胃の拡大内視鏡診断 第2版

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第2版では、H. pylori 感染胃炎の除菌の保険適用に伴い、除菌前後の胃粘膜、除菌後発生胃癌の粘膜像の詳細な拡大観察等の解説を新たに加えた。さらに、臨床(拡大)像と組織像との対比が厳密になされている症例を“演習形式”で提示。種々の問題を解き、解説を読み、さらに本文に立ち返ることで、著者の提唱する診断学のエッセンスへの理解がさらに深まるだろう。
八木 一芳 / 味岡 洋一
発行 2014年10月判型:B5頁:160
ISBN 978-4-260-02025-1
定価 11,000円 (本体10,000円+税)

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第2版 序

 『胃の拡大内視鏡診断』を刊行してから4年の月日が経ち,こうして第2版を刊行することができた.それは本書を愛読してくださった方々のおかげである.最初に深い感謝の気持ちを伝えたい.
 この4年間に胃に関しては3つの大きな変化を感じている.
 1つめは,2013年2月のHelicobacter pylori 診療の保険適用拡大である.この拡大は「H. pylori により発症する慢性胃炎は病的な状態である」ということが医学的のみならず社会的にも認められたことを意味している.筆者は1998年にRAC診断の概念を確立してから,「正常の胃」の内視鏡像とは「H. pylori 感染も炎症もなく,生まれながらの正常の胃」の内視鏡像であって,胃癌がなくとも「H. pylori 感染があり炎症を伴った胃」は慢性胃炎という病的な状態であり「正常胃粘膜の内視鏡像ではない」という考えを強調してきた.筆者の考えがようやく受け入れられたと思っている.
 2つめは,胃底腺型胃癌などH. pylori 非感染胃にも発生する胃癌が学会などで発表されるようになってきたことである.RAC診断を診断学として広めようと思った動機の1つに「H. pylori 非感染胃に発生する胃癌を解明したい」という思いがあった.基本的に胃の内視鏡観察時は胃癌を見つけることに全力が注がれる.症例がH. pylori 非感染症例であった場合,背景粘膜の観察から内視鏡医がその癌が非感染胃から発生した胃癌であることに気付くことは胃癌発生研究の進歩には不可欠と考えたのである.RAC診断が本当に力を発揮できる時代に入ってきたことを実感している.
 そして3つめは,除菌された後の胃に発見される胃癌が注目されてきたことである.内視鏡的に診断が難しい所見を呈することがまれでないと発表されている.本書ではその診断に役立つ特徴を記載した.
 胃癌の研究はさらにH. pylori との関わりの中で進んでいくと思われる.それは内視鏡的アプローチでも同様である.本書を読んで,癌のみならずH. pylori 非感染胃,炎症や萎縮を伴った胃粘膜,さらに除菌された後の胃粘膜の拡大像をしっかりマスターしていただきたい.
 拡大像と組織像の一対一対応を重視する筆者らの姿勢はさらに「NBI拡大像から組織像をイメージし,内視鏡診断に至る」診断学へと進化している.つまり,病理像と病理診断を尊重し,NBI拡大診断に活かそうというアプローチである.その姿勢は全国の多くの方々に共感していただいている.この第2版にもできる限りそれを吹き込んでみた.
 NBI拡大像を前に内視鏡医と病理医がともに組織像のイメージを共有しながら討論できるというのが筆者らの夢である.この第2版がその夢を実現する推進力になることを祈っている.

 2014年7月 梅雨の合間の曇り空の新潟にて
 八木一芳
 味岡洋一

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序章 正常胃粘膜とは? 慢性胃炎とは?
 1.H. pylori 発見以前
 2.H. pylori 発見後
 3.RAC誕生!
 4.RAC誕生以後
 5.RACの拡大像を基本に発展した,慢性胃炎拡大内視鏡分類(A-B分類)

第1章 正常胃粘膜の通常および拡大内視鏡像
 1.H. pylori 非感染症例の幽門腺,胃底腺,噴門腺の分布
 2.正常前庭部内視鏡像
 3.正常胃体部内視鏡像

第2章 慢性胃炎の拡大内視鏡像
 1.胃炎の拡大分類(A-B分類)
 2.A-B分類の詳細
  A.胃体部の拡大像
  B.前庭部の拡大像
 3.除菌成功による拡大内視鏡像の変化
  A.除菌成功による胃粘膜拡大像
  B.萎縮粘膜での胃底腺の再生を示唆する拡大像
 4.理解度チェックテスト

