神看護学の名称が示すもの
2 精神看護学の基本的な考え方
3 精神看護学で学ぶこと
B 精神障害をもつ人の病いの体験と精神看護
1 想像を絶する苦痛に満ちた病いの体験
2 現実の苦痛と病いの苦痛
3 精神障害者がかかえる「現実の問題」と生きにくさ
4 「生きにくさ」と人間の葛藤
5 病いの苦しみと環境の不寛容
6 治癒から回復へ
C 「心のケア」と日本社会
1 災害と「心のケア」
2 日本における自殺問題とメンタルヘルス
3 地域医療の主要課題としての精神疾患
D 精神看護の課題
1 世界的な課題としてのメンタルヘルス
2 世界からみた日本の精神科医療の課題
3 多様化する精神科医療のニーズ
4 入院治療から,地域生活の支援へ
E この本で伝えたいこと
第2章 精神保健の考え方
A 精神の健康とは
1 「ふつう」というものさし
2 統一した診断基準の必要性
3 精神の健康と障害の3つの側面
4 精神の健康の基準
B 心身の健康に及ぼすストレスの影響
1 生体システムとしてのストレス反応
2 ストレスの社会文化的側面
3 精神保健における危機というとらえ方
4 ストレスに対応する個人のなかの力
C 心的外傷(トラウマ)と回復
1 心的外傷(トラウマ)体験と生存者(サバイバー)の心理
2 日常生活のなかのトラウマ
3 非道処遇が子どもの成長・発達に及ぼす影響
4 トラウマによるストレス反応の特徴と脳神経学の知見
5 トラウマと問題行動
6 回復への道
7 「安全である」と感じることの重要性
8 ストレスをしなやかにはねかえす力――レジリエンス
D 精神障害というとらえ方
1 「疾患」か「障害」か
2 精神障害者の法律的定義
3 疾患モデルと障害モデル
4 国際生活機能分類(ICF)の考え方
5 精神保健における3つの予防概念
第3章 心のはたらきと人格の形成
A 心のはたらき
1 意識と認知機能
2 感情
3 学習と行動
4 知能
5 心の理論
6 心理的特性をはかる検査
B 心のしくみと人格の発達
1 人格と気質
2 意識と無意識――精神分析と精神力動理論
3 よい乳房・わるい乳房――対象関係論
4 ライフサイクルとアイデンティティ――エリクソンの漸成的発達理論
5 愛着と心の安全の基地――ボウルビーの愛着理論
6 自己愛と自己対象体験――コフートの自己心理学
7 「甘え」理論
第4章 関係のなかの人間
A システムとしての人間関係
1 システムとはなにか
2 二者間における2つの関係パターン
B 全体としての家族
1 家族と精神の健康
2 家族の関係性とコミュニケーションに関する研究
3 家族システムという考え方
4 家族のストレスと感情表出
C 人間と集団
1 集団と個人
2 グループの活用――なぜグループなのか
3 全体としてのグループ
4 組織をグループとしてみる――組織のダイナミクスと職場の人間関係
第5章 精神科疾患のあらわれ方
A 精神を病むことと生きること
1 「病いの経験」の理解への手がかり――疾患と病い
2 さまざまな病気の説明の仕方をさぐる
3 看護と精神医学の広がり
B 精神症状論と状態像――理解への手がかり
1 症状とはなにか
2 さまざまな精神症状
C 精神障害の診断と分類
1 診断と疾病分類
2 統合失調症
3 気分[感情]障害〔双極性障害および関連障害群,抑うつ障害群〕
4 神経症性障害,ストレス関連障害および身体表現性障害
5 精神作用物質使用による精神および行動の障害
6 各発達段階であらわれやすい精神障害・心的不調
7 その他
第6章 精神科での治療
A 精神科における治療
B 精神療法
1 個人療法
2 集団精神療法
3 家族療法
C 薬物療法
1 精神科治療における薬物療法の意義
2 向精神薬とその種類
3 看護師による服薬へのかかわり
D 電気けいれん療法その他
1 電気けいれん療法(ECT)
2 その他の身体療法
E 環境療法・社会療法
1 環境療法・社会療法の歴史
2 治療共同体の実践
3 日本における社会療法の歴史
4 作業療法(OT)
5 精神科リハビリテーション
第7章 社会のなかの精神障害
A 精神障害と治療の歴史
1 精神障害と宗教治療
2 岩倉保養所とゲールコロニー
3 ギリシャ時代の精神医学――ヒポクラテスからガレノスまで
4 アラビア医学と中世以降の魔女裁判
5 ピネル,エスキロールと,フランスにおける近代精神医学の夜明け
6 モラル療法と精神病者の人権擁護運動
7 モラル療法から近代精神医学へ
8 クレペリン,ブロイラー,そして統合失調症
9 ショック療法と積極的身体療法
10 病院精神医学から地域・社会精神医学へ――社会療法の流れ
B 日本における精神医学・精神医療の流れ
1 第二次世界大戦までの精神障害者の処遇
2 呉秀三の松沢病院改革と精神科看護
3 戦後日本の精神保健福祉
4 1980年代以降の人権擁護に関する動き
5 2000年以降の長期入院者の地域移行の動き
6 精神障害者にも対応した地域包括ケアシステム
C 精神障害と文化――多様性と普遍性
1 国際化と地球規模の人々の移動
2 文化的感受性と文化的能力
3 文化接触や文化変容と精神医学的問題
4 特定の文化と結びついた精神障害
5 精神障害の診断は世界的な普遍性をもつのだろうか
6 移民や移住者のメンタルヘルス
D 精神障害と社会学
1 逸脱とスティグマ――社会的烙印
2 精神病院の社会学的研究
3 ソーシャルインクルージョン――新たな福祉社会への道
E 精神障害と法制度
1 精神看護における法律
2 精神科領域で必要な法律と制度
3 法律・制度における課題
F おもな精神保健医療福祉対策とその動向
1 自殺対策
2 依存症対策
3 認知症対策
4 その他の健康問題への対策
資料1 精神保健ケアに関する法:基本10原則
資料2 平均在院日数の数え方
資料3 精神医療史年表
索引
Column・NOTE
「障害」の表記
ストレスとは
自由と能動性を奪われる体験と死
喪失と悲嘆
非道処遇(マルトリートメント)
コミュニティという言葉の意味するもの
高次脳機能障害
ミラーニューロンと同調
映画「インサイド・ヘッド」が伝えるもの
学習性無力感
アール─ブリュット(生の芸術)
テンプル=グランディンと東田直樹
ユング心理学(分析心理学)
退行は必ずしもわるいことではない
「内容─容器」モデル
アダルトチルドレン(AC)
反社会的傾向と希望
適応・不適応
メンタライゼーション
自己対象体験と自己対象
医療の場の「甘え」
一般システム理論
ソシオメトリー
『プリズン・サークル』
兵士のおしゃべりグループから生まれた心的外傷からの回復への道
緊張病(カタトニア)
幻の声を聞く
統合失調症の経過と予後
渇望
ダルク(DARC)
燃えつき症候群(バーンアウト症候群)
睡眠麻痺(金縛り)
EMDR
カタルシス
シャーマンと癒し
エスキロールとモラル療法
呉秀三と清水耕一
石橋ハヤと斎藤茂吉
難民のケースから
多文化社会の縮図としての精神科病院
精神医療審査会
心神喪失者と心神耗弱者
処方薬・市販薬の依存問題
女性と飲酒
更新情報
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