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外科医のための局所解剖学序説 第2版

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解剖学、外科学の両方の視点を併せもつ著者が贈る好評書、待望の改訂版。結合組織を取り入れたオリジナルの解剖図で描いた術式を通し、人体構造の捉え方の妙味を描き、新しい術式創造へのヒントを提示するとともに、歴史上の外科医の臨場感あふれるエピソードから手術術式を考察する大好評のコラム「タイムクリップ」も大幅に拡充!外科医なら手元に持っておきたい1冊。

佐々木 克典
発行 2022年04月判型:A4頁:368
ISBN 978-4-260-04626-8
定価 14,300円 (本体13,000円+税)

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第2版の序

 「臨床外科」誌に連載を始めたのが1996年,初版を上梓したのは2006年。その後,何度か改訂を試みたが,これまですべて途中で断念した。16年過ぎ,その理由がようやくわかった。私がこの本に込めた思いとは異なった新しい知見を書き込もうとし,電子ジャーナルが隆盛を極めていく中で次々と変化していく大量の情報に翻弄され息切れし断念に追い込まれていたのである。
 しかし,「臨床外科」誌に連載し,それらを1冊の著書としてまとめ上げた頃,私は手術術式を,それが新しいものであれ古いものであれ,芸術として捉えていた。その芸術を芸術として成立させたのが,術式を考え出した外科医の生理学に基づいた解剖学的思考だった。思いもよらぬ視点から人体の世界が紡ぎ出されたとき,えもいわれぬ絵画や彫刻の前で言葉を失いたたずむ思いと同じ感覚になる。初版の序に“人体にはカギになる構造があり,それを見つけることで多くのことが氷解し,深く理解することができるようになるからである。ちょうど幾何学で補助線を引くことにより難しい問題がたちまち証明できるあの感覚に似ている”と書いた。音の組み合わせにより生まれてくる音楽が尽きぬように,人体の構造を理解するための補助線を見いだしていくための思考作業,すなわち有限の情報から有益な無限の組み合わせを探る作業は止むことがないのではないだろうかと考えた。この思考の遊びを堪能できるようになったとき,初めて外科医は人体を思いのまま逍遥できるようになるのではないだろうか,これが私の求めていた解剖であり,それを実現するために書き上げたのがこの著書であった。この原点にもう一度立ち返り改訂を試みた。したがって,この本が求めるのは,術式を説明することではなく,術式を通し,人体構造の捉え方の妙味を描くことであり,発想の面白さを抽出することであり,新しい術式創造へのヒントを提示することである。
 第2版の特徴をいくつか挙げてみよう。初版で図の多くに結合組織を多く描きこんだ。膜状の結合組織を描きこんだ解剖書はあるが,結合組織の細線維を緻密に,疎に,方向性をもって,あるいはランダムにそれぞれの部位の特徴を意識して描きこんだ解剖書は少ない。なぜなら,結合組織を取り除いて初めて構造物は見えてくるのであって,結合組織を残すことは解剖学書あるいは図譜として成立しないからである。それを初版で“隙間”という視点からあえてやった。改めてその重要性に気づいたのは改訂に取り組んでいるときであった。なぜなら,腹腔鏡手術などが一般化するにつれ,明るく拡大された局所領域に結合組織が我が物顔で忽然と視野に見えてくるようになったからである。結合組織を取り入れる解剖は,早晩新しい解剖として確立していくであろう。この著書はまだまだ不完全であるが,その先駆けと考えている。
 次に新たな手術に関わる図を何枚か加えた。その選択の基準は初版と同じであり,解剖を巧みに利用した奇抜でたまらない面白さを備えたものである。
 タイムクリップはその章の解剖を総括するもの,あるいは触れることができなかった臓器を取り上げたもの,そしてこのようなことも考えつくのかという人間賛歌に満ちたものを選んだ。
 一方で,初版を読み返し,改めて現在の自らの感性と情熱がその当時と異なっていることを知った。還暦過ぎた人間の感性が解剖学的思考からもたらされる芸術に気づき受け入れるだけの鋭さがまだ残っているかどうかを試されたように思う。その判断は読者にお任せしたい。
 最後に,初版から関わっていただき改訂を辛抱強く待っていただいた中田正弘氏,今回,すべてにわたり細かく目を通してくださった洲河佑樹氏,図に対する私の細かな要求に真摯に応えてくださった野中久敬氏,丁寧に組版してくださった三美印刷の方々,そして初版からお付き合いいただき私の意を汲んで素敵な図を描いてくださったイラストレーターの土橋克生氏,複雑な線画を描き分けていただいたさくら工芸社の方々に深く感謝したい。
 16年越しの改訂の原動力は,この著書をこよなく愛してくれた人たちの存在と私の解剖を素直に楽しんでくれた学生たちのエネルギーである。第3版を彼らとともに改訂するのが私の夢である。

