チームで支える母乳育児
「赤ちゃんにやさしい病院」の取り組み

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母と子のための母乳育児推進にとって、施設内スタッフの意識を統一し、足並みを揃えるのはなかなか難しい。本書では、BFHに認定されている日本赤十字社医療センターにおける母乳育児支援に関する施設全体での取り組みの詳細を紹介。助産師、産科医師、新生児科医師などの実践報告から、また助産師と産婦人科医師が協働する「チーム健診」が、良質な妊産婦ケアと、母乳育児成功の鍵を握ることがわかる。
編集 杉本 充弘
執筆 日本赤十字社医療センター BFHI推進委員会
発行 2011年10月判型:A5頁:144
ISBN 978-4-260-01442-7
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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はじめに

 「母乳育児成功のための10ヵ条」が1989年にUNICEFとWHOの共同声明として提唱され,1991年にそれを実践する産科施設を「赤ちゃんにやさしい病院(Baby Friendly Hospital:BFH)」と認定する世界的規模の活動が開始されました。日本では,1991年に国立岡山病院(現独立行政法人国立病院機構岡山医療センター)がBFHと認定され,2010年には62施設(認定辞退施設は除く)に増加しました。
 しかし,その数は全国の出産施設2,700~2,800の約2%に過ぎず,スウェーデン100%,ノルウェー81%などの福祉優先国家と比べ極めて少なく,経済優先国家アメリカの2%と同程度です。BFH認定施設数は,妊娠・出産・育児の過程を通した母子の「こころ」と「身体」の健康支援が不十分である状況を反映しています。
 厚生労働省の資料「平成17年度乳幼児栄養調査」では,母乳で育てたいと妊娠中に考えている母親は96%でした。しかし,授乳期の栄養方法は,1か月では母乳栄養42.4%,混合栄養52.5%,人工栄養5.1%,3か月では母乳栄養38.0%,混合栄養41.0%,人工栄養21.0%,6か月では母乳栄養34.7%,混合栄養25.9%,人工栄養39.4%となっています。この事実は,出産施設における医療提供者の母乳育児支援が不十分であることに加えて,「母乳代用品のマーケティングに関する国際規準」(WHOコード)の認知が希薄であり,社会に普及していない現状を表しています。
 厚生労働省は2007年に「授乳・離乳の支援ガイド」を作成し,また,「健やか親子21」の数値目標として,1か月の母乳栄養率60%を掲げています。一方,母乳育児支援を広げるために,「日本母乳の会」をはじめ多様な活動が展開されています。そのなかで,BFHを目指す病院に役立つ参考資料として「チームで支える母乳育児」が日本赤十字社医療センターを中心に企画され,『助産雑誌』2009年4号から1年間12回にわたり連載されました。医師,助産師,看護師を主体とし,薬剤師,栄養士などコメディカルスタッフの協力を得て,BFH施設における実践活動を紹介しました。今回,その連載「チームで支える母乳育児」が単行本として再編集され,刊行されることになりました。本書により母乳育児の理解が深められ,BFH認定を目指す病院が増えることを期待しています。また,本書が母乳育児支援・推進運動の広がりに少しでも寄与できれば幸いです。

 2011年8月
 編集 杉本充弘

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第1章 「赤ちゃんにやさしい病院」とは
  歴史的背景
  先進国におけるBFHI
  日本におけるBFHI

第2章 チーム健診と分娩室での取り組み
 助産師と医師のチーム健診
  チーム健診とは
  チーム健診における母乳育児支援
  支援型のケアを意識
 分娩室での母乳育児支援
  分娩室でのスタンダードケア
  出産そのものの変化
  母子にやさしい出産環境を
  ふれること,受け容れること

第3章 周産母子ユニットでの母乳育児支援
 母子への支援
  入院中の取り組み
  退院後の支援
  カンファレンスの活用
  母乳育児率の実態調査から
  未熟児を持つ母親への支援
 周産母子ユニットでのスタッフ管理
  ケア環境の変化に即して
  授乳困難事例対応のコツ
  新生児科医師との協働
  新生児の観察と血糖値管理
  短期入院と支援体制
  今後の課題
 妊婦からの質問Q&A

