超音波・細胞・組織からみた
甲状腺疾患診断アトラス

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甲状腺疾患専門病院で長年病理診断に携わってきた著者の選りすぐりの症例写真を凝縮したアトラス。超音波像や肉眼像、細胞像、組織像など、バリエーションに富んだ1,300枚以上の写真を惜しみなく盛り込んだ。甲状腺疾患診断のポイントをコンパクトにまとめたワンミニッツ講座や穿刺吸引細胞診の動画など、初学者でも楽しんで学べる内容となっている。

執筆 廣川 満良
執筆協力 樋口 観世子 / 鈴木 彩菜
発行 2022年11月判型:A4頁:368
ISBN 978-4-260-05015-9
定価 16,500円 (本体15,000円+税)

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 1984年,Johns Hopkins University School of Medicine──私の細胞診への興味と挑戦はここから始まりました.このとき参加した『25th Postgraduate Institute for Pathologists in Clinical Cytopathology』を主催していたのが故John K.Frost先生で,客観的に観察した細胞の形態的特徴を適切な言葉で表現し,そこから細胞の由来や活動性を見抜くアプローチ法にとても感銘を受けたことを覚えています.彼の著書『Concepts basic to general cytopathology』は私の細胞診のバイブルであり,掲載されている細胞のシェーマを見るたびに彼の観察能力の高さに敬服し,私もいつか読者の心に響く細胞診の本を出版したいと願っておりました.

 ターニングポイントとなった2006年,私は隈病院に入職しました.年間8,000例の甲状腺細胞診と2,000例の甲状腺手術という膨大で貴重な症例を,全国の病理医や細胞検査士の教育に役立てたいと企画したのが『神戸甲状腺診断セミナー』でした.Frost先生のセミナーの日本版というわけです.このセミナーは年1回,現在までに14回開催しており,講演は150演題,実習標本は803症例となりました.また,希望者を対象に顕微鏡実習を中心とした『病理細胞診教育コース』を随時行っており,国内外問わず多くの方にご参加いただきました.これらの経験や教育資料をふんだんに盛り込んだのが本書です.

 改めまして,本書をお手に取っていただきありがとうございます.本書は執筆協力者である樋口観世子氏,鈴木彩菜氏とともに,甲状腺疾患の形態学的診断に焦点を当てて執筆しました.アトラスと銘打ち,文章は箇条書きですが,細胞診断の面白さと奥深さを実感していただける内容だと自負しています.第I章「診断における基本的知識」は動画付きで解説していますので,QRコードからアクセスしてみてください.第II章「主な甲状腺疾患の臨床・組織・細胞所見」は一般的な教科書としてお使いください.第III章「細胞診標本の見方・報告様式」と第IV章「細胞診における主な鑑別疾患」では私流の診断アプローチを記載しました.十人いれば十通りのアプローチ法があり,どれが正解かはわかりませんが,これが現時点での“自己ベスト”です.第V章「甲状腺疾患アトラス」ではわれわれが経験した87例を紹介しています.実際の症例ではすべての所見が典型像を示すわけではないこと,臨床的知識なしでは細胞診報告ができない症例があることに留意して読んでいただければと思います.「ワンミニッツ講座」は,マニアックな甲状腺の専門知識を1分間でわかるように,私が懇意にしている先生方に解説していただきました.また「甲状腺トリビア」は,明日誰かに話したくなる雑学を鈴木彩菜氏が執筆しました.

 最後に,私を病理・細胞診の世界に導いてくれた故山下貢司先生,真鍋俊明先生,坂本穆彦先生,隈病院で病理医と穿刺医の二刀流の場を提供してくださった宮内昭先生,業務外に無償で協力してくれた隈病院病理診断科の細胞検査士さんたち,本書の完成を心待ちにしてくれていた友人・家族に心から感謝します.また,本書の企画に多大なるご支援をいただいた医学書院の大野智志氏と私の無理難題な執筆・編集に快くご尽力くださった松本哲氏に心より御礼を申し上げます.

 “You see,but you do not observe.The distinction is clear.”

 読み終えたあと,このシャーロックの言葉に共感していただければ幸いです.

