• HOME
  • 書籍
  • ひととおりのことをやっても苦痛が緩和しない時に開く本

患者と家族にもっと届く緩和ケア
ひととおりのことをやっても苦痛が緩和しない時に開く本

もっと見る

薬も増やした、あれもこれもやってみた、でもまだ痛みが取れない。もしかしてその痛み、がんのせいじゃなくて筋肉の虚血のせい? 非オピオイド鎮痛薬を飲んでいないから? レスキュー薬が来るまでに時間がかかりすぎ? 痛みの原因に気付けば、今できる工夫がきっとあります。「これをやれば苦痛が取れるかも?」という着眼点を、細かく丁寧に書きためた1冊。
森田 達也
発行 2018年11月判型:A5頁:272
ISBN 978-4-260-03615-3
定価 2,640円 (本体2,400円+税)

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評

開く

はじめに

 この数年,緩和ケアに関する参考書は山のように増えた。痛み,呼吸困難,悪心嘔吐に関するガイドラインが出版され,日本語で読める教科書もある。マニュアルの類は言うに及ばず,経験をいかしてあれこれ工夫をこらした書籍が何冊何十冊と世に出ている。
 ――それでもなお,まだ「緩和されていない苦痛」に日々遭遇する。

 医師も看護師も薬剤師も製薬メーカーも行政担当者もできそうなことはすべて手を尽くしていると思うのだが,緩和されていない苦痛が今もなおあるのはどうしてだろうか。思うに,緩和されていない苦痛には2種類ある。
 1つは,「もう一歩」「あと一息」な場合で,だいたい教科書に書いてあるような必要なことはやっているんだけど,「その患者さんのニード」にもう一工夫が足りない場合。薬を飲む時間を変えるとか,身体の向きを少し変えるとか,がらっとよくなるわけではないけど,ちょっとした工夫に気が付いていない。
 もう1つは,本当の難治性の苦痛。英語だと,refractory symptomという。苦痛が強いという意味ではなく,最大限の治療をやってもよくならないことを表す。pain refractory to all available treatments(すべての治療に抵抗性の痛み)のように使う。
 だから,「もう一息のちょっとした工夫とは何か」と「本当の難治性の苦痛にどう立ち向かうか」,この2つがまだ埋まっていない。

 緩和ケアについて何冊かの本を書いて,もう書いて残しておいた方がいいことはだいたい書き終わったかなあと思っていたのだが,「ひととおりのことをやっても,まだ苦痛が残っている時にできること」をまとめておいたら患者さんの役に立ちそうだと思い当たった。実際に書籍が世に出るまでには,僕の努力というよりも,例によって医学書院の品田暁子さんの力によるものが大きい。

 緩和ケアの勉強をすると,まず最初に「WHO方式がん疼痛治療法─鎮痛薬使用の5原則」を習う読者が多いと思う。(1)経口で(by mouth:簡単な方法でという意味である),(2)時間通りに(by the clock:ものすっごく痛くなってからじゃないという意味),(3)ラダーに沿って(by the ladder:強い痛みには強オピオイドをという意味),(4)患者に合った量で(for the individual:ものすっごく多く感じても患者が鎮痛できていて副作用がなければOKという意味)と,4つめまでは具体的でうんうんなるほどと思うのだけど,最後は,(5)細かい配慮を(with attention to detail)…。「ん? 何これ? アバウトすぎない??」と思った記憶はないだろうか。もともとの原文では,患者に「この薬は何に効くから何時に飲んでね」と紙に書く,などと書いてあるのだけど,もっと広い意味で,あれこれ配慮しないといけないことが無数にある。本書は,WHOが数語ですませたattention to detailを現場に合うように細かくしつこく書きためた本といえる。

 自分の妄想としては,AI時代になれば,患者の状態,服薬の状態,数日のモニタリングの結果をコンピュータに入れると,てけてけてけ…「1回分のオピオイドを@mgに増やしてみてはどうでしょうか」とか「今,20時に飲んでいるなんとかコンチンを22時に飲んでみてはどうでしょうか」といったちょっとした工夫をスマホが喋りだす時代になりそうだ。この本は,AIが調べにいく着眼点のデータベースにもなるんじゃないかなあと思っている。

