ERのクリニカルパール
160の箴言集

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ERで笑うな! エラーに向き合え! 空振りを恐れるな! 気道を優先しろ! 鎮痛をためらうな! 患者を寒がらせるな! etc. ERでの心得から実践まで、熱い魂がこもった箴言160パール。経験が少なくても、大きな失敗をせず、重篤な病態を見逃さないために、救急で最低限やるべきこと&守るべきことがわかる。「すべての患者に治癒をもたらすことはできないが、すべての患者に親切にすることは可能である」
岩田 充永
発行 2018年11月判型:B6頁:172
ISBN 978-4-260-03678-8
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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まえがき

 医師になって20年,ERを主な仕事場にして15年が経過しました。
 私がERで働く救急医を志した頃には想像もできなかった優れた書籍が多数出版されています。それなのにいま,なぜ本書を執筆したいと思ったのか,改めて考えました。

 これまで臨床現場でたくさんの経験をさせていただきました。加齢によって記憶力は確実に衰えていきますが,その経験からパターン認識で乗り切れること,ERの現場で何回も口にしていることを整理して書面に残しておきたいと考えました。
 同様に,加齢によって知識・技術も衰えます。しかしそれ以上に衝撃を受けたことは,知識・技術を渇望する姿勢が衰えることです。自分が15年前に尊敬する師匠の診療に張り付き,また,日々のERで経験したことをまとめた症例ノートを見返すと,現在の自分の意欲の低下に愕然とします。ここまで老いてしまったら,せめて社会に貢献し,組織に貢献し,後輩医師の成長につながる環境を整えることに微力を尽くすしかない(それが現在の仕事です)。自分が会得した最低限のルールをまとめておこうと思うに至りました(まるで遺言ですね)。

 ですから,30代に執筆した書籍のように,すべてを網羅した「あれもこれも」という欲望は捨てました。また,「○○という論文では……と書いてある」的な有名ジャーナルの紹介の羅列(よい意味でも悪い意味でも,他人のふんどしで相撲を取るような記載)も極力排除しました。EBMは大切ですが,救急領域をエビデンスで語りつくすことは難しく,米国救急医学会のClinical policyの推奨でもエビデンスレベルは低いのが現実です。それくらいERは人間臭い現場です。15年前には「救急車の電話番」と揶揄されていたERで生きてきた「オヤジの小言」をまとめました。

 かつてサッカー日本代表監督であったイビチャ・オシム氏は「考えながら走る」ことの重要性を強調していました。ERで勤務していると同じことが要求されていると実感します。忙しいERでこれを実践するためには,考えてから動くのでは遅く,「考え(アイデア)」の引き出しをたくさんもち,状況に応じて適切な「考え(アイデア)」を迅速かつ的確に引き出すトレーニングが非常に重要だと日々感じます。この「考え(アイデア)」の引き出しをたくさんもっておくためには,自験例だけでなく経験を皆で共有することが大切です。私が仲間たちと経験した症例から得られた教訓を皆様と共有でき,多忙かつ多様な臨床現場で「考えながら走る」ことができる集団が増えていくことにつながれば,これに勝る喜びはありません。

 2018年10月
 岩田 充永

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1.コミュニケーション,リーダーシップ
 1 ERで笑うな
 2 エラーから学べ
 3 チームダイナミクスを意識せよ
 4 リーダーを目指す人へ
 5 患者コミュニケーションの極意
 6 正論ではうまくいかないこともある
 7 人は急かされるとミスを犯す
 8 救急医療のABCD
 9 情報遮断は命取り
 10 失敗は継ぎ目で起こる
 ミニパール
  1/2/3/4/5/6

2.診察,急変対応
 11 気道を優先する
 12 急変前のサイン
 13 ERでの急変パターン
 14 移動中の急変
 15 SpO2 100%と過換気症候群の判断
 16 SpO2の評価
 17 鎮痛をためらうな
 18 鎮静のリスク
 ミニパール
  7/8/9/10/11/12/13/14/15/16/17/18