 2022年10月
 廣川満良

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I 診断における基本的知識
 1 解剖,組織,発生,ホルモンの合成と分泌
  A 解剖
  B 組織
  C 発生
  D ホルモンの合成と分泌
 2 画像診断
  A 超音波検査
  B CT検査
  C シンチグラフィー
 3 細胞診
  A 目的と適応
  B 穿刺法
  C 標本作製法
  D 合併症
  E 穿刺材料を用いた補助診断
 4 組織診
  A 検体の扱い
  B 甲状腺腫瘍の分類
 5 免疫組織化学染色
 6 術中迅速診断

II 主な甲状腺疾患の臨床・組織・細胞所見
 1 非腫瘍性
  A 急性化膿性甲状腺炎
  B 亜急性甲状腺炎
  C 慢性甲状腺炎(橋本病)
  D Riedel甲状腺炎
  E 腺腫様甲状腺腫/腺腫様結節
 2 良性腫瘍
  A 濾胞腺腫
  B 濾胞腺腫特殊型
 3 境界悪性
  A 硝子化索状腫瘍
  B NIFTP
  C FT-UMP
  D WDT-UMP
 4 悪性腫瘍
  A 乳頭癌
  B 乳頭癌特殊型
  C 濾胞癌
  D 濾胞癌特殊型/好酸性細胞型
  E 低分化癌
  F 未分化癌
  G 髄様癌
  H 混合性髄様癌・濾胞細胞癌
  I リンパ腫
  J その他の悪性腫瘍

III 細胞診標本の見方・報告様式
 1 細胞診標本の基本的見方
  A 細胞診標本と組織標本の違い
  B 穿刺材料と剝離材料の違い
  C 充実部と囊胞部の違い
  D 通常塗抹標本の見方
  E LBC標本の特徴と見方
 2 細胞診の診断的クルー
  A 背景
  B 出現様式
  C 細胞形
  D 細胞質
  E 核
 3 診断カテゴリー
  A 検体不適正
  B 囊胞液
  C 良性
  D 意義不明
  E 濾胞性腫瘍
  F 悪性の疑い
  G 悪性
 4 診断と報告書の書き方
  A 目的と心構え
  B 報告書の書き方

IV 細胞診における主な鑑別疾患
  鑑別1 富細胞性腺腫様甲状腺腫 vs 濾胞性腫瘍
  鑑別2 濾胞腺腫 vs 濾胞癌
  鑑別3 濾胞性腫瘍 vs 副甲状腺腺腫
  鑑別4 好酸性細胞型濾胞性腫瘍 vs 髄様癌
  鑑別5 濾胞性腫瘍 vs 濾胞型乳頭癌
  鑑別6 硝子化索状腫瘍 vs 乳頭癌
  鑑別7 囊胞性腺腫様甲状腺腫 vs 囊胞形成性乳頭癌
  鑑別8 低分化癌 vs 甲状腺内胸腺癌
  鑑別9 リンパ球優位橋本病 vs MALTリンパ腫

