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画像からみた 脳梗塞と神経心理学

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好評書 『脳血管障害と神経心理学 第2版』 の編者で、神経内科医として脳血管障害の診療に長年従事し、神経心理学の第一人者でもある著者による単独執筆の書。脳血管障害のなかでも発症頻度が高く、発症前後の経過観察がしやすい脳梗塞に、失語をはじめとした神経心理学的症候の面からアプローチする。貴重な症例とともに多数の画像が示され、症候と画像の両面から脳梗塞の局在診断を理解することができる1冊。
田川 皓一
発行 2015年05月判型:B5頁:280
ISBN 978-4-260-02196-8
定価 8,800円 (本体8,000円+税)

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はじめに

 私は大脳の局在診断に興味がありましたので,神経内科学を選択し,神経心理学的症候を呈する主要な原因疾患としての脳血管障害の診療に従事してきました.本書は,脳血管障害のなかでも,常に脳梗塞を意識した神経心理学についてまとめてみました.
 脳血管障害には虚血性の脳血管障害もあれば,出血性の脳血管障害もあります.頻度が高いのは,虚血性疾患である脳梗塞です.出血性疾患ではその経過が脳神経外科的なアプローチにより左右されてきますので,神経内科の立場でいえば,脳梗塞のほうが診療においても症候学的検討においても,全体のスペクトラムを把握しやすいように思います.したがって,脳梗塞を対象疾患として神経心理学を考えることにしました.タイトルの「画像からみた脳梗塞と神経心理学」は,医学書院より出版した「脳卒中と神経心理学」(1995年)1)「脳血管障害と神経心理学(第2版)」(2013年)2)を意識しています.ともに平山惠造先生と共同編集したものです.ひとりでは,とても脳血管障害の全体像をとらえた「脳血管障害と神経心理学」を書くことはできませんので,脳梗塞に絞って神経心理学を論じることにしました.
 出血性疾患の代表は脳出血とくも膜下出血ですが,後者は脳神経外科疾患ですので,私の出る幕はありません.別に出血性疾患を毛嫌いしているわけではありません.治療法の選択に外科的手術が重要な位置を占めますので,自然の経過とは異なるような気がしますし,連続例で経過を観察したような実感がありません.しかし,手術をしない症例や手術をする前の状態は,神経心理学の重要な対象疾患となります.別に手術を実施したから神経心理学の対象疾患にならないわけでもありませんが,私どもの診療の守備範囲外であるとの漠然とした印象をぬぐい去ることができません.
 脳梗塞と神経心理学を論じるとき,脳出血はきわめて重要な疾患です.脳梗塞特有の病態生理を論じるときは,それとは全く異質である脳出血の病態生理を理解しておくことも重要と考えています.したがって,本書の対象疾患は主として脳梗塞ですが,その対照疾患として随所に脳出血の症例が出てくることになります.
 神経心理学を論じるときには,その基礎疾患を十分に理解することが重要だと思います.そういう意味で本書では脳梗塞とは何かについて考えたいと思います.脳梗塞にも,いろいろなタイプがあるとの立場です.
 脳梗塞と神経心理学を理解するときに重要なことは,まず,(1)脳梗塞とは何かを理解すること,(2)神経心理学の基本症候を理解しておくこと(神経心理学の主要徴候),(3)脳血管の閉塞部位により生じてくる症候を理解しておくこと(血管閉塞症候群),さらに,(4)脳の障害部位により生じうる症候を理解しておくこと(神経心理学の局在診断)になると思います.本書もそれに準じて4章の構成になります.しかし,2章から4章にかけては,内容が重複することになります.失語症を例として大まかに考えてみましても,まず,基本症候の項目でそれぞれのタイプの画像を示す必要が出てきます.さらに,血管閉塞症候群として,左中大脳動脈閉塞症に伴う失語症の典型例の特徴的な病巣の紹介が必要になってきます.また,ブローカ失語は前頭葉症候群で,ウェルニッケ失語は側頭葉症候群でも触れることになりますから,そこでも失語症を論じることになるわけです.すなわち,症候学と血管閉塞症候群,局在診断はお互い複雑に絡み合った横糸と縦糸を形成しているわけですから,脳梗塞の総合的な診断には,それぞれが欠かせないものとなります.
