脊椎手術解剖アトラス

もっと見る

安全に脊椎手術を行うために必要な解剖学的知識を、鮮明な解剖写真をもとに指南する実践的な手術アトラス。頚椎・胸椎・腰・仙椎と部位別に、かつ術式別に、展開される術野に相当する解剖写真を提示しながら、手術の手順を解説する。各術式の解説の最後に、第一人者からの手術のコツ、手術上達のポイントなどをコラムとして掲載。脊椎脊髄外科専門医をめざす若手には手引書として、ベテランには技術の再確認に役立つ1冊。
編集 菊地 臣一
発行 2017年05月判型:A4頁:196
ISBN 978-4-260-03044-1
定価 17,600円 (本体16,000円+税)

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評

開く



 『腰仙椎部神経症状-カラーでみる解剖学的背景』(金原出版刊)を,恩師である蓮江光男先生との共著で出版したのが1996年である.
 この拙著に込めた思いの1つは,肉眼解剖という古典的手法でも,科学という舞台で新しい知見を見出せるということを知ってもらいたかった点にある.このなかで,従来は,曖昧にされてきた常識のなかに,解剖という視点から説明できることが存在することを立証した.
 解剖という研究手技を身に付けていたときに,海外へ飛び出した.Dr. Ian Macnabのもとでの修行中,「なぜ,神経根造影像は管状を呈するのか」というのが彼から与えられた研究テーマであった.「造影剤を神経根の周囲にとどめておく組織があるに違いない」,というのが彼の仮説であった.
 一方,病院では,毎日がfailed back の手術であった.当時,手術歴のある症例の再手術では,メスの入っていない健常な組織を展開し,そこから再手術の部位に入っていくという手技が常識であった.しかし,Dr. Macnab は,いきなり再手術部位を展開するという手技であった.彼の手にかかると,前回の手術部位が整然と展開され,次いで神経根造影・ブロックを含む術前評価に基づいた最小限の除圧が行われ,短時間で手術が終了した.彼はなぜ,手早く,しかも安全に神経根を展開できるのだろうかと考えた.
 これら2つの経験から,科学としての解剖のほかにもう1つ,臨床解剖という切り口があるという思いに至った.それ以降,先輩からの教えで漫然と行っていた脊椎・脊髄の手術における体位の取り方,頭部や体幹の固定,そして皮切や術野到達の妥当性を,臨床解剖という視点から検討を進めてきた.
 臨床解剖は,手術の進歩とともに求められることが異なってくる.したがって,解剖という手法は同じでも,求められる視点や目的は異なってくる.よって,臨床を行っている者でないと,求められることに十分には応えられないのである.
 本書は,私が目次を作成した.解剖は,私の肉眼解剖という古臭い手法を継いでくれた茂呂貴知が行った.執筆は,私の弟子である矢吹省司,大谷晃司,紺野愼一が担当した.また,各手技の最後に,各分野の第一人者にコツの提示をお願いした.
 前著の「おわりに」で,蓮江光男先生が,「将来また装いも新たにして上梓されることもあるであろう」と記された.あれから約20年,この本がそれに対する答えである.
 本書は,脊椎・脊髄外科の臨床というartと解剖というscienceが統合した結晶である.
 本書が,この分野を志す若者にはよき手引に,専門医やこの分野に携わっている医療者には,自らの知識やknow-howの再確認に役立つことを願っている.

 2017年3月
 菊地臣一

開く

I 脊椎手術に必要な神経解剖
  A 神経側からみた臨床解剖の意義
  B 神経症状への解剖学的関与因子
  C 神経圧迫の高位
  D 神経根の臨床解剖

II 頚椎
 1 Occipito-cervical spine
  A 頭蓋骨へのピン刺入の際の安全域
  B 後頭骨切除の際の安全域
  C C1/2後方アプローチ
 2 中下位頚椎後方アプローチ
 3 脊髄腫瘍へのアプローチ
 4 上位頚椎への後外側アプローチ
 5 中下位頚椎前方アプローチ
 6 中下位頚椎前方外側アプローチ

III 胸椎
 1 前方アプローチ
  A 胸骨柄縦割進入法,あるいはその変法
  B 前方(肋骨切除)アプローチ
  C 胸腰椎移行部へのアプローチ
  D 前方アプローチにおける除圧法
  E 胸腔ドレーンの挿入
  F 胸腔鏡視に必要な解剖と内視鏡的アプローチ
 2 後方アプローチ

