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高齢者ERレジデントマニュアル

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「成人と高齢者は鑑別が異なる。マネジメントも異なる。高齢者は評価に時間がかかる」――。そんな悩みを抱える若手医師に向けて、本書は1)成人との比較論でない高齢者の特徴、2)診断できなくても結局どうするか、3)高齢者でも短時間で評価が可能なテクニックを解説した。救急搬送が年間1万台のERで研修医と日々奮闘している筆者が「高齢救急患者特有の診療・マネジメント」のコツを余すところなく注ぎ込んだマニュアル。

*「レジデントマニュアル」は株式会社医学書院の登録商標です。

【P15のケタミンに関する著者注記】 稀にケタミン使用時に低酸素血症が起こる場合もある。原則として、ケタミン自体には呼吸抑制作用はないため、低酸素血症は舌根沈下が原因のことがほとんどである。そのため経験的ではあるが、ケタミン使用時の低酸素血症には経鼻エアウェイなどで気道を確保すれば対応できることが多い。

シリーズ レジデントマニュアル
増井 伸高
発行 2020年04月判型:B6変頁:298
ISBN 978-4-260-04182-9
定価 3,960円 (本体3,600円+税)

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●増井先生の動画「高齢者ERのCliché」が「医学書院Column」で見られます!

「高齢者ERレジデントマニュアル」の増井伸高先生が、高齢者救急診療で陥りがちな「あるある」(クリシェ)を実際の症例を基に解決します! 全5回。

高齢者ERのCliché.png
[動画]高齢者ERのCliché

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はじめに 対象年齢65歳以上のERマニュアル

 救急搬送の60%以上は65歳以上,ERのストレッチャーの半分以上が高齢者です.しかし高齢者専用のERマニュアルが手元になければ,成人用ERマニュアルを開くしかありません.これは小児科診療で成人用ERマニュアルを使うようなもの.時々これでうまくいかないのがレジデント「あるある」です.その理由は3つあります.

成人用ERマニュアルではうまくいかない理由
 ① 成人と高齢者は鑑別が異なる
 例えば発熱した成人はウイルス感染(≒風邪)が多いですが高齢者では細菌性感染のほうがCommonです.同じ症候でも鑑別疾患が異なれば検査も変わります.
 さらに高齢者は「元気がない」「いつもと様子が違う」など特有の訴えで来院します.こうした症候が成人用マニュアルになければマネジメントができません.
 「3か月未満新生児の発熱」や「泣きやまない子供」を成人用マニュアルで対応できないように,「高齢者の感染症」や「元気がない高齢者」は成人用マニュアルでの対応は限界があります.

 ② 成人と高齢者はマネジメントが異なる
 成人用のERマニュアルでは帰宅とされる症例も,高齢者では社会的入院となるケースは多いですよね.同じ検査結果や診断でも成人と高齢者は入院と帰宅を決定するマネジメントが異なるのです. また成人は診断がつくことが多く,マニュアルでも診断名ごとに対応が記載されます.しかし高齢者はむしろ診断がつかないことが多いです.複数の疑い診断のままでもマネジメントが可能なマニュアルが必要です.

 ③ 高齢者は評価に時間がかかる
 成人用マニュアルを使用すると成人では1時間で終わる評価が,高齢者では3時間以上かかってしまうことがあります.これではERが混雑し回らなく・・・・なってしまいます.高齢者でも短時間で評価できる「テクニック」が書かれたマニュアルが必要です.

 こうした高齢者ER診療の問題を解決にするために本書は以下の3つの特徴があります.

本書の3つの特徴
 ① 成人との比較論でない高齢者の特徴を記載
・成人からみて「高齢者はここが違う」という記載はあくまで成人目線の医学書,そこで本書は「高齢者は○○という特徴がある」という高齢者目線で記載しました.
・成人との比較論でなく,高齢者中心論でとらえることが高齢者診療で重要です.
・高齢者中心論として,成人にはない高齢者特有の症候も多数用意しました.
・疾患も高齢者で特に多いものは掘り下げ,成人にしか認めない疾患は割愛しました.

 ② 診断できなくても,結局どうするか詳しく解説
・診断がつかないケースでの具体的な対応法を記載しました.
・診断不明のままでも,どんな治療をするか? 誰にコンサルトするか? どのように帰宅・入院を決めるか? 現場で困る「結局どうする?」に答えました.
・方針決定に社会的背景の評価方法は必須であり詳しく記載しました(p 251,PART 3).
・検査オーダーもどの検査が必要か,あるいは不要かを症候ごとに詳しく解説しました.
・一方で,どうしても検査が多くなる高齢者診療で起こる,「想定外の検査異常」への対応方法もページを割いて記載しました(p 209,PART 2).

 ③ 高齢者でも短時間で評価が可能なテクニックを解説
・今まで3~4時間かかっていた高齢者ER診療を,1~2時間にするための工夫を随所に記載しました.
・1 高齢者診療の基本(p 2)を眺めるだけでも時間短縮のコツがわかるはずです.
・ERでは時間を操ることを強く求められます.そのため正しい対応をしても長時間かかるレジデントの評価は低いです.
・より短時間で正しい対応をするレジデントの評価が高いのは,それが患者予後をよくするのを皆が知っているからです.