 このスタイルは,「脳血管障害と神経心理学」の編集方針と同じです.しかし,「脳血管障害と神経心理学」の場合は分担執筆であり,それぞれの切り口がありますので重複してもそれほど気にならなかったのですが,今回は単著ですので,そういうわけにはいきません.各章にまたがって,同じ比重で論じても内容が膨らむばかりですから,主としてどこで扱うかをできる限り工夫しました.複数の血管閉塞症候群として,あるいは複数の脳葉にまたがる場合は,原則的に症候を論じるときに述べることにいたします.閉塞血管に注目して論じたいときは,血管閉塞症候群で論じます.局在診断はあくまで総論として概説を加えることにします.画像診断に多少の重複は出てきますが,ご理解をお願いします.どちらでも詳しく触れていない項目は,私の苦手なところか,あまり重要とは思っていないところになります.神経心理学の想い出話や,よもやま話が出てきますが,独断と偏見に満ちたものも多々あることをご了承ください.本書は常に脳梗塞を意識して神経心理学を論じることを目的にしておりますので,神経心理学の細かい症候の解説やその発現機序については他書に譲ることにいたします.
 文献の引用についても,同じく独断と偏見に満ちたものだといわれても弁解の余地はありません.新しいものを紹介するようなものでもありませんし,優れた論文を網羅するような形式もとっておりません.現在,神経心理学領域で常識として普通に語られている原典について紹介する形もとっておりません.臨床例の観察の場でヒントになったもの,論文を書くにあたって印象に残ったものなどを中心にあげることにしました.
 用語は,日本神経学会の用語集(改訂第3版)3)に準拠しておりますが,神経心理学や脳卒中学の臨床の場での使用状況などを考慮しております.ただし,慣用的に使用している用語も多く,そのすべてについてチェックしたわけではありません
 本書では多くの施設の貴重な症例を使用させていただいております.これまで所属した秋田県立脳血管センターや国立療養所福岡東病院,国立循環器病センター,九州厚生年金病院,長尾病院,原土井病院,さくら病院などでご協力いただきました皆様方に感謝いたします.また,臨床例を診察する機会をいただきました脳神経センター大田記念病院や蜂須賀病院,早良病院,白十字病院,杏林会吉塚林病院,長崎北病院の方々に感謝いたします.また,多くの施設から紹介していただきましたし,画像診断に協力をお願いいたしました.国立病院機構九州医療センター,九州大学病院,福岡大学病院,福岡赤十字病院,済生会福岡総合病院,聖マリア病院,原三信病院などのご協力に感謝しております.貴重な症例も含まれます.その場合は,他誌への報告に支障がないよう,症例の紹介はごく簡単にしております.
 個人的に多くの方々にご指導やご協力をいただきました.私の神経心理学の師匠は,九州大学第二内科の臨床研修医の頃からお世話になった故永江和久先生です.多くのことを教えていただきましたが,残念ながら先生は1984年くも膜下出血で他界されました.14年にも満たない短いお付き合いでした.神経放射線学については,奥寺利男先生や後藤勝爾先生にご支援をいただきました.神経心理学領域でも多くの方々に教えをいただきましたが,昭和大学神経内科の河村満先生,山形県立保健衛生大学の平山和美先生にはいつも相談に乗っていただきました.脳血管障害の臨床においては,熊本市立熊本市民病院神経内科の橋本洋一郎先生,熊本済生会病院神経内科の稲富雄一郎先生に多大なご協力をいただきました.また,長崎北病院名誉院長の辻畑光宏先生には多くの臨床例を観察する機会をいただきました.秋田県立脳血管研究センター所長の故沓澤尚之先生,国立療養所福岡東病院病院長の故飯野耕三先生,九州大学名誉教授(前第二内科教授)の故藤島正敏先生,長尾病院理事長の服部文忠先生は,私の仕事のよき理解者でした.ご協力に感謝いたします.また,脳神経センター大田記念病院で経験しました多くの症例を紹介させていただきました.貴重な画像の使用を許可していただきました大田泰正理事長や日頃の診療に従事している諸先生方のご協力に感謝いたします.また,言語聴覚士の時田春樹氏には多大なご協力をいただきました.画像解析や資料作成には秋田県立脳血管研究センター放射線科の庄司安明氏のご協力をいただきました.
 なお,その後,名称が変更になった施設も含まれますが,私が所属していたころの名称のままにしています.