V 甲状腺疾患アトラス
 非腫瘍性疾患
  症例1 下咽頭梨状窩瘻
  症例2 亜急性甲状腺炎
  症例3 橋本病
  症例4 結節形成を伴う橋本病
  症例5 IgG4関連甲状腺炎
  症例6 Riedel甲状腺炎
  症例7 サイログロブリン遺伝子異常症
  症例8 TPO遺伝子異常症
  症例9 Pendred症候群
  症例10 Cowden症候群
  症例11 腺腫様結節
  症例12 乳頭状増殖が目立つ腺腫様甲状腺腫
  症例13 囊胞性腺腫様結節
  鑑別14 Plummer病
  症例15 アミロイド甲状腺腫
  症例16 リンパ上皮囊胞
 良性腫瘍
  症例17 濾胞腺腫
  症例18 濾胞腺腫,好酸性細胞型,囊胞形成性
  症例19 濾胞腺腫,好酸性細胞型,梗塞性
  症例20 奇怪核を伴った濾胞腺腫
  症例21 脂肪腺腫
 境界腫瘍
  症例22 NIFTP
  症例23 硝子化索状腫瘍
 乳頭癌
  症例24 微小乳頭癌,気管穿刺
  症例25 乳頭癌,被包型
  症例26 乳頭癌,濾胞型
  症例27 乳頭癌,大濾胞型
  症例28 乳頭癌,ホブネイル型,穿刺経路再発
  症例29 乳頭癌,円柱細胞型
  症例30 乳頭癌,高細胞型,穿刺経路再発
  鑑別31 乳頭癌,篩型
  鑑別32 乳頭癌,びまん性硬化型
  鑑別33 乳頭癌,充実型
  症例34 乳頭癌,Warthin腫瘍様
  症例35 乳頭癌,囊胞集簇(ハニカム)型
  症例36 乳頭癌,梗塞性
  症例37 乳頭癌,デスモイド様の間質を伴う
 濾胞癌
  症例38 濾胞癌,微少浸潤型
  症例39 濾胞癌,被包性血管浸潤型
  症例40 濾胞癌,広汎浸潤型
  症例41 濾胞癌,転移性甲状腺腫
  症例42 濾胞癌,低分化転化
  症例43 濾胞癌,好酸性細胞型
 低分化癌
  症例44 低分化癌,索状増殖パターン
  症例45 低分化癌,被包性
  症例46 低分化癌,濾胞癌からの転化
 未分化癌
  症例47 未分化癌,好中球浸潤
  症例48 未分化癌,ラブドイド型
  症例49 未分化癌,紡錘形細胞型
  症例50 未分化癌,破骨細胞型
  症例51 未分化癌,高分化癌からの転化
  症例52 未分化癌,リンパ節発生
 髄様癌
  症例53 髄様癌
  症例54 髄様癌,紡錘形細胞型/遺伝性
  症例55 髄様癌,偽乳頭状型
  症例56 髄様癌,カルチノイド様
  症例57 髄様癌,小細胞型
  症例58 髄様癌,高悪性度
  症例59 混合性髄様癌・濾胞細胞癌
 リンパ腫
  症例60 MALTリンパ腫
  症例61 MALTリンパ腫,形質細胞への分化
  症例62 リンパ腫,びまん性大細胞型B細胞
  症例63 濾胞性リンパ腫
 まれな腫瘍
  症例64 好酸球増多を伴う硬化性粘表皮癌
  症例65 甲状腺内胸腺癌
  症例66 胸腺様分化を伴う紡錘形細胞腫瘍(SETTLE)
  症例67 孤立性線維性腫瘍
  症例68 平滑筋肉腫
  症例69 転移癌,腎細胞癌,濾胞腺腫内転移
  症例70 転移癌,大腸癌
 副甲状腺
  症例71 副甲状腺囊胞
  症例72 副甲状腺腺腫
  症例73 副甲状腺腺腫,甲状腺内
  症例74 副甲状腺癌
  症例75 副甲状腺未分化癌
 その他
  症例76 甲状舌管囊胞(正中頸囊胞)
  症例77 側頸囊胞
  症例78 線毛上皮性囊胞
  症例79 リンパ管腫,大囊胞型(囊胞状)
  症例80 乳頭癌リンパ節転移,泡沫細胞のみ
  症例81 縫合糸肉芽腫
  症例82 食道憩室
  症例83 Langerhans細胞組織球症
  症例84 食道癌の直接浸潤
  症例85 神経鞘腫
  症例86 傍神経節腫
  症例87 胸腺腫

ワンミニッツ講座
甲状腺トリビア

文献一覧
索引

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日本の甲状腺疾患診断学の到着点を示した必携書
書評者:杉谷 巌(日医大大学院教授・内分泌外科学)

 「世界に誇る甲状腺専門病院」である隈病院は2022年,創立90周年を迎えた。同病院の病理診断科・科長である廣川満良先生がこのたび,『超音波・細胞・組織からみた 甲状腺疾患診断アトラス』を上梓された(執筆協力:樋口観世子氏,鈴木彩菜氏)。廣川先生は1978年,川崎医大を卒業後,病理診断の分野で経験を積まれた。とくに1984年に参加されたJohns Hopkins大でのJohn K. Frost教授によるPostgraduate Institute for Pathologist in Clinical Cytopathologyにインスパイアされ,細胞診の世界にのめり込まれたという。2006年,隈病院に入職され,年間8000例の甲状腺細胞診と2000例の甲状腺手術標本の病理診断という圧倒的な経験を積まれるとともに,数多くのプライオリティの高い研究論文も発表され,甲状腺専門の細胞診・病理医として,その名を世界にとどろかせている。廣川先生はまた病理医や細胞診断士の育成にも尽力され,「神戸甲状腺診断セミナー」を毎年,企画・開催されてきたが,本書にはそのエッセンスが盛り込まれている。