 2022年3月
 黄道に並ぶ星を見ながら,横浜にて
 佐々木 克典

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Ⅰ 頸部
 1 体表解剖
 2 頸部の構造の大枠と膜構造
  a.被包葉
  b.椎前葉
  c.気管前葉
  d.頸動脈鞘
 3 頸部構造を理解するための3つの部位
  a.下顎角の裏側(顎下三角の後方)
  b.甲状腺を中心とした輪状軟骨の部位 ―― 舌骨から胸骨の頸切痕まで
  c.咽頭,頸部食道,気管
  d.胸郭上口

Ⅱ 胸部
 1 体表解剖
 2 縦隔
  a.縦隔の区分 ―― 壁の理解
  b.X線像における区分
 3 胸骨柄の裏側の構造
  a.胸骨柄
  b.左側から見えてくる主な構造
  c.右側から見えてくる主な構造
  d.前方から見えてくる主な構造
 4 第2肋間のレベル
  a.3層の区分
  b.肺動脈
 5 胸部上部の横断解剖とCT
 6 心臓の解剖
  a.心膜
  b.心膜横洞
  c.冠状動脈
  d.心臓の静脈
 7 心臓内腔
  a.心臓の形成
  b.Valsalva洞 ―― 大動脈洞
  c.半月弁間三角
  d.房室弁
  e.刺激伝導系の解剖
  f.左心房
 8 肺門
  a.肺門の位置関係
  b.胸膜
  c.肺門部背側の構造
 9 横断面,縦断面から見た胸部の構造
  a.第2肋間レベルの横断面
  b.肺動脈起始部を含む横断面
  c.Valsalva 洞を横切る横断面
  d.右心室中央の横断面
  e.右心室下1/4の横断面
  f.心臓下端の横断面
  g.右肺門の縦断面
  h.剣状突起右外側の縦断面
  i.剣状突起を含めた右寄りの縦断面
  j.剣状突起を含めた正中の縦断面
  k.剣状突起の左側をわずかに含んだ縦断面
  l.左肺門の縦断面

Ⅲ 腹部
 1 体表解剖
  a.経幽門平面
  b.肋骨と臓器の関係
 2 噴門部
  a.横隔膜
  b.網囊
  c.噴門部の構造
  d.食道裂孔近辺
  e.腹膜が欠損する領域
  f.結合組織由来の膜の構造 ―― 迷走神経を被う膜
  g.腹腔神経節と副腎
  h.迷走神経
  i.小網
  j.噴門部の横断面
 3 肝門部
  a.肝門部へのアプローチ
  b.総胆管周囲の血管構築
  c.膵後面の膜構造
  d.門脈周囲脈管 ―― 頻度の高いnormal variance
  e.肝門部後方からのアプローチ
  f.門脈分布と動脈,胆管の分布との相違 ―― 肝左葉の発生から
  g.腹側からのアプローチ
  h.左側からのアプローチ
 4 肝区域について
  a.Cantlie’s lineと肝静脈の走行
  b.右葉の区域と右肝静脈
  c.左葉の区域と左肝静脈
  d.尾状葉
  e.区域小径
  f.CTによる区域解剖
 5 膵臓
  a.膵臓へのアプローチ ―― 周囲血管との関係
  b.Gerota’s fasciaとの関係
  c.膵臓の区分と解剖学的特徴
  d.膵臓と周囲脈管との関係 ―― 発生に基づいて
 6 腎臓
  a.Gerota’s fascia
  b.腎臓周囲結合織(膜)の構造
  c.腎臓へのアプローチ ―― Gerota’s fasciaを開く
  d.腎臓の裏側
 7 副腎 ―― 腹腔鏡手術に必要な解剖:後方からのアプローチ
 8 腹部の横断像,縦断像(CT・MRI解剖)
  a.膵上縁横断像
  b.膵臓中央部横断像
  c.膵臓下部(頭,鈎状突起部)横断像
  d.膵頭近傍右側縦断像

