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ナースマネジャーのための問題解決術

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師長・主任の仕事は、現場で生じる様々な問題に対し、ロジカルに考え、データに基づいて判断し、対処していくこと。本書では、問題解決術のツールや考え方を、現場の師長・主任のために7つのステップにまとめた。ロジックツリーやMECEを活用した論理的思考法からデータ分析まで、豊富な図解で誰もが実践に活かせる問題解決術を身につけることができる本。
小林 美亜 / 鐘江 康一郎
発行 2014年01月判型:A5頁:164
ISBN 978-4-260-01921-7
定価 2,640円 (本体2,400円+税)

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introduction
問題解決のピットフォール(落とし穴)


 看護に手順があるのと同じように、問題解決にも一定の手順があります。その手順を踏まないと、ピットフォール(落とし穴)に陥ってしまいます。ここでは看護現場での問題解決において陥りやすいピットフォールをあげてみました。「こんなこと、あるある」という心当たりのある方は、きっと本書が力になるはずです。

ピットフォール1 そもそも、それは本当に「問題」なのか
 「現代経営学の父」と呼ばれている経営学者ピーター・ドラッカーは「経営における最も重大な過ちは、間違った答えを出すことではなく、間違った問いに答えることだ」と言っています。
 例えば「いま何が問題ですか?」と聞かれた外来看護師長が、「外来の待ち時間が長いこと」と答えたとします。これは「問題」だと言えるでしょうか?
 いいえ。残念ながら「外来の待ち時間が長い」というだけでは、(たとえそれが事実であったとしても)、それを「問題」だと言うことはできません。
 なぜでしょうか? それは「待ち時間が長い」ということ自体はプラスにもマイナスにも評価しうる中立的な「事象」に過ぎないからです。その「事象」を解消せずに放置した場合にどのような不具合が生じるのかを明らかにすることではじめて、それを「問題」として捉えることができます。
 例えば待ち時間の長さを放置することで、

「患者満足度が低下する」
→「患者数が減少する」
→「収入が減少する」

 という具合に、組織全体への悪影響が発生するということが説明できれば、それは改善に取り組むべき「問題」であると言えます。しかし患者さんが「どれだけ待ってでも診てもらいたい」「人気だから仕方がない」と思ってくれるような人気医師であったり、「待ち時間が苦にならない」と言ったりしているようであれば、「待ち時間が長いこと」は解決すべき「問題」ではないと考えられます。
 もちろん、現実には「外来の待ち時間が長いこと」は多くの病院にとって「問題」であるケースがほとんどでしょう。しかし、そうした先入観で判断するのではなく、それが本当に解決すべき「問題」なのか、中立的な「事象」に過ぎないのかを常に問い直す手順を忘れてはいけないのです。

ピットフォール2 「目的」と「手段」を取り違えてしまう
 「目的」と「手段」の取り違えも、よくあるピットフォールと言えます。
 引き続き、外来待ち時間の例を用いて説明します。さまざまな分析の結果、外来の待ち時間の長さが病院全体に与えているマイナスの影響が大きく、これは中立的な「事象」ではなく、解決すべき「問題」だと定義されたとします。
 では、「外来の待ち時間を短くすること」が、このプロジェクトの「目的」となるのでしょうか? いいえ、それは違います。「外来の待ち時間を短くすること」は、「外来患者の満足度を高める」「外来患者数を増やす」、ひいては「外来収入を増加させる」という「目的」を達成するための「手段」のひとつに過ぎません。外来患者の満足度を高める方法は、待ち時間を短くすること以外にもたくさんあるはずです。
 この「目的」と「手段」の取り違えは、非常に起こりやすいピットフォールです。待ち時間を短くすることを目的と捉えてしまうことで、「待ち時間を短くすること」以外の解決策、例えば「待ち時間を有効に利用してもらう」といったアイデアが出てこなくなってしまいます。
 問題解決に取り組みはじめた当初は「目的」と「手段」を明確に区別できていても、時間が経過するうちに、もともとの目的を見失ってしまうことはよくあります。患者満足度を高めることが目的だったのに、待ち時間を短くすることが目的になってしまう(これを「手段の目的化」と言います)。あなたの病院や部署で、そんなことが起きていませんか?
 「何のために、この活動をしているのか?」を常に意識しておかないと、まったく関係のない問題を解かなければならない状況に陥ります。問題解決に取り組む中で、常にもともとの「目的」に立ち返るようにしておくことが必要です。

