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内科診療 ストロング・エビデンス

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週刊医学界新聞 の好評連載 「レジデントのためのEvidence Based Clinical Practice」 をグレードアップして書籍化。新進気鋭の米国内科専門医が、コモン・ディジーズの標準治療と、その根拠を支える重要な臨床研究を紹介する。「すべての医療行為はエビデンスに基づいた標準治療を理解していることから始まる」(本書序文より)。米国流内科診療アプローチの真髄がここに!
谷口 俊文
発行 2014年01月判型:A5頁:340
ISBN 978-4-260-01779-4
定価 3,850円 (本体3,500円+税)

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 本書を出版するきっかけとなったのは週刊医学界新聞の連載「レジデントのためのEvidence Based Clinical Practice」をまとめて本にするプロジェクトからであった。紙面の都合で削らなければならなかった内容を追加,新たなエビデンスが出た項目を追加,筆者が日本で一般内科医として働いている中で感じている問題点を新たな項目として執筆など,様々な点において本書はグレードアップしている。
 この本は米国で内科のトレーニングを終えた筆者が,米国指導医による回診(Attending Round)で議論される内容を参考に執筆している。米国における臨床の実践はすべてエビデンスに基づいた標準治療がベースとなっている。標準治療を理解していなければ,指導医としても研修医としても失格なのである。
 実際の患者は教科書通りではなかなか治療が難しく,標準治療をそのまま適応できないことも多い。標準治療をあえて変更したりする必要性も出てくるだろう。その際は指導医が,なぜ標準治療と違うことをしなければならないのか教えるのである。そこにディスカッションが生まれる。もちろん標準治療が適応される患者はそのまま治療しなければならない。すべての医療行為はエビデンスに基づいた標準治療を理解していることから始まるのである。
 こうした標準治療の基となるエビデンスを本書は取り上げている。今までのEBMの本と決定的に違うのは,臨床的疑問の定式化(PICO)の実践に焦点を当てていないことである。また他の内科診療の本と比べると,「こうした症状・疾患のときにはどうする」ということよりも,各アプローチや治療に対してその医療行為をサポートするエビデンスをなるべく紹介している。エビデンスの基となる論文を探したいときには本文をみながらPubMedにて検索できるように,PMIDを文中に入れた。
 さて,本書のもうひとつの狙いは日本発のエビデンスの創出に興味をもってもらうことである。日本でしか使用されていない診断基準は妥当性を評価できていないだろうし,評価してもグローバルに発信できない。そのため,診断基準・検査などなるべくグローバルなものを取り入れた。日々の診療でこうしたデータが集まれば後ろ向きの観察研究ができるであろう。またエビデンスが乏しく判断に困る点はその旨を書いている。逆に言うとそのような点のエビデンスを作り出せるようなきっかけになればよいのではないかと考えている。
 本書を手に取り,何を思われるかはわからない。新しい発見に心を躍らせる人もいれば,今までの臨床経験と違うことを指摘され,不快に思う人もいるかもしれない。ただし,本書で紹介するエビデンスは存在する。その解釈は読者次第であることを強調したい。
 最後に,週刊医学界新聞の編集部の中嶋慶之さんがいなければ連載,この本の出版はありえなかった。深甚の感謝を申し上げる。