 高齢者診療が楽しく感じないという医療者は少なくありません.楽しくないと高齢者や家族・介護者に冷たくなってしまうかもしれません.ただし高齢者業務はERの仕事の半分以上を占めます.面白くない,患者さんにも優しくできない……これは非常にもったいないです.
 そこで,このマニュアル本の登場です.多くを知らなくてもできるようになります.できると楽しくなり,高齢者へ優しくできます.そして皆さんだけでなく,皆さんが診療する高齢者とその家族や介護者も,ちょっぴり幸せになることを保証いたします.

 2020年3月
 増井伸高

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PART 1 症候のWork up
 1 高齢者ER診療の基本
 2 せん妄(元気がない,いつもと違う,動けない)
 3 意識障害
 4 ショック
 5 呼吸苦・低酸素血症
 6 気道・呼吸管理(NPPV,挿管,人工呼吸器)
 7 発熱・感染症
  1.高齢者感染症の基本
  2.肺炎
  3.尿路感染症
  4.皮膚軟部組織感染 ①:蜂窩織炎
  5.皮膚軟部組織感染 ②:壊死性軟部組織感染症(NSTI)
  6.皮膚軟部組織感染 ③:褥瘡感染症
  7.皮膚軟部組織感染 ④:帯状疱疹
  8.ウイルス感染症(含むインフルエンザウイルス感染)
  9.偽痛風
  10.胆囊炎
  11.胆管炎
  12.熱中症
  13.熱源・感染源がわからない場合の対応
 8 失神・転倒
 9 胸痛・循環器疾患
 10 麻痺・脳血管障害
 11 痙攣
 12 めまい
 13 嘔吐
 14 吐血・下血
 15 腹痛
 16 外傷初期評価
 17 頭頸部外傷・顔面外傷
 18 腰痛
 19 股関節痛
 20 四肢外傷(主に転倒に伴うもの)
 21 創傷処置
 22 マイナーER(外傷以外)
 23 アルコール関連疾患
 24 心肺停止

PART 2 検査異常への対応
 25 検査オーダーのタイミング
 26 血液ガス検査異常
 27 血算・凝固検査異常
 28 電解質異常
 29 血糖値異常
 30 肝機能検査異常・腎機能検査異常
 31 心電図異常

PART 3 ルーチンワークと方針決定
 32 薬剤評価・ポリファーマシー
 33 生活環境評価・介護保険
 34 入院・帰宅の方針決定

索引

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通読したくなるマニュアル本
書評者: 坂本 壮 (総合病院国保旭中央病院救急救命科)

 私は増井伸高先生に嫉妬している。そりゃそうでしょ,こんなに毎回毎回読みたくて仕方がない本を書かれるのだから。心電図,神経救急,さらに骨折,おっと忘れてはいけない救急隊向けの本から外国人診療の本まで……。「こんな本を書きたいな」と思ったら,そのはるか上をいく素晴らしい本を私のスマートフォンがしつこく薦めてくる。私は対面でお目にかかったことはないのだが,講演をオンラインで拝聴したことはある。これまた面白い,そしておそらく増井先生はいい人だ。知らぬ間にファンになっていた。そんな増井先生の最新作『高齢者ERレジデントマニュアル』,読まないわけにはいかない。

 救急外来を訪れる多くは高齢者であり,そのマニュアルとならばとんでもなく分厚い本になりそうだが,この本は全34項目で構成され,各項は数ページから多くても10ページ程度とコンパクトにまとめられている。この薄さにもかかわらず知りたい情報,私にとっては知識の再確認と後輩指導に役立つ情報は網羅されているのだ。私も数冊救急関連の本を書いているが,どうしても経験が浅いが故に記載の根拠として多くの論文を引用し,それを自慢気に記載してしまいがちだ。大切なことは読者の行動をよりよい方向へ向けることであり,多くの情報が紙面上で羅列してあると重要な点が伝わりづらいものである。本書の特徴・利用時の留意点には,あえてボリュームダウンしたと記載があり,その量が「上級医が高齢者ERを若手教育するときの情報量としてちょうどよい塩梅」だとある。私にとってドンピシャの本だったわけである。  

 めまいの項では「先行感染の確認が前庭神経炎の診断に役立つことはまずない」,「HINTSはレジデントには難しい」とある。ここまで言い切ってくるとすがすがしいでしょ。こんなパールも随所に記載され,さらに各テーマ(症候)の最後には「高齢者は成人とここが違う!」という見出しが置かれ,レジデントが陥りやすい注意点がまとめられている。現場ですぐに使用でき,さらにはそこから「より深く知りたい」という好奇心が駆り立てられる内容が満載だ。引用文献が知りたい,もっと詳しく知りたい場合には,な,な,なんと増井先生はそのあたりも見越して,「情報源となる引用文献が知りたければ質問OK,ライブ講演も依頼してね」とメールアドレスの記載までご丁寧にある。これを良い機会として増井先生と連絡を取ってみるといいのでは?!  