第4章 母乳外来での支援
  母乳外来の成り立ち
  支援の実際
  今後の課題

第5章 NICU・GCU(未熟児室)での母乳育児支援
  親子の最初のかかわりを支える
  スタッフの意識の変化
  入院中の支援
  退院後の支援
  今後の課題

第6章 スタッフ間の意識統一の工夫
 産科医師の立場から
  院内スタッフの意思疎通を図るには
  スタッフが顔を合わせる機会を増やす
  母乳育児支援をテーマとしたワークショップ
  日常臨床における意識統一の工夫
  BFHIグループの活動
  関連各部門の結束力が高まる
 新生児科医師の立場から
  新生児科医師は抵抗勢力なのか?
  新生児科医師が母乳育児にかかわる場面
  新生児科医師の間での母乳育児への意識
  なぜ新生児科医師の間で意識統一がされていないのか
  マニュアル化で問題は解決するのか
  一新生児科医師の意識の変化
  では,意識を統一するには
  母親の“母乳育児への気持ち”を育む

第7章 院外への母乳育児推進運動
  わが国の母乳育児の傾向
  当センターの母乳育児支援
  今後の課題・目標

第8章 母乳育児支援の原点を見直す
  母乳育児支援実践のチェックポイント
  母乳育児支援と産科医療の原点
  おわりに

付録 BFH取得の際,困難だったこと 何ができて,何ができなかったか
  BFH認定をめざす道のり
  BFH認定への取り組み
  支援を進めるなかでのつまずき・困難
  継続への工夫

 初出文献
 索引
 Column
  震災時の母乳育児支援
  母乳育児に必要な食生活の知識
  薬剤師の母乳育児支援

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自施設との違いが明瞭になる現場の事例を豊富に収載
書評者: 山内 芳忠 (前 国立病院機構岡山医療センター/吉備国際大特任教授)
 「時は,流れる。時代はかわる……」,これは母乳育児の復興に情熱を燃やした故山内逸郎先生の後輩たちへのメッセージの巻頭文である。母乳育児の重要性や必要性は,医療者や母親たち,誰もが認めながらも実際には,退院後1か月の時点で約5割の母子しか実践できていないのが現状である。分娩をはじめ,母子を取り巻く環境の大きな変化にもかかわらずに,以前のままの体制で,母乳の利点の側面のみが強調されていることが,現状の閉塞感につながっているといえるのではないか。

 このたび,『チームで支える母乳育児』という,日本赤十字社医療センターの施設における母乳育児の取り組みを紹介した本が出版された。日赤医療センターは2000年にWHO/UNICEFの「赤ちゃんにやさしい病院(BFH)」に認定されている。本書は“母乳育児支援になぜ,施設で取り組む必要があるのか”の疑問に応えてくれる。BFHとして母乳育児支援を維持するための現場の事例が随所に盛り込まれており,読みながら自分の施設の現状や取り組みの違いを明瞭に知ることができる。

 施設での母乳育児の取り組みは,情報をいかに共有化するかが重要な点である。母子にかかわるスタッフやチームが,課題ごとに議論をしながら個々の母子に合ったものに修正しながら母乳育児支援に取り組み,地域へと連携をしていくことの重要性が具体性と詳細な記載で紹介されている。読者は,状況を思い浮かべながら読むことができるので,大変理解しやすい。

 最近,BFH認定をめざす施設が増えてきた。日本の母乳育児の広がり,ひいては母子医療の改善にBFH推進運動は大きな役割となっている。「日赤医療センターは助産師が多い施設だからできるのだ」とか,また「ハイリスクを扱う施設だから母乳育児は無理だ」とかの発言があるが,読み進むうちに,どんな状況においても母乳育児支援はできることがわかる。日赤医療センターはハイリスクの妊婦・分娩を抱えた医療施設であるからこそ,母乳育児の実践が重要との理念が確立されている。「~だから,できない」という考え方を根底から変えさせられるだろう。

