甲状腺細胞診アトラス
報告様式運用の実際
わが国最初の甲状腺細胞診に特化したモノグラフ
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「甲状腺癌取扱い規約」第7版(2015年刊)に準拠した、わが国最初の甲状腺細胞診に特化したモノグラフ。個々の病態について多数の写真を掲載し、日常的に用いられる報告様式に基づいて、細胞の特徴や所見を分かりやすく解説している。WHO組織分類とベセスダシステムの改訂がもたらした、わが国の甲状腺疾患の診断・治療の現場におけるある種の混迷状態に終止符をうつことを目指している。
編集 | 坂本 穆彦 |
---|---|
発行 | 2019年06月判型:B5頁:256 |
ISBN | 978-4-260-03909-3 |
定価 | 11,000円 (本体10,000円+税) |
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
開く
序
甲状腺腫瘍の組織診・細胞診の国際標準として広く用いられているWHO甲状腺組織分類とベセスダシステム甲状腺細胞診報告様式が,2017年に改訂されました.これまでわが国の組織診・細胞診の基準は甲状腺癌取扱い規約に記載され,その内容は基本的にWHO組織分類・ベセスダシステムに準拠したものでした.
しかしながら,今回のWHO組織分類およびベセスダシステムの改訂は米国の医療事情を色濃く反映しており,そのままただちにわが国に導入できるものではないようです.例をあげると,過剰治療を防止するために乳頭癌の一部を癌とは診断せず,新たに設けた境界病変に移動させました.これを細胞診でみると乳頭癌の所見を示すので,判定に混乱をまねくことは避けられません.米国では細胞診で悪性と判定されれば,甲状腺全摘術と追加放射線療法を行うことが標準的治療とされています.すなわち,良好な予後が期待できる症例や経過観察で対応できると思われる症例であっても,全摘術の対象となります.これが米国における過剰治療の大きな要因です.
一方,わが国では細胞診で悪性と判定されても,外科医は患者の癌の状態によりいくつかの選択肢から治療方針を決めます.そのため,米国のような過剰治療の問題はありません.
わが国の甲状腺診療に関係する学術団体が主催する学術集会や学術誌では,WHO組織分類とベセスダシステムの改訂への対応について議論が重ねられてきました.甲状腺診療の専門家の意向は,今回の改訂の導入はわが国の診療にメリットはないという意見が主流になっているようです.近い将来,わが国の「甲状腺癌取扱い規約」は改訂が予定されていますが,そこでは今までの検討結果にもとづいた方針が示されるものと思われます.
この流れを受けて本書では,わが国の甲状腺疾患の診療に最も適していると考えられる現行の「甲状腺癌取扱い規約」第7版(2015年刊)に準拠して,甲状腺細胞診のアトラスと報告様式の運用の実際を詳述しました.本書はわが国で最初の甲状腺細胞診に特化したモノグラフです.とりわけ個々の病態の解説に多数の細胞写真を掲載しているのも本書の大きな特徴です.この刊行により,WHO組織分類とベセスダシステムの改訂がもたらした,わが国の甲状腺疾患の診断・治療の現場におけるある種の混迷状態に終止符をうつことも目指しています.
なお,WHO組織分類およびベセスダシステムは世界的に流布していますので,その内容を把握しておくことも必要です.そのため,「III.NIFTPをめぐる諸問題」として1つの章を設け,境界病変のなかでも特にNIFTP(乳頭癌様核を有する非浸潤性濾胞性腫瘍)に焦点を当てました.NIFTPについて,その提唱の経緯と病変の概容およびNIFTPに関しての各領域の専門家の意見をまとめました.
本書が細胞診や甲状腺疾患の診療に直接携わっている方々やこれらについて関心をお寄せいただいている方々に,日常診療の手引きとして,また知識の整理のよりどころとして広くお使いいただけることを願っています.
文末ながら,本書の刊行にご尽力いただいた医学書院の皆様,とりわけ書籍編集部の大野智志氏,制作部の長友裕輝氏には心よりお礼申し上げます.