ピットフォール3 組織全体への影響を考えていない
 組織全体の視点を忘れ、一部の部署や個人の視点で問題解決を行ってしまうのも、陥りやすいピットフォールの1つです。
 このピットフォールには、2つのパターンがあります。1つは、問題解決を推進する際に、関連する部署や職種のことを考えずに、独断で進めてしまうというパターン。これは「自分たちの問題には他部署は関係ない」という思い込みが原因です。もう1つは、プラスの効果ばかりを考えるあまりに、マイナスの影響を見逃してしまうパターンです。これは他部署の業務を十分に理解していない場合に陥りやすいピットフォールです。
 問題解決とは、人の行動やプロセスの一部を変えることです。それは、業務の流れを変えることかもしれませんし、使用する道具を変えることかもしれません。いずれにしても、これまでのやり方に修正を加える以上、その影響を受ける「何か」が必ずあります。したがって、解決策を考えるときや実行するときは、それが影響を及ぼす範囲をできる限り広く想像し、手を打っておくことが求められます。
 例えば安全性を高めるための対策として、取り違えを起こしやすい薬剤Aの使用を停止したとします。ところが、オーダリングシステムの薬剤情報が更新されなかったために、薬剤Aが使用停止になったことを知らなかった医師がオーダーしてしまったらどうなるでしょう? また、患者さんに配布する資料にも、薬剤Aの写真が掲載されたままだったら? せっかく問題解決に取り組んでも、このように、思いもよらないところに混乱をもたらしてしまうケースがあります。
 実は、専門職である医療者の多くは、この「組織全体への影響を考えること」があまり得意ではありません。専門職によって構成された病院組織では通常、自分の業務範囲外のことを気にかける必要がないからです。しかし、自分の所属する部署の問題解決は、必ず他の部署に影響を及ぼすということを意識していないと、思わぬピットフォールに陥るのです。

ピットフォール4 解決策に「仮説」がない
 「仮説思考」を忘れてしまうことも、よく見られるピットフォールのひとつです。
 看護診断を実施する際には、患者観察などから得られた情報をもとに仮説を立て、専門家としてクリティカルシンキングを行い、そのうえで自分の仮説が正しいかどうかを検証するという手順を踏みます。自らの知識と経験に基づく仮説があってはじめて、患者さんに適切なケアを提供することができるのです。
 看護管理における問題解決でも、この仮説思考が基本です。仮説思考の正しい手順は、問題を認識したら解決策につながる仮説を立て、その仮説が妥当なものかを確認するためにデータを集め、分析するというものです。
 しかし、問題解決の現場ではこの順序を無視し、「とりあえずデータを集めてみよう」「手元にデータがあるから、とりあえず分析でもしてみよう」というアプローチがしばしば見られます。これでは時間と労力のムダです。データをもとに作成された資料は一見キレイなグラフや表にまとめられています。しかし、仮説もなく単にデータをグラフ化しただけの資料からは、明確な解決策は得られません。
 電子カルテが導入されるようになり、データを比較的容易に抽出することができるようになった病院では、こうしたピットフォールに陥りやすいので注意が必要です。「分析の前に仮説あり」が原則です。

ピットフォール5 十分な分析を行わず、思いついた解決策に着手してしまう
 問題解決では必ず複数の解決策を比較して、最適の解決策を選ぶ必要がありますが、現場ではしばしば、最初に思いついた解決策に取り組んでしまうことがあります。
 例えば「業務が就業時間内に終わらないので(問題)、スタッフをもっと増やすべきだ(解決策)」と、問題提起と解決策を同時に口にする人がいます。もちろん、「業務が終業時間に終わらない」という問題に対し、「人を増やす」という解決策が正しい可能性もあるでしょう。しかし、他の可能性を検討する必要はないでしょうか?
 就業時間内に業務が終わらない原因は、人手不足以外にもさまざまな理由が考えられます。もしかしたら「必要のない業務」に時間を取られている可能性があるかもしれませんし、先輩や上司への配慮といった精神的なものかもしれません。問題解決にあたる際には、あらゆる可能性を吟味する必要があります。
 また、組織における問題解決では、スタッフ一人ひとりが行動を変えることによって最終的なゴール(課題達成)に向かうことが必要になります。つまり、行動を変える必要のあるスタッフ全員が、その解決策に納得する必要があるのです。そのためには、たまたま思いついた解決案ではなく、「あらゆる代替案を検討した結果、これが最適のプランです。なぜならば……(分析データを示す)」と説明することができれば、実際に行動を変えるメンバーの納得を得る可能性は高まるでしょう。

