重度四肢外傷 ケースで学ぶ実践ハンドブック
現場で役立つマスターガイド
重度四肢外傷患者が搬送されたら何をすればいい? それ、J-SWATが教えます!
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重度の四肢外傷患者が搬送されたとき、その場で何をどうしたらいい? 本書では臨床の現場で整形外科医が「いま、何をすべきか」を、研鑽を重ねてきたJ-SWATのメンバーが手トリ足トリ教えてくれる。重度四肢外傷治療の基礎を体系的に学んだ後、代表的なケースに取り組む若手医師と上級医の会話から、「やってはいけないこと」と「いまやるべきこと」を明確にする。整形外科臨床に必ず役立つ1冊!
編集 | J-SWAT |
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発行 | 2025年06月判型:B5頁:208 |
ISBN | 978-4-260-06025-7 |
定価 | 8,800円 (本体8,000円+税) |
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- 目次
- 書評
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序
J-SWATについて
本書は,重度四肢外傷に真正面から向き合ってきた私たちJ-SWATの,これまでの活動の集大成として編まれた1冊です.
その始まりは,2017年9月に開催された「基礎から学ぶ重度四肢外傷セミナー in 神奈川」でした.土田芳彦先生(現 札幌東徳洲会病院)の監修のもと開催され,各演者が自身の有する症例を自由に紹介するという形でしたが,振り返ってみると,お世辞にも統一感のあるセミナーだったとはいえませんでした.
セミナー後,演者間で「重度四肢外傷における初療の知識を,体系的に学べる場をつくるべきではないか」という話になり,構想を練って翌2018年に「基礎から学ぶ重度四肢外傷セミナー2018」を開催し,これが現在のセミナーの原型となりました.これを機に,日本重度四肢外傷シンポジウム(Japan Severe Extremity Trauma Symposium:JSETS)や各地のPeer Review Meeting,外傷関連のセミナーを通じて同じ志をもつ仲間が集まり,より組織的・継続的なセミナーの企画・運営が始まりました.
2020年には,活動の幅を広げるとともに理念を明確化するため,「J-SWAT(Japanese Severe Extremity Trauma & Wound Management Activate Team)」という名称を掲げることとなりました.
出身大学も勤務先も異なる私たちメンバーは,それぞれが臨床の現場で直面してきた困難や葛藤を共有し合いながら,「本当に大切なことは何か」を議論し続けてきました.その積み重ねが,毎年のセミナー開催,そして本書の発行へとつながっています.重度四肢外傷は複雑で,時に治療のハードルが非常に高く感じられることがあります.しかし,「いま,何をすべきか」が明確になれば,初療は確実に適切な方向へと近づきます.
本書は,不運にも重度四肢外傷を負ってしまった患者さんが,全国どこでも質の高い初期治療が受けられ,そして必要に応じて専門施設へとスムーズにつながる──そのような理想の実現を目指して編まれました.
専門書ではありますが,できる限り親しみやすい構成とし,臨床現場で明日から役立つ実践的な内容を意識して盛り込んでいます.
本書が,皆さまの診療を一歩前に進めるきっかけとなることを,そして,読んでくださった1人ひとりが「Team JAPAN」として,日本各地の現場で自らの役割を果たしながら,ともに医療を支えてくださることを,心から願っております.
2025年初夏
筒井 完明
目次
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第1章 重度四肢外傷の基礎
アルゴリズムとチェックリスト
COLUMN 「重度四肢外傷初期診療アルゴリズム」Webアプリ
全身評価
抗菌薬投与
神経・血管損傷評価
骨折部の分類と評価
初療時の骨固定
血管損傷治療
軟部組織損傷
軟部組織損傷評価──デブリドマンの原則
開放骨折におけるprimary closureと delayed primary closure,タイムアウト法
NPWT(局所陰圧閉鎖療法)の使いかた
植皮と皮弁の基礎知識
Orthoplastic surgery
第2章 症例から学ぶ
全身管理
[Case 1] 派手なケガに飛びつくその前に,必ずやるべき循環不全の確認
[Case 2] 多発外傷における整形外傷の適切な介入とは?
血管損傷
[Case 3] CTでいったん描出されるが消失するパターン
[Case 4] 血管損傷の初期治療は慎重に! 不用意な結紮にご注意を
創部評価とデブリドマン
[Case 5] デブリちゃんとしないで髄内釘?
[Case 6] 骨が出てたら感染しちゃうじゃん?! 有識者と一緒にデブリを
骨の一時固定
[Case 7] 整復アライメント不良は血行障害の原因になりうる
創外固定
[Case 8] 開放骨折に対する創外固定は固定力を担保せよ
開放創の管理
[Case 9] 無理な閉創,誰のためにもなりません
[Case10] タイムアウトは粘らない,いつでも軟部組織再建を実施できるように!
転院搬送
[Case11] 膝窩動脈損傷は早く送りなさいよ!