2019年6月
坂本穆彦
甲状腺腫瘍の組織診・細胞診の国際標準として広く用いられているWHO甲状腺組織分類とベセスダシステム甲状腺細胞診報告様式が,2017年に改訂されました.これまでわが国の組織診・細胞診の基準は甲状腺癌取扱い規約に記載され,その内容は基本的にWHO組織分類・ベセスダシステムに準拠したものでした.
しかしながら,今回のWHO組織分類およびベセスダシステムの改訂は米国の医療事情を色濃く反映しており,そのままただちにわが国に導入できるものではないようです.例をあげると,過剰治療を防止するために乳頭癌の一部を癌とは診断せず,新たに設けた境界病変に移動させました.これを細胞診でみると乳頭癌の所見を示すので,判定に混乱をまねくことは避けられません.米国では細胞診で悪性と判定されれば,甲状腺全摘術と追加放射線療法を行うことが標準的治療とされています.すなわち,良好な予後が期待できる症例や経過観察で対応できると思われる症例であっても,全摘術の対象となります.これが米国における過剰治療の大きな要因です.
一方,わが国では細胞診で悪性と判定されても,外科医は患者の癌の状態によりいくつかの選択肢から治療方針を決めます.そのため,米国のような過剰治療の問題はありません.
わが国の甲状腺診療に関係する学術団体が主催する学術集会や学術誌では,WHO組織分類とベセスダシステムの改訂への対応について議論が重ねられてきました.甲状腺診療の専門家の意向は,今回の改訂の導入はわが国の診療にメリットはないという意見が主流になっているようです.近い将来,わが国の「甲状腺癌取扱い規約」は改訂が予定されていますが,そこでは今までの検討結果にもとづいた方針が示されるものと思われます.
この流れを受けて本書では,わが国の甲状腺疾患の診療に最も適していると考えられる現行の「甲状腺癌取扱い規約」第7版(2015年刊)に準拠して,甲状腺細胞診のアトラスと報告様式の運用の実際を詳述しました.本書はわが国で最初の甲状腺細胞診に特化したモノグラフです.とりわけ個々の病態の解説に多数の細胞写真を掲載しているのも本書の大きな特徴です.この刊行により,WHO組織分類とベセスダシステムの改訂がもたらした,わが国の甲状腺疾患の診断・治療の現場におけるある種の混迷状態に終止符をうつことも目指しています.
なお,WHO組織分類およびベセスダシステムは世界的に流布していますので,その内容を把握しておくことも必要です.そのため,「III.NIFTPをめぐる諸問題」として1つの章を設け,境界病変のなかでも特にNIFTP(乳頭癌様核を有する非浸潤性濾胞性腫瘍)に焦点を当てました.NIFTPについて,その提唱の経緯と病変の概容およびNIFTPに関しての各領域の専門家の意見をまとめました.
本書が細胞診や甲状腺疾患の診療に直接携わっている方々やこれらについて関心をお寄せいただいている方々に,日常診療の手引きとして,また知識の整理のよりどころとして広くお使いいただけることを願っています.
文末ながら,本書の刊行にご尽力いただいた医学書院の皆様,とりわけ書籍編集部の大野智志氏,制作部の長友裕輝氏には心よりお礼申し上げます.