ピットフォール6 データの読み違え
 データの読み違えは問題解決の方向性を大きく誤らせるピットフォールとなります。例えば「当院の看護師の平均在職年数は、5年前は9.8年だったが、今年10.5年に延びている。したがって、当院の看護師の離職率は改善されている」というデータの読み解き方は正しいといえるでしょうか? もし正しくないとすれば、どこが間違っているでしょうか?
 答えは「必ずしも正しいとは言えない」です。順を追ってみてみましょう。
 平均在職年数は、「(在籍している人の勤続年数の合計値)÷(在籍している人数)」という式で算出されます。仮に、この病院に20年目の看護師Aさんと、2年目の看護師Bさんの合計2人しかいないとすると、平均在職年数は、

 (20年+2年)÷2人=11年

 となります。そこで今年、2年目のBさんが辞めてしまったとします。すると、翌年の平均在職年数は21年目のAさんが1人だけですので、21年となります。つまり、若い世代が離職すると、平均在職年数は長くなるのです。したがって、「平均在職年数が延びた」→「離職率は改善している」という解釈は間違っている可能性があるのです。
 在院日数、患者満足度、離職率など、統計的なデータを読み解くスキルは、問題解決において欠かすことはできません。問題の原因を特定したり、複数の解決案の良し悪しを客観的に評価したりするためには、データを正しく分析し、その意味を正確に理解する必要があります。このスキルは問題解決の成否を分けると言っても過言ではないくらい重要なものです。

ピットフォール7 言った・言わない問題
 「言った・言わない問題」については、みなさんの多くが心当たりのあるところだと思います。例えば、

「看護師の配置人数を増やしてくれるという約束ではなかったでしょうか?」
「いいえ、そう言った覚えはありません」

 という押し問答が始まってしまっては、せっかく綿密なデータと分析に基づいた問題解決プロジェクトを立ち上げても、実行に移すことができません。
 こうした「言った・言わない問題」は、プロジェクトがスタートする段階で問題点を明確に定義することや、解決策を考えるうえでの可変領域(できること)と不変領域(できないこと)を文書化し共有しておくことで回避できます。これはチームで問題解決に取り組む際の大前提とも言えるでしょう。本書ではこうした「言った・言わない」問題を回避する手順とツールを紹介しています。

ピットフォール8 解決したはずの問題がぶり返す
 一度解決したはずの問題が時間とともに再発してしまうことも、よくあるピットフォールのひとつです。
 期間限定でチームを組んで問題解決にあたる「プロジェクト」は、医療にたとえるならば「手術」です。無事に手術を終え、退院した患者さんに定期的なフォローアップが必要であるのと同じように、一度解決した問題にも継続的なフォローアップが必要です。目標は、プロジェクトチームがサポートをしなくても、自立して勝手にうまくいくようになることです。いくらうまくいっているからといって、いつまでもプロジェクトチームが面倒を見続けなければならないプロジェクトは成功とは言えません。「手離れの良さ」も、問題解決における重要な評価項目なのです。

 いかがでしたでしょうか? ここにあげたピットフォールのうち、ひとつでも心当たりがあるようなら、あなたのこれまでの問題解決は、十分に効率的なものとなっていなかった可能性があります。
 本書の第2章の7つのステップと、そこに組み込まれた手順をひとつずつこなしていくことによって、これらのピットフォールは回避できるようになります。ぜひ本書で学んでいただくことによって、より効率的で無駄のない問題解決力を身につけてください。