 第I章「診断における基本的知識」では甲状腺疾患の診断法について,細胞診の手技を中心に解説されているが,QRコードにより具体的な手技を動画で見られるのは画期的である。第II章「主な甲状腺疾患の臨床・組織・細胞所見」では非腫瘍性疾患,良性腫瘍,境界悪性および悪性腫瘍について数多くの図版とともに詳細かつ明確に解説されている。第III章「細胞診標本の見方・報告様式」,第IV章「細胞診における主な鑑別疾患」では細胞診で注目すべき所見について,廣川先生一流の科学的観察眼と論理的表現力が存分に発揮され,素人目にはともすれば直観的で判じ物のように思えてしまう細胞診における目の付け所(ベスト・アプローチ)が明示されている。とくに濾胞腺腫と濾胞癌や濾胞性腫瘍と濾胞型乳頭癌,リンパ球優位橋本病とMALTリンパ腫など甲状腺を扱う医師の悩みの種である困難きわまりない鑑別診断についても明快な回答が用意されており,明日からの臨床にすぐさま役立つであろうこと必至である。そして,本書のクライマックスは第V章「甲状腺疾患アトラス」である。87もの多彩な症例のそれぞれについて,超音波画像を含む臨床所見,細胞診画像,病理組織像が美しく示された上で的確な解説が加えられており,あたかも隈病院に留学したかのような妙味を味わうことができる。隈病院から発信された研究成果を中心に甲状腺臨床の重要な知見を集めた「ワンミニッツ講座」や甲状腺に関する歴史雑学を集めた「甲状腺トリビア」も有益で楽しい。さらに文献一覧においては,多くのオープンジャーナル掲載の論文が示されており,さらに知識を深めることも可能となっている。甲状腺疾患に対する総合的臨床能力を鍛えたい者にこの上なく役立つのはもちろん,ある程度経験を積んだ者にとっても,さらに目を肥やすことができる必携の書であると言える。日本の甲状腺疾患診断学の到達点を示した本書が,近い将来,英語版でも発行されることを期待したい。


圧倒的多数の症例を収載した臨床医必携の書
書評者:山下 俊一(福島医大副学長)

 廣川満良先生執筆による『超音波・細胞・組織からみた 甲状腺疾患診断アトラス』の出版間近の案内チラシが,2022年11月5日神戸隈病院の創立90周年記念講演会後の祝賀会で配布されました。早速入手の上で熟読させていただきましたが,圧倒的多数の症例に裏打ちされた総合的な甲状腺診断と同時に,細胞診の教科書だと深く感銘を受けました。

 本書の特徴は,まず読みやすく理解しやすいということです。なぜなら第I章は,診断における基礎知識ですが,画像診断と細胞診,組織診の実例と技法などが簡潔明瞭,しかし丁寧に書かれているからです。日常診療の中で,甲状腺診断の流れが手に取るように理解できると思います。次の第II章では,良悪性の鑑別の視点から主な甲状腺疾患の臨床・組織・細胞所見の解説が,系統的に詳述されています。非腫瘍性の特徴は,各種甲状腺炎症を中心に鑑別点が要領よく解説され,同様な組み立てで,良性腫瘍,境界悪性,悪性腫瘍が詳述されています。特に,悪性腫瘍では乳頭癌特殊型についても豊富な画像を用いた示唆に富む教科書となっています。細胞診所見だけでよくもこれだけの亜型分類ができるものだと感心させられます。

 第I章の「3.細胞診」の項目で,良い標本作りのノウハウを理解し実践できれば,第III章での細胞診標本の見方・報告様式につながり,正確な診断に至るプロセスの重要性とその基本的な観察ポイントが参考になるはずです。これら標本の見方に加えて,細胞診の診断クルーの豊富な画像所見とそれぞれの解説は,まさにプレパラート標本上にある細胞以外の周辺所見をも見逃さず,診断の精度を高めるための補助所見としての重要性が理解でき,観察することの醍醐味を教えているようです。専門家の陥りやすいピットフォールが,典型症例の先入観と偏見であり,「見えても観えず」の誤診につながることを避けるための大切な手がかりを与えてくれています。

