BRAIN and NERVE Vol.78 No.6
2026年 06月号

ISSN 1881-6096
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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わが国の難病対策と課題 小森 哲夫
わが国の難病対策は1972年に始まり,2015年からは「難病の患者に対する医療等に関する法律」によって行われている。本論では難病対策に寄与する指定研究班の活動と成果から,1)医療提供体制整備の課題,2)難病リハビリテーション,3)地域における難病相談支援センターや保健所の活動,4)介護支援専門員による難病ケアマネジメント,5)治療と仕事の両立支援,6)障害福祉を含めた施設間・職種間連携,7)訪問看護の質の担保,8)災害対策,9)難病支援人材育成のためのe-learning環境整備について概説する。

日本のALS医療・ケアの再評価:日本・欧州・米国・カナダの国際比較—人工呼吸,社会参加支援,終末期選択,承認薬,精密医療からの考察 伊藤 道哉
日本の筋萎縮性側索硬化症(ALS)医療・ケアは,公的支援制度の差として再評価されるべきである。日本はtracheostomy invasive ventilation後の在宅生活と社会参加を公的に支えるモデル,欧州はnoninvasive ventilationと緩和ケア中心,米国は精密医療承認先行だがアクセス不均衡が大きいモデル,カナダは多職種ALSクリニックとMAiDを接続するモデルと整理できる。遺伝子検査が治療アクセスの前提となり,ALS医療の中心課題は終末期選択から精密医療の均てん化へ大きく移行しつつある。

神経難病に対する治療の発展と社会的・倫理的問題 漆谷 真
「治らない,わからない」の象徴であった神経難病の景色が変わりつつある。原因遺伝子や疾患関連蛋白質の同定とiPS細胞などを用いた解析技術の進歩により,病態解明と治療標的が明確となった。さらに標的に対する核酸治療や抗体治療は従来であれば期待できないほどの進行抑制効果や再発予防効果を示し,疾患修飾薬と呼ぶにふさわしい薬剤の登場が続く。誠に喜ばしい難病新時代を迎えたわけだが,その一方で治療の導入と継続の問題や,国の財政議論にまで発展した薬価の問題から遺伝学的検査がもたらす倫理的な課題など,われわれが認識すべき課題は多岐にわたる。

神経難病診療における倫理的問題の特徴と協働意思決定 杉浦 真
神経難病診療では,意思決定能力の低下や予後の不確実性のために倫理的問題が生じやすい。臨床倫理の問題は「臨床倫理の4原則」に代表される倫理的価値観の対立である。問題の解決に向けて患者の主観的QOLや価値観に寄り添う「協働意思決定」の実践が不可欠である。神経難病における「延命治療」のあいまいさを認識し,安易な判断に陥らず対話による最善の合意形成を目指す姿勢が求められる。

難病における新たな遺伝医療の現状と課題—PGT-Mを中心に 佐々木 愛子
単一遺伝子疾患の多くは十分に確立した根治療法が存在せず,患者・家族は妊娠や生活設計に関する継続的な意思決定を迫られる。生殖・周産期領域では出生前遺伝学的検査や着床前遺伝学的検査が重要な選択肢となるが,治療法の進歩や新規バリアントの同定に伴って「重篤性」の判断が難しくなっている。日本産科婦人科学会は個別症例を踏まえた審査を行ってきたが,枠組みの在り方には引き続き議論を要する。多職種が連携した継続的な遺伝診療体制の構築が重要である。

難病における遺伝カウンセリングと多職種連携 関屋 智子
近年,難病における遺伝医療の発展に伴い,遺伝学的検査や診断の機会が増えている。遺伝情報は血縁者で共有することから,患者の診断を契機に血縁者の診断へとつながるケースが増えている。遺伝性難病の患者や家族が,疾患や遺伝性について理解し適応できる支援体制,ライフイベントに応じた相談体制の構築は大切である。患者・家族を取り巻く多職種連携と,必要性に応じた遺伝カウンセリングへの橋渡しが求められる。