2019年6月
坂本穆彦
目次
開く
甲状腺腫瘍の組織学的分類
甲状腺細胞診の判定区分と該当する所見および標本・疾患
I 総論
1 甲状腺細胞診の臨床検査における位置付け
a 細胞診と組織診の関係
b 甲状腺穿刺吸引細胞診
2 甲状腺疾患の細胞診と組織診
a 甲状腺細胞診の対象となる疾患
b 甲状腺癌取扱い規約/WHO甲状腺組織分類との関係
c 「甲状腺癌取扱い規約」第7版の意義と甲状腺細胞診報告様式
3 甲状腺細胞診報告様式の概要
a 判定区分
b 所見および推定病変
c ベセスダシステムとの違い
(1)嚢胞液の適正・不適正
(2)悪性危険度と推奨する臨床対応
(3)その他の事項
4 検体採取と検体処理
a 穿刺吸引手技
(1)目的
(2)適応と禁忌
(3)インフォームドコンセント
(4)準備と前処理
(5)超音波診断装置の設定
(6)穿刺部位
(7)刺入法
(8)原理
(9)穿刺方法
(10)穿刺手技
b 塗抹法
c 固定法
d 液状処理検体標本作製法
e 液状処理法導入の意義
5 塗抹標本と液状処理標本の見方の違い
a 液状処理標本の導入
b 液状処理標本における細胞像の一般的特徴
(1)背景
(2)出現様式
(3)細胞質
(4)核
c 代表的な甲状腺疾患における液状処理標本の細胞像
(1)橋本病
(2)腺腫様甲状腺腫
(3)濾胞性腫瘍
(4)乳頭癌
(5)髄様癌
(6)リンパ腫
II 診断カテゴリーに特徴的な細胞所見
1 検体不適正
a 検体不適正とは
b 標本作製不良
c 病変を推定するに足る細胞ないし成分の不足
2 嚢胞液
Memo 悪性の危険度と臨床的対応
Memo 頸部リンパ節穿刺検体が嚢胞液の場合
3 良性
a 腺腫様甲状腺腫
Memo 良性濾胞性結節とは
Memo 濾胞性腫瘍との相違点
Memo 濾胞型乳頭癌との相違点
Memo 通常型乳頭癌の乳頭状構造との相違点
b 甲状舌管嚢胞
c バセドウ病(グレーブス病)
d アミロイド甲状腺腫
e 急性甲状腺炎
f 亜急性甲状腺炎(ド・ケルヴァン甲状腺炎)
g 橋本病(慢性甲状腺炎)
Memo リンパ球性甲状腺炎とは
h IgG4 関連甲状腺炎
i リーデル甲状腺炎
4 意義不明
a 乳頭癌の可能性がある標本
b 濾胞性腫瘍の可能性がある標本
c 好酸性細胞型濾胞性腫瘍の可能性がある標本
d リンパ腫と橋本病の鑑別が困難な標本
e 髄様癌の可能性がある標本
f 特定の病変が推定困難な標本
Memo 臨床的対応と精度管理
5 濾胞性腫瘍
a 濾胞性腫瘍(意義不明を含む)
b 好酸性細胞型濾胞性腫瘍
c 異型腺腫
Memo 濾胞性腫瘍の臨床的対応と精度管理
Memo 「甲状腺癌取扱い規約」第7版と「ベセスダシステム」第2版との違い
6 悪性の疑い
7 悪性
a 乳頭癌
(1)通常型
(2)濾胞型乳頭癌
(3)大濾胞型乳頭癌
(4)好酸性細胞型乳頭癌
(5)びまん性硬化型乳頭癌
(6)高細胞型乳頭癌
(7)充実型乳頭癌
(8)篩型乳頭癌
b 低分化癌
c 未分化癌
d 髄様癌
Memo 診断的アプローチ
e リンパ腫
(1)MALTリンパ腫
(2)びまん性大細胞型B細胞リンパ腫
(3)濾胞性リンパ腫
Memo 術前診断アルゴリズム
f 転移性(続発性)腫瘍
III NIFTPをめぐる諸問題
1 NIFTP誕生の背景と経緯
a 乳頭癌の診断基準の変遷
b 癌として治療することで,どのような不都合が起こったか
c 癌の診断基準が病理医ごとに違っていた
d 境界腫瘍の提唱
e 境界腫瘍は,再発/転移しないのか?
f 境界腫瘍を癌の前駆病変と仮定すると,NIFTPを経過観察したら
進行癌になるのか?
g NIFTPの導入は細胞診にどのような影響を与えるか?
