強みと弱みからみた
在宅看護過程
+総合的機能関連図

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療養者と家族を総合的に捉えるために、「疾患・医療ケア」「活動」「環境」「理解・意向」の4領域からアセスメント。情報分析のポイント、強みと弱みの視点による看護課題の見出し方、療養者と家族を4領域からみた関連図、看護計画の立案と実施、評価までを指南する。実習でしばしば出会う健康障害のほか、在宅で特に重要となる心理・社会的課題を解説し、それぞれの項目で「典型例」を取り上げて看護過程の展開を解説した。
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シリーズ からみた看護過程
編集 河野 あゆみ
編集協力 草場 鉄周
発行 2018年12月判型:A5頁:592
ISBN 978-4-260-03684-9
定価 4,180円 (本体3,800円+税)
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はじめに

 暮らしの場において療養する人々を支援する,在宅看護への社会の期待は大きく膨らんできています.未来の看護を担う学生の皆さんが在宅看護過程の基本的な考え方を修得することは大切なことです.それは将来にわたる看護観の礎につながると思うからです.本書は,在宅看護過程を学ぶための学習書であり,特に,訪問看護実習や演習で活用することを想定して制作しました.
 本書の在宅看護過程では,総合的機能をみる視点と,強みと弱みをみる視点を第一の特長として取り入れました.
 生活という言葉はケアの世界ではよく使われますが,意外に曖昧な言葉です.生活とは何か,どのように生活をとらえればよいのか,教育現場で学生の皆さんに伝えることが難しく思うときがあります.そこで本書では,その生活を①疾患・医療ケア,②活動,③環境,④理解・意向の4領域(総合的機能)に区分してとらえることにしました.
 また,疾患の治療に伴う看護では弱みを解決する視点,生活に寄り添う看護では強みを活かす視点が重視されやすいですが,本書ではどちらか一つの視点に立つのではなく,敢えて両者の視点が必要という立場をとっています.訪問看護師は弱みを解決する援助と強みを活かす援助をうまく併用しており,そこに熟達した看護実践があると考えているからです.
 総合的機能関連図では,この2つの視点を意識した構図にしています.この関連図を書くときには,総合的機能の4領域にどう情報を振り分けるか,強みまたは弱みと読む解釈・判断をどう配置するかなど決まりをつくっています.この決まりがあることで書きづらいと悩むかもしれませんが,これを学習のための決まりと理解して頂くとよいと思っています.この関連図を書くことで対象者の情報が整理され,看護課題を導き出した論理が明確になり,他者に説明しやすくなるでしょう.編者自身もこの関連図を実習に使用していますが,指導側と学生が看護課題を導く筋道を一緒に確認しやすいため,教育ツールとして使いやすいと感じています.なお,本書では第1章でこれらの在宅看護過程の基本的な考え方を説明しています.
 ほかに,本書の目次構成には次の特長をもたせました.
 在宅療養者には様々な年代の人が含まれ,その疾患は多種多様であり,その看護過程を一冊の本ですべて説明することには限界があります.本書では,あくまで初学者の皆さんが在宅看護を知ることを目的とし,訪問看護利用者によくみられる健康障害を取り上げました.慢性疾患,難病,老年症候群,エンドオブライフケアの各健康障害の在宅医療に必要な医学的知識と在宅看護過程を第2章にて説明しています.
 また,在宅看護は,健康障害とともに生活を続けるための看護ですから,時として在宅療養者の心理・社会的課題に対応することが求められます.本書では,例えば,家族の介護疲れ,生活困窮,意思決定不全,社会的孤立など,在宅療養者によくみられる心理・社会的課題について,第3章にて取り上げ,その看護過程を系統的に説明しています.これは疾患・症状ごとに看護過程を説明してきたこれまでの類書とは全く異なる新たな試みでもあります.
 さらに,本書では34もの豊富な事例を用いて在宅看護過程を説明していることも特長の1つです.ただし,実際の在宅療養者には,本書で示しているようなシンプルな事例は少ないでしょう.例えば,認知症がありながら慢性腎不全に罹患しており,同時に生活困窮や劣悪な住環境による問題のある在宅療養者など,ほとんどのケースでは複数の健康障害と心理・社会的課題をあわせ持っています.そこで,本書では,それぞれの健康障害と心理・社会的課題に典型的な看護課題を表現するように努めました.実習で対象者に看護過程を展開する際には,本書の該当する項目をうまく組み合わせて,その療養者の個別性に応じた看護目標や看護計画の立案方法を学んで頂ければと思います.統合分野である在宅看護では,実際の対象者を一つの例を参考に考えることより,複数の例を参考に統合した合理的なモデルを自分でつくる思考を修得することもまた大切な学習内容だからです.
 本書の趣旨にご賛同いただき,ご尽力いただいた執筆者の方々にはこの場を借りてお礼を申し上げます.また,制作の全行程にわたって,ご支援くださった医学書院の皆様にも心より感謝申し上げます.
 本書のコンセプトに何か通じるものを感じて頂き,在宅看護教育で活用して頂ければ,これほど嬉しいことはありません.そのために本書では,実習でそのまま使って頂けるよう,情報整理シート・関連図等の様式をホームページからダウンロードできるようにしています.また,事前学習や学内演習等に活用できる動画教材も新たな試みとして作製しました.併せてご活用頂ければ幸いです.皆様から忌憚のないご意見を頂きながら,在宅看護過程をさらに深めていき,これからもさらに発展的に変わり続ける在宅看護の人材育成に寄与したいと望んでいます.

