BRAIN and NERVE Vol.78 No.7
2026年 07月号

ISSN 1881-6096
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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大脳皮質は,皮質下深部に位置する視床との緊密な機能連関によって,多様な統合や分化が支えられる。視床は長らく観察が困難であったが,近年の技術・観察法の進展によってその多様な働きが明らかになりつつある。本特集では,意思決定や運動制御,社会行動,連合記憶,言語の動的制御,そして養育行動に至るまで,視床回路の役割を俯瞰する。脳を動的に制御する大脳皮質-視床連関を捉え直す機会としたい。

前頭皮質における皮質間入力と視床入力の相互作用と機能的役割 川口 泰雄 , 孫 在隣
前頭皮質では,他の皮質からの入力と,視床を介した小脳および大脳基底核由来の信号が収束し相互作用する。齧歯類前頭皮質の二次運動野(M2)は一次運動野(M1)よりも高次の領野であり,これらの回路解析はフィードバック投射の機能理解に重要な手がかりを与える。本論では,M2からM1へのフィードバック投射と,小脳および大脳基底核に由来する視床入力との相互作用と,それらの機能的意義について概説する。

行動決定に関わる視床-大脳皮質回路の役割 松崎 政紀
動物は日常的に「行動するか否か」という意思決定を行う。マウスでは,運動視床から二次運動野(M2)への入力がこの過程に重要な役割を担う。視床は行動の有無によらず相対行動価値を表現し,その信号は行動開始前からM2へ伝達される。さらに,この価値信号はM2で運動開始に対応する活動へと変換され,最終的な行動実行に結びつくと考えられる。本研究について概説する。

うつ病の「止まらないネガティブ思考」はどこから来るのか?—右視床-皮質回路の解明から超音波による非侵襲的神経修飾へ 土屋垣内 晶
うつ病の難治化と関連する「反復的否定的思考(RNT)」には,右視床と大脳皮質の過剰な機能的結合が関与している。本論ではこの知見を概説するとともに,視床-皮質回路の主要白質経路である内包前脚(ALIC)に対し,低強度集束超音波(LIFU)を用いた非侵襲的神経修飾を試みた研究を紹介する。LIFUは標的回路の結合を低下させ,ポジティブ感情等を改善した。本技術は将来の個別化医療における回路探査ツールとして有望である。

発達期社会経験が形成する前頭前野-視床傍正中核回路による社会行動制御 山室 和彦
社会行動は他者刺激に対する単純な反応ではなく,覚醒や情動,過去の社会経験など内的状態と文脈に基づいて選択される統合的な行動出力である。近年,視床傍正中核(PVT)は前頭前野や辺縁系と密に結合し,覚醒・ストレス・動機づけ情報を行動出力へ変換する状態依存的ハブとして注目されている。本総説では,発達期社会経験による前頭前野-PVT回路の再編が,成体期の社会的接近・回避行動をどのように規定するかを回路・行動の観点から論じる。

視床網様核における感覚情報と高次脳機能の機能連関 木村 晃久
視床と大脳皮質が構成するループ回路網の結節点で,視床核に抑制投射し感覚情報処理を制御する視床網様核では,異種感覚入力が相互に干渉する。さらに,大脳皮質前頭前野の活性化が視床網様核細胞の感覚反応を修飾する。視床網様核が,環境からの感覚情報と脳内の高次脳機能(外的,内的因子)を取り込み,絶え間なく注意と知覚を切り替え,調整する神経機構を構成し得る。この機能障害が精神疾患の背景にあると思われる。

霊長類の適応行動を支える前頭前野-皮質下回路の機能的役割—経路選択的機能操作法が解き明かす「経験」と「推論」の神経基盤 小山 佳
霊長類の適応行動は,前頭前野(PFC)と大脳基底核や視床といった皮質下構造との相互作用が重要な神経基盤であると考えられてきたが,その直接的な検証は技術的に困難であり,その詳細な回路メカニズムは長らく不明であった。本論ではマカクザルでの経路選択的機能操作法により解明された,PFCから線条体および視床(MD核)への出力経路が,「経験」に基づく価値更新や,内部モデルに基づく「推論」やワーキングメモリといった異なる機能を担っていることを示した一連の研究について概説する。