Ⅳ 骨盤部
 1 体表解剖
 2 骨盤部の隔膜
  a.尿生殖隔膜
  b.骨盤隔膜
 3 女性骨盤
  a.下肢への血管神経,仙棘靱帯
  b.骨盤内臓外側浅層の構造
  c.骨盤内臓深層の構造
  d.子宮の固定装置
  e.女性骨盤内臓を包む腹膜
  f.女性骨盤の横断面
 4 男性骨盤
  a.半骨盤切断手術
  b.梨状筋
  c.骨盤中央,前方部の血管と尿管,精管 ―― 女性との相違
  d.骨盤後方から膀胱底部へ
  e.膀胱底部の構造
  f.男性骨盤内臓を包む腹膜
  g.男性骨盤の横断面 ―― 寛骨臼中央を通る面

Ⅴ 鼠径部,下肢
 1 体表解剖
 2 鼠径部
  a.鼠径管
  b.膜の誤解と理解

Ⅵ 上肢
 1 体表解剖
 2 腋窩
  a.横断面で見る壁構造
  b.3つの隙間
  c.横断面で見た外側,内側腋窩裂
  d.内壁の構成
  e.外壁の構成

Ⅶ 頭部,顔面
 1 体表解剖
 2 海綿静脈洞
  a.海綿静脈洞の形成
  b.海綿静脈洞の内部構造
  c.トルコ鞍を中心とする矢状断で見る海綿静脈洞の構成
  d.海綿静脈洞深層の神経
  e.外転神経と内頸動脈
  f.眼窩中央の横断像

タイムクリップ
 1 総頸動脈結紮
 2 甲状腺摘出術と2人の外科医
 3 バイパス手術の変遷 ―― 1.プロローグ
 4 バイパス手術の変遷 ―― 2.大伏在静脈から再び内胸動脈へ
 5 動脈管結紮
 6 Blalock-Taussigの手術
 7 心臓縫合
 8 用指交連切開術
 9 心臓移植
 10 Maze手術
 11 一期的肺全摘
 12 食道空置バイパス術
 13 虫垂炎の手術 ―― McBurney’s point
 14 胃切除
 15 脾臓摘出
 16 胆囊摘出術,肝臓切除
 17 異所性肝移植
 18 膵臓摘出
 19 腎臓摘出
 20 人工腎臓
 21 卵巣摘出
 22 膀胱結石の摘出
 23 前立腺摘出
 24 プルスルー法
 25 大腿動脈再建
 26 手掌腱膜切開
 27 乳癌切除
 28 髄膜瘤摘出
 29 止血

索引

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エキスパート外科医への澪標(みおつくし)
書評者:松下 尚之(栃木県立がんセンター食道胃外科科長)

 著者の佐々木克典先生は本書初版の序文で「卒後まだ日の浅い若き術者は,学生時代に学んだ解剖をうまく使えないということに,もどかしさを感じるのではないか」と述べておられるが,私はまさにその一人であった。私が1996年に大学を卒業し熊本大学第1外科に入局した年に雑誌『臨床外科』にて本書初版のベースとなる連載が始まった。私は雑誌から「外科医のための局所解剖学序説」の連載を切り離し冊子とし使用してきた。2006年に書籍として本書初版が出版され,長く待ち望んでいた第2版を2022年に手にすることができた。