3.内科全般,症状
 19 ERでの降圧
 20 乳酸値を手がかりに
 21 神経脱落症状で見逃しがちな疾患
 22 失神か? 非失神か? 一過性意識障害の鑑別
 23 起立試験の重要性
 24 精神疾患と判断する前に
 25 アルコールと判断する前に
 26 頭痛の問診
 27 危険な便秘
 28 尿閉の合併症と原因検索
 29 「高齢者の不穏」の背後にあるもの
 30 高齢者の入院判断
 31 「高齢者の転倒」は急病のサイン
 32 異所性妊娠破裂を疑え
 33 担癌患者のER受診(oncologic emergency)
 ミニパール
  19/20/21/22/23/24/25/26/27/28/29/30/31/32/33/34/
  35/36/37/38/39/40/41/42/43/44/45

4.心血管
 34 急性冠症候群の診断
 35 急性冠症候群を疑う症状
 36 急性冠症候群の心電図所見
 37 急性心筋梗塞の急変対応
 38 急性心筋梗塞のコンサルト
 39 急性大動脈解離の非典型例
 40 急性大動脈解離と右室梗塞の合併
 41 急性大動脈解離と脳梗塞―tPA禁忌の脳梗塞
 42 急性大動脈解離の画像評価
 43 急性心不全の原因と増悪因子
 44 急性心不全の病型と治療
 45 不整脈は原因か? 結果か?
 46 心房細動の対応3ステップ
 47 wide QRS頻拍の治療
 48 wide QRS頻拍の原因検索
 49 徐脈性ショックの原因検索
 50 肺塞栓症を疑う「主訴+α」
 ミニパール
  46/47/48

5.脳神経
 51 見逃しやすい脳梗塞
 52 くも膜下出血を疑ったら
 53 軽症くも膜下出血のCT読影
 ミニパール
  49/50/51

6.急性腹症
 54 注意すべき小腸閉塞
 55 緊急性が高い大腸閉塞
 56 腸管虚血を疑え
 57 「腸管拡張=腸閉塞」ではない
 58 尿路結石を疑ったら
 59 尿路結石は感染を探せ
 ミニパール
  52/53/54

7.内分泌
 60 高血糖緊急症の誘因
 61 低血糖の非典型例
 62 低血糖の原因検索
 ミニパール
  55/56/57

8.感染症
 63 細菌性髄膜炎の診断
 64 細菌性髄膜炎の治療
 65 深夜に受診する咽頭痛に注意
 66 急性胆管炎の早期診断
 67 敗血症を疑うタイミング
 68 敗血症の治療
 69 壊死性軟部組織感染症を救え
 ミニパール
  58/59/60/61/62/63/64/65

9.アナフィラキシー,中毒,環境
 70 アナフィラキシーでは躊躇するな
 71 最重症アナフィラキシーの対応
 72 低体温症の原因検索
 73 熱中症は除外診断
 ミニパール
  66/67/68

10.外傷
 74 Primary surveyを実施せよ
 75 外傷ショックを見逃すな
 76 出血性ショック時の止血術
 77 外傷患者の低体温予防
 78 出血性ショック時の輸液
 79 出血性ショック時の輸血
 80 骨折のトラブルを防ぐ方法
 ミニパール
  69/70/71/72/73/74/75/76/77/78/79/80

あとがき
索引

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ERの解説書ではなくERの格言
書評者: 今 明秀 (八戸市立市民病院院長)
 山中克郎先生の『医学生からの診断推論―今日もホームランかっとばそうぜ』(羊土社),林寛之先生の『Dr.林の当直裏御法度―ER問題解決の極上Tips90』(三輪書店)など,売れている本は,中身が濃くて表紙が派手だ。そういえば,最近の若手医師向けの医学書はみんな派手色彩の表紙と売り文句(すいません,私のもそうです),それに厚い。本書は白地に黒の明朝体のタイトル『ERのクリニカルパール』が上品。はやりの売れ筋本とは明らかに体裁が違う。サイズはB6判200gとスクラブポケットに収まるサイズ。行間が広いので寝転がって読んでもスラスラ読めるし,当直の合間に読破できる。薄いから枕にはならない。内容は160項目と充実している。これは売れるぞ。