難病リハビリテーションの最前線 中馬 孝容
神経難病疾患は進行性で,症状は病期とともに運動障害以外の自律神経障害,高次脳機能障害などの合併を認め,病態は多様である.患者の日常生活の困りごとも多岐にわたり,現場でケアプランを立てている居宅介護支援事業所対象のアンケート調査においてもさまざまな課題が挙げられていた.リハビリテーションにおいては,安定した在宅生活を提供し,日常生活動作(ADL),生活の質(QOL)を維持することが重要なポイントとなる.在宅の現場では,難病のリハビリテーションについてのスタッフの知識が十分でないこと,より適したリハビリテーションの内容がわからないこと,リハビリテーションの人的資源が乏しいこと,チームとしての取組みが不十分であることなどがあり,リハビリテーション指導の一助となるパンフレットを作成している.また,新しいデバイス(外部刺激,VR,tDCS)を用いたリハビリテーションの開発の報告があり,臨床研究の発展を認めている.

神経難病における呼吸リハビリテーション—肺容量リクルートメントと機械的咳嗽を中心に 寄本 恵輔
神経難病における呼吸障害は,呼吸筋力低下に起因する拘束性換気障害を本質とし,生命予後および生活の質に重大な影響を及ぼす。本論では,神経難病における呼吸リハビリテーションの意義を病態生理学的観点から整理し,肺・胸郭可動性の維持を目的とした肺容量リクルートメント(LVRT)と,咳嗽補助を目的とした機械的咳嗽(MI-E)の2つの中核的介入について概説する。

神経難病における摂食嚥下・栄養障害の対応 國枝 顕二郎
神経難病患者では摂食嚥下障害は高頻度にみられ,誤嚥性肺炎や栄養障害,QOL低下に直結する。嚥下機能評価では,代償法を駆使した治療的な視点が重要である。筋萎縮性側索硬化症などでは体重減少が生命予後と関連し,栄養療法は疾患修飾療法となり得る。胃瘻造設を拒否する症例や自己決定が困難な症例の方針決定では,臨床倫理的な議論が必要になることもある。摂食嚥下・栄養障害の対応では,多職種によるチームアプローチが重要である。

神経難病とコミュニケーション支援 井村 保
筋萎縮性側索硬化症などの神経筋疾患患者のコミュニケーション支援は,意思伝達装置だけでなく口文字や透明文字盤なども含み,使い分けや併用も必要である。早期から段階的に経験することで円滑な機器導入が可能となる。病期に応じた多職種連携が有効である。支援チームによる継続的支援体制は,患者のみならず支援者の負担軽減にも有効である。今後は視線入力,音声合成,brain machine interfaceなど新技術の発展が期待されるが,特性や限界への配慮が不可欠である。

難病とともに生きる人の治療と仕事・学びを両立するための支援 中井 三智子
難病を持つ人は,多様な症状や体調変動により,治療と仕事・学びの両立には困難を伴う。治療を継続しながら社会参加し,成長発達する機会を持てる環境を整えることが重要である。周囲の理解を得て適切な配慮を受けられるよう,医療・福祉・教育・職場が連携協力する体制の推進が求められる。相談窓口や支援人材を活用すること,人々のヘルスリテラシーを向上させることも,治療と生活の両立に寄与すると考えられる。

難病診療連携コーディネーターの役割 岩木 三保
難病診療連携コーディネーターは,国の難病対策として44都道府県に65名が配置されている(2025年5月時点)。医療機関との連携,療養上の相談対応など,多方面の各種相談を受けている。難病医療の現場では,難病診療連携コーディネーターの存在が重要視されているが,都道府県のニーズによってその活動は多岐にわたっている。難病診療連携コーディネーターを教育・支援していく体制整備と,教育内容の担保が今後の課題である。