 マニュアル本の多くは通読できない。内容が素晴らしくても読むのに疲れてしまう。こんなに読みやすいマニュアル本は他には知らない。さぁ,この本を持ってERへ出かけよう!  
 
救急医と老年科医の懸け橋
書評者: 岩田 充永 (藤田医大教授・救急総合内科学)

 本当に挑戦的なマニュアルが出版されたものである。

 救急が好きな人間は,「18歳バイク事故で,血圧60で……」とホットラインで聞いた瞬間にアドレナリンが放出されるが,「82歳男性,今日はベッドから起きてくることができません……」と聞くとどのような反応になるであろうか?

 反対に,老年科医の中では,「ERはちょっとねえ~」と救急に対する苦手意識が見え隠れするのが現実であると感じる。

 救急医からも老年科医からも敬遠されがちなテーマを正面から扱って,マニュアルにする著者の勇気をまず心からたたえたい。マニュアルを執筆するアウトプット作業は,医師にとって本当に身を削る思いである。出版社だってそれなりの購入部数が見込めなければ発売しないだろう。15年前に,「高齢者救急」なんて誰も真剣に考えていなかった分野を自分の専門にしてみたいと思った立場としては,救急医と老年科医の懸け橋となるような本書の出版がうれしくて仕方がない。

 高齢者救急マニアは,すぐに手に取って全ページを読んでしまうわけだが,高齢者救急が苦手であっても「1 高齢者ER診療の基本」「2 せん妄(元気がない,いつもと違う,動けない)」「32 薬剤評価・ポリファーマシー」「33 生活環境評価・介護保険」「34 入院・帰宅の方針決定」だけは熟読してほしい。高齢者救急への処し方が理解できる。

 私たちが本書から学ぶべきことの1つは,ERで目の前の高齢者診療を適切に行うことである。しかし,もう1つ学ぶべき大切なことがあると感じる。それは,高齢者救急は小児・成人救急のようにスッキリと正解が1つに決まらない,「症例によって最適解が異なる」ということである。症例に出合うたびに,目の前の高齢者,そのご家族の状況を考えて最適解を考える……なんて高度な技量が必要な医療なのだろう。あらためて反省させられた。

 本書を手に取った若手医師には,ぜひ271ページの「力いっぱい悩むこと」を熟読し実践してほしい。本書が救急医と老年科医の懸け橋となることを願ってやまない。  
 

 スタンダードな高齢者救急診療を体で覚えるためのERマニュアル!
書評者: 関口 健二 (信州大病院特任教授・総合診療科長)

 良質な研修病院で研修を行うことのメリットは何でしょう。僕が米国臨床留学で感じたそのメリットとは,「十分な知識や経験がなくても,その施設でルーチンとなっている診療がスタンダードな診療であるため,それらを体で覚えられること」でした。

 僕が20年前に経験した初期研修では,必ずしもスタンダードな診療がルーチンになっているとは言いがたく,バイブルとしたのは『ワシントンマニュアル』でした。ボロボロになるまで使い続けたワシマニに何度救われたことか。20年を経た今,良質なマニュアルが数多く出版されるようになって,研修医にとってはどこででもスタンダードな診療がやりやすい状況になったと言えると思います。

 しかし,高齢者診療はどうでしょう。高齢者は複雑で非典型的で,おまけに予後が悪い。フレイルな高齢者であればなおさらです。しかし「複雑であるがゆえに予後が見えにくい」と言うこともできます。「予後が見えにくいので,スタンダードな診療が提供されていなくても気付かれにくい」という側面があるのです。でも,多くの医療者は気付いているはずです。「もう少し何とかできたんじゃないか」と。

 人類の歴史上,未曽有の超高齢社会を現在進行形で経験している日本において,高齢者救急診療をスタンダードなものにすることは喫緊の課題であることに疑いはありませんが,それを教えてくれる指導医はどこにでもいるわけではありません。その若き医師たちの違和感,不全感を払拭するために登場したのがこのマニュアルです。

 老年医学のトレーニングにはそのための時間と環境が必要です。そのどちらも「すぐに手にすることのできない」若き医師には,明日からできる行動変容こそが必要です。「十分な知識や経験がなくても,スタンダードな診療を,まずは体で覚える」ことが必要なのです。そのためのこの一冊。時間に制限のあるERセッティングで,「PART 1にざっーと目を通しながらこのマニュアルに沿ってアプローチする,そしてPART 3に目を通しながら入院/帰宅へとつなげる」を繰り返してみてください。いつの間にかスタンダードな高齢者救急診療を体で覚えている自分に気付くはずです。

 救急に出る初期研修医,夜間自分が一番上になる専攻医,救急で指導に当たる指導医の先生方,このコンパクトな一冊をポケットに入れてからERに向かうべし! 明日からの高齢者救急診療が楽しみになることでしょう!

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