 2015年3月
 田川皓一

文献
 1)平山惠造, 田川皓一(編) : 脳卒中と神経心理学. 医学書院, 1995
 2)平山惠造, 田川皓一(編) : 脳血管障害と神経心理学. 第2版, 医学書院, 2013
 3)日本神経学会用語委員会(編) : 神経学用語集. 改訂第3版, 文光堂, 2008

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基本図譜
はじめに

第1章 脳梗塞とは
 A 脳梗塞の分類
 B 脳血管の基本構築と脳梗塞の病態生理
  1 脳の動脈とその灌流域
  2 脳動脈の側副血行路
 C 脳梗塞の画像診断
  1 CT
  2 MRI
  3 脳血管造影
  4 脳循環代謝測定
  5 脳出血の画像診断
 D 脳梗塞の臨床統計
 E 臨床カテゴリー別にみた脳梗塞
  1 アテローム血栓性脳梗塞
  2 心原性脳塞栓症
  3 ラクナ梗塞
  4 血管性認知症

第2章 神経心理学の主要症候
 A 神経心理学を理解するための基本的事項
  1 神経心理学とは
  2 神経心理学の背景因子
 B 失語症
  1 失語症とは
  2 失語症の背景因子
  3 失語症の症候
  4 失語症のタイプ分類
  5 脳血管障害による失語症
  6 失語症の周辺領域
 C 読み書き障害
  1 失読失書
  2 純粋失書
  3 純粋失読
  4 その他の読み書き障害
 D 失認症
  1 失認症とは
  2 視覚性失認
  3 視空間失認
  4 地誌的障害
  5 聴覚性失認
  6 触覚性失認
  7 身体失認
 E 失行症
  1 古典的な失行論
  2 失行症の診断の問題点
  3 着衣失行
  4 行為や行動の異常
 F 記憶障害
  1 視床性(間脳性)記憶障害
  2 海馬性(側頭葉性)記憶障害
  3 retrosplenial amnesia
  4 前脳基底部健忘
  5 脳弓性記憶障害
  6 前頭葉やその他の部位の障害による記憶障害
 G 失計算
 H 無視症候群と右半球症状
  1 饒舌症
  2 アプロソディア
  3 非失語性呼称障害

第3章 血管閉塞症候群
 A 内頸動脈とその分枝
  1 解剖学
  2 内頸動脈閉塞症
  3 眼動脈の閉塞
  4 前脈絡叢動脈閉塞症
  5 内頸動脈からの穿通枝の障害
 B 前大脳動脈とその分枝
  1 解剖学
  2 前大脳動脈閉塞症の症候学
 C 中大脳動脈とその分枝
  1 解剖学
  2 中大脳動脈閉塞症
  3 中大脳動脈閉塞症の症候学
  4 外側線条体動脈
 D 後大脳動脈とその分枝
  1 解剖学
  2 後大脳動脈閉塞症
 E 椎骨脳底動脈とその分枝
  1 脳幹と意識障害
  2 脳底動脈先端症候群と傍正中視床中脳梗塞
  3 脳脚幻覚症
  4 cerebellar cognitive affective syndrome