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introduction 問題解決のピットフォール
 ピットフォール1 そもそも、それは本当に「問題」なのか
 ピットフォール2 「目的」と「手段」を取り違えてしまう
 ピットフォール3 組織全体への影響を考えていない
 ピットフォール4 解決策に「仮説」がない
 ピットフォール5 十分な分析を行わず、思いついた解決策に着手してしまう
 ピットフォール6 データの読み違え
 ピットフォール7 言った・言わない問題
 ピットフォール8 解決したはずの問題がぶり返す

第1章 なぜ看護管理者に問題解決術が必要なのか
 「問題とは何か」を理解する
   「問題とは何か」を知らなければ問題は解決できない
   問題とは“あるべき姿”と“現状”のギャップ
   問題と事象は異なる
   問題の3つのパターン
 問題発見力を高める
   問題を発見するために
   “現状”を正しく、モレなく把握する
   “あるべき姿”を適切に描く
   “現状”と“あるべき姿”の共通認識をつくる
 問題解決術を極める
   看護管理者に求められるリーダーとマネジャーの役割
   問題解決に求められる思考
 組織的に問題解決を図る
   病棟・部署における目標の設定と推進
   個人の目標と組織の目標をつなげる目標管理
   column SWOT分析で「現状」を正しく把握する

第2章 問題解決の7ステップ
 ステップ1 問題を見出す(手順1~4)
   問題解決のスタートは問題を発見すること
   手順1 3つのルートで問題を見つけ出す
   手順2 解決すべき問題を絞り込む
   手順3 問題を文章に落としこむ
   手順4 問題を共有する
 ステップ2 現状を把握する(手順5~6)
   網羅的かつ正確に把握する:合言葉は、「コレで全部か?」
   手順5 問題を構成する要素を「因数分解」する
   手順6 分解した要素ごとにデータを集め、分析する(正確性)
   column データの重要性
 ステップ3 原因を明らかにし、課題を設定する(手順7~8)
   「なぜ」を追及するための2つのキーワード
   手順7 仮説を立て、問題の原因となる要素を洗い出す
   手順8 データを集め、分析する
 ステップ4 解決策を立案する(手順9~10)
   解決策を立案するための2つの作業
   手順9 解決策のアイデアを抽出する
   手順10 複数の解決策を比較し、実行すべき案を選び出す
 ステップ5 チームで実行する(手順11~13)
   100点×0%=0点
   同じ向きにオールを漕ぐ
   手順11 「プロジェクト・チャーター」を作成する
   手順12 ワークプランを作成する
   手順13 計画を実行に移す
 ステップ6 結果を評価し、仕組み化する(手順14~15)
   問題解決のプロセスは円を描く
   手順14 結果を評価する
   手順15 仕組み化する
 ステップ7 成果を広め、共有する(手順16~17)
   全国で共有されても、院内で共有されない不思議
   手順16 プロジェクトの成果を共有する
   手順17 成功事例を他の部門、他の病棟などに横展開する

第3章 問題解決のためのツール
 7ステップとよく活用されるツール
 ツール1 MECE(ミッシー)
 ツール2 ロジックツリー
 ツール3 マトリックス
 ツール4 パレート図
 ツール5 親和図
 ツール6 特性要因図
 ツール7 表
 ツール8 コンセプト図
 ツール9 プロセスマップ
 ツール10 ガントチャート
 ツール11 ECRS
 ツール12 PDCAサイクル

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教員も活用できる問題解決への取り組みを指南 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 上間 ゆき子 (慈恵看護専門学校副校長)
 私は,臨床実践を経たのち,看護専門学校の教育に携わり,現在管理の役割を担う立場にある。臨床であろうと教育の場であろうと問題はさまざまな形で起きるのであり,いかに問題をとらえ,適切な判断をして対応するかが重要であると日々実感しているところである。

 さて,まず本書のページを開くと,問題解決の8つのピットフォールが解説されている。そもそも問題とは何であるかを正しく定義する重要性は,多くの人が認識しているところであろう。問題解決にかかわる管理者の誰もが,問題の認識から情報収集,分析,判断,実施,評価が適切になされているか,自己の姿勢や認識を顧みる機会となるのでとても参考になる。