IV 腰・仙椎
 1 前方アプローチ
  A 腰椎前側方(腹膜外路)アプローチ
  B 腰椎前方(経腹膜的)アプローチ
  C 腰椎正中/傍正中腹膜外アプローチ
  D 仙腸関節仙骨前面へのアプローチ
   ・腸骨前方からの骨採取
   ・仙腸関節への前方アプローチ
 2 後方アプローチ
  A 正中アプローチ
  B 傍正中アプローチ(Wiltseのアプローチ)
 3 特殊な手技
  A ペディクルスクリュー
  B 仙骨全摘・切断術
  C 後方進入内視鏡下椎間板切除術(MED法)
  D 経皮的内視鏡下腰椎椎間板ヘルニア摘出術(PELD法)
  E 腰椎後側方固定術
  F 後方経路腰椎椎体間固定術(PLIF)
  G 前方経路腰椎椎体間固定術(ALIF)
  H 鏡視下後方除圧術
  I 鏡視下腰椎前方固定術
  J 腹腔鏡視下腰仙椎固定術
  K 椎間孔鏡視下手術

索引

開く

手術を行う側の視点で書かれた脊椎手術の指南書
書評者: 川口 善治 (富山大診療教授・整形外科学)
 「手術ができるようになるための秘訣は何か?」この問いに対する私の答えは,「正確な解剖学的知識を持つこと」である。しかし,この目的に叶う本をほとんど目にすることはない。それだけ外科医にとって重要な場面をわかりやすく示すことは困難なのである。

 このたび医学書院から上梓された『脊椎手術解剖アトラス』は,まさに手術を行う側の視点で書かれた指南書である。このような本はめったにないと言える。編集された菊地先生は,医師として駆け出しの頃,夜な夜な解剖学教室でご遺体と向き合い,脊椎病変の局所所見をつぶさに勉強されたとお聞きする。その時の知識が,その後発展したさまざまな画像所見を正確に読み解き,多くの症例の手術に活かされたであろうことは想像に難くない。

 手術においては次の場面でどのような展開になるかを知らなければならない。本アトラスはまさにかゆい所に手が届くように,多くの図版が重要な場面を示してくれている。図版は実際の解剖写真や術中所見の写真,X線,CT像が口絵で解説されているので,非常に理解しやすい。この本は日本を代表する脊椎外科医5人によって編集され,かつ22人の第一人者のコメントが寄せられている。多くの手術を手掛けられ,さまざまな困難な場面を経験された間違いなくトップレベルの先生方である。手術のピットフォールを適切な言葉で示されたコメントには深い含蓄があり,外科医としての私の心に響く。私にとってこのアトラスは,手術前に知識を確認し,手術終了後に症例の病態を再確認する最良の書の一つとなった。

 本の帯には「脊椎・脊髄外科の臨床(アート)と解剖(サイエンス)の結晶」とある。目の前にある事実「サイエンス」をどのように活かすか,「アート」を要求される一人ひとりの医師に問い掛けられる課題である。『脊椎手術解剖アトラス』は,これから脊椎・脊髄外科を勉強される先生方だけでなく,既に活躍しておられるシニアの先生方に広くお読みいただきたい名著である。
脊椎手術に携わる外科医必携の「実学」の書
書評者: 松本 守雄 (慶大教授・整形外科学)
 脊椎・脊髄外科の手術手技は,新規の手術機器やインプラントの開発に伴って,近年,長足の進歩を遂げており,多くの脊椎疾患が従来と比較してより低侵襲に治療することが可能となった。一方で,手術解剖に関する理解が不十分なまま行われた低侵襲手術や新規手術手技による合併症の報告が相次いでいるのも残念ながら事実である。解剖の知識を持たずに手術を行うことは,海図も持たずに荒波に漕ぎ出すようなもので,いかに新しいインプラントや手術機器を用いたとしても無謀な冒険以外のなにものでもない。われわれ外科医は常に手術解剖という基本に基づいた手術を心掛ける必要がある。