 治療抵抗性の苦痛については,「本当の治療抵抗性の苦痛に何ができるか」をテーマに各章の最後に書いた。ちょうど2018年現在,日本緩和医療学会のガイドラインとして『がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引 2018年版』(金原出版)が出版されようとしている。これはもともと「鎮静のガイドライン」と呼ばれていたものだが,「鎮静する/しない」が重要ではなく,「苦痛が取れない時に何をしたらいいのか」を議論することが本質,との最近の国際的な議論を受けたものである。
 ひととおりのことをした,できる工夫も思いつくことは尽くしたと思う,それでも「治療抵抗性の苦痛」は残る。どうやって治療成績を上げていくか…。ホスピスケアの黎明期に,痛い時だけ頓用で打っていたモルヒネを少量ずつ定期的に飲んだら副作用なく痛みが抑えられることを発見したことは,とてもとても大きな驚きだったに違いない。それくらいの大きなブレイクスルーが求められる。
 大きな進歩がみられるまでは,「どんなに手を尽くしても治療抵抗性の苦痛はある」ことを前提に,何を治療目標にするかをよく患者と相談することが何よりも大事だ。熱心な医療者が不必要に「自分の努力が足りないから苦痛が取れないんだ」と自分を責めなくてもよい(ちょっとは責めた方がいい人もいるのかもしれないが,そういう人はこの本を手に取らないだろうから,今これを見てくれている読者はあまり自分を追い込まないようにしてほしい)。

 本書が「ひととおりのことをやっても,まだ苦痛が残っている」時に,ああ,これやったら苦痛が取れるかも,という着眼点を見つけることに役立てば幸いである。また,いつものことながら,「薬を増やす」だけではなく多様な視点を筆者に教えてくれた,一緒に働いてきた聖隷三方原病院の特に看護師さんたちに感謝したい。

 2018年8月
 森田達也

開く

はじめに

治療抵抗性の苦痛:概論

第1章 痛みが取りきれない時
 ■Overview
 ■難治性ではないはずの痛み──理由を見分けて対処する
  マットが硬い
  がんで痛いんじゃなくて筋肉の虚血
  安定した痛みだったのに急に痛くなった(出血,感染,虚血,穿孔)
  もともと(がんと関係ない首・肩・腰が)痛い
  折れている!
  非オピオイド鎮痛薬が入っていない
  経口麻薬を増やしても効かない(理由① オピオイドが吸収されていない)
  経口麻薬を増やしても効かない
    (理由② もともと効かない痛みである──神経痛)
  経口麻薬を増やしても効かない
    (理由③ もともと効かない痛みである──頭痛)
  経口麻薬を増やしても効かない(理由④ 絶対量が足りない)
  フェンタニル貼付剤を増やしても効かない(耐性ができている)
  痛い時間帯に鎮痛薬が足りない(夜編)
  痛い時間帯に鎮痛薬が足りない(昼編)
  動いた時だけ痛い(理由① 身体をひねっている)
  動いた時だけ痛い(理由② 痛くなる前に薬を飲んでいない)
  ご飯を食べると痛い(無理してご飯を食べている)
  レスキュー薬を飲んでいない(理由① 便秘,吐き気が嫌だから)
  レスキュー薬を飲んでいない
    (理由② 定期薬を飲んだらレスキュー薬は飲まないようにしている)
  レスキュー薬が来るまでに時間がかかる
  レスキュー薬の量が足りない
  レスキュー薬の投与間隔が長すぎる
  オピオイドが増やせない(理由① 吐き気)
  オピオイドが増やせない(理由② 眠気,せん妄)
  何を使っても精神症状が出てしまう高齢者
 ■本当の難治性疼痛
  治療目標を決める
  本当の難治性疼痛の緩和治療の流れ──「最終ライン」の手前まで
  (現状の)「最終ライン」──メサドンとくも膜下モルヒネ
  「最終ライン」としてメサドンもくも膜下モルヒネも使わない場合の対応

第2章 せん妄が取りきれない時
 ■Overview
 ■難治性ではないはずのせん妄──理由を見分けて対処する
  尿閉・宿便で落ち着かない
  かゆみ・発熱・口渇で落ち着かない
  夜間の点滴差し替えで目が覚める
  多尿・頻尿で目が覚める
  もともとの習慣や,「したいこと」がある
  聞こえない・見えない
  治せる(こともある)せん妄の原因がある(高カルシウム血症,がん性髄膜炎,
    トルソー症候群,高アンモニア血症,ビタミンB1欠乏)
  ステロイドが夕方に投与されている
  せん妄になりやすい薬を飲んでいる
  モルヒネ投与中に腎機能が悪化した
  セレネース®で眠れない
  IVルートが取れない
 ■本当の難治性せん妄
  治療目標を決める
  基本の薬物療法でおさまらない時の薬物療法