 第IV章の細胞診における主な鑑別疾患での紛らわしい腫瘍の比較では,そもそも最終病理診断名から逆に細胞診の正診率を競うようなものですが,見事にポイントを押さえて,スライド上の背景から細胞の出現様式,細胞形,細胞質そして核所見まで対照表としています。その上で疾患の鑑別に役立つ細胞診の写真が豊富であり,次の第V章の本題である甲状腺疾患アトラスに続くことになります。

 第V章では,本アトラスの真骨頂が87症例の見開き2ページの説明となって結実しています。各種疾患の特徴に沿った現病歴と図による病状説明,さらに特徴ある検査所見や血液・生化学検査所見に超音波画像所見を合わせて,その上で細胞診の写真と病理組織診断所見や免疫染色所見を見事に取りまとめています。他に挿入されているワンミニッツ講座も参考になりますが,検査所見を駆使した総合的な甲状腺疾患診断アトラスは画期的であり,隈病院の歴史と底力を感じさせ,甲状腺臨床医の必携書になるものと確信されます。


甲状腺疾患に興味を持つ全ての人へ
書評者:坂本 穆彦(大森赤十字病院顧問)

 隈病院(神戸市)はわが国の甲状腺疾患の診療をリードしている専門病院です。この病院で多年にわたり病理診断(細胞診,組織診)を担当されているのが,本書の執筆者である廣川満良先生です。廣川先生は自身で超音波ガイド下穿刺吸引細胞診の検体採取もルーチンで行っている稀有な専門家です。このたび,これまでの幅広い活動の集大成として完成したのが本書です。

 廣川先生が育成し,共に活動している細胞検査士の方々も共同執筆者などに名を連ねています。彼女らは英文論文の執筆や国際学会での発表もこなすスーパー細胞検査士です。活動の一端は巻末の文献リストにも垣間見ることができます。

 本書の執筆陣のお名前を見ただけでも,強力な布陣であることがわかりますが,実際に本書を前にすると,一般の書籍よりも大きいA4判というサイズと本の重さによって,内容における重量感が予感されます。

 本書の内容は大きく5つの章に分かれています。全体を通しての記述は全て箇条書きで,とても読みやすく理解しやすい配慮がなされています。

 第I章「診断における基本的知識」では,超音波検査などの画像診断,細胞診・組織診の検体採取・標本作製,甲状腺腫瘍の分類が示されています。免疫組織化学染色の項では鑑別診断などに有用で実用的な事項が記載されています。

 第II章「主な甲状腺疾患の臨床・組織・細胞所見」では,主な甲状腺疾患の概容が紹介されており,この領域の疾患のポイントが把握できます。

 第III章「細胞診標本の見方・報告様式」では,所見別に,例えばコロイド・壊死物質・好酸性細胞・シート状配列・核の溝などのおのおのの細胞所見の特徴が示されています。これは他書ではあまり強調して書かれることのないユニークな視点です。

 第IV章「細胞診における主な鑑別疾患」では前章の知識を基に,実際に診断する際のノウハウが満載されています。濾胞腺腫vs濾胞癌の項(p.148)では,「細胞診では両者は区別できないので濾胞性腫瘍と報告する」という標準的な説明がなされています。しかし,そのすぐ後には「濾胞癌を強く疑う」所見についても言及されています。甲状腺検体の少ない一般病院では慎重な対応が必要な,いわば上級コース向けの内容です。老婆心ながら,ここにはスキー場にあるような「安易に踏みこむな」というフラッグを立てていただければよかったと思われます。

 第V章「甲状腺疾患アトラス」は本書のページ数の半分を占めています。各病変の現病歴・血液生化学検査・超音波検査・細胞診・組織診が盛り込まれており,隈病院の自験例を背景に総力をあげてまとめられたことがよくわかります。

 豆知識として「ワンミニッツ講座」と「甲状腺トリビア」の欄があり,興味深いけれどもマニアックな記事が載せられています。欲をいえば,よくある質問,例えば「慢性甲状腺炎と橋本病の異同」や,「グレーブス病がなぜ日本でだけバセドウ病といわれるのか」などの一般的な関心を惹起できるような事柄についても教えていただきたかったところです。

 本書のセールスポイントは,本書の帯に掲げられている「甲状腺専門病院だからこそ成し得る圧倒的な質と量」,「唯一無二の最強アトラス」です。本書はこの言にたがわぬ力作であり,甲状腺疾患に興味を持たれる全ての方々にお薦めいたします。

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