 おっと,表紙と目次の評価だけならAmazonでも事足りますね。では,内容を吟味しましょうか。(1)収縮期血圧120mmHg以下+脳梗塞症状では,大動脈解離を検索すること。tPA投与に向けて慌ただしく動いているときに「人間は急かされると判断ミスをする」。解離には左片麻痺・右血圧低値が多い。(2)昏睡状態の患者は嘔吐で窒息する。自発的側臥位ができないからだ。「例外なく,どのような場合でも気道確保がすべてに優先」は鉄則だ。後に登場する専門医に気管挿管を弁解する必要はない。(3)災害現場でリーダーシップを発揮できるのは,混雑したERで働ける人間である。(4)週末の午前2時に平常心で診療できるようになったら一人前。「あほ・ばか・かす・どけ」が出現した時は,もはやそいつは平常心ではない。細部の確認忘れで失敗する。(5)末梢冷感でショックと考えていた患者が「便意を催したら」「心停止が近い」。(6)室内気でSpO2100%はよい情報とは限らない。むしろ「呼吸数増加」病態と解釈する。(7)40歳以上で初発なら過換気症候群ではない。(8)頻拍をみた時,原因なのか結果なのか考える。「心拍数150/分」が目安で,それ以下では結果が多く,原因を治療する。(9)尿路結石疑いのエコー検査は,先に「腹部大動脈瘤」を,次に「水腎症」を確認する。(10)60歳以上の初発の尿路結石発作疑いでLDHが上昇していたら「腎梗塞を考慮」して造影CTを行う。(11)頭部CTを撮りたくなったら「血糖値をチェック」する。他に,あと149のパールがコンパクトに書かれている。

 有名ジャーナルの紹介をしながら解説する書籍はあふれている。『ERのクリニカルパール』では文献は出典名しか記載していない。余分な文字を排除し,格言を強調している。だから薄い本なのに160パールも載せられる。
 定価2800円で160パールだから,10パールで175円だ。ローソンのおでん2個と同じ値段で,10個の格言が身につく。これはお得。
起こりうる最悪の事態を想定し備えよ
書評者: 山中 克郎 (諏訪中央病院総合内科)
 著者の岩田充永先生と藤田医大の救急室で一緒に働いていたことがある。リーダーとして冷静沈着に救急室全体に目を配り,安全かつ迅速に救急処置が行われるよう若手医師に指示をしていたのが印象的である。私自身,何度も助けてもらった。

 覚せい剤常用患者がひどい呼吸苦のため,警察の取調室から救急室に搬送された。発熱,頻脈,発汗があり喘鳴が聞こえる。喘息の治療をしたが一向によくならない。原因が何なのか迷っていたら岩田先生が救急室に現れ,交感神経優位の中毒症状から覚せい剤の多量使用と診断し,ジアゼパムを用いて症状は急速に改善した。

 「意識障害+体温上昇+頻脈」があれば,「熱中症,甲状腺クリーゼ,悪性症候群,セロトニン症候群,薬物中毒(アンフェタミンなど交感神経を刺激する薬剤),敗血症」を鑑別診断として考えるべきである(ミニパール19)ことを私は初めて学んだ。

 後でわかったことだが,アパートの部屋に覚せい剤を保管していることが見つかりそうになり,警察が部屋に踏み込む直前に証拠隠滅のため覚せい剤を飲み込んでしまったらしい。

 ERで頻発する急変パターンを認識し,「起こりうる最悪の事態を想定しておく」訓練が大切だという。急変の実例として心筋梗塞後の心室細動(除細動器を準備),急性心筋梗塞からの徐脈+ショック(経皮ペーシング),下壁梗塞にニトログリセリン投与→血圧低下(補液),くも膜下出血→再破裂による心室細動(除細動器を準備),くも膜下出血→嘔吐+窒息(気道確保),薬剤→アナフィラキシーによる窒息・ショック(アドレナリン筋注),口腔内出血→窒息(気道確保),吐血→ショック(徐脈になってきたら心停止が近い。アトロピン投与と輸血・心肺蘇生の準備)などが重要パールとして示されている(パール13)。