第3章 呼吸困難が取りきれない時
 ■Overview
 ■難治性ではないはずの呼吸困難──理由を見分けて対処する
  ムシムシしている
  酸素飽和度が低い・酸素が吸えていない
  ちょっと対応すればなんとかなる原因(溢水,感染,胸水)
  気道狭窄がある──酸素飽和度は正常,肺野も問題ないはずなのに…
  上大静脈症候群──顔と手がむくんできた
  頻度は低いけれど,あったら治療できる原因(心嚢水,気胸)
  ステロイドが入っていない──何にでも効くわけではないけれど…
  オピオイドを増加しすぎ──増やしていったらなんか変
     (視線が合わない・話ができない,ピクピクする,せん妄になった)
  オピオイドの早送りをしないでベースアップだけしている
  レスキュー量が少なすぎる──フェンタニル貼付剤を使っている人にモルヒネ注を
     併用したら早送りしても効かない
 ■本当の難治性呼吸困難
  治療目標を決める
  少量のモルヒネ/オキシコドンで効果がない時の薬物療法

第4章 悪心嘔吐が取りきれない時
 ■Overview
 ■難治性ではないはずの悪心嘔吐──理由を見分けて対処する
  胃に内容物が溜まっている
  原因がわかれば治せる病態(頭蓋内圧亢進,高カルシウム血症)
  見落とされがちなよくある原因(便秘と胃潰瘍)
  crashed stomach症候群という病態
  口腔カンジダ・口腔内が汚れている

Check Point 一覧
索引

開く

過去に亡くなった患者と身につけた知恵を,今を生きる患者に伝える
書評者: 新城 拓也 (しんじょう医院院長)
◆緩和ケアの原体験

 気が付けば医師になって20年,私は自分の専門分野を持つ幸運を得ました。過去に何度も自分のキャリアの節目となる機会がありました。その機会はいつも診療を受け持った患者がつくってくれた天の配剤ばかりでした。

 私が緩和ケアの魅力にとりつかれるきっかけとなった一人の患者のことを今でも明瞭に思い出すことができます。その患者は,肺がんの骨転移で相当な痛みで苦しんでいました。上司に相談しながらその患者の治療を受け持っていた私ですが,痛みの治療がうまくできず,「痛いと言ったときにソセゴン®を注射する」という今では考えられないような幼稚な治療を繰り返していました。

 緩和ケアに関する一冊のテキストを購入し,その中に書いてある治療を見よう見まねで,その患者のために実践しました。初めて,モルヒネを大型のシリンジポンプで持続皮下注射し,数時間もしないうちに痛みがほとんどなくなる体験をしました。患者と私は大いに喜びました。わずかな時間とちょっとした治療でこれほどの威力があるのかと,緩和ケアの面白さに引き込まれていきました。

◆自分にできることが,患者の苦痛を緩和することにつながる実感を持てる

 緩和ケアの魅力に引き込まれ,実践を続ける中で,うまくいかない体験もするようになってきます。緩和できない苦痛があるという現実を知るのです。そのとき必要なのは,治療の可能性を探ることと,「今すぐ何か工夫できること」を次々に考えつく知恵なのです。『ひととおりのことをやっても苦痛が緩和しない時に開く本』には,そのような著者の経験と周りの医療者,かかわった患者,家族の経験と知恵が集積されています。著者の考える,一人ひとりの患者に対する細かな配慮を惜しむことなく読者に教えてくれます。

 とはいえ,看護師や薬剤師は治療薬を直接処方することはできません。しかし,医師が処方した薬をどのように使うのか,また薬以外で何をするかは,工夫することができるのです。痛みのある患者に医療用麻薬のレスキュー(速放製剤)をどのようなタイミングで使うか,せん妄患者に排泄ケアをすることで落ち着きを取り戻すことはできないか,呼吸困難の患者に室温や空調を工夫することで症状を軽くすることはできないのかと多くの試みができるのです。さらには,患者との対話で,「ちょっと試してみて,だめなら元に戻せる」と声をかけ,患者の心理的な抵抗を軽減することも身につけるべき知恵として本書には満載されています。緩和ケアにかかわる医療者誰もが,病院であっても在宅であっても,「自分にもできることがある。自分のできることが,患者の苦痛を緩和することにつながっている」確かな実感を持つことができるのです。

 著者が,すでに亡くなっている過去の患者と身につけた多くの知恵は,本書とあなたを通じて,時間を超えて今を生きている患者に伝えられ,救われていくことでしょう。どうかあなたもその伝承者の一人となってください。
患者家族からの“たまもの”を臨床に生かす
書評者: 大谷 弘行 (九州がんセンター緩和治療科)
 「苦痛症状に対し,何か他にできることはなかったのだろうか」
 「他の先生だったら,他の看護師だったら,もっとうまく対処するのではないだろうか」