 本書では系統解剖学と手術の実践解剖のギャップを埋めるべくさまざまな手法がとられている。その一つとして,体表の構造物を深部の構造物と結びつけることがある。個体差を超え構造物が恒常的に同じ位置にあることは手術のアプローチやIVRの手技などの基礎となる。また手術では表層から深部へアプローチするが,視点を変え深部から表層へ,左右の違いを理解するため正中から外側へ構造物をたどる手法がとられ,立体的な理解が得られるよう工夫されている。また生体には解剖を理解するための重要な間隙や断面がありその詳細が解説されている。私は本書の立体的なシェーマと『グラント解剖学図譜』などの解剖図譜を見比べながら,構造物を本文に沿って一つひとつたどっていき,そして手術に入るといった作業を繰り返した。単調ともいえる作業であり,膨大な構造物をすぐに覚えられるわけではないが,繰り返しているうちに次第に血管の基本走行や隣接臓器,さらに深部の構造物との位置関係が把握できるようになり,さまざまなメルクマールを持つことができるようになった。この知識は定型的な手術の安全な遂行や時間短縮だけでなく合併切除や突発的な出血への対応に役に立つ。

 「タイムクリップ」のコラムではさまざまな術式の黎明期のエピソードが詳細に解説されている。そもそもこのコラムは読んでいて楽しいし,解剖学へのモチベーションを上げることができる。どの回も古い文献をどのようにして調べ上げたのか感服してしまう。そして,随所に佐々木先生から若い外科医への温かい励ましがちりばめられている。私自身,症例の少ない病院で研修していたため大いに励まされた。

 本書を手にした若い外科医はエキスパートへの確かな航路を進んでいると断言したい。本書はまさに「エキスパート外科医への澪標」である。


解剖と人生の補助線
書評者:森 博隆(福島県立医大・血液内科学)

 著者の佐々木克典先生に教わっていた学生の頃,膝を叩きながら本書の初版を読んだ。解剖の質感が伝わる語り口に加えて,初版にも第2版にもその序文に,人体を深く理解するにはカギになる構造があり,それはちょうど幾何学の補助線を引くことで難しい問題がたちまち解決する感覚に似ている,と書いてある通りであったからだ。その考えを「第I章 頸部」から早速実感できる。特に筋・神経・血管と入り組んだ構造を鰓原性囊腫という奇形を補助線として鮮やかに解き明かされているところは必読である。

 「第II章 胸部」はこの本書で最もページ数を割いて,解剖の基本を丁寧に説明している。初めて先生の解剖学入門の講義を受けたことを思い出した。どの章も体表解剖から始まるが,この章の体表解剖は他の章より1番長く,しかしランドマークは胸骨だけで重要な脈管の走行と心臓の構造とを関連付けている。それはちょうど優れた臨床医が患者の些細な仕草を一見して病気を診断しているようで,熟知しているとはこのことを言うのだろう。心臓・肺の解剖は読むのに体力が要るが,どの節よりも多彩なFigureを見ながら1つひとつ理解して読み終われば,それらの構造を手に取るように理解できる。学問に王道はないのだと言われているようだが,その王道は決して無味乾燥な道ではなく,他の解剖学書にはないような視点からの景色が見えて面白い。

 「第III章 腹部」では,第II章の9節から続くように,主に横断解剖が行われている。各横断面でのランドマークから始まり,細部の構造まで1つひとつ発生学・生理学の知識も応用し体系的に積み重ねて,1つの横断面を完成させていく。その読後感は数学の証明を読んで最後に理解できたときの爽快感に似ているところがある。

 「第IV章 骨盤部」は常に膜層構造の解釈で進んでいく。この膜層構造からの理解というのは本書の1つの特徴であるが,この章ではそれが基調となって進んでいく。複雑な構造物が次々に姿を現し,まさに快刀乱麻を断つ勢いであろう。そういえば先生の講義はいつもリズムがよく,眠たくならなかった。「第V章 鼠径部,下肢」も同様に膜層構造で解き明かされている。

 私が最も好きなパートは,「タイムクリップ」という外科医列伝である。この列伝は有名な術式の背後に編み出した外科医の人間味あるドラマに満ちており,外科医だけでなく,多くの医師・研究者人生の補助線になるだろう。それが書けるのも,著者が教育者・指導者として長年,学生を思い,その成長を見守ってきたことに他ならないからだと思う。

 この書評を依頼されたとき,血液内科の私は大変恐縮した。しかし,最新の術式を熟知した外科医の同胞と私のような異分野の視点から,新たな補助線を見つけ,第3版を先生と改訂する夢がある。この書評がその始まりであると思い,先生の研究室に出入りしていた門下生として(といっても私は勉強する机とお菓子をいただいていただけであったが),僭越ながら書かせていただいた。

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