 2018年11月
 著者を代表して 河野あゆみ

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はじめに
本書の構成と使い方
動画の閲覧方法

第1章 在宅看護過程 総論
 1 在宅看護の特徴
  [1]在宅看護の考え方
  [2]在宅看護をめぐる用語の整理
 2 在宅看護過程の基本
  [1]在宅看護過程の目的
  [2]在宅看護過程の特徴
  [3]在宅看護過程の概要
 3 在宅看護過程のステップ
  [1]アセスメント
  [2]看護課題の明確化
  [3]看護計画
  [4]実施
  [5]評価

第2章 健康障害別看護過程
 【1 慢性疾患】
  1 がん慢性期
  2 慢性閉塞性肺疾患
  3 慢性腎不全
  4 慢性心不全
  5 糖尿病
  6 脳梗塞
  7 頸髄損傷
  8 統合失調症
  9 重症心身障障害児
 【2 難病】
  10 パーキンソン病
  11 筋萎縮性側索硬化症
  12 多発性硬化症
  13 筋ジストロフィー
 【3 老年症候群】
  14 フレイル
  15 大腿骨頸部/転子部骨折(大腿骨近位部骨折)
  16 関節拘縮
  17 認知症
  18 尿失禁
  19 摂食・嚥下障害
  20 生活不活発病(廃用症候群)
 【4 エンドオブライフケア】
  21 老衰
  22 神経難病
  23 がん
  24 小児がん

第3章 心理・社会的課題別看護過程
 【1 環境】
  25 家族の介護疲れ
  26 療育困難
  27 家族による高齢者虐待
  28 生活困窮
  29 社会的孤立
  30 劣悪な住環境
 【2 理解・意向】
  31 意欲低下
  32 自己放任
  33 意思決定不全
  34 服薬管理不全

薬剤一覧
看護課題索引
事例キーワード索引
索引

NOTE
 在宅酸素療法
 間欠的自己導尿
 人工呼吸器
 CVポート

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看護を学ぶ、基本に戻る、「学び直し」の本にもなっている(雑誌『訪問看護と介護』より)
書評者: 髙澤 洋子 (よどきり訪問看護ステーション新大阪)
 2014年、大阪府訪問看護ステーション協会では、新卒訪問看護師の育成をしたいと数名の管理者が集まり、プロジェクトチームを立ち上げた。そのメンバーの1人であった私は、「現場の力だけでは限界がある」と考え、在宅看護教育の主力者に協力を仰いだ。それが、本書の編著者である河野あゆみ先生である。現在も、同協会の事業の1つである新卒訪問看護師育成事業部会のメンバーとして、新卒訪問看護師の育成に携わっていただいている。

 河野先生は長年の看護教育の中で、学生が、訪問看護実習において看護過程(看護課題、看護診断を導く看護職の思考の道筋)を系統立てて理解するにはどうしたらよいかと考えておられた。本書は、そのような長年の思いが形になったものの1つであると言える。

◆実習・演習に活用できる

 本書は、在宅看護過程を学ぶための学習書であり、特に実習や演習で活用できる内容になっている。具体的な事例が提示され、「疾患・医療ケア」「活動」「環境」「理解・意向」の4つの領域から、療養者と家族の全体像を見て、「強み」と「弱み」の視点から読み解いていく流れである。

