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レジデントのための内科クリニカルパール1000

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研修医が診療現場で遭遇する複雑な臨床的プロブレム。いかに決定的な臨床所見を見出し、正確な診断を導くべきか、クリニカル・パールで教示。本を開けばまるで優れた指導医と回診(on rounds)しているかのように内科領域を一巡り。混乱に陥りやすいトピックに絞り、病態生理学的な背景とともに適切な臨床的文脈のなかで学ぶ。これまで得た知識をどう引き出し、組み立て、活用するか。1000の英知でサポートする1冊。
原著 Lewis Landsberg
松村 正巳 / 畠山 修司
発行 2019年04月判型:A5変頁:328
ISBN 978-4-260-03849-2
定価 4,620円 (本体4,200円+税)

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訳者の序(松村正巳)/(Lewis Landsberg)

訳者の序

 臨床医学における“パール”については,本邦でもこの10年ほどのあいだに広く知られるようになったと思います.パールは世代を超えて受け継がれ,ある法則にしたがって診断や治療への知恵が散りばめられた記憶しやすい短い格言です.また,パールは個々の患者に特異的で,よく知られ信頼された情報に基づいて作られています.さらに,医学を教育する視点を有しています.さて,本書のタイトルは『レジデントのための内科クリニカルパール1000』,原著では“On Rounds: 1000 Internal Medicine Pearls ―Clinical Aphorisms and Related Pathophysiology―”です.「クリニカルパール1000」とありますが,本書の際だった特長はパールを記述しながら,それぞれの疾患における病態生理をわかりやすく解説していることです.私はこのようなコンセプトをもつ類書を思い出すことができません.
 日々の多忙な診療では,観察される症状・徴候,その上流にある疾患,そして治療に集中しがちになり,症状・徴候と疾患のあいだにある病態まで明確に認識されていないかもしれません.しかし,病態を生理学にまでさかのぼり,しっかり理解しているほうが,鍵となる症状・徴候を早い段階で見つけることができるでしょう.また,患者の状態の変化にも迅速な対応が可能になり,より適切な治療を選択できると思います.さらに,医学を学ぶことへの動機づけもより強くなるはずです.
 いまだお会いしたことはありませんが,これを一人で記述されたLewis Landsberg先生の努力と慧眼には畏敬の念をいだいています.日々積み重ねながら学んだ膨大な知識と,長い時間における臨床観察なしに本書におけるパールと病態生理の組み合わせを記述することは不可能だと思われるからです.臨床医にとっての医学知識は,理論的知識と経験知,両者をもってはじめて運用されるものということを,この翻訳を通じて再認識できました.
 翻訳書であることへの工夫として,原著のニュアンスを最大限に汲み,かつ,読みやすい日本語にするよう心がけました.さらに,読者のよりよい理解のために,少なからず訳注を付しました.アスタリスク(*)につづく記載が訳注になります.参考にしていただければ幸いです.翻訳という作業はもちろん,訳注を記述することも,われわれにとってさらなる医学の学びの機会となったのはいうまでもありません.
 読者にとって本書が内科学全般への理解の助けになり,患者の診断・治療にすこしでも貢献できれば,これに勝る喜びはありません.
 最後に,翻訳のきっかけを与えてくださった医学書院の滝沢英行氏,よりよい翻訳へ根気強く助言をいただいた志澤真理子氏に深謝します.

 2019年3月
 訳者を代表して
 松村正巳




 このモノグラフは筆者のほぼ半世紀にわたる,内科の臨床経験のなかで役立った格言(aphorism)を編集したものです.これらは,臨床所見や病態生理に対する,筆者自身の興味の粋を集めたものです.多くの場合,格言は筆者自身の臨床観察から生まれたものです.ときには,他者の経験や知恵を反映し,筆者自身も年月をかけて認識・評価するようになったものも含まれています.いずれにせよ,本書で引用する格言は,“パール”として吟味され尽くしたものであり,筆者自身の臨床経験のなかでその妥当性と有効性が実証されてきたものばかりです.
 “パール”とはつねに完全に適用できるものではありません.筆者自身はそれでもなお,簡潔で含蓄のある知識のステートメントをすばやく想起することは,迅速な診断や治療に有用だと信じています.臨床とは不確実性に満ちたものですが,蓄積された知見の塊であるパールは,しばしば複雑な状況をシンプルに解きほぐしてくれます.そのため,研修医にとっても,第一線の医師にとっても有用なのです.ある意味,これらの格言は,経験豊富な医師が臨床上の問題に遭遇した際に使える情報集だといえます.豊富な知識のレパートリーは,“熟練した”臨床医を識別する特徴であると同時に評価の高い指導医の重要なリソースでもあります.
 本書では“パール”は太い書体で示し,参照しやすいよう,臓器ごとの構成としました.ただし,全領域を包括的にカバーしているわけではありません.本書は医学の教科書ではなく,あくまで筆者自身の興味と経験を反映したものです.また,自らの経験から,医学生やレジデントが迷うもとになってきた領域に対して,特に注意を払いました.
 本書ではさらに,関連する生理学も提示しています.基礎となるメカニズムに関する知識が,病態の理解やパールの記憶を助けることに役立つからです.現在,統合生理学は以前ほど教えられていませんが,本書で取り上げた要素がその足りない部分を補うものと信じています.
 “偽のパール”もいくつか提示しました.これは,広く信じられているけれども実は明らかに間違ったステートメントをあらわしています.
 このモノグラフは内科を学ぶ学生を想定して執筆したものです.筆者が広い意味で「学生」というときには,医学生と研修医だけでなく,これらの格言や基礎となる生理学を自分自身の臨床経験と関連づけて考えることができる熟練した臨床医を含みます.本書は,すでに存在する臨床データベースの体系化や拡張のための足場としても機能するでしょう.医学生や研修医を教育する臨床医にとって,特に価値あるものになるはずです.