2 WHO 組織分類 第4版で提起されたいわゆる境界病変
a 被包性濾胞型腫瘍とは
b WHO分類 第4版の変更のポイント
3 NIFTPの細胞診判定
a 通常型乳頭癌と濾胞型乳頭癌
b 非浸潤性濾胞型乳頭癌からNIFTPへの改名
c NIFTP導入の影響
d NIFTPによる誤診の防止
e 濾胞型乳頭癌と通常型乳頭癌の細胞所見
f NIFTPと通常型乳頭癌の細胞学的鑑別法
g 乳頭癌の細胞診で特に注意すること
4 細胞診専門医・病理専門医からみたNIFTP
a 被包性濾胞型乳頭癌とNIFTP
b 乳頭癌の核所見とは
c NIFTPの診断基準
d NIFTP診断の実際
e NIFTP診断の問題点
5 病理専門医から見たNIFTP―NIFTPと診断すべき腫瘍とは何か?
a NIFTPの名称が適当かもしれない腫瘍
b 異型腺腫
c 硝子化索状腫瘍
d Well differentiated tumor-uncertain malignant potential(WDT-UMP)
e 被包型乳頭癌
f 濾胞型乳頭癌
g 大濾胞型乳頭癌
h 篩型乳頭癌
i まとめ
6 超音波専門医からみたNIFTP
a 濾胞型乳頭癌の超音波診断
b 濾胞型乳頭癌におけるNIFTPとNIFTP以外の濾胞型乳頭癌との
超音波所見の違い
c NIFTPの臨床像
d NIFTPの診断における超音波診断の位置付け
7 内分泌外科専門医からみたNIFTP
a 術前診断―過剰診断からの対応
b 治療
c 術後診断
d NIFTPは術前診断可能か
e NIFTP導入の問題点
索引
甲状腺細胞診の判定区分と該当する所見および標本・疾患
I 総論
1 甲状腺細胞診の臨床検査における位置付け
a 細胞診と組織診の関係
b 甲状腺穿刺吸引細胞診
2 甲状腺疾患の細胞診と組織診
a 甲状腺細胞診の対象となる疾患
b 甲状腺癌取扱い規約/WHO甲状腺組織分類との関係
c 「甲状腺癌取扱い規約」第7版の意義と甲状腺細胞診報告様式
3 甲状腺細胞診報告様式の概要
a 判定区分
b 所見および推定病変
c ベセスダシステムとの違い
(1)嚢胞液の適正・不適正
(2)悪性危険度と推奨する臨床対応
(3)その他の事項
4 検体採取と検体処理
a 穿刺吸引手技
(1)目的
(2)適応と禁忌
(3)インフォームドコンセント
(4)準備と前処理
(5)超音波診断装置の設定
(6)穿刺部位
(7)刺入法
(8)原理
(9)穿刺方法
(10)穿刺手技
b 塗抹法
c 固定法
d 液状処理検体標本作製法
e 液状処理法導入の意義
5 塗抹標本と液状処理標本の見方の違い
a 液状処理標本の導入
b 液状処理標本における細胞像の一般的特徴
(1)背景
(2)出現様式
(3)細胞質
(4)核
c 代表的な甲状腺疾患における液状処理標本の細胞像
(1)橋本病
(2)腺腫様甲状腺腫
(3)濾胞性腫瘍
(4)乳頭癌
(5)髄様癌
(6)リンパ腫
II 診断カテゴリーに特徴的な細胞所見
1 検体不適正
a 検体不適正とは
b 標本作製不良
c 病変を推定するに足る細胞ないし成分の不足
2 嚢胞液
Memo 悪性の危険度と臨床的対応
Memo 頸部リンパ節穿刺検体が嚢胞液の場合
3 良性
a 腺腫様甲状腺腫
Memo 良性濾胞性結節とは
Memo 濾胞性腫瘍との相違点
Memo 濾胞型乳頭癌との相違点
Memo 通常型乳頭癌の乳頭状構造との相違点
b 甲状舌管嚢胞
c バセドウ病(グレーブス病)
d アミロイド甲状腺腫
e 急性甲状腺炎
f 亜急性甲状腺炎(ド・ケルヴァン甲状腺炎)
g 橋本病(慢性甲状腺炎)
Memo リンパ球性甲状腺炎とは
h IgG4 関連甲状腺炎
i リーデル甲状腺炎
4 意義不明
a 乳頭癌の可能性がある標本
b 濾胞性腫瘍の可能性がある標本