運動学習における小脳-視床-運動野の役割 井上 雅仁
運動学習では,運動の誤差情報を用いて次の運動を変化させている。腕の到達運動では終点の誤差情報が入力し,次の試行まで保持しているが,この過程に小脳での長期抑圧(LTD)が関与しているのか,小脳核-視床-大脳皮質でのLTPが関与しているかは明らかにされていない。視床運動の誤差情報の時空間的特性を解析することにより,小脳-視床-大脳における持続的な誤差情報の保持メカニズムを明らかにする必要がある。

意思決定・運動実行に関わる視床回路 田中 康裕
意思決定から運動実行への移行には,前頭前皮質・運動関連皮質と視床を結ぶ複数の皮質-皮質下回路が関与する。本論では,皮質-視床,皮質-大脳基底核-視床,皮質-小脳-視床の各ループが視床で重なることに着目し,関連する主要な視床核の結合様式と近年の生理学的知見を整理する。さらに,皮質視床投射と大脳基底核による制御が,行動選択から運動実行への移行を支える可能性を論じる。

連合記憶に関わる皮質-視床回路による制御機構 井ノ口 霞 , 下田 藍丸 , 田中 里桜 , 金 亮 , 尾藤 晴彦
連合記憶の長期貯蔵は従来,学習後に海馬依存性が低下し,記憶が大脳皮質へ移行する過程として理解されてきた。しかし近年,学習時に形成された皮質記憶痕跡細胞の機能状態が時間とともに変化し,想起可能性が調節されるという観点からこの過程が捉え直されつつある。本論では,皮質-視床回路が皮質神経細胞集団の活動状態,シナプス可塑性,および抑制性制御を通じて遠隔記憶の形成・維持・想起を支える可能性について概説する。

養育行動に関わる視床-皮質回路の構造と機能の理解 田坂 元一
視床は大脳皮質の主要な入力源として知られ,トレーサー研究などによりその解剖学的結合について多くの知見が蓄積されてきた。しかし,視床-皮質間結合の定量的特徴や生理学的機能は依然として十分に理解されていない。特に前頭皮質では,高次機能を支える入力様式は重要な未解決問題である。本論では養育行動に着目し,眼窩前頭皮質とその視床パートナーからなる皮質-視床回路の解剖学的および生理学的役割について概説する。

視床性失語—視床からみる言語 西尾 慶之
大脳皮質損傷による失語が言語ネットワークの物理的破壊に起因する静的障害であるのに対し,視床性失語は意味的に無関連な語性錯語や文脈の混乱を伴い,症状が動的に変動するという特徴を示す。本論では神経科学の知見に基づき,大脳皮質を多様な文脈の語彙を保持する辞書,視床を文脈に合わせて不要な情報を抑制する動的フィルターとみなす枠組みを提示する。視床性失語は知識の喪失ではなく,ネットワークの動的制御の破綻として説明される。

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特集 大脳皮質-視床の機能連関

前頭皮質における皮質間入力と視床入力の相互作用と機能的役割
川口泰雄,孫 在隣

行動決定に関わる視床-大脳皮質回路の役割
松崎政紀

うつ病の「止まらないネガティブ思考」はどこから来るのか?──右視床-皮質回路の解明から超音波による非侵襲的神経修飾へ
土屋垣内 晶

発達期社会経験が形成する前頭前野-視床傍正中核回路による社会行動制御
山室和彦

視床網様核における感覚情報と高次脳機能の機能連関
木村晃久

霊長類の適応行動を支える前頭前野-皮質下回路の機能的役割──経路選択的機能操作法が解き明かす「経験」と「推論」の神経基盤
小山 佳

運動学習における小脳-視床-運動野の役割
井上雅仁

意思決定・運動実行に関わる視床回路
田中康裕

連合記憶に関わる皮質-視床回路による制御機構
井ノ口 霞,他

養育行動に関わる視床-皮質回路の構造と機能の理解
田坂元一

視床性失語──視床からみる言語
西尾慶之


●脳の「部分と全体」
第2回 視床下部,下垂体,松果体
小澤一史

●原著・過去の論文から学ぶ
第22回 ジストロフィン遺伝子の発見
辻 省次

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