Q&Aでわかる!
脳卒中片麻痺 歩行トレーニングの鉄則
臨床知をとことん言語化! 歩行トレーニングの「なぜ?」「どうする?」がわかる一冊
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“歩けるようになる”ってどういうこと?
臨床現場の経験則で“なんとなく”行われていた判断と工夫を、Q&Aに集約。装具の使い分け、介助歩行のコツ、カットダウンの見極め、装具なし歩行への移行、生活期の支援まで。脳卒中片麻痺の歩行再建に必要な臨床知を徹底的に言語化。臨床の迷いをQ&Aで解きほぐす。
| 編集 | 中谷 知生 |
|---|---|
| 発行 | 2026年08月判型:B5頁:224 |
| ISBN | 978-4-260-06571-9 |
| 定価 | 4,620円 (本体4,200円+税) |
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- 目次
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序文
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序
本書を手に取っていただき,ありがとうございます.
脳卒中片麻痺者の歩行トレーニングは,セラピストにとって最も難しく,そして最もやりがいのある課題の一つです.
臨床では,
「もっと麻痺側に荷重させたほうがよいのだろうか?」
「下肢装具は使うべきだろうか? そしていつ変更すべきだろうか?」
「歩行速度を上げるべきなのか? それとも歩容を整えるべきなのか?」
といった疑問に日々直面します.しかし,その答えは症例ごとに異なるため,明確な正解はありません.
一方,歩行に関する書籍や講習会では,さまざまな治療手技やトレーニング方法が紹介されています.それらはどれも有用ですが,方法だけを積み重ねても,目の前の症例に応じて適切に選択することは容易ではありません.なぜ,そのトレーニングを行うのか? どのような現象を変えようとしているのか? その背景となる考え方がなければ,臨床で応用することは難しいからです.
本書は,そのような「方法を覚える」ための書籍ではなく,「考え方を身につける」ための書籍として企画しました.
とはいえ,理論だけを体系的に解説した専門書は,初学者にとって決して読みやすいものではありません.そこで,臨床で実際によく抱く疑問をQ&A形式で取り上げ,その疑問に答える形で必要な理論や実践を学べる構成としました.
「歩けるようになるとはどういうことか?」
「なぜ,この症例は膝が折れるのか?」
「下肢装具はどのように選択すればよいのか?」
といった,日々の臨床で生まれる問いを出発点にしています.
Q&A形式の書籍というと,必要な項目だけを読むことをイメージされるかもしれません.もちろん,そうした読み方も大歓迎です.症例を担当していて疑問が生じたとき,その疑問と同じQuestionのページを開いていただければ,臨床のヒントが見つかるはずです.
一方で本書はそれぞれのQuestionが独立しながらも,全体を通して読むことで「歩行をどう考えるか」という視点が少しずつ育まれるよう構成しています.各章で得た知識が互いにつながり,やがて一人ひとりの症例に合わせて歩行を組み立てるための土台となることを目指しました.そのため,初めて読む方には,ぜひ最初から順番に読み進めていただくことをお勧めします.独立して見える一つひとつのQuestionも,その背景にある考え方は全体を通して一本の線で結ばれています.
また,本書は一度読んで「はい,読み終わった」となる書籍ではありません.経験を重ねるほど,同じQuestionでも違った見え方をするはずです.新人のころには読み飛ばしていた一文に,数年後には「こういう意味だったのか!」と深く納得することがあるかもしれません.症例が変われば悩みも変わり,自分自身の臨床経験によって読み取る内容も変化します.その意味で,本書は繰り返し開いていただける一冊になればと願っています.
ここで紹介する考え方や方法は,決して唯一の正解ではありません.歩行は多くの要素が複雑に関係し合う現象であり,症例の身体機能や生活背景,目標によって最適なアプローチは変わります.だからこそ,「こうするべき」という結論を押し付けるのではなく,「なぜ,そう考えるのか?」という思考の道筋をできるだけ丁寧に示すことを心がけました.
読み終えたあとに,「この症例には何が必要なのだろう?」と以前より深く考えられるようになっていたなら,著者としてこれ以上ない喜びです.そして,目の前の症例と向き合うなかで迷ったとき,本書を再び開き,歩行について考えるきっかけとして役立てていただければ幸いです.
