一冊でMCIの全てがわかる,認知症に携わる人必携の書
書評者:山口 晴保(群馬大学大学院教授・リハビリテーション医学)
認知症の前段階としての新しい概念である軽度認知障害(mild cognitive impairment ; MCI)に関して,スクリーニングから診断・治療・予防介入まで,一冊で全てがわかる本はこれまでなかったので,本書は必携の書と言えます。まずはMCIの解説から始まり,MCIを検出する方法や必要な...
一冊でMCIの全てがわかる,認知症に携わる人必携の書
書評者:山口 晴保(群馬大学大学院教授・リハビリテーション医学)
認知症の前段階としての新しい概念である軽度認知障害(mild cognitive impairment ; MCI)に関して,スクリーニングから診断・治療・予防介入まで,一冊で全てがわかる本はこれまでなかったので,本書は必携の書と言えます。まずはMCIの解説から始まり,MCIを検出する方法や必要な認知テストが紹介され,診断方法が続き,MCI・認知症のリスクファクターが解説され,MCIへの治療介入だけでなく,高齢者の認知機能低下を目指した地域保健事業としてのさまざまな予防介入の実践例(ランダム化試験を含む)に至るまで,全て網羅されています。よって,MCIの概念整理と新しい情報の入手にうってつけです。
副題にある「効果的な認知症予防を目指して」は,まさに今の日本の社会的ニーズに合致した,タイムリーな出版です。この副題が示すように,「認知症になってからでは手遅れ! だからMCIで予防介入する」という基本スタンスが本書で貫かれています。
内容は,系列的かつ網羅的に細かく項目建てされていて,しかもそれぞれの項目が完結しているので,初めから全部を読み通そうとするだけでなく,辞書的に使うことができます。そして,MCIの背景の説明にあるように,MCIは認知症予備軍というだけでなく,広く老年症候群の1つであることが明確に示されています。MCIで歩行が遅いと認知症になりやすい,COPD(慢性閉塞性肺疾患)やCKD(慢性腎臓病)など高齢者特有の病態とMCIが関連することなど,MCIを広く老年学の立場から解説しています。
本書はMCIの最新知識を網羅しているので,これ一冊で,認知症の診療にも,地域での認知症予防事業にも,病診連携にも役立ちます。MCIの研究者には必携の書であるだけでなく,認知症の専門医,認知症診療に携わるかかりつけ医,看護師や保健師,理学療法士・作業療法士・言語聴覚士,臨床心理士,介護福祉士などに読んでいただきたいMCIのバイブルですが,特に,介護予防事業に取り組む市町村の保健師やリハビリテーション職,地域包括支援センターのスタッフ,通所リハビリテーション(デイケア)や通所介護(デイサービス)のスタッフなどには,ぜひとも読んで参考にしていただきたい本です。
本書から,鈴木隆雄元研究所長をはじめとする国立長寿医療研究センターの方々が,地域活動に真剣に取り組んできたことが読み取れ,改めて「すごいな!」と感じました。