c 好酸性細胞型濾胞性腫瘍の可能性がある標本
d リンパ腫と橋本病の鑑別が困難な標本
e 髄様癌の可能性がある標本
f 特定の病変が推定困難な標本
Memo 臨床的対応と精度管理
5 濾胞性腫瘍
a 濾胞性腫瘍(意義不明を含む)
b 好酸性細胞型濾胞性腫瘍
c 異型腺腫
Memo 濾胞性腫瘍の臨床的対応と精度管理
Memo 「甲状腺癌取扱い規約」第7版と「ベセスダシステム」第2版との違い
6 悪性の疑い
7 悪性
a 乳頭癌
(1)通常型
(2)濾胞型乳頭癌
(3)大濾胞型乳頭癌
(4)好酸性細胞型乳頭癌
(5)びまん性硬化型乳頭癌
(6)高細胞型乳頭癌
(7)充実型乳頭癌
(8)篩型乳頭癌
b 低分化癌
c 未分化癌
d 髄様癌
Memo 診断的アプローチ
e リンパ腫
(1)MALTリンパ腫
(2)びまん性大細胞型B細胞リンパ腫
(3)濾胞性リンパ腫
Memo 術前診断アルゴリズム
f 転移性(続発性)腫瘍
III NIFTPをめぐる諸問題
1 NIFTP誕生の背景と経緯
a 乳頭癌の診断基準の変遷
b 癌として治療することで,どのような不都合が起こったか
c 癌の診断基準が病理医ごとに違っていた
d 境界腫瘍の提唱
e 境界腫瘍は,再発/転移しないのか?
f 境界腫瘍を癌の前駆病変と仮定すると,NIFTPを経過観察したら
進行癌になるのか?
g NIFTPの導入は細胞診にどのような影響を与えるか?
2 WHO 組織分類 第4版で提起されたいわゆる境界病変
a 被包性濾胞型腫瘍とは
b WHO分類 第4版の変更のポイント
3 NIFTPの細胞診判定
a 通常型乳頭癌と濾胞型乳頭癌
b 非浸潤性濾胞型乳頭癌からNIFTPへの改名
c NIFTP導入の影響
d NIFTPによる誤診の防止
e 濾胞型乳頭癌と通常型乳頭癌の細胞所見
f NIFTPと通常型乳頭癌の細胞学的鑑別法
g 乳頭癌の細胞診で特に注意すること
4 細胞診専門医・病理専門医からみたNIFTP
a 被包性濾胞型乳頭癌とNIFTP
b 乳頭癌の核所見とは
c NIFTPの診断基準
d NIFTP診断の実際
e NIFTP診断の問題点
5 病理専門医から見たNIFTP―NIFTPと診断すべき腫瘍とは何か?
a NIFTPの名称が適当かもしれない腫瘍
b 異型腺腫
c 硝子化索状腫瘍
d Well differentiated tumor-uncertain malignant potential(WDT-UMP)
e 被包型乳頭癌
f 濾胞型乳頭癌
g 大濾胞型乳頭癌
h 篩型乳頭癌
i まとめ
6 超音波専門医からみたNIFTP
a 濾胞型乳頭癌の超音波診断
b 濾胞型乳頭癌におけるNIFTPとNIFTP以外の濾胞型乳頭癌との
超音波所見の違い
c NIFTPの臨床像
d NIFTPの診断における超音波診断の位置付け
7 内分泌外科専門医からみたNIFTP
a 術前診断―過剰診断からの対応
b 治療
c 術後診断
d NIFTPは術前診断可能か
e NIFTP導入の問題点
索引
書評
開く
甲状腺細胞診に携わる検査技師,病理医,臨床医に
書評者: 菅間 博 (杏林大教授・病理学/日本甲状腺病理学会理事長)
このたび,坂本穆彦氏の編集による『甲状腺細胞診アトラス―報告様式運用の実際』が発行された。
編集の坂本氏は細胞診断学の重鎮であり,これまでさまざまな細胞診に関する書籍を発行している。特に甲状腺の細胞診に関しては,坂本氏は本邦のパイオニアといっても過言ではない。本書の目玉である「診断カテゴリーに特徴的な細胞所見」は,坂本氏の教授を受け,甲状腺細胞診の第一線で活躍する細胞検査士が執筆を担当している。選び抜かれた多数の細胞写真とともに,日々の業務の中で役に立つ診断のポイントが解説されている。甲状腺に特化した細胞診アトラスとして価値が高く,甲状腺の細胞診に携わる全ての検査技師,病理医,臨床医にとって有用と考えられる。
