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事例から学ぶ地域・在宅看護論
訪問時のお作法から実習のポイントまで

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初めて地域・在宅看護論を学ぶ看護学生に向けた、1年次から使えるサブテキスト。実習前に学んでおきたいマナーやコミュニケーション、情報収集の方法をコンパクトにまとめた「地域・在宅看護の基本」と「事例」で構成。事例では、学修のポイントを「生活の視点」「看護の視点」としてまとめ、課題と対応を解説。さらに、療養者さんやご家族、多職種との具体的な対話例を通して、実習前の準備や実習後のふりかえりにも活用できる。

篠崎 惠美子 / 藤井 徹也
発行 2021年02月判型:B5頁:128
ISBN 978-4-260-04618-3
定価 2,420円 (本体2,200円+税)

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はじめに

 わが国は,世界でも類を見ないほど少子高齢化が急速に進んでいます。人口および疾病構造の変化,療養の場の多様化などにより,在宅医療・看護・介護の需要は今後ますます増大していくことが予測できます。地域医療構想の実現や地域包括ケアシステムの推進などの制度改革が進められ,多職種が連携して適切な保健医療福祉を提供することが期待されています。そのような社会背景のもと,新しい看護基礎教育のカリキュラムでは,これまでの「在宅看護論」が「地域・在宅看護論」として1~3年次まで通して学ぶ科目に位置づけられ,単位数も2単位増加しました。これは,さまざまな療養の場で生活する看護の対象者に対し,これまで以上の高い能力をもって看護を提供することが求められることを示しています。

 本書の原稿を書き上げた2020年は,フローレンス・ナイチンゲールの生誕200年という記念すべき節目の年でした。しかしこの年は,全世界が今まで経験したことがない規模で新型コロナウィルス感染症が流行し,とても大きな影響を与えた1年となりました。私たちの生活も大きく変化しました。そのような中においても,私たちの生活や看護にとって変わることなく,いえ,こんな状況だからこそ大切なことは,コミュニケーションであると考えています。

 本書は『看護コミュニケーション―基礎から学ぶスキルとトレーニング』の発刊後,地域・在宅看護に携わる看護師さんたちからの後押しもあり,執筆を開始いたしました。フローレンス・ナイチンゲールは,“Regardless to any work, it is only in the field is to be able to learn in practice.”(どんな仕事をするにせよ,実際に学ぶことができるのは現場においてのみである)という言葉を述べています。この言葉の通り,地域・在宅看護を学ぶためには,実際に地域・在宅に赴き,直接体験し,感じることが大切です。そのため,看護学生が地域・在宅においてよい体験をするために必要なこと,療養者・家族と良好な関係を築くために最低限必要なこととして,訪問時の「お作法」から説明をしています。

 また,本書は,新しいカリキュラムにおいて,入学後早い時期に地域・在宅看護論の学修が開始されることを想定して構成しています。初めて地域・在宅看護論を学ぶ看護学生を対象に,地域・在宅看護におけるコミュニケーションを通して,地域で生活する療養者の看護を学ぶことをねらいとしています。そのため,著者らが過去に行った研究結果や,実際に多くの訪問看護師が遭遇した事例(療養者)をもとに解説しており,看護学生の実習においては稀にしか経験できないような事例も取り上げています。

 将来的に地域・在宅看護論の実習施設が多様化することや,学修内容も教育機関により一律ではなく,学修目標(到達目標)や実習における療養者との関わりの深さなども異なるでしょう。本書は,地域・在宅看護論の初学者を対象に想定していますが,事例の対応などについては,看護学生の対応・視点でとどめず,訪問看護師として望ましいあり方を考えていきます。その点を理解していただいたうえで,それぞれの状況に合わせて,アレンジして学修に活用していただくことが可能だと考えています。

 本書の完成に向けて丁寧にご対応いただきました医学書院の栗原ひとみ氏,企画から長い時間ご尽力いただきました近江友香氏,そしていつもあたたかく見守ってくださった北原拓也氏に深く感謝いたします。

 2021年1月
 著者 篠崎惠美子・藤井徹也

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はじめに

 序章 今なぜ地域・在宅看護を学ぶのか
  ①「生活者」から考える
   1 看護はもともと家庭内で行われていた
   2 超高齢社会と地域包括ケアシステム
   3 地域包括ケアシステムにおける訪問看護師の役割
  ②地域・在宅看護と病院内看護の違い
   1 療養者・家族が主体である
   2 生活に医療をなじませ,自立を支援する
   3 多様な年齢・疾患・環境の療養者が対象となる
   4 自律した観察と判断が求められる
   5 制度や法律によって料金や時間などが規定されている