 第1章では「問題とは何かを知らなければ問題は解決できない」とある。管理者は,担当する部門(部署)のあるべき姿(理念や目的)を理解していなければ,問題は認識できず課題も見出せないのである。その“あるべき姿”を構想するためのツールとして,Purpose(目的軸),Position(立場軸),Perspective(空間軸),Period(時間軸)の4Pが紹介されている。何のための問題解決か,誰にとっての問題か,問題の範囲,どのタイミングの事象を問題ととらえるのかが示されている。たとえば教員であれば「ある事象/問題が解決されなければ学生にとってどのような影響があるか」を,4Pの視点から多角的に検討することができるであろう。

 第2章では,問題解決の7つのステップと17の手順が述べられており,問題解決にあたって,追加すべき情報や分析が不十分なことについても気づかせてくれるように書かれている。著者らは,直面する問題の要因を明確化するのにどれくらい背景や要素を考慮すべきか,また,得られたデータの解釈と問題要因の絞り込み方についても述べており,その重要度や緊急度の判断についての考え方も大変参考になる。加えて管理者は,問題共有の方法はもちろんのこと,解決策の実施にあたり誰が行うことが望ましいかといった視点での判断も重要であると指摘しているので,理解しやすい。

 第3章では,第2章の問題解決ステップで活用できるツールについて紹介され,どのツールを用いればより効果的に問題解決が図れるか図表を用いて具体的に解説されている。

 本書は,管理者が直面する問題に対応するだけでなく,潜在的な問題への対策を講じたり,加えて組織にとってさらなる上を目指すための改善策について取り組むことがいかに重要であるかを再認識させてくれる内容になっている。そして解決の手立ても詳しく指南されている。臨床の管理者に留まらず,学校に身を置く教員もすぐにでも活用できる心強い味方になると考える。ぜひお読みになることをお勧めする。

(『看護教育』2014年7月号掲載)
よりよい現場づくりに燃える若手医師にも薦めたい
書評者: 鈴木 裕介 (高知医療再生機構企画戦略担当特任医師/仁生会細木病院内科・臨床研修担当)
 研修医時代に,超デキル外科のレジデントの先生から「看護師さん向けの本に名著あり」と教えられた。本書はまさにその言葉に該当する一冊だ。

 本書は,ナースマネジャーのみならず,次のような人たちも活用できるのではないか。

(1)グッドプラクティスを実践している自負はあるが,それをどう伝え,広めればよいか分からない若手ドクター
(2)グループワークを上手にまとめられず困っている医療系学生
(3)院内投書箱への対応や患者満足度調査などに携わっているが,データをうまく活用できている自信が持てない医療現場の各担当者
(4)臨床研修も頑張ったし,医療スキルにはそこそこ自信があるが,何だか周囲との関係性がうまくいっていないドクター
(5)“会議のための会議”にうんざりしている全人類

 さて,あらためてなぜ僕ら若手医師にマネジメントが必要なのかを考えてみたい。

 そもそも,ほとんどの人が「マネジメントなんて40代の仕事じゃない?」と思っていることが日本の医療機関のマズイところなのではないか。

 臨床現場で僕ら若手医師を悩ませるのは,診断などの医学的なことよりも,組織や人間関係も含めた社会的な問題の方が多いのではないか。よりよい環境をつくるために,現場における「マネジメント」の守備範囲は,想像よりもずっと広い。

 以前,尊敬する先生から「マネジメントはtrainable(訓練可能)なスキルである」と教わった。であるならば,僕ら若手医師がそのノウハウをできるだけ早く学ぶべきであろう。

 多くの場面でプレイング・マネジャーとしての働きを求められる医師にとって,本書はまぎれもなく至高の一冊だ。現場での「あるある」が詰まっているからこそ,「これなら僕らでもやれるかも!」という気持ちにさせてくれる。

 マネジャーになるような優秀な人たちは,当然仕事がデキる。日々起こる問題に対して何をすればよいのかも大まかにはわかっているだろう。しかし,マネジャーだけが解決策を知っていても,多分チームはうまくいかない。なぜならば,マネジャーにだけ見えている解決策を,誰にでもわかる言葉に落とし込んで共有しなければ,他のメンバーにはなぜその手段を取るのかが伝わらないからだ。