第4章 神経心理学の局在診断
 A 前頭葉症候群
  1 前頭葉の解剖と機能
  2 前頭葉損傷による臨床症候
 B 側頭葉症候群
  1 側頭葉の解剖と機能
  2 側頭葉損傷による臨床症候
 C 頭頂葉症候群
  1 頭頂葉の解剖と機能
  2 頭頂葉損傷による臨床症候
 D 後頭葉症候群
  1 後頭葉の解剖と機能
  2 後頭葉損傷による臨床症候
 E 大脳辺縁系
  1 構造と機能
  2 大脳辺縁系の神経症候学
 F 大脳基底核
  1 構造と機能
  2 大脳基底核の神経症候学
  3 大脳基底核と脳血管障害
 G 視床症候群
  1 構造と機能
  2 視床症候群
 H 脳梁離断症候群
  1 構造と機能
  2 脳梁離断症候群

索引

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「わかりにくい」領域を「わかりやすく」解説する目的を見事に達成した書
書評者: 山鳥 重 (前・東北大大学院教授・高次機能障害学)
 本書は280ページもの大著で,それもなんと全編書き下ろしである。

 著者の田川皓一先生は誰もがご存知の脳卒中学と神経心理学の権威である。医師・研究者としての全てのエネルギーをこの分野の知見の深化と発展のために捧げてこられた。脳卒中症例に関する臨床経験の豊富さにおいて,先生の右に出る人はおそらくいないのではなかろうか。

 脳卒中の症候学で最も厄介なのは認知・行動能力の異常,いわゆる神経心理学的症候である。単純で比較的わかりやすい症候もあるにはあるが,複数の認知的要因が重なり合い,わかりにくい臨床像を呈することのほうがむしろ普通と言っても良いくらいで,多くの医師から「わかりにくい」領域として敬遠される原因の一つにもなってきた。

 本書は,この「わかりにくい」神経心理学的症候群を「わかりやすく」解説することを目指されたもので,その目的は見事に達成されている。

 本書が,なぜわかりやすいかというと,著者が問題の範囲を「血管閉塞症候群(脳梗塞)」に絞っているからである。もともと神経心理学は脳梗塞の症候学として始まった。例えば,ブローカの発表した失語症候群(いわゆるブローカ失語)がたちまちの間に当時の臨床家に受け入れられたのは,その原因疾患が彼らがよく遭遇する脳卒中(左中大脳動脈梗塞)であり,その症候になじみがあったからであろう。

 神経心理症候群それ自体から勉強を始めると,敵が心理症候だけに,わかったようなわからないような,なんだか雲の中にいるような気持ちになってしまうが,病巣から勉強を始めると,敵は極めて具体的なものとなり,格段にわかりやすく,頭に残りやすい。膨大な自験症例から選び抜かれたMRI画像がふんだんに提示されており,一層理解を助けてくれる。

 本書のわかりやすさは文体にもある。全編,講演口調なのだ。田川先生の語り口は滑らかで,しかも自信に満ちている。思わず引き込まれてしまう。通常の教科書なら事実が羅列してあるだけだから,ついつい注意が散り,気が付いたら他のことを考えているのだが,本書は違う。集中して読み進むことができた。

 読んでいてうれしいことは他にもある。随所で,病巣との関係があいまいな症候や,定義のあいまいな症候群について,はっきりと,ここはよくわかっていないようだとか,私はそうは思わないなどと,実に率直にご自身の意見が述べられているのである。読者は,あ,この問題ははっきりしていないのだ,とか,あ,この問題はやっぱりおかしいのだ,などと大いに納得されるのではなかろうか。

 本書は,ぜひ読み通されることをお勧めする。読み通せるように実にうまく企んである。この企みに乗せられて,ずいずいと読み通せば,これ1冊で,脳卒中臨床で遭遇する多様な神経心理学的症候群の全体像が把握できるようになっている自分を発見するであろう。そういう素晴らしい本である。

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