本書の「診断カテゴリー」は,「甲状腺癌取扱い規約」第7版(2015年)の細胞診の報告様式の判定区分である。甲状腺細胞診の報告様式は,国内の施設間で差がみられる。取扱い規約第7版の報告様式は濾胞性腫瘍を「鑑別困難」から切り分け,その良悪性判定を保留するべセスダシステム報告様式に準じている。「総論」で編者が主張するように,第7版の報告様式が,現時点では本邦の甲状腺診療に最も適していると考えられる。この報告様式の運用の実際を詳述する本書が,その普及に貢献し,国内の報告様式が統一されることが望まれる。
本書の「総論」の後半は,廣川満良氏が担当している。廣川氏は甲状腺の超音波ガイド下に穿刺吸引細胞診検査を自ら行い,診断する病理専門医である。甲状腺細胞診の検体採取と検体処理の具体的な方法を解説している。甲状腺の細胞診の初心者が陥りやすい基本的過ちについても記載している。甲状腺の細胞診症例の少ない施設において大いに参考になる。さらに,液状処理検体細胞診(liquid-based cytology:LBC)の導入についても解説している。LBCはさまざまな利点があるが,蛋白の免疫染色による発現解析や遺伝子DNAの変異解析にも有用である。今後,LBCは普及すると考えられるが,その際の鏡検上の注意点についても触れている。
本書の第3章では,「NIFTPをめぐる諸問題」について解説されている。2017年に刊行された甲状腺腫瘍のWHO分類(第4版)では,新たに「境界悪性腫瘍」の概念が導入された。この概念の流布が,本邦の甲状腺診療に混迷をもたらす可能性が指摘されている。このため「境界悪性腫瘍」のうち特にNIFTPについては,米国における導入の経緯と,本邦における診断と治療上の問題点が,甲状腺を専門とする病理医と臨床医の立場から整理,解説されている。今後,NIFTPを含む「境界悪性腫瘍」の扱いについては,本解説事項を参考に,遺伝子異常などのデータを加味して検討されるものと考えられる。
現在,「甲状腺癌取扱い規約」の改訂作業が進められている。第8版でも第7版の細胞診の報告様式の判定区分は維持される予定である。本書の甲状腺細胞診の手引きとしての有用性は変わらない。
「診断カテゴリーに特徴的な細胞所見」が圧巻
書評者: 佐藤 之俊 (北里大主任教授・呼吸器外科学)
『甲状腺細胞診アトラス―報告様式運用の実際』が上梓された。本邦初の甲状腺細胞診に特化したモノグラフである。副題に「報告様式運用の実際」とあるように,甲状腺診療に直結する項目が目白押しといえる内容である。
まず,呼吸器外科医である私がなぜこの本の書評を? といぶかしむであろう読者にその理由をお伝えしたい。私は今から30有余年前に病理を学んだが,本書の編集である坂本穆彦先生の勧めもあってサイロイドクラブに参加した。このサイロイドクラブが母体となって,日本甲状腺病理学会が設立されたことをご存知の読者も多いことと思う。当時は,現在甲状腺病理分野で名だたる先生方がまだ新進気鋭の若者であった頃で,甲状腺はわずか20~30 gの臓器で,病理切り出しは難しくなく,乳頭癌と濾胞性腫瘍の診断ができれば十分かな,というのが私の安易な考えであった。その頃の知識といえば,乳頭癌は核所見,濾胞性腫瘍は被膜浸潤の有無といったポイントを外さなければ,それなりの病理診断はできるというようなものだったかもしれない。このような事情から,「30年にわたる甲状腺研究の進歩をよく理解するように」という坂本先生の指導の一環として書評を依頼された次第だと思う。