 2013年12月吉日
 谷口俊文

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本書の使い方

Evidence Based Medicineの実践方法
 CAT(Critically Appraised Topic)
 EBMの情報源
 二次媒体の質の問題
 一次媒体の質の問題
 教科書や商業誌をどのようにとらえるか
 まとめ
1 喘息 Asthma
 急性期の治療の基本
 テオフィリン製剤の役割
 慢性期の治療の基本
 慢性期治療のステップの背景
 薬物療法以外で重要な治療
2 慢性閉塞性肺疾患 Chronic Obstructive Pulmonary Disease(COPD)
 急性増悪の管理
 病棟での管理
 安定期のCOPDの治療戦略
3 肺塞栓症 Pulmonary Embolism(PE)
 急性期のアセスメント
 急性期の治療
 どのような場合に血栓溶解療法(t-PA)を用いるか?
 IVC(下大静脈)フィルターの適応
 凝固性亢進のワークアップ
 ワルファリンによる抗凝固期間はどれくらい?
 ワルファリンと新抗凝固治療薬
4 脂質異常症 Dyslipidemia
 心血管疾患のリスク評価
 脂質異常症の治療
5 高血圧 Hypertension
 外来における高血圧の診断
 高血圧治療のエビデンスと考え方
6 心房細動 Atrial fibrillation
 急性心房細動(Rapid A-fib)への対応
 リズムコントロールとレートコントロール
 脳梗塞のリスク評価
7 急性肺水腫 Acute Pulmonary Edema
 急性肺水腫のアプローチ
 心不全診断におけるBNP
 急性心不全(AHFS:Acute Heart Failure Syndrome)の管理
8 慢性心不全 Chronic Heart Failure
 収縮機能不全による心不全
 非薬物療法
 BNPとNT-proBNP
 拡張機能不全による心不全
9 急性冠症候群 Acute Coronary Syndrome
 UA/NSTEMIの侵襲的治療戦略と保存的治療戦略
 治療のポイント
 スタチンについて
 ST上昇型心筋梗塞(STEMI)の治療戦略
 ACSによる心原性ショック
10 一過性脳虚血 Transient Ischemic Attacks(TIA)
 TIAの診断
 TIAを診断されてからのアプローチ
 TIA発症後の脳梗塞の予防
 その他,病態に合わせた治療
11 非心臓手術時の循環器評価 Perioperative Cardiac Risk Assessment
 心疾患の術前評価
 予防的血行再建のエビデンス
 β遮断薬のエビデンス
 スタチンのエビデンス
12 周術期における薬物療法の管理 Perioperative Medication Management
 抗凝固薬の管理と考え方
 アスピリンの服用と出血のリスク
 その他の経口抗凝固・抗血小板薬
 ステロイドを服用している患者
 その他の内服薬の管理と考え方
 その他,食事や民間療法など
13 貧血 Anemia
 貧血の鑑別診断の基本
 輸血時におけるヘモグロビン(Hb)目標値
14 血小板減少症 Thrombocytopenia
 ヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia:HIT)
 その他の薬剤起因性血小板減少症(drug-induced thrombocytopenia)
15 認知症 Cognitive Impairment
 まずはスクリーニング
 薬物療法
16 2型糖尿病 Type 2 Diabetes
 2型糖尿病の診断
 2型糖尿病の治療
 糖尿病と脂質異常症
 糖尿病とアスピリン
 糖尿病と高血圧
 糖尿病と合併症のスクリーニング
17 入院中の高血糖 Hyperglycemia in hospitalized patients
 重症疾患の場合の血糖管理
 急性心筋梗塞の場合の血糖管理
 インスリン静注から皮下注射への切り替え
 ICU管理の必要がない入院患者
 インスリン皮下注射から退院計画へのアプローチ
18 糖尿病性ケトアシドーシスと高浸透圧高血糖症候群
 DKA(Diabetic Ketoacidosis)and HHS(Hyperosmolar Hyperglycemic State)
 糖尿病性ケトアシドーシスと高浸透圧高血糖症候群の診断
 糖尿病性ケトアシドーシスと高浸透圧高血糖症候群の治療
19 血清カリウム値の異常 Hyperkalemia and Hypokalemia
 低K血症
 高K血症
 尿細管アシドーシスの認識
20 血清ナトリウム値の異常 Hypernatremia and Hyponatremia
 ワークアップ
 Na補正のポイント
 低Na血症のポイント
 高Na血症のポイント
21 甲状腺機能亢進症と低下症 Hyperthyroidism and Hypothyroidism
 甲状腺機能亢進症の診断
 甲状腺機能低下症の診断
 甲状腺機能亢進症の治療
 thyroid storm(甲状腺クリーゼ)
 甲状腺機能低下症の治療
 粘液水腫昏睡(myxedema coma)
22 高尿酸血症/痛風 Hyperuricemia/Gout
 高尿酸血症の診断
 高尿酸血症の治療
 痛風の診断
 痛風の治療
23 急性腎傷害 Acute Kidney Injury(AKI)
 AKIへのアプローチ
 AKIの予防
 AKIにおける透析のタイミング
 体液量・腎灌流圧の維持と輸液
24 上部消化管出血 Upper GI Bleed
 アセスメントと初期対応
 消化性潰瘍による消化管出血のマネジメント
 肝硬変に伴う静脈瘤性消化管出血のマネジメント
25 関節炎 Arthritis
 関節痛へのアプローチ
 手指の関節所見
 RAの診断
 RAの治療
 変形性関節症(osteoarthritis:OA)の治療
26 市中肺炎 Community Acquired Pneumonia
 入院決定の指標
 治療までの時間
 治療薬の選択
 基礎疾患のない患者の市中肺炎エンピリック治療の処方例
 経口抗菌薬への切り替え
 治療期間
27 下痢症 Diarrhea
 急性下痢症のアプローチ
 慢性下痢症のアプローチ
 院内発生の下痢
 Clostridium difficile 感染
 ノロウイルス
28 院内感染症 Hospital Acquired Infections
 人工呼吸器関連肺炎(ventilator associated pneumonia:VAP)
 カテーテル関連血流感染(central line-associated blood stream infection:CLABSI)
 カテーテル関連尿路感染(catheter-associated urinary tract infection:CAUTI)
 手術部位感染(surgical site infection:SSI)
 Clostridium difficile 感染症
29 敗血症 Sepsis
 重症敗血症の支持療法

索引


[コラム]
 EffectivenessとEfficacy
 診断基準はc-statisticsに注目①/②
 UpToDate®や総説の引用にはご注意
 Propensity Score Analysis(傾向スコア解析)とは①/②
 多変量解析と交絡因子-その観察研究の結果は本当に正しいのか
 ジャーナルとインパクトファクターの関係
 動脈硬化性心血管疾患予防のための戦略
 質の高い研究を求めて:欠損値に注目!
 ベイズ統計学へのいざない
  「臨床医は誰もがベイジアンな考え方で診療している」①/②
 あなたはそのメタ解析を信じられるか
 ガイドラインも批判的吟味が必要

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論文検索の負荷を軽減しつつ,根拠に基づく診療が可能に
書評者: 佐野 正彦 (汐田総合病院・神経内科レジデント)
 レジデントは忙しい。学生時代は病態生理などのバックグラウンド・クエスチョンが中心であり,教科書を読めば事足りることが多い。一方のレジデントは,個別のマネジメントに関しての答えを速やかに出さねばならない。つまりフォアグラウンド・クエスチョンが増えることとなる。

 「目の前にいる患者さんに最善の治療を行いたい」と,どのレジデントも考える。しかし,一つひとつの問題に対して論文を検索し批判的