症例で学ぶ外科診療
専門医のための意思決定と手術手技

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診断から手術、術後管理まで外科医が押さえておくべきポイントを解説した実践的な教科書。米国の外科専門医試験(口頭試問)対策のテキストとして評価の高い原書から、日本の外科医が診る機会の多い症例を厳選して再編集した。外科専門医に求められる考え方、意思決定のプロセスを診療の流れに沿って示すユニークな構成。随所に挿入された訳者による補足解説が読者の理解を深める。
編集 Justin B. Dimick / Gilbert R. Upchurch Jr. / Christpher J. Sonnenday
安達 洋祐
発行 2017年09月判型:B5頁:352
ISBN 978-4-260-03058-8
定価 8,800円 (本体8,000円+税)

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訳者の序(安達洋祐)/巻頭言

訳者の序

 原書『Clinical Scenarios in Surgery : Decision Making and Operative Technique』に出会ったのは,2015年に福岡市で開催された日本臨床外科学会総会の書籍コーナーでした.診療の現場を想定した実践的な構成と具体的な記載に目が釘づけになり,このような本で外科を学べる海外の医師や学生を羨ましく思いました.

 本書『症例で学ぶ外科診療-専門医のための意思決定と手術手技』には,次のような特徴があります.
 ① 外科の外来や病棟で専門医が患者を診ながら研修医に教えているような現場感覚の本.
 ② 章ごとに症例から鑑別診断や治療方針を考え手術手技や周術期管理を学べる実践的な本.
 ③ 「…のときは」「…がある患者は」という状況設定で理解を深め意思決定力を高められる本.

 原書は672ページの厚い本ですが,本書は123章の中から55章を厳選し,日本版だけのコンパクトな「いいとこどり」になっています.翻訳にあたっては「正しくわかりやすく」を心がけ,文中の「訳注」,段落後の「補足」と「参照」で日常診療に有用な情報を追加しています.参考文献では代表的な論文の要旨を「論文紹介」で示し,発展的な学習に役立つようにしました.

 本書は専門医取得に備える外科医に最適ですが,外科の患者を担当する研修医や医学生にも役立ちます.無味乾燥な教科書よりずっとおもしろく,意識せずに疾患や治療の理解が深まります.1人でも多くの医師や学生が本書で外科の魅力に触れることを願いつつ,翻訳の機会を与えてくださった医学書院に感謝します.

 2017年6月28日
 安達洋祐


巻頭言

 診療に参加しようとしている外科の研修医にいくつか助言があります.外科の教科書の執筆や編集を担当したときに気をつけてきたいくつかのルールもあります.あなたが例外的に完璧な人間で,明晰な頭脳と自信に満ちた態度で軽々と診察しているのであれば,ここで読むのをやめていいです.しかし,ふつう生まれながらの外科医はいないはずで,もう少し読んでください.次の3つの考えがあります.

1. 今すぐ読み始める
 多くの外科医が最も読みにくいのは最初の課題です.専門医試験が一か八かの賭けと思ってもよく,受験に必要な書類契約も厄介ですが,読むべき教科書にも問題があり,一見して1つの章が長く,本文は味気なく,イラストはわずかです.ところが,この本は魅力的な「症例提示」で構成され,明快な本文と豊富なイラストで視覚に訴える読みやすい本です.さあ今すぐ始めましょう.

2. 将来に期待する
 近代外科学は進歩し,治療成績の向上と合併症の回避を追求しています.現在のペースで医学研究が進歩すれば,臨床問題をすべて解決できる十分な知見を容易に検索・利用できるようになるでしょう.それでも,外科医には状況に応じて文献に基づいた指針が必要です.幸いなことに,この本の編集者は経験が豊富で情熱に溢れ,豊富な情報をバランスよく提供しています.さあ前に進みましょう.

3. 毎日少しずつ読む
 読むことも技術であり,続けることによって上達します.熟練外科医のテクニック,優先順位を判断するセンス,独自の自信や直感は,手技を磨き続けた成果なのです.本を読むのも手術のトレーニングと同じです.本もメスのように使えば使うほど愛着がわきます.さあ読書の旅を楽しみましょう.