 実際の臨床現場では,そんなもどかしい疑問に絶えず苛まれる。そして,自身の無力さに圧倒される日々が続く。そんなときに本書が送られてきた。「どんなに手を尽くしても治療抵抗性の苦痛はある」。この文章に救われた思いがした。そして,「ひととおりのことをやっても,まだ苦痛が残っている」ときの着眼点が随所に記載されており,そこに次の一手の光を見いだせるような気がしてきた。

◆「患者とその家族」に真摯にかかわってきた著者らの長年の知と経験を結集

 本書は,題名のごとく,難治性と思われていた「患者とその家族」に緩和ケアが届くよう願いを込めて,著者らの長年の知と経験を結集し,「薬を増やす」だけでなく多様な視点から「今できる工夫」を書き上げた緩和ケアの実践書である。そして,前刊の『エビデンスからわかる 患者と家族に届く緩和ケア』(医学書院)に続き,「患者とその家族」を主体に思いをはせながら執筆された,肝いり稀有な医療者必携の永久保存版である。

◆著者の臨床に対する姿勢がにじみ出ている

 私は,研修医時代から今日まで,著者から多くのことを学ばせていただいた。著者いわく,「医療従事者は,常に最新の情報を取り入れ,臨床に生かしていくことが求められる。その上で,疑問に思うことは放置せずに探求していく姿勢が大切であり,さらなる延長線上には臨床知がある。そして,これらの臨床知によって得られた“コツ”は,まさに“患者家族から教えていただいた”たまものであり,私たち医療者は,このたまものに感謝の気持ちをもって丁寧に実地臨床に生かしていく使命がある」。

 この書籍には,まさにこのことを臨床実践に結び付ける臨床知が凝集している。例えば,「せん妄のつじつまの合わない行動」が,実は尿意でベッドから降りようとしていたエピソード,もともと床に布団を敷いて寝ていた方が病院のベッドでは不眠になるエピソード,狭いホテルだと風が入らず「息苦しさ」を感じ,風の流れの重要性を説いた(著者自身の)エピソード。患者の行動・症状にはそれぞれ意味があり,まさに「患者は診断を語っている(本書p.43)」ことへの探求の結果から,その理由を見分け「今できる」治療やケアの工夫が満載である。

◆あなたがケアにあたっている患者家族に,このたまものが届きますように……

 どんなときも問題を解決するのは,“患者家族から教えていただいた”たまものである。あなたの明日からの臨床が変わり患者家族に届くきっかけになる,その重要な知見がぎゅっと詰まったお薦めの一冊である。
患者の言葉,姿勢,変化から,真摯にケアを考える
書評者: 吉田 みつ子 (日赤看護大基礎看護学・がん看護学)
 「ちょびちょび」「モゾモゾ」「ぼや~っと」「“パンパンッ”に」など,本書はオノマトペにあふれている。オノマトペとは物事の様相,情景,人の動作や感情などを表現するときに用いられる擬態語,擬声語のことである。医療現場においても,微妙な感覚,場の臨場感などを他者に伝えるには欠かすことができない。本書は,どのページをめくっても,まるですぐ隣に大先輩がいて,「そこは,こうするといいよ」と助言を受けているような感覚になるのは,オノマトペのせいなのだと気付いた。その大先輩は緩和医療のエキスパートであり,研究者でもある。本書には,著者が長年蓄積してきた緩和ケアのサイエンスとアートが「ぎゅっ」と詰まっている。

 その豊富な実践知の源は,著者がこれまで接してきた患者一人ひとりとの対話にある。例えば,「第1章 痛みが取りきれない時」,薬剤を使い尽くしても緩和されない痛みの原因は,「マットが硬い」「がんで痛いんじゃなくて筋肉の虚血」「もともと(がんと関係ない首・肩・腰が)痛い」こともある。著者は目の前の患者から発せられる言葉や姿勢,患者の24時間の生活行動に現れる変化に真摯に目を向け,「患者は診断を語っている(本書p. 43)」と,先入見をカッコに入れて,現象そのものを徹底的に観察する。「麻薬だけで鎮痛しようとしないこと」が大事だという。

 本書はいかに「ひととおりのこと」を超えた“一工夫”が見過ごされているか,「ひととおりのこと」だけで全てをやっているつもりになっているかを教えてくれる。「がんだから」で終わらせずに苦痛の原因をちゃんと知ること,そして苦痛が緩和されることが目的なのではなく,その先に患者と家族がどのように過ごすことを願っているのかが重要であること,それが「患者と家族にもっと届く緩和ケア」の王道なのだと教えてくれる。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。