 忙しい医療関係者は「言語化」や「共有」の過程をサボってしまいがちだ。そこからミスコミュニケーションが積み重なり,結局チームワークが発揮できず,もっと面倒なことになってしまう。本書には,僕らが苦手とする「言語化」「共有」をはじめ,問題解決のプロセスを着実に進めていくためのノウハウが詰まっている。

 専門職ばかりで放っておいたら仲が悪くなりがちな「病院」という組織において,僕らのような小回りの利く若手医師が本書に書かれているメソッドを習得すれば,もっと強いチームがつくれるのではないか——そのような妄想を抱かせてくれる良書である。興味を持った方は読書用,保存用,歓送迎会などのビンゴ大会の景品用と最低3冊は購入することをお薦めする。
“こうするためにどうすればいいか”が見える本
書評者: 坂本 すが (公益社団法人日本看護協会会長)
◆仮説思考をトレーニングする

 この本を読み,筆者が「問題解決」に取り組んだエピソードとして,院内へのクリティカルパス(以下,パス)導入時のことが思い出された。今日,パスはチームで医療を行っていく上で,なくてはならない道具として活用されているが,導入に当たっては,看護部内や他部署とも多くのコンフリクトがあった。

 例えば,パスの導入によって,「考えない看護師をつくるのではないか」という危惧が呈された。何かに取り組む際に,こういう恐れがあるのではないかと考えること,これは一つの仮説思考である。

 本書冒頭の「問題解決のピットフォール」で指摘しているように,忙しい現場では仮説思考はさておいて,「とりあえずやってみよう」といきなり取り組みを始めがちだ。しかし,物事を走らせながらでもよいので,仮説を立てるという手順を踏むことが,実は問題解決の近道になる。

 さて,結果として「考えない看護師」にはならなかった。パスにより在院日数が短縮し一定のケアが標準化されたことで,看護師たちは計画とはズレる点について個別性を「考え」てケアを行うようになった。さらにパスは病院内のチーム医療推進にとどまらず,地域医療連携のツールへと発展していった。

 このように,仮説が定量的または定性的な指標を用いて評価されていくプロセスを通じて,効果や問題点が明らかになり,次に何をすべきかが見えてくる。問題があるから取り組みをやめるのではなく,改善しながら次のステップへ進むサイクルを動かし,発展させていく。これこそが看護管理者に求められる問題解決「術」ではないだろうか。

◆物の見方,考え方の手順が整理される

 管理職になったが,日々起こるさまざまな問題にどう対応すればいいのか悩んでいる,自分は論理的思考が弱いと感じている,という方は,まず本書を一読してほしい。

 イントロダクションの「問題解決のピットフォール」で存分に自己の弱点を知ったあと,第1章の「なぜ看護管理者に問題解決術が必要なのか」でそもそも問題とは何かを理解する。第2章では,実践的な「問題解決の7ステップ」で事例をイメージしながら習得できるだろう。第3章の「問題解決のためのツール」では,MECE(ミッシー),ロジックツリーなどの12のツールが簡潔に分かりやすく紹介され,それぞれのツールの概要をつかむことができる。

 これを読めば,物の見方,考え方の手順が整理され,「できる・できない」ではなく,前に進めるためにはどうしたらいいかが見えてくる。

 特に注目したいのは「ゼロベース思考」。行き詰まったときは「自分は何のためにこの仕事を行うのか」を自分にあらためて問いかけること。私も日頃心掛け,大事にしていることだ。患者のため,スタッフの働きやすさのため,という明確な目的が見えてくれば,仕事に対する見方や姿勢も違ってくる。

◆管理職初心者の「知」のベース

 これからの看護管理者には,目の前の患者への一対一のケアだけでなく,病院組織全体,ひいては地域全体としてケアの質が向上しているかに視点を置くことが求められる。その役割を果たすためには,今何が起こっているか事実を把握し,異変があれば見抜く力が必要である。

 本書はこの「見抜く力」を養うための「知(知識)」のベースになる。まず一読して「知」を身に付け,これから問題に直面したときには,本書を活用しながら,自分らしい「術」も加え解決を図っていただきたい。

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