 Michael W. Mulholland, M.D., Ph.D.




 技術の顕著な進歩と科学の急速な発展にもかかわらず,安全で上手な外科医になるのが非常に困難な時代になっています.若い外科医は新しい情報の進歩と外科技術の専門化に遅れないように求められているからです.

 伝統的な外科の教科書は,時代の変化に合わせて改訂され,百科事典のような参考書になっており,包括的な概要を知る必要があるときに開くだけです.利用できる膨大な情報では,目前の臨床シナリオに適した安全な手術の基本方針を解決するのは困難です.若い外科医が専門医の筆記試験と口頭試問を受ける準備をしようと机についたとき,既存の教材は一般外科の基本を確実に理解しようというニーズに適していないことが明らかになります.

 若い外科医は昔の外科医とちがった方法で学習します.今の研修医は何時間もじっと座って本を読みません.複数の作業を同時に行うのが得意で,教材に効率と直接的な関連を求めます.医学部のカリキュラムは「症例に基づいた学習」(case-based learning)に移行することで,時代の変化に対応しています.「臨床の物語」(clinical narratives)は非常に効果的な学習法であり,患者の物語で外科の重要な基本を学ぶことができます.魅力ある外科の教科書の多くは医学教育の変革に追いついていません.

 この本は若い外科医と伝統的な教科書のギャップを埋めるために執筆しました.症例に基づいた教材であり,一般外科の基本原則と専門性を結びつけています.臨床シナリオにある患者の物語には,安全な外科管理の基本を学ぶための刺激になる文脈があるでしょう.医学生・研修医・若手外科医が診療の合間や病院の長い1日を終えたときに読めるほど各章は短くなっています.とくに研修医やレジデントが外科専門医の口頭試問の準備をするときにこの本が役立つことを願っています.

 Justin B. Dimick
 Gilbert R. Upchurch Jr.
 Christopher J. Sonnenday

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目次
I 消化管外科 Esophagus & Gastrointestinal
 (1)食道破裂
 (2)アカラシア
 (3)食道癌
 (4)胃食道逆流症(GERD)
 (5)出血性胃潰瘍
 (6)穿孔性十二指腸潰瘍
 (7)胃癌
 (8)消化管間質腫瘍(GIST)
 (9)腸閉塞
 (10)病的肥満
 (11)Crohn病の小腸狭窄
 (12)急性虫垂炎
 (13)穿孔性虫垂炎
 (14)下部消化管出血
 (15)結腸捻転
 (16)穿孔性憩室炎
 (17)難治性の潰瘍性大腸炎
 (18)虚血性大腸炎
 (19)大腸癌による腸閉塞
 (20)直腸癌
 (21)肛門周囲膿瘍
 (22)血栓性外痔核

II 肝胆膵外科 Hepatobiliary & Pancreas
 (23)慢性肝疾患の肝腫瘤
 (24)転移性大腸癌
 (25)急性胆嚢炎
 (26)急性胆管炎
 (27)重症急性膵炎
 (28)慢性膵炎の頑固な腹痛
 (29)膵頭部癌による閉塞性黄疸
 (30)ガストリノーマ

III 小児外科 Pediatric
 (31)肥厚性幽門狭窄症
 (32)Meckel憩室出血
 (33)腸重積

IV 女性外科 Gynecologic & Breast
 (34)婦人科疾患による下腹部痛
 (35)マンモグラフィーの異常
 (36)乳房腫瘤
 (37)進行乳癌

V ヘルニア Hernia
 (38)症状がある鼠径ヘルニア
 (39)嵌頓や絞扼がある鼠径ヘルニア
 (40)腹壁創ヘルニア

VI 胸部外科 Thoracic
 (41)孤立性肺結節
 (42)自然気胸

VII 血管外科 Vascular
 (43)拍動性腹部腫瘤
 (44)腹部大動脈瘤破裂
 (45)急性腸間膜虚血
 (46)閉塞性動脈硬化症
 (47)急性肢虚血
 (48)糖尿病足感染