本書が,皆さまの日々の歩行トレーニング,そして症例一人ひとりの「歩けるようになりたい」という願いを支える一助となることを心より願っています.
なお今回の執筆にあたっては,宝塚リハビリテーション病院で歩行トレーニングの臨床と研究に取り組むスタッフが中心となり,編集の中谷が責任をもって確認・調整を行いました.日々の臨床と向き合いながら,それぞれの経験や知見を惜しみなく言葉にしてくれた執筆陣に心より感謝いたします.
2026年7月
中谷知生
目次
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序章 歩行トレーニングは何のため?
Q1 「歩けるようになる」って具体的にはどうなること?
Q2 運動麻痺が重度な症例でも歩行練習をするべき?
Q3 歩行能力を引き出すために,セラピストは何を“軸”に見ればよい?
おさえておきたい歩行周期
第1章 歩行トレーニングの前におさえておきたい大事なこと
Q4 長下肢装具と短下肢装具,そもそも何が違うの?
Q5 下肢装具は,何を“補助”する道具なの?
Q6 装具を使うと筋力が落ちるって本当?
Q7 装具は施設の備品でよい? 本人用のほうがよい?
Q8 端座位保持や立ち上がりの練習は歩行に役立つの?
Q9 「立てる」からといって,すぐに歩行練習を始めても大丈夫?
Q10 「質が大事」っていっても最後は「歩く量」じゃないの?
Q11 立位保持で最初に整えるべきポイントはどこ?
Q12 立位の姿勢はどのように修正して整えればよいの?
Q13 下肢装具による関節の動きのコントロールは,どの部分に着目すればよいの?
Q14 足継手による背屈方向の動きはフリーがいい? 制限したほうがいい?
Q15 立ち上がり動作のトレーニングで注意するべきことは?
Q16 「うまく立ち上がれない」のは支持性の問題なの?
第2章 長下肢装具を用いた歩行トレーニングの鉄則
Q17 長下肢装具を使った介助歩行に,基本の「型」はあるの?
Q18 歩行時に「骨盤が逃げる」ってどういう現象? どう対処する?
Q19 ステップ練習では,どのくらい介助すればいいの?
Q20 ステップ練習がうまくいっても,歩行につながらないのはなぜ?
Q21 長下肢装具での介助歩行では,「振り出し」と「荷重」,まずはどちらに着目すべき?
Q22 カットダウンに向けて,膝固定下での介助歩行では何に気をつける?
Q23 歩行中の「ふらつき」の原因は何?
Q24 介助歩行で,麻痺側下肢のスイングが極端に重たく感じるのはなぜ?
Q25 つい「過剰な介助」になってしまいがち…….どう修正すればいい?
Q26 「介助がうまくいかない」と感じたとき,最初に疑うべきは?
Q27 介助者の立ち位置って,どこが正解?
Q28 介助歩行で,介助者の上肢は何を担っているの?
Q29 手すりや平行棒の使い方はどう教えればいいの?
Q30 介助下で示される「歩けているふう」は,何を見誤らせるの?
Q31 「練習中に疲れてくると動きが乱れる」現象にどう対応するべき?
Q32 うまくいかないとき,評価と介助をどう往復する?
第3章 長下肢装具のカットダウンの鉄則(評価+戦略)
Q33 カットダウンとは何のために行うの? 焦るとどうなるの?
Q34 逆に,カットダウンが遅れると何がいけないの?
Q35 「そろそろカットダウンできるかも」と思ったとき,まず見るべきポイントは?
Q36 支持性って,どう評価すればいいの?
Q37 カットダウン決定後,症例への説明で大切なポイントは?
Q38 カットダウン移行期に長下肢装具の膝継手を固定解除して練習するのってアリ?
Q39 膝継手を固定解除した状態で,どうやって介助したらいいの?
Q40 「できる日」と「できない日」があるとき,どう判断する?
Q41 カットダウン後に歩容が崩れたときはどうしたらいい?
Q42 トレーニング中の長下肢装具と短下肢装具の往復はアリ?
Q43 カットダウン後の再評価では,何を見極めるの?
第4章 短下肢装具を用いた歩行トレーニングの鉄則
Q44 短下肢装具に移行する「適切なタイミング」っていつ?
Q45 「そろそろ短下肢装具に……」と思ったとき,まず何を確認すべき?