さて,サイロイドクラブ時代と違う立場で本書を手に取ってみると,何ともわくわくするような内容であった。一般に,アトラスやガイドラインの多くは“わくわく”というよりは,“しぶしぶ”あるいは“やむなく”といった,必要に迫られてひもとくという性質の本である。しかし,本書はアトラスを超え,細胞写真の質の高さ,規約,組織分類,診断の問題点など,甲状腺を専門としない者にとっても,ついそばに置いておきたい一冊である。
中身を見てみたい。本書は「総論」,「診断カテゴリーに特徴的な細胞所見」,そして「NIFTPをめぐる諸問題」の3つの章から構成されている。まず「総論」の章では,甲状腺癌取扱い規約の細胞診報告様式に沿って解説がなされており,特に検体採取と検体処理についてわかりやすいシェーマを数多く用いながら解説されている。圧巻なのは第2章の「診断カテゴリーに特徴的な細胞所見」である。本書名にあるように“アトラス”としての役割が見事に凝集されており,350枚を超えるきれいな図(細胞写真)がコンパクトな解説とともに目に飛び込んでくる。
第3章は取り扱いが問題となっているNIFTPについて,40ページを割いて解説がなされている。この概念がWHO分類に追加された理由として,過剰診断や過剰治療が問題となった米国の事情は理解できるが,実際に,本邦において,あるいは,国際的に広く導入すべきものなのか,複雑な問題を有している概念であることがよくわかった。
いずれにせよ,本書は甲状腺診療を専門とする読者のみならず,診療や研究の現場で活躍する医療者や研究者,そして,“甲状腺学”あるいは“甲状腺細胞診”を始めたばかりのビギナーまで幅広く活用できる必携の一冊であるといえる。
書評者: 菅間 博 (杏林大教授・病理学/日本甲状腺病理学会理事長)
このたび,坂本穆彦氏の編集による『甲状腺細胞診アトラス―報告様式運用の実際』が発行された。
編集の坂本氏は細胞診断学の重鎮であり,これまでさまざまな細胞診に関する書籍を発行している。特に甲状腺の細胞診に関しては,坂本氏は本邦のパイオニアといっても過言ではない。本書の目玉である「診断カテゴリーに特徴的な細胞所見」は,坂本氏の教授を受け,甲状腺細胞診の第一線で活躍する細胞検査士が執筆を担当している。選び抜かれた多数の細胞写真とともに,日々の業務の中で役に立つ診断のポイントが解説されている。甲状腺に特化した細胞診アトラスとして価値が高く,甲状腺の細胞診に携わる全ての検査技師,病理医,臨床医にとって有用と考えられる。
本書の「診断カテゴリー」は,「甲状腺癌取扱い規約」第7版(2015年)の細胞診の報告様式の判定区分である。甲状腺細胞診の報告様式は,国内の施設間で差がみられる。取扱い規約第7版の報告様式は濾胞性腫瘍を「鑑別困難」から切り分け,その良悪性判定を保留するべセスダシステム報告様式に準じている。「総論」で編者が主張するように,第7版の報告様式が,現時点では本邦の甲状腺診療に最も適していると考えられる。この報告様式の運用の実際を詳述する本書が,その普及に貢献し,国内の報告様式が統一されることが望まれる。
本書の「総論」の後半は,廣川満良氏が担当している。廣川氏は甲状腺の超音波ガイド下に穿刺吸引細胞診検査を自ら行い,診断する病理専門医である。甲状腺細胞診の検体採取と検体処理の具体的な方法を解説している。甲状腺の細胞診の初心者が陥りやすい基本的過ちについても記載している。甲状腺の細胞診症例の少ない施設において大いに参考になる。さらに,液状処理検体細胞診(liquid-based cytology:LBC)の導入についても解説している。LBCはさまざまな利点があるが,蛋白の免疫染色による発現解析や遺伝子DNAの変異解析にも有用である。今後,LBCは普及すると考えられるが,その際の鏡検上の注意点についても触れている。