 Lewis Landsberg

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第1章 臨床評価
 ・病歴
 ・身体診察
 ・検査
 ・画像
 ・広く応用可能な臨床上の金言

第2章 血液
 ・貧血
 ・血小板
 ・血栓障害と凝固障害

第3章 リウマチ学:関節炎・自己免疫性疾患
 ・関節炎
 ・ANCA関連血管炎
 ・非ANCA関連血管炎
 ・そのほかの自己免疫性疾患
 ・アミロイドーシス
 ・IgG4関連疾患
 ・骨パジェット病
 ・重篤な薬剤への反応

第4章 心臓と循環
 ・うっ血性心不全
 ・心筋虚血
 ・心膜炎
 ・弁膜症
 ・左室肥大,肥大型心筋症
 ・成人における先天性心疾患
 ・起立性低血圧
 ・失神

第5章 高血圧
 ・本態性高血圧
 ・悪性高血圧
 ・二次性高血圧
 ・腎動脈狭窄
 ・大動脈解離

第6章 腎臓,体液と酸塩基平衡の異常
 ・腎機能の検査
 ・低ナトリウム血症
 ・尿中ナトリウムとカリウム
 ・酸塩基平衡障害
 ・内因性の腎疾患

第7章 内分泌と代謝
 ・糖尿病
 ・低血糖
 ・多発性内分泌腫瘍症候群
 ・甲状腺疾患
 ・カルシウム
 ・多尿
 ・下垂体前葉
 ・副腎皮質

第8章 発熱・体温調節・熱産生
 ・深部体温の中枢による調節
 ・発熱と高体温
 ・熱産生
 ・熱産生と熱放散
 ・体温の日内変動
 ・寝汗

第9章 感染症
 ・不明熱
 ・特定部位の感染症
 ・細菌性胃腸炎
 ・特異的病原微生物
 ・グローバル化と感染症

第10章 呼吸器
 ・血液ガス
 ・呼吸機能検査
 ・肺炎
 ・サルコイドーシス
 ・結核
 ・アスペルギルス症
 ・肺血栓塞栓症

第11章 消化管・膵臓・肝臓
 ・消化管
 ・膵臓
 ・胆道の疾患
 ・門脈性肝硬変
 ・カルチノイド腫瘍

第12章 肥満
 ・肥満の病因論
 ・肥満の心血管と代謝への影響
 ・肥満およびそのほかの疾患

第13章 悪性腫瘍と腫瘍随伴症候群
 ・気管支原性癌
 ・腎細胞癌
 ・多発性骨髄腫

第14章 神経筋疾患
 ・頭痛
 ・急性の脳血管障害
 ・筋力低下
 ・運動ニューロン疾患
 ・横紋筋融解症
 ・向精神薬による合併症
 ・痙攣

第15章 アルコール依存症の合併症
 ・神経系
 ・アルコール離脱症候群
 ・アルコールと心臓
 ・アルコール依存症の血液への影響

・索引

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一瞬の出来事を一生の気付きとして認識させるパール
書評者: 清田 雅智 (飯塚病院総合診療科診療部長)
 臨床の奥深さは,優れた臨床医によって初めて理解できる。彼らは,正しく病態を理解し,適切な処置を施すものであるが,その能力を裏打ちしているのは圧倒的に深い病気への洞察である。一人の医師がさまざまな領域に精通することが難しいと考えられる今日で,この本の内容を単著で書ける人はどのくらいいるのだろうか?

 私は,圧倒的に学びが多い本書の内容から衝撃を受けた。本書は臨床の奥深さを知っている者にしか書けないものであり,一人の医師の経験で本当に記したのだろうかという疑念すら持った。また1000もpearlsがあるのかという疑問と,将来の引用のため通し番号を振ってみたら,最後はno.1046だった。内分泌の教授なので,この領域が最多の147個なのは理解できるが,血液学,リウマチ学,消化器学も100個以上あった。

 ところで,大動脈弁狭窄症(AS)が末期になってくると失神を来すようになるが,弁口面積が狭いために血流が少なくなり起こると思いがちかもしれない。実際には,運動による血管拡張により反射的に起こるものであることを,故竹下彰教授のnoon lectureで聞いて意外に感じたことを今でも記憶にとどめている。パールというのは,その一瞬の出来事を一生の気付きとして認識させる貴重な情報である。私はこのメカニズムを十分理解していなかったが,p.80 no.302:ASにより心拍出量が固定される状況があると起こるというパールは心に響いた。2000ページもある浩瀚な循環器の成書“Braunwald”を読むと,実は一文で書かれている内容だが,果たしてこれを読む気になるだろうか? また読んだとしても,その重要性に気付くだろうか? こうした気付きは,運動時ではない安静時のASの失神はp.74 no.280の心房細動の存在が重要になることが理解でき,p.73 no.279のatrial kickの重要性も理解できる。特に本書の循環器領域のうんちくは素晴らしい。また全体を通じ,随時添えられた訳者の解説も内容の理解に役立つ構成となっていた。

 このような優れた臨床医がどのように作られたのか,謝辞を読んでピンときた。Yaleでポール・B・ビーソンに,Harvardでユージン・ブラウンワルドらに師事していたのだ。優れた臨床家は,優れたclinician-educatorが育て,その血肉となるものはclinical pearlsという形で,古き良き伝統が受け継がれていたのだ。私はこの本を読んで,自身の師匠たちからの学恩を思い出し,そして私淑しているポール・B・ビーソンにここでも邂逅する機会があったことを嬉しく受け止めた。この本の内容から,失われつつある臨床の師匠を得ることができるかもしれない。

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