Q46 「慎重すぎる」と「無理させすぎ」の分かれ目はどこ?
Q47 短下肢装具にした途端,不安定になるのはなぜ?
Q48 短下肢装具での歩行トレーニング,まず何から始める?
Q49 短下肢装具での「膝折れ」が改善しない.どうすればいい?
Q50 筋緊張が亢進している症例の歩行トレーニングでは何に気をつけたらいい?
Q51 歩行時の速度って,どれくらい意識するべき?
Q52 「歩行距離が延びた」=「成功」なの?
Q53 短下肢装具を使ってADL能力を向上させるとき,他職種に介助方法をうまく伝えるには?
Q54 スイング時の過剰努力が減らないとき,どこに気をつけるべき?
Q55 介助を減らすとアライメントが崩れてしまう.それでもADLを進めたいとき,どうしたらいい?
Q56 歩行トレーニングの難易度調整は「装具」で行う? それとも「課題」で行う?
Q57 短下肢装具を使っている生活期の症例に対して,治療目的で長下肢装具を使うことってアリ?
第5章 歩行トレーニングの客観的評価の鉄則
Q58 歩行の「質」はどうやって評価すればいいの?
Q59 動画撮影で歩行分析をするとき,どこを見るのが基本?
Q60 動画での歩行分析では,足関節のどの動きに注目すればいい?
Q61 動画での歩行分析では,体幹・股関節のどの動きに注目すればいい?
Q62 動画での歩行分析では,前額面からもチェックしたほうがいいの?
Q63 介助歩行時には,どの筋の筋電図を見ればよいの?
Q64 筋電図が示す「タイミングのズレ」ってどう解釈すべき?
Q65 「立脚期での荷重が偏っている」とき,どう考える?
Q66 足圧センサーで何がわかるの?
Q67 重心移動の「軌跡」は,何に注目すべき?
Q68 評価結果を,どうフィードバックすればいい?
第6章 装具なし歩行への移行の鉄則
Q69 装具なし歩行はいつから始めるのが適切?
Q70 「装具なしで歩ける」とき,私たちは何を評価するべきなの?
Q71 装具を外す評価について,症例にどう説明しながら進めればよい?
Q72 装具なし歩行でのリスク管理はどうしたらいい?
Q73 装具なし歩行の介助では,何を意識すればいい?
Q74 装具を外した際に,気をつけるべき歩行の変化は?
Q75 装具を使ったほうが「得をする」のは,どんなとき?
Q76 再び装具をつける判断は「後退」なの?
Q77 装具を外したほうが「自然な歩き」になるって本当?
第7章 生活期での歩行トレーニングの鉄則
Q78 退院後に装具を使いつづけることは,妥協なの?
Q79 生活期では長下肢装具をどう活用すればいいの?
Q80 病棟では歩けていたのに「自宅での歩行」がうまくいかないのはなぜ?
Q81 家屋環境が病院と大きく異なるとき,歩行トレーニングはどう変える?
Q82 「歩けるけど外出しない」対象者への支援って何ができる?
Q83 本人は「歩けている」と思っていても,「危ない!」と感じたときはどう対応すればいい?
Q84 「近所まで歩いて行けた」=「自立」と言いきれる?
Q85 「家族の介助がうまくいかない」問題にどうかかわる?
Q86 生活期では,「介助」と「声かけ」をどう使い分ける?
Q87 「歩行が目的」になってしまっている生活期リハ,どう修正する?
Q88 理学療法士が生活期で「歩行」にこだわる意味って何?