 最近の医療現場では「チーム医療」という言葉がよく使われる。チーム医療とひと口に言っても,さまざまな考え方がある。チーム医療は当たり前ではないかとも思われるが,母乳育児支援におけるチーム医療は大きな意義を持っている。医師,助産師が主導の母乳育児支援ではなく産科医,小児科医,助産師,看護師がその専門性を発揮して,母子の身体的な変化と心の変化に寄り添って支えるという考えである。このチーム医療の考え方が,母親たちが「自分で産んだのだ」「赤ちゃんは自分で育てるのだ」と思える育児力,自立を養う基盤となっていくと思われる。

 わが国における母乳育児の広がりは,BFHの増加にかかっている。BFH認定を考えるスタッフには,大変参考になる書である。ぜひ一度お読みいただきたい。
随所にみられるBFHIの手を抜かない母乳育児支援 (雑誌『助産雑誌』より)
書評者: 小松 佐紀 (総合母子保健センター愛育病院 副看護部長)
 「母乳育児の利点とその意義」は誰もが知っている。妊娠中の母親も母乳で育てたいと思い,周産期にかかわる助産師・看護師・新生児科医師・産科医師も「できるものならば母乳育児をサポートしたい」と考え,何らかの支援を行なっている。しかし,現実の生後1か月の母乳栄養率は50%以下である。「何が足りないのか」自問自答し,母親へのサポート方法を模索し「組織の長や院内スタッフの理解を得,意思疎通を図るにはどうしたらよいか」など,孤軍奮闘している現実に限界を感じている医療者は多い。母乳育児を進めるにあたり,病院・地域・行政を巻き込んだ全国規模のチームとしての取り組みが必要であり,渇望されている。

 本書は「赤ちゃんにやさしい病院(BFH)」を目指す病院に役立つ参考資料として,2000年8月東京で初のBFHに認定された日本赤十字社医療センターを中心に企画され,医師,助産師,看護師を主体とし,薬剤師,栄養士らコメディカルスタッフの協力を得て,BFH認定施設における実践活動が紹介されている。第1章と第8章ではUNICEFとWHOの母乳育児推進の歴史的背景と母乳育児の視点や,「母乳を与えることのできない親子への母乳育児支援を含めたすべての親子を対象とする」BFHの理念を紹介している。また,「赤ちゃんにやさしい病院運動(BFHI)」の考え方について世界と日本の現状,母乳代用品のマーケティングに関する国際規準や,BFH認定までの手順等をわかりやすく解説している。第2~5章は同センターでの「母乳育児成功のための10ヵ条」の取り組みと,この10年間の変化について解説。外来での医師と助産師によるチーム健診の紹介,分娩室での母子に優しい出産環境について,産褥期ではスタッフ管理や授乳困難事例対応のコツ・新生児の観察と血糖値管理,母乳外来やNICU/GCUでの親子の最初のかかわりを支えるケアの実際など,ケアの実施と丁寧な検証を行なっている実例がたくさん記載されている。第6章では,院内スタッフの意思疎通を図る方法が紹介されている。産科・新生児科医師両方の立場から,積極的に母乳育児を推進するに至った心の変容が述べられており,他職種へのアプローチ方法の参考にぜひしていただきたい。第7章では,「東京母乳の会」立ち上げと,施設間サポートの実態と課題を紹介している。

 全体を通してBFHとしての誇りを持ち,きめ細やかで丁寧な,手を抜かない母乳育児支援が随所にみられる。周産期医療関係者は「母親の意思を尊重する」「母乳を強要したくない」という言葉で,支援する時期を逸してはいないか。強く警鐘を鳴らされた思いである。たった今からの母乳育児支援を後押ししてくれる,強いサポーターとなる1冊である。

(『助産雑誌』2012年4月号掲載)

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