VIII 外傷外科 Trauma
 (49)胸部鋭的外傷
 (50)腹部鈍的外傷

IX 救命処置 Critical Care
 (51)気道緊急
 (52)副腎不全
 (53)急性呼吸促迫症候群
 (54)敗血症性ショック
 (55)重症手術患者の栄養管理

索引

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「臨床の物語」を体感できる実践的な教科書
書評者: 武冨 紹信 (北大大学院教授・消化器外科学)
 若手外科医にとって「正しくわかりやすい」をモットーに次々と教科書を著している安達洋祐氏(久留米大学医学教育研究センター教授)の手による翻訳書が医学書院から出版されました!

 原書は“Clinical Scenarios in Surgery:Decision Making and Operative Technique”であり,臨床現場で遭遇する基本的疾患を具体的症例を提示しながら,鑑別診断・治療方針・手術手技・周術期管理を学べるように編集された教科書です。画像やイラストも充実しており,手術手順も箇条書きにされています。各章の最後には「症例の結末」と「重要事項」がまとめられており,病棟で上級専門医が“患者を診ながら”研修医に教えているような現場感覚が体感できる構成になっています。原書のコンセプトである診療現場を想定した実践的な構成と具体的な記載に注目した安達氏が,原書の123章から55章を厳選し,日本版だけの「いいとこどり」の本書を作成してくれました。

 さらに,この日本語訳版には原書にはない「訳注」「補足」「参照」がところどころに挿入されています。「訳注」や「補足」では,わが国のガイドラインや臨床の実情を考慮した記載やわかりやすい解説がきめ細かく加えられています。また,「参照」ではさらに詳しい解説を望む読者のために安達氏が厳選した参照教科書(それもページ数まで!)が紹介されています。また,参考文献の欄では「論文紹介」として内容を簡潔にわかりやすく解説してあるため,時間があまりないときの知識の吸収に役立ちます。

 本書は1ページ目から読む必要はありません。自身が経験した,あるいはまさに今経験している症例の章を開き,「臨床の物語(clinical narratives)」をぜひ体感してください。各章15分程度読むだけでその疾患の全容をつかむことができますし,さらに深く学習したくなること必定です。本書が全国の若手医師にとって,外科診療を体系的に学ぶためのきっかけになることを祈っています。
読んで高める臨床力―知識を応用して考える
書評者: 馬場 秀夫 (熊本大大学院教授・消化器外科)
 このたび,医学書院より『症例で学ぶ外科診療-専門医のための意思決定と手術手技』が刊行された。本書は英文書籍“Clinical Scenarios in Surgery-Decision Making and Operative Technique”の翻訳書である。原書は全123章・672ページに及ぶ書籍だが,訳者の安達洋祐氏(久留米大医学教育研究センター教授)により,日本の外科医が診る機会の多い疾患に的を絞った55章を厳選し再編集したものである。原書の魅力(症例をベースに外科的疾患の診断・治療を学ぶことができるユニークな教科書)と訳者のきめ細やかな補足解説が合わさり,本邦の読者のニーズに適した書籍になっている。

 訳者の安達洋祐氏は消化器外科医として,これまで多くの臨床・研究・教育の経験を通じて数多くの医学書の執筆,編集,さらに英文原著の翻訳に携わっており,いずれの本もその簡潔明快で,読んでいて要点がクリアーカットに頭に入ってくる洗練された内容に仕上がっている。そのため,この分野では極めて高く評価されている方であり,小生もファンの一人である。実は,この英文原書は小生も以前より購入して目を通していたのであるが,訳者の極めて適切な補足も加わり,より充実したわかりやすい内容になっている。

 本書には,次のような特徴がある。
(1)外科の外来や病棟で専門医が患者を診ながら研修医に教えているような現場感覚の本
(2)章ごとに症例から鑑別診断や治療方針を考え手術手技や周術期管理を学べる実践的な本
(3)「……のときは」「……がある患者は」という状況設定で理解を深め意思決定力を高められる本