本書の理解を深める文献リスト
索引
書評
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全ての歩行トレーニングの疑問を解決につなげるバイブル
書評者:山本 澄子(国際医療福祉大大学院教授・福祉支援工学)
本書には2つの軸があると思います。
1つ目の軸はバイオメカニクスです。私はこれまで通常歩行,脳卒中患者の歩行,装具の働きについてバイオメカニクスの観点から,主に理学療法士を対象に話をしてきました。冒頭でいつも「私が話すことは歩行の基本です。どのように応用するかを考えるのは,臨床家である皆さんの役目です。私は臨床経験がないので臨床的なご質問に答えるのは難しいです」と話してきました。しかし,必ず尋ねられるのは「油圧装具の制動を調節しても膝過伸展が起こります。どうしたらよいでしょう?」「長下肢装具のカットダウンは何をみて判断すればよいのでしょう?」といった質問でした。目の前の対象者について一生懸命考えているからこその疑問であることはわかるのですが,臨床経験のない私は自信のないまま回答してきました。
本書には,私が受けてきた質問が全て網羅されています。立脚期の重心上昇,床反力作用点の前方移動,ロッカー機能など,これまで私が話してきたことが回答のベースとなっています。本書を読んで,「自分がこれまで話してきたことは間違いではなかった。しっかり臨床につながっている」と確信することができました。
2つ目の軸は徹底した臨床家の視点です。脳卒中の発症直後から回復期,生活期に移行するにつれて歩行トレーニングの意味は変わってきます。本書では,それぞれのステージにおいて理学療法士が考えるべきことと,対象者に伝えるべきことが具体的に示されています。それによって,個々の対象者が受け身のリハビリテーションではなく,理学療法士と共に能動的に歩行トレーニングを進めていく存在になる道筋が示されています。
本書では「〇〇はAではない,Bである」というフレーズが多く見られます。Aはよく言われていることですが,Bは「こうすればよい」という回答ではなく,多くの場合は考え方です。「こうすればよい」につながるヒントは随所に書かれているので,読者は自分で考えながら各対象者に適した回答を見つけることになります。歩行トレーニングを行う理学療法士が何か疑問が生じたときに本書の目次を探せば,きっと自分の知りたいことにつながる糸口を見つけることができるでしょう。しかし,本書に書かれているのはあくまでも考え方ですので,自分自身の知識や経験によって内容に対する理解が変わってくると思います。本書を手元に置いてぼろぼろになるまで読みこなしたときに初めて,脳卒中片麻痺歩行トレーニングのエキスパートに近づくことができるのではないでしょうか。
本書がエキスパートをめざす多くの理学療法士に読まれることを願っています。
歩行トレーニングの効果を最大限に引き出すために
書評者:松田 雅弘(順大教授・理学療法学)
脳卒中後の歩行再建に向けて,歩行トレーニングは欠かせません。しかし,単に歩行練習を繰り返せば歩行を獲得できるわけではありません。運動麻痺の改善や筋力・協調性の向上に取り組みながら,目の前の対象者の状態に応じて,どのような歩行トレーニングを行うべきか,悩むセラピストは多いのではないでしょうか?
その臨床判断には,下肢装具の適応や活用も含まれます。下肢装具は処方して終わりではありません。下肢装具の特性を理解した上で,歩行トレーニングにどう生かすかが問われます。そこに理学療法士の力の見せどころがあります。「装具療法」では,装具を知るだけでなく,その機能を最大限に活用し,適切なトレーニング量と内容の理学療法を提供することが重要です。脳卒中を経験した対象者は,新しい身体の使い方を懸命に学んでいます。その学習を最大限に支えることも,理学療法士の使命です。
本書は,Q&A形式を通じて,単なる手順の紹介にとどまらず,臨床での「考え方を身につける」ことに主眼を置いています。「知識」は日々の臨床で活用してこそ,「技能」になります。その技能を身につける上で欠かせないのが,「なぜ,その臨床判断をしたのか?」と問い続ける姿勢です。本書には,適切な臨床評価に基づき,EBP(Evidence-Based Practice)を踏まえた歩行トレーニングを実践するための要素が詰まっています。読み進める中で,自分なら目の前の対象者にどう向き合うか,考えるきっかけを与えてくれる一冊です。
そもそも,歩行そのものが最終的な目的なのでしょうか? 歩行獲得の先には,「友人に会いたい」「仕事に行きたい」といった,対象者それぞれの活動や社会参加への願いがあります。理学療法士は,歩行獲得だけを目標とするのではなく,本書の後半にある「第6章 装具なし歩行への移行の鉄則」や「第7章 生活期の歩行トレーニングの鉄則」までを見据え,その先にある本人の望みを支えたいものです。
編集を務めた中谷知生氏の,脳卒中後の歩行トレーニングに関する長年の研究と臨床経験,そしてその実践への思いが本書には込められています。「歩行を支える」ことの先にある「生活を支える」意識が強く感じられます。本書を繰り返し読み,目の前の対象者に真摯に向き合い,伴走する理学療法士でありたいと感じました。