 どれも救急室で起こりそうな事態である。「備えよ常に(be prepared)」はボーイスカウトの標語であるが,このように緊急事態を常に考えながら備えることが重要であろう。

 頻度は低いが致死的ゆえに大切な失神の原因は,急性大動脈解離,肺塞栓症というパール(パール22)も,ERで岩田先生から学んだ大切な教訓だ。失神患者を診察するときはいつも,この言葉を思い出している。

 岩田先生は努力の人である。救急診療を勉強するために,名古屋での診療が終わってから福井まで出かけ,寺澤秀一先生や林寛之先生の夜勤を見学しながら救急診療を勉強したと聞いている。また名古屋の病院での勤務で遭遇した救急患者への治療が妥当であったかどうかを,お二人の先生にメールでアドバイスをもらいながら改善を積み重ねたという。恵まれた環境になくても,努力次第で一流の救急医になることができることを示している。

 この本を通読して大切な箇所に印をつけ,それらをノートに書き出し,何度も読み返すのがよいだろう。救急室での診療をアップグレードしたい,やる気のある指導医と若手医師は必ず読むべき本として強く推薦したい。
今も昔も大切な160個のこと
書評者: 坂本 壮 (総合病院国保旭中央病院救急救命科)
 「ER診療に一片の悔いなし」,稀勢の里,いやラオウのようなコメントはとても私にはできない。もう少しきちんと病歴を聞けばよかった,バイタルサインの異変になぜ気付かなかったんだ,検査の前にやることがあった,理解しやすいように病状説明するべきだった,などなど,いくつも反省すべき点がある。

 ERは,限られた時間で緊急性の高い疾患や重症度の高い疾患を診る必要があり,診断エラーに陥りやすい場である。また,忙しくなると,夜間であると,自分自身のコンディションがよくないと,そのリスクはさらに上昇する。

 自身が陥りやすいエラーを把握しておくと,未然に防ぐことができる。この本には誰もが陥りやすいことがちりばめられている。岩田充永先生に自身の臨床現場を見透かされているような感覚をも持つ。先人の教えが重要であることは誰もが理解しながらも,その教えを受ける術がなければどうしようもない。また,だんだんと現場の上司の教えというのは煙たくなるもの。できれば間接的に,かつ端的に教えてほしい(ずうずうしい?!)。

 最新のエビデンスへは簡単に手が届くようになった。スマートフォン1つで論文検索,さらにはSNSやブログなどから有用な情報も入手可能だ。しかし,エビデンスは知っていても,それを目の前の患者さんに利用できるかをあらためて考えることを忘れてはいけない。さらに,エビデンスを利用する前にやるべきことはきちんとやる必要がある。例えば,脳梗塞の患者であれば,血栓溶解療法や回収療法などの適応がないかを考え,迅速に身体所見をとり,画像をオーダーするわけだが,そもそも脳梗塞ではなく大動脈解離であったら,低血糖であったら,これらの治療のエビデンスは当然ながら利用できない(Cf. パール39,61)。言われれば当たり前だ。しかしこのようなそもそも的な話をしつこく教えてくれる人は,意外といないものである。

 正しいことを伝えても,受け入れられないこともある。コンサルテーションをしても理想どおりにはいかないことも珍しくない。そんな時,相手を責める前に,その原因が自分にないかを自問自答することが必要だ。日々の自身の言動を見直す機会ととらえるのだ。あ,これも本書のパールとして含まれている(Cf. パール4)。やっぱり何でも書いてある(笑)。

 ER診療の大原則ABCD,そして平常心欠如のサインABCDを頭に入れ,欠如サインが出た場合には本書に目を通し,その怒りを静め,気を取り直して現場に戻ろう。そうすれば,エラーすることなく適切な対応ができるだろう。本書はポケットサイズでスクラブや白衣のポケットに入る。ちょこっと取り出して岩田語録に目を通せば,気が静まる6秒などあっという間に経過してしまう。ABCDがわからないって? 続きは本書で……。

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