 【コラム】患者会って何ですか? 伊藤 建雄

大学病院・難病診療連携拠点病院の病診多職種連携 太田 康之
難病診療連携拠点病院である山形大学医学部附属病院は,難病診療連携センターを設置し,成人科と小児科を含むすべての診療科医師がセンターに参加して,病診多職種連携を含めた難病医療連携体制構築を行い,難病医療等連絡協議会で中心的役割を果たしている。難病診療連携センターでは,病診多職種連携を含む難病医療・療養について,広く県内の医療者に周知するため,ウェブサイト作成と毎年の医療者向け講演会を開催している。

 小児期発症慢性疾患患者の成人移行支援—難病医療の中で 望月 葉子 , 大迫 美穂
小児期発症慢性疾患患者の成人移行支援のための移行期医療支援センター開設は進展している。2020年に日本神経学会,2022年に日本難病医療ネットワーク学会にそれぞれ委員会が設置され,連携してきた。難病法と児童福祉法が成人移行支援の枠組みを規定し,具体的運用がガイドや手引きに示され,複数の相談支援制度もある。患者の意思を尊重して適切に移行するために関係者が情報共有して支援する必要がある。

神経難病の災害対策 宮地 隆史
日本ではいつどこにでも災害が発生し得る。人工呼吸器装着者は電気の途絶により命の危険に直結する。神経難病患者は災害時避難行動要支援者が多く平時の災害対策が重要である。避難支援者の確保,避難方法,避難先での生活を見据えた個別避難計画を関係者が協働して作成することが望ましい。日本神経学会では災害対策マニュアルの作成,災害支援ネットワーク掲示板の活用,神経難病ネットワーク長・リエゾンの配置を行っている。

神経難病診療における遠隔医療とデジタル技術の利活用 大山 彦光
神経難病医療は専門医の偏在および疾病の特性により,患者の医療へのアクセス制限が生じやすい構造的課題を抱えている。高齢化や感染症流行を背景に,遠隔医療は医療アクセス是正の解決策として期待が高まっている。デジタル技術は遠隔医療を補い,人工知能を併用することにより,神経難病医療をより連続的かつ個別化された医療へ発展させる可能性がある。

病理解剖の現状と課題 髙尾 昌樹
神経疾患の治療法開発,病態解明研究等に,病理解剖による脳組織を用いた研究は必須で,その重要性は増している。しかし,病理解剖数の減少により,中枢神経系が解剖によって検索される機会が減っている。ブレインバンクとも連携しながら,解剖による神経系組織の診断,保管,研究利用が確実に可能となる体制構築が必要である。

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価格については医書.jpをご覧ください。

特集 難病医療ハンドブック

わが国の難病対策と課題
小森哲夫

日本のALS医療・ケアの再評価:日本・欧州・米国・カナダの国際比較──人工呼吸,社会参加支援,終末期選択,承認薬,精密医療からの考察
伊藤道哉

神経難病に対する治療の発展と社会的・倫理的問題
漆谷 真

神経難病診療における倫理的問題の特徴と協働意思決定
杉浦 真

難病における新たな遺伝医療の現状と課題──PGT-Mを中心に
佐々木愛子

難病における遺伝カウンセリングと多職種連携
関屋智子

難病リハビリテーションの最前線
中馬孝容

神経難病における呼吸リハビリテーション──肺容量リクルートメントと機械的咳嗽を中心に
寄本恵輔

神経難病における摂食嚥下・栄養障害の対応
國枝顕二郎

神経難病とコミュニケーション支援
井村 保

難病とともに生きる人の治療と仕事・学びを両立するための支援
中井三智子

難病診療連携コーディネーターの役割
岩木三保

[コラム]患者会って何ですか?
伊藤建雄

大学病院・難病診療連携拠点病院の病診多職種連携
太田康之

小児期発症慢性疾患患者の成人移行支援──難病医療の中で
望月葉子,大迫美穂

神経難病の災害対策
宮地隆史

神経難病診療における遠隔医療とデジタル技術の利活用
大山彦光

病理解剖の現状と課題
髙尾昌樹


●脳の「部分と全体」
第1回 脳幹の構成──連続性と特異性
小林 靖,本郷 悠

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