[Case12] 転院搬送なら粘らずすぐに送ろうよ
索引
書評
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「本当に大切なことは何か」「いま,何をすべきか」が明確になる
書評者:最上 敦彦(順大静岡病院先任准教授・整形外科)
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私と「整形外傷」の真の出会いは,今から25年前(2000年)に宮崎のフェニックス・シーガイアで開催された「救急整形外傷シンポジウム(EOTS)」でした。フェニックスでゴルフがしたくて,主題の開放骨折に合わせて,赴任したばかりの現病院のそれまでの治療成績をまとめて報告しました。当時,開放骨折といえば,救急外来で局所麻酔下に洗浄・デブリして,あとは直達牽引で逃げて,2週後くらいまでを目安に骨接合にいくといった,かなりアバウトな治療が当たり前でした。そんな私でしたが,本会におけるGustilo先生の特別講演で開放骨折に対する即時内固定の実践理論というものを恥ずかしながら初めて知り,そしてそこに集う日本を代表する整形外傷医同士の濃密な議論に衝撃を受けました。これ以降,真剣に学問として「整形外傷」に取り組むようになりました。
その後,縁あってこのEOTSを11年後(2011年)に代表世話人として開催したころから,関連学会や各種セミナーに積極的に参加する若手ドクターを目にするようになりました。とりわけ「重度四肢外傷」の初期治療に着目して,自主的にセミナーを開催するようになったのが,本書を編集したJ-SWATのメンバーたちでした。彼らも私と同じく「整形外傷」に魅せられ,同じ思いを抱く仲間と一致団結して,それ以降各方面で活躍されてきました。
そんな彼らに2023年に私が静岡で開催した「第49回日本骨折治療学会学術集会」で若手向けの教育セッションをお願いしました。彼らは“骨折プロレス”という,「重度四肢外傷」の初期治療戦略をテーマにした寸劇タッチのセッションを披露してくれました。プロレスは一般的に筋書きのある真剣勝負と言われています。体を張ったリアルスポーツでありつつ,究極のエンターテイメントです。これは教育においても同じではないでしょうか? 「難しいことを難しく言うことは簡単,難しいことを易しくかつ楽しく伝えることは簡単なようで難しく,けれどとても大事なこと」……この精神が彼らの発表からひしひしと感じられました。そんな彼らの活動の集大成が本書です。
本書は「総論」としての「第1章:重度四肢外傷の基礎」と「各論」としての「第2章:症例から学ぶ」の2本立て構成となっていますが,その精神が集約されたのが第2章です。読者の皆さまは,まずは平易な文章でつづられた第1章を通読して基礎知識を身につけ,次いで第2章に進んでください。第2章では彼らが実際に体験した症例が,登場人物(医師)の会話形式でユーモラスに語りつがれていきます。楽しみながら読み進めることで,最後には自然と「本当に大切なことは何か」・「いま,何をすべきか」が明確になったことを自覚できるでしょう。
「外傷」という分野に少しでもかかわり合う立場にいる整形外科や救急診療科の医師にとって,いつ何時遭遇するかもわからないのが「重度四肢外傷」です。そして,その初期治療の最前線に立つのは,多くは若手医師です。そんな彼らに本書は強い味方になってくれることでしょう。しかし,それ以上にそんな若手を指導する立場にある上級医・指導医にこそ,本書は必要な1冊であると言えると思います。
確信を持って患者さんと向き合うためのバイブル
書評者:前川 尚宜(奈良医大准教授・救急医学)
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いざ,重度四肢外傷の患者さんが目の前に現れたとき,あなたは自信を持って対応できますか? 外傷の最前線に立つのは,後期研修医や人工関節などの他領域を専門とする先生であることが少なくないかと思います。重度四肢外傷の初期治療という重要な治療を,自信を持って進めることができるでしょうか? 残念ながら,「はい」と即答できる先生は少ないのが現状でしょう。
かつて,ベテラン医師たちも明確な教科書がないまま重度四肢外傷の治療について試行錯誤を繰り返してきました。そんな中,土田芳彦先生が立ち上げたJSETS(日本重度四肢外傷シンポジウム)などでの議論を経て,重度四肢外傷の治療が多くの先生方に広まり,現在の日本では重度四肢外傷の治療は標準化されつつあります。またその中で治療戦略を共有し適切な初期治療を行い,必要であれば専門家に任せるという治療戦略があるということも明確になってきました。しかしその標準的治療に関する知識は,“本当に必要な人々の手元に届いているでしょうか?”