 このたび,菊地臣一先生とその門下の先生方が編集・執筆された『脊椎手術解剖アトラス』が上梓された。本書は菊地先生のライフワークである脊椎の肉眼的解剖学に裏打ちされた手術解剖書である。頚椎から仙椎まで脊椎のあらゆる部位の詳細な局所解剖が,実際のカラーの解剖写真およびシェーマによりわかりやすく示され,手術のアプローチや手技と有機的に紐付けられている。本書を読むと,われわれが何気なく行っていた手術手技が,解剖学的あるいは病態論的にどのような意義があるのかをあらためて思い知らされて,目から鱗が落ちる思いがする。既存の脊椎手術解剖書は臨床的観点からのartの要素が不十分であり,一方,既存の手術手技書もともすれば技術論が先行してscienceの視点に欠けている。菊地先生をはじめとする著者の先生方は本書を「科学(science)としての解剖」そして「臨床(art)解剖」を統合させた過去に例を見ない斬新な手術解剖書に仕上げられている。

 本書のさらなる特徴は,各部位の手術解剖に関連して,その分野のエキスパートが手術手技のコツを明快に解説していることであり,本書をより実用的・実践的なものにしている。また本書の後半には内視鏡下手術やインストゥルメンテーション手術などに関連した手術解剖と手技に関する詳細な解説が行われている。これらの比較的新しい手術手技こそ,安全に行う上で手術解剖の熟知が必要であり,本書にはこれらの手術に取り組む際に必読の内容が含まれている。

 慶應義塾の創始者である福澤諭吉は「実学」という言葉にサイヤンスというルビをふり,単に実際に役立つ学問という意味だけではなく,「事象の真理を実証的に解明し問題を解決していく科学」という意味を込めたといわれている。本書は肉眼的解剖学により手術手技の背景にある真理を明らかにし,脊椎手術に資するまさに「実学」の書である。脊椎手術に携わる外科医は座右におくべき書であると自信を持ってお薦めしたい。
脊椎・脊髄手術に臨む際に読破してほしい必須の書
書評者: 飯塚 秀明 (金沢医大教授・脳神経外科学)
 本書は,脊椎・脊髄疾患の外科治療を専門とする医師,およびそれを志す医師にとって,必須の書籍と思われる。編著者の菊地臣一先生が序文で述べているように,本書のコンセプトは,「脊椎・脊髄外科の臨床というart」と「解剖というscience」の統合といえる。いうまでもなく,あらゆる手術の基本は,外科医が局所解剖を正確に把握し,その上で,病変に対する,手術体位を含めた適切な到達方法の選択が肝要である。特に,脊椎・脊髄手術におけるこれらの重要性は論をまたないであろう。

 本書は,第1章で,まず「脊椎手術に必要な神経解剖」として,臨床解剖の重要性とそれに基づく神経症状の解説が述べられている。画像診断が格段に進歩したとはいえ,脊椎・脊髄手術に携わる外科医にとって,診断の基本は,神経学的所見に基づく責任病巣の把握であり,このためにもこの第1章は,全ての脊椎・脊髄外科医にとって極めて参考となるものである。

 続いて,頚椎,胸椎,腰・仙椎疾患に対する,各種の到達法と手術手技が詳細に解説されている。それぞれの到達法において,手術適応,手術体位の基本,皮膚切開,到達法が,豊富な局所解剖写真とともに,具体的にわかりやすく解説されている。脊椎・脊髄手術で用いられているアプローチがほぼ全て網羅されており,手技のステップごとに,詳細な局所解剖写真を用いて解説されている。胸椎での前方到達法では,胸腔ドレーンの挿入に関する留意点をも解説しており,実際の臨床現場で役に立つように工夫されている。さらに,腰・仙椎では,特殊な手技として,各種固定術や内視鏡下手術・腹腔鏡下手術まで11の手技について手技上の留意点やポイント等も含めて解説されている。本書の特徴として,それぞれの術式の解説の後に,エキスパートによるその術式におけるポイントや手術のコツ(Pearls and Tipsを含めて)が述べられており,それぞれが極めて参考になる解説となっている。

 編著者の菊地先生が,腰・仙椎の傍正中アプローチ(Wiltseのアプローチ)におけるコメントで述べている,「navigation systemの導入により,三次元的解剖の把握は容易になった。しかし,術者の頭の中に,局所での神経根と周囲組織との相互関係が入っているのといないのとでは,手術時間と合併症発生の危険が格段に違う」(p.126,下線評者)は,至言である。

 本書は,この領域の専門医をめざす若手医師にとって,ぜひともアシスタントに入る前に読破することを望みたい。また,専門医として第一線で脊椎・脊髄疾患の外科治療に励んでいるベテラン医師にとっても,今一度,自分の手術手技を振り返るために参考とすることを薦めたい。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。