第3章 分化型早期胃癌の拡大内視鏡像
 1.分化型胃癌のNBI拡大パターン分類
 2.Mesh pattern
 3.Loop pattern
  A.Loop patternに見られる粘膜模様
  B.Loop patternの血管像
  C.Loop patternにおけるwhite zone所見
  D.Loop patternにおけるwhite zoneの複合所見
 4.中分化管状腺癌
  A.拡大内視鏡で癌と容易に診断できるtub 2癌
  B.拡大内視鏡で癌の認識が困難なtub2癌
 5.胃底腺型胃癌
  A.胃底腺型胃癌の拡大像を読むための基本知識
  B.体上部大彎から発生した胃底腺型胃癌
  C.穹窿部から発生した胃底腺型胃癌
  D.胃底腺を置換して進展する未分化型胃癌
 6.除菌後発見胃癌
  A.除菌後発見胃癌の特徴
  B.除菌後発見胃癌のNBI拡大像
 7.理解度チェックテスト

第4章 未分化型早期胃癌の拡大内視鏡像
 1.未分化型胃癌には,表層を非癌上皮が覆うことが多い
 2.未分化型胃癌に出現する血管像
  A.Corkscrew pattern
  B.Wavy micro-vessels
  C.Raimon(雷紋) vessels
  D.血管像と組織像との相関
 3.未分化型胃癌におけるwhite zoneの変化
 4.未分化型胃癌の粘膜内進展範囲診断は,NBI併用拡大観察で可能か?
  A.検討症例とその方法
  B.検討結果-癌の粘膜内存在様式別の正診率
 5.理解度チェックテスト

第5章 NBI併用拡大観察時の胃癌診断のフローチャート
 1.なぜフローチャートを作成したか
 2.フローチャートの解説
  A.フローチャート(1)-mesh pattern
  B.フローチャート(2)-wavy micro-vessels
  C.フローチャート(3)-loop pattern(WZは不鮮明化)
  D.フローチャート(4)-loop pattern
  E.フローチャート(5)-wavy micro-vessels
  F.フローチャート(6)-loop pattern(絨毛状)
  G.フローチャート(7)-loop pattern(顆粒状・乳頭状)
  H.フローチャート(8)-loop pattern(萎縮粘膜様)
  I.フローチャート(9)-loop pattern(脳回状)

第6章 演習問題

文献
索引


ちょっと一息
 1 RAC誕生秘話(前編)
 2 RAC誕生秘話(後編)
 3 びらんと慢性胃炎
 4 A-B分類はなぜ生まれたか?(前編)
 5 A-B分類はなぜ生まれたか?(後編)
 6 癌に見られる網目模様血管,胃炎に見られる網目模様血管

拡大豆知識
 1 腺管の解剖学的構造と各部位の名前
 2 White zoneとは?
 3 胃粘膜微小血管構築
 4 Light blue crest(LBC)とは?
 5 萎縮粘膜の拡大像に観察される溝状構造は腺開口部か?
 6 分化型胃癌に見られる異常な微小血管像
 7 White zoneから見た粘膜模様と酢酸撒布から見た粘膜模様
 8 White zoneはなぜ不鮮明になったりするのか?(前編)
 9 White zoneはなぜ不鮮明になったりするのか?(後編)
 10 胃炎の絨毛様構造は癌に見える?-demarcation lineの重要性

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診断学のエッセンスへの理解がさらに深まる一冊
書評者: 市原 真 (JA北海道厚生連札幌厚生病院医長・病理診断科)
 “臨床画像から病理組織像が想像できるような読影をしたい”

 私が初めて八木一芳先生のご講演を拝聴した際,八木先生が発せられた印象的なフレーズだ。病理診断医である私は,“分化型と未分化型を分けるということかな。tub2は大変だろうな”などと,のんびり構えていた。しかし,すぐに「好奇心の暴風」に巻き込まれた。

 今でも鮮烈に覚えている。粘膜の中層を這う癌,乳頭顆粒状を呈する癌,胃型粘液形質,分化度混在。それも読むのか……それも読んでしまうのか。八木先生が想像する組織像の詳細さに,私は愕然とした。

 八木先生はレーザーポインタでスクリーンに腺管の形を書き始めた。

 “本当は構造があるけれど,腺管が密で陰窩が浅いから表面構造は不明瞭化しているのだと思うのです!”

 ポインタの先が踊った。私は引き込まれた。そして,解説の病理画像を見てまたうなった。全く八木先生のイメージ通り,さらには先生の読影によって私の頭の中に浮かんだ腺管のイメージ通り,腺密度の高い,丈の低いtub1であった。

 また,別の病変の読影時に八木先生はこうおっしゃった。

 “横這いと言えばtub2だが,tub1でも横這いのようなスタイルはあり得るのではないか。病変の縁では非癌の腺窩上皮が薄皮一枚かぶっているのではないかと思うのです!”