本書の第3章では,「NIFTPをめぐる諸問題」について解説されている。2017年に刊行された甲状腺腫瘍のWHO分類(第4版)では,新たに「境界悪性腫瘍」の概念が導入された。この概念の流布が,本邦の甲状腺診療に混迷をもたらす可能性が指摘されている。このため「境界悪性腫瘍」のうち特にNIFTPについては,米国における導入の経緯と,本邦における診断と治療上の問題点が,甲状腺を専門とする病理医と臨床医の立場から整理,解説されている。今後,NIFTPを含む「境界悪性腫瘍」の扱いについては,本解説事項を参考に,遺伝子異常などのデータを加味して検討されるものと考えられる。
現在,「甲状腺癌取扱い規約」の改訂作業が進められている。第8版でも第7版の細胞診の報告様式の判定区分は維持される予定である。本書の甲状腺細胞診の手引きとしての有用性は変わらない。
「診断カテゴリーに特徴的な細胞所見」が圧巻
書評者: 佐藤 之俊 (北里大主任教授・呼吸器外科学)
『甲状腺細胞診アトラス―報告様式運用の実際』が上梓された。本邦初の甲状腺細胞診に特化したモノグラフである。副題に「報告様式運用の実際」とあるように,甲状腺診療に直結する項目が目白押しといえる内容である。
まず,呼吸器外科医である私がなぜこの本の書評を? といぶかしむであろう読者にその理由をお伝えしたい。私は今から30有余年前に病理を学んだが,本書の編集である坂本穆彦先生の勧めもあってサイロイドクラブに参加した。このサイロイドクラブが母体となって,日本甲状腺病理学会が設立されたことをご存知の読者も多いことと思う。当時は,現在甲状腺病理分野で名だたる先生方がまだ新進気鋭の若者であった頃で,甲状腺はわずか20~30 gの臓器で,病理切り出しは難しくなく,乳頭癌と濾胞性腫瘍の診断ができれば十分かな,というのが私の安易な考えであった。その頃の知識といえば,乳頭癌は核所見,濾胞性腫瘍は被膜浸潤の有無といったポイントを外さなければ,それなりの病理診断はできるというようなものだったかもしれない。このような事情から,「30年にわたる甲状腺研究の進歩をよく理解するように」という坂本先生の指導の一環として書評を依頼された次第だと思う。
さて,サイロイドクラブ時代と違う立場で本書を手に取ってみると,何ともわくわくするような内容であった。一般に,アトラスやガイドラインの多くは“わくわく”というよりは,“しぶしぶ”あるいは“やむなく”といった,必要に迫られてひもとくという性質の本である。しかし,本書はアトラスを超え,細胞写真の質の高さ,規約,組織分類,診断の問題点など,甲状腺を専門としない者にとっても,ついそばに置いておきたい一冊である。
中身を見てみたい。本書は「総論」,「診断カテゴリーに特徴的な細胞所見」,そして「NIFTPをめぐる諸問題」の3つの章から構成されている。まず「総論」の章では,甲状腺癌取扱い規約の細胞診報告様式に沿って解説がなされており,特に検体採取と検体処理についてわかりやすいシェーマを数多く用いながら解説されている。圧巻なのは第2章の「診断カテゴリーに特徴的な細胞所見」である。本書名にあるように“アトラス”としての役割が見事に凝集されており,350枚を超えるきれいな図(細胞写真)がコンパクトな解説とともに目に飛び込んでくる。
第3章は取り扱いが問題となっているNIFTPについて,40ページを割いて解説がなされている。この概念がWHO分類に追加された理由として,過剰診断や過剰治療が問題となった米国の事情は理解できるが,実際に,本邦において,あるいは,国際的に広く導入すべきものなのか,複雑な問題を有している概念であることがよくわかった。
いずれにせよ,本書は甲状腺診療を専門とする読者のみならず,診療や研究の現場で活躍する医療者や研究者,そして,“甲状腺学”あるいは“甲状腺細胞診”を始めたばかりのビギナーまで幅広く活用できる必携の一冊であるといえる。