この現実を変えるため,J-SWAT(Japanese Severe Extremity Trauma & Wound Management Activate Team)は立ち上がりました。彼らもまた,初めは同じような不安を抱えていたかもしれません。だからこそ,「非専門家でも重度四肢外傷に対応できるように」という強い思いから教育活動を進め,その内容を本書にまとめたのだと思います。
本書は,J-SWATの講義内容を体系的にまとめたもので,特に初期治療に焦点を当てています。重度四肢外傷診療の基本が詰まっており,誰もが適切な判断を下せるように導いてくれるでしょう。後半には,現場で遭遇しやすいケースが具体的にまとめられており,頭の中だけで考えていたことが,実践的な知識として身につくでしょう。
この本を読めば,あなたは不安を払拭し,目の前の重度四肢外傷の患者さんに対して「自信を持って治療に臨む」「勇気を持って専門医に紹介する」というような適切な行動を取れるようになるはずです。若手医師だけでなく,重度四肢外傷に携わる可能性のある全ての整形外科医にとって,この本は確信を持って患者さんと向き合うためのバイブルとなるはずです。
この本でしっかりと学び,来るべき症例に備え,1人でも多くの患者さんを救いましょう。
現場で戦う臨床医にとって実用性の高い指南書
書評者:善家 雄吉(産業医大学病院外傷再建センター部長)
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重度四肢外傷は,診療科や施設の枠を超えて,多くの医療従事者にとって臨床的にも教育的にも挑戦となる現場である。その対応は時として,生命と四肢の存続という極めて重い判断を伴い,その臨床現場には高度な知識と状況判断,さらには迅速なチーム連携が求められる。本書『重度四肢外傷 ケースで学ぶ実践ハンドブック』は,そうした現実に立ち向かう術を,まさに「現場から生まれ,現場で磨かれた知」として体系的にとてもわかりやすく提示してくれた貴重な1冊である。
本書はJ-SWAT(Japanese Severe Extremity Trauma & Wound Management Activate Team)の若手・中堅医師たちによる長年の実践と蓄積,そして全国各地でのセミナー活動の成果として結実した。第1章では重度四肢外傷の評価・初期対応・固定・軟部組織管理といった基本が網羅されており,診療アルゴリズムや動画による視覚的補助を交えることで,読者が具体的な行動に直結できるよう構成されている。
一方,第2章の「症例から学ぶ」では,臨床現場の“リアル”が生き生きと描かれる。各症例の見出しからして「デブリちゃんとしないで髄内釘?」「CTでいったん描出されるが消失するパターン」など,軽妙な語り口の中に,医療者として「あるある」と共感せざるを得ない緊迫感が滲む。読者にとっては,知識の習得と同時に,実践的な“気付き”を得る絶好の素材であり,伝え方として,若手臨床家にはとても響く内容と感じられる。
本書を通して一貫して感じられるのは,「重度四肢外傷の予後は,外傷医の力と初療医の力の2つのファクターで決まる」という,わが産業医大名誉教授 鈴木勝己先生の言葉が,全体の哲学として深く根を張っているということだ。この理念が明確であるからこそ,本書の構成や執筆のトーンがブレることなく,現場で戦う臨床医にとって実用性の高い指南書として成立している。
重度四肢外傷に限らず,外傷診療の入り口に立つ若手医師にとって,本書は「何を」「どの順で」「どこまで」行うかの羅針盤となるだろう。また,ある程度の経験を有する医師にとっても,体系的に自らの診療を見直す機会となり得る。本書は単なるマニュアルではなく,日々進化するチーム医療・外傷医療の“現在地”を映す鏡であり,未来への指針でもある。
最後に,今をときめくJ-SWAT著者陣が,実地経験と科学的知見の融合をもってこれほどまでに臨床的価値の高い書籍を編まれたことに,深い敬意を表したい。彼らが次世代の外傷医療を担う存在であることは間違いなく,そして本書が全国各地の現場において「Team JAPAN」の輪を広げる一助となることを,心より期待している。
机上では得られない,“実践”の気付きが詰まった書
書評者:工藤 俊哉(新百合ヶ丘総合病院外傷再建センター 外傷マイクロサージェリー部長/福島医大教授・外傷学)
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本書は,JSETS(Japan Severe Extremity Trauma Symposium;日本重度四肢外傷シンポジウム)で長年にわたり提示・議論されてきた知見に対して,次世代の医師たちが臨床現場から真摯に応答した「手紙」である。現在の外傷治療のスタンダードが,数多くの試行錯誤や,時に悔いの残る不遇な転帰を経て築かれてきたことを,改めて思い起こさせてくれる。
取り上げられている症例には,過去の経験を否定することなく,それに甘んじることもせず,未来をより良いものにしたいという意志がにじむ。限られた資源や時間の中で,いかにして患者にとって最善の選択を届けるかという,臨床医としての葛藤と挑戦が誠実に描かれている。
「今の若い医師は……」と語られることもあるが,本書を読めば,そのような見方が表層的であることがわかる。「このままではいけない」「よりよくしたい」という思いこそが,著者らのJ-SWATセミナーの継続と本書の出版へと結び付いたのであろう。
本書の特徴は,机上では得られない,体験した“実践”の気付きが詰まっていることにある。成功例だけでなく,苦渋の選択や迷いといったリアルな臨床経験も率直に語られており,それが「実践」の本質を読者に伝えている。
外傷治療は,実際に現場で手を動かし,判断し,結果を引き受けることで初めてその入口に立つことができる。本書は,誤りを含む実践と,間違いのない実践の双方を赤裸々に提示しており,救急の最前線で奮闘する全ての若手臨床医にとって,確かな道しるべとなる一冊である。