 生活・環境を見る視点と、疾患・治療を見る視点、そして意思決定支援が根幹である。つまり、看護の基本が書かれている本である。

 私は、訪問看護では、まずは疾患の理解(フィジカルアセスメント)が第一であると考えている。医療の専門家としては、身体的状態を把握することが重要なことである。思い込みや感覚で実践をしていないか。看護とは何か。さらに言うと“生活の場での看護とは”どういうことか。もう一度考えさせられた本である。

◆「関連図」が思考の整理を助ける

 この本を読んでいただきたいのは、学生や新卒看護師だけではない。

 ベテラン訪問看護師といわれる看護経験のある看護師にこそ、ぜひ手にとっていただきたい。看護を学ぶ、基本に戻る、「学び直し」の本にもなっていると思う。関連図などは見慣れないものもあるかもしれないが、理解するとスムーズに進むことは間違いない。

 訪問看護師は「弱みを解決する」援助と「強みを活かす」援助を併用している。まれに「かわいそうだから」といろいろ手を出す傾向にある訪問看護師もいる。それは、自己の感情を優先してしまい、この2つの視点が混乱しているのかもしれない。

 関連図はこの2つの視点を意識した構図になっている。この関連図を書くことにより、対象者の情報が整理される。全体像が見え、優先順位が判断できる。系統立てて考えることができる。そうして初めて、個別性を大切にできる。これが熟練の技であり、訪問看護師ならではの支援であろう。

 さらに、看護課題を導きだした理論が明確になり、他者に説明しやすくなる。利点満載である。

 「感じる」「考える」「整理する」「伝える」―在宅看護を知るための、看護に自信がもてるようになるための貴重な1冊である。

(『訪問看護と介護』2019年9月号掲載)
在宅看護ならではの学びの指針に(雑誌『看護教育』より)
書評者: 真島 久美子 (愛仁会看護助産専門学校)
 在宅看護論は、平成21(2009)年のカリキュラム改正(第4次改正)時に統合分野として位置づけられ、地域で生活しながら療養する人々とその家族を理解し、在宅での看護実践の基礎を学ぶことが求められてきた。また、終末期看護も含め、在宅での基礎的な看護技術を身につけ、多職種連携における看護の役割を理解することも必要とされている。さらに、少子・超高齢社会による2025年問題に対して、高齢者の尊厳の保持と自立支援の目的のもと、可能な限り住み慣れた地域で人生の最期まで自分らしい暮らしを続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)が推進されている。

 本書は、このような時代の看護を支える看護師養成のための在宅看護過程の参考書である。

 在宅看護論実習では訪問看護ステーションの看護師に同行し、在宅における看護実践を見て学ぶことが多い。本校では、在宅における対象理解も、病院実習と同じ枠組みで情報を得て、看護過程を展開していた。しかし、看護の初学者は、まず、対象となる疾患を中心とした看護ケアの学習を行うため、療養者を取り巻く家族関係を含めた在宅での看護実践をイメージすることが困難である。また、急性期病院での実習を想定した対象理解や看護過程は、基本的に問題解決型思考であり、在宅療養者への看護実践に用いることで無理が生じることも否めない。筆者は、在宅看護ならではの学習についての指針を求めていたところ、本書に出会った。

 著者の河野先生は本書のなかで、在宅での生活に影響する対象者の機能全体を総合的機能とよび、①疾患・医療ケア、②活動、③環境、④理解・意向の4領域に区分してとらえると述べている。さらに、在宅看護過程では、エンパワメントに着目することが基本であるとし、疾患の治療に伴う看護では弱みを解決する視点、生活に寄り添う看護では強みを活かす視点が重視されやすいが、本書ではあえて両方の視点が必要という立場で記載されている。

 また、本書には、健康障害別や心理・社会的課題別の看護過程の事例が多く掲載されている。在宅療養者本人とその家族のおかれた状況を、在宅での生活に影響する視点でアセスメントし、対象のもつ強みと弱みを判断したうえで生活を整える看護実践の思考を養うことができると感じ、本校の副読本に採用することとした。

 自らの生活経験も乏しいといわれる昨今の学生にとって、生活の基盤である在宅での生活をイメージすることはとても大切である。本書を用いることで、対象理解の視点と対象の状況に応じた看護を学内で学ぶとともに、実習でさらに在宅看護ならではの学びを深めることができると期待している。

(『看護教育』2019年5月号掲載)

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