第1部 実習に行く前に知っておきたい地域・在宅看護の基本
 第1章 地域・在宅に出かける前におさえておきたい基本的マナー
  ①訪問前のマナー
   1 利用者の情報の確認をします
   2 持ち物に忘れ物がないかを確認します
   3 身だしなみの確認をします
   4 訪問時間と訪問場所・経路と所要時間の確認をします
   5 トイレを済ませておきます
  ②玄関でのマナー
   1 インターホンを鳴らす前に,身だしなみを整えます
   2 一呼吸おいてインターホンを鳴らします
   3 療養者・家族が出てこられたら,もう一度挨拶をします
  ③療養者のお部屋でのマナー
   1 入室時には,ノックか声かけをします
   2 座る前に挨拶をします
   3 勧められた席に座ります
   4 ケアに入る前に挨拶をします
  ④退出時のマナー
   1 後片付けをします
   2 終了の挨拶をします
   3 玄関で退出の挨拶をします
   4 玄関を出た後も気を抜きません
   COLUMN 訪問かばんはドラえもんのポケット!?
 第2章 地域・在宅看護におけるコミュニケーションと情報収集のポイント
  ①地域・在宅看護におけるコミュニケーションの基本
   1 コミュニケーションの場面を設定する(環境を整える)
   2 聴くための技法を活用する
  ②地域・在宅看護における情報収集のポイント
   1 限られた訪問時間で効率的に収集する
   2 療養者・家族の個人情報は慎重に扱う
   3 基本的な情報収集の項目
   4 いざという時に役立つフィジカルイグザミネーション
  ③地域・在宅看護における看護過程と記録
   1 地域・在宅看護における看護過程
   2 地域・在宅看護における記録

第2部 事例を通して地域・在宅看護を学ぶ
 第3章 療養者・家族を主体とした看護
   Case 1 必要でないケアを要求される
   Case 2 よかれと思って提案したことが苦情に発展
   Case 3 療養者と家族の意見が対立
 第4章 生活の場での看護
   Case 4 暮らしの場は,不適切な療養環境!?
   Case 5 療養者を中心にした環境調整
   Case 6 夜間の緊急電話の対応
 第5章 在宅エンド・オブ・ライフケア
   Case 7 在宅看取りを望む療養者と家族の不安
   Case 8 独居の療養者のエンド・オブ・ライフケア
   Case 9 遺族のグリーフケア
 第6章 認知機能が低下した人の在宅療養生活支援
   Case 10 老老介護の世帯で介護者が認知症に
   Case 11 認知症のある療養者からの暴言・暴力
   Case 12 介護者による虐待が疑われる
   COLUMN 高齢者虐待
 第7章 地域包括ケアシステムをつくる多職種連携
   Case 13 医師との連携
   Case 14 地域支援チームによる退院前カンファレンス
   Case 15 役割の違う看護師同士の連携

索引

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地域で活躍できる人材育成の教材として
書評者:山内 一穂(愛知県立桃陵高等学校看護科主任)

 「在宅看護論」は,看護教育の教育内容として創設されてから25年近くが経過しています。現行のカリキュラムでは,「在宅看護論」は看護の集大成として最終段階である統合分野に位置付けられていますが,2022年4月から始まる新カリキュラムでは「地域・在宅看護論」に名称変更され,基礎看護学の次に位置付けられて,早い時期から基礎看護学と並行して学習していくことが理想とされています。

 本書の魅力は,対人関係のプロセスを業とする看護師にとって,最も重要なコミュニケーションスキルが,実際に多くの訪問看護師が遭遇した事例を通して学べる点です。初学者でもイメージしやすくわかりやすい内容で構成されていて,特にサブタイトルにもある“訪問時のお作法”について,訪問前→玄関→療養者のお部屋→退出時といった訪問看護の各行程において身につけておきたい基本的なマナーが,挿絵を盛り込みながら具体的に書かれてあるのは,他にはない本書の特徴であると思います。

 著者は『看護コミュニケーション――基礎から学ぶスキルとトレーニング』(医学書院,2015)の発刊後,地域・在宅看護に携わる看護師たちからの後押しもあり,本書を執筆されています。訪問看護は,療養者および家族との信頼関係の構築が大切ですが,本書では言語的・非言語的コミュニケーションにかかわる看護師の接遇面が,丁寧に解説されています。そのため基礎看護学と並行して本書を活用すれば,有意義な学習が期待できます。訪問看護実習では,療養者および家族が主体となって地域で暮らす生活の場に,看護側の実習生が客体として訪問していくため,個人の生活習慣や特性が無意識に出やすい基本的なマナーは,重要な教育の視点であると考えます。