 その瞬間,ぞわぞわと鳥肌が立った。臨床医,さらには病理医もあまり気にしていない「辺縁などで表層を非癌上皮に覆われるタイプのtub1」。果たして病理像では,表層に非癌と思しき腺窩上皮が存在した。驚愕した。八木先生は静かに,力強く問うた。

 “病理医の先生,この表層の一枚は,癌ですか,非癌ですか。それが知りたいのです!”会場には複数の病理医がいたが,遅れて入ってきたために会場の隅にいた男性がマイクを持った。彼はよく通る声でこう言った。

 “大変難しい”

 私もそう思った。これは結論が出ない問題であろう。ところが,彼は付け加えた。

 “だから,Ki-67を見てみるといい。非癌と癌とでは,増殖帯の分布がある程度異なるはずだ”

 私は興奮した。本当だ。全くその通りだ。振り返ってみると,その声の主は味岡洋一先生であった。

 本書は八木・味岡両先生による「拡大内視鏡学」の白眉であり,「臨床・病理対比」を行う人間にとって憧れの書である。初版の発刊直後,私はすぐに購入した。その後,両先生がご出席される新潟拡大内視鏡研究会,さらには早期胃癌研究会で「tub2癌」「胃底腺型胃癌」「除菌後発見胃癌」などが相次いでトピックスとなったが,第2版ではこれらを新たに収載している。初版から比べ情報量が数倍に跳ね上がっている。「ちょっと一息」「拡大豆知識」などのコラムは八木先生の拡大内視鏡診断における「気付きと戦いの歴史」が感じられ,読み物としてのクオリティも非常に高い。そして,帯には“脳に汗をかくほど考えることにより,診断力がさらに増強されるだろう”とある。まさに,八木先生と味岡先生の声が聞こえてくる本である。
上部消化管内視鏡に携わる医師の座右の書となる一冊
書評者: 濱本 英剛 (仙台厚生病院消化器センター・消化器内科)
 研究会や書籍で見る美麗なNBI拡大内視鏡画像に魅了され,独学でNBI拡大内視鏡診断を始めたころ,“胃炎”と“胃癌”の違いを言葉にできなかった。何を見ているのかもわからず悶々としていた2010年のある日,著者らの新潟拡大内視鏡研究会に参加した。病理組織と拡大内視鏡所見の詳細な対比と,なぜそのような所見になるのか意味を考える,真摯な熱意溢れるディスカッションが繰り広げられ,感服し,早速『胃の拡大内視鏡診断』の初版を購入し何度何度も読み返した。それから4年が経ち,このたび新たな知見と症例を大幅に追加した第2版が出版され,その書評を書かせていただくこととなった。望外の喜びである。

 本書は「序章 正常胃粘膜とは? 慢性胃炎とは?」で“正常胃”を“炎症の存在しないH. pylori 非感染例”とし,RAC(regular arrangement of collecting venules)の概念に触れるところから始まる。「第1章 正常胃粘膜の通常および拡大内視鏡像」で正常前庭部・体部の拡大内視鏡像が解説され,「第2章 慢性胃炎の拡大内視鏡像」で病的な状態であるH. pylori 起因性慢性胃炎における萎縮の過程を描いたA-B分類と,H. pylori 除菌後の胃底腺の再生過程が記される。ここまでで正常胃と慢性胃炎の拡大所見が整然と理解できる。そして「第3章 分化型早期胃癌の拡大内視鏡像」「第4章 未分化型早期胃癌の拡大内視鏡像」「第5章 NBI併用拡大観察時の胃癌診断のフローチャート」で胃癌の典型所見と,診断の型を身につけることができる。また今回の改訂で第3章には『粘膜中層進展の中分化管状腺癌』『胃底腺型胃癌』『除菌後発見胃癌』が多くの症例画像とともに追記されており,目を引くことだろう。最後に「第6章 演習問題」に取り組み,解説も読み込むことで著者らのNBI拡大診断過程を追体験できる。随所の理解度チェックテストや,『ちょっと一息』『拡大豆知識』に知的好奇心を擽られるうちに,一気に読み終えていることだろう。

 本書を通し,刮目に値する知見は“腺窩上皮は,深部に存在する固有腺によってその立体構造を変化させる(p 33)。”という考え方だろう。固有腺の状態に腺窩上皮は依存していると考えられ,A-B分類や胃癌,MALTリンパ腫の所見の解釈にも有用である。さらには初見の病変に遭遇しても,病変直下の固有腺の状態をNBI拡大観察で推定でき,鑑別診断の一助となることだろう。

 このように本書は正常胃粘膜と,H. pylori 起因性慢性胃炎,そして胃癌の拡大内視鏡所見・診断を一冊で習得でき,上部消化管内視鏡に携わる医師の座右の書になると確信する。初学者からエキスパートまで,再読するたびに新たな発見があり,広くお薦めできる一冊である。

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