 小生が大学で日々医学部の学生や研修医に接し,指導する際に感じるのは,国家試験を含め医学部の試験はmultiple choiceが多く,単に知識を詰め込む学習に偏りがちであり,個々の症例に遭遇した時に知識を応用して考えるトレーニングが不足しているため,どのように鑑別診断を進め,最適な治療法を選択するのかが不得手な医師が多いことである。

 その点,本書は臨床的に遭遇する可能性の高い重要な疾患を選別し,症例呈示,鑑別診断,精密検査,診断と治療,手術方法,注意事項,術後管理,症例の結末,重要事項のまとめが簡潔に書かれており,症例の診断・治療をどのように進めて最適な治療を選択するかが明確に示されている。さらに,参考文献の中で重要なものには内容の紹介も記されている。日々多忙な日常治療の中で,あふれる数多くの情報の中から本当に役立つ書籍を厳選し,読んで臨床力をつけるのは困難な時代であり,本書はそういう意味でも臨床的に有用と考える。

 本書は診療現場を想定した実践的でdecision makingとoperation techniqueを明確に解説した極めて良質の医学書である。医学生,研修医から専門医・指導医まで幅広い方が本書を手に取り,診療に役立て,目の前の病に苦しむ患者に対し最善の治療を選択して頂くことを心より願う次第である。
専門医に求められるgeneralな知識習得に最適な一冊
書評者: 土岐 祐一郎 (阪大大学院教授・消化器外科学)
 本書の元は米国の外科専門医の口頭試験対策用の学習書であるが,その中から日本の外科医がよく遭遇する半数弱の疾患を抜粋したもの(全123章中の55章)である。そこに訳者の安達洋祐氏オリジナルの示唆に富んだ「補足」を追加し,さらに関連論文や関連書籍(『ゾリンジャー外科手術アトラス』1)など)の紹介を加えて,わが国の現状に即して読みやすく興味深いものとなっている。目次を見ると疾患の羅列で辞書のようであるが,各項目を開くと現病歴から,診断,手術所見,術後合併症と実際の症例の画像を提示しながら,ストーリー立てて解説し,さらに「症例の結末」という項目まであり,実際の患者の診療をしている気分で一気に読んでしまう。

 このように横断的な知識を総動員して実際の診療のプロセスに即して縦断的に問う口頭試問は,現在わが国でも医学部学生の卒業試験でadvance OSCEとして多くの大学に取り入れられている。過去5年くらい担当しているが,幅広い知識と症例に即した柔軟な思考が求められ,学生にとっては厄介な試験の一つである。

 現代医学の急速な発展はgeneralとspecialの狭間で苦悩している。高度でspecialな知識がガイドラインに記載される一方で,医師不足や人口減少社会でgeneralな対応ができる医師のニーズが高くなっている。本書で勉強する若い外科医は消化器外科から血管外科まで幅広い知識を要求されており,米国の広い国土で活躍する骨太の外科医の姿がうかがえる。それは同時にspecialに走りがちな線の細いわが国の外科医への警鐘にも感じる。

 Specialな目から見ても本書の「落とし穴」や「重要事項」は日米の外科医の視点の違いがわかり大変興味深い。例えば食道癌のところで“気管食道溝に筋鉤をかけると反回神経麻痺を起こすので指で圧排すること”という記載が4回も出てきた。よほど辛い思いをしたのであろう。日本であれば反回神経を露出してリンパ節郭清をしてから神経をよけて筋鈎をかけるので麻痺は起きないし,第一指で圧排などという原始的な操作はあまり行われない。他にも「手袋のサイズが8以上の手は非開胸食道切除に向かない」(p.17)とあり,確かに食道裂孔から気管分岐部の頭側まで手を入れている絵が描かれている。国が違えば手術も全然違うことを改めて実感する。

 訳者の安達氏は全ての項目を深く理解した上で,トリビアにとどまらない真に意味のあるエッセンスを追加されており,その知識と洞察の深さに心から感服する。これから専門医をめざす若い外科医にとって将来にわたり役に立つことは間違いない一冊であると確信する。

1)Zollinger RM Jr, et al. ゾリンジャー外科手術アトラス.医学書院;2013.

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