 私が勤務する高等学校5年一貫校では,3年次から地域・在宅看護論を学び始めることを計画しています。そのため,本書が触れている基本的なマナーは,人としての倫理的感性を育み,コミュニケーション能力を身に付けていくための基本として参考にしていきたいです。

 さて,本書の最大の魅力である事例は,章立てが地域・在宅看護の概念や少子・超高齢社会の背景を踏まえた課題を主柱として整理されており,その章立てごとに複数の事例が設定されています。地域・在宅看護論は,成人看護学,老年看護学など各領域における実践的な位置付けでもあるわけですが,例えば,本書にある在宅エンド・オブ・ライフケア,認知症の高齢者(療養者)の老老介護,介護者による虐待疑いの事例などは,老年看護学と横断しながら思考を深めていくこともできます。そして療養者および家族の生活の視点から看護の課題や対応のポイントが解説されていることは,アセスメント力の向上にもつながります。極めつけは,実践例として看護師と療養者または家族とのコミュニケーションが,具体的に示されていて実用的であることです。地域包括ケアシステムなどの構築が推進されていく中で,地域で活躍できる人材育成のためにもぜひ本書を教材として活用してみてください。


多くの事例をとおして、地域・在宅看護の基本が学べる(雑誌『看護教育』より)
書評者:薬袋 淳子(岐阜医療科学大学看護学部教授)

 本書は、著者・篠崎惠美子氏と藤井徹也氏が、保健師助産師看護師学校養成所指定規則の改正を見越して執筆された書籍である。10年以上ぶりの看護基礎教育の見直しで、統合分野「在宅看護論」が、基礎看護学に続く「地域・在宅看護論」へと変更された。この授業で「すぐに使える本が欲しい」といわれたら、私は本書をおすすめしたい。

 目次をみると、第1部は「実習に行く前に知っておきたい地域・在宅看護の基本」、第2部は「事例を通して地域・在宅看護を学ぶ」となっており、どのような内容が盛り込まれているのかがイメージできる。章立てをみると、基本的マナーや情報収集のポイントなど、学生が知りたいことがかなり具体的に書かれている。たとえば、療養者の自宅を訪問するときのマナーについては、「インターホンを鳴らしてから一呼吸おく」「玄関を出た後も気を抜かない」など、まさに学生に必ず伝えておきたいツボが取り上げられており、さすがである。“できて当然”という行動が教員の思い込みであることを再確認させてくれる。また、器具の写真やわかりやすいイラストが随所に盛り込まれているため、インパクトのあるテーマと併せて、学ぶ側の記憶に定着しやすい内容になっていると思う。

 最大の魅力は、多くの事例をとおして、地域・在宅看護の考え方や対象について学ぶことができ、看護師にとって最も重要なコミュニケーションスキルをも学べる点にある。地域・在宅看護論で学ぶテーマから5つを取り上げ、それぞれについて3事例ずつ計15事例について、「生活の視点・看護の視点」「課題の解説」「対応のポイント」「対応の実践例」が非常にていねいに説明されている。事例1つひとつに、教員からは“あるある”、学生からは“なるほど”という声が聞こえてくるようである。特に、地域・在宅の状況で活かせるフィジカルイグザミネーションのポイントは、著者らが専門とする分野でもあり、非常にわかりやすく書かれている。なかには、看護学生がまれにしか経験できない事例も含まれており、まさに看護を教授する教員と学ぶ学生にとって、かゆいところに手が届く書籍といえる。

 本書は、わが国の超高齢社会における疾病構造の変化、療養の場の多様化、地域包括ケアシステムの推進を背景に、看護基礎教育において看護の対象そのもののとらえ方が「療養する人々」から「生活する人々」へと変わっていく状況のなかで、初めて地域・在宅看護を学ぶために、そして学年が進んでも活用できる書籍であると考える。初学者対象を謳いながら難解な書籍も数多くあるが、本書にはその心配はない。初めて地域・在宅看護を学ぶ学生も、序盤の章から容易にイメージができ、“楽しく・正しく・ためになる”内容になっており、幅広い看護領域で活用できる、おすすめの書籍である。

(『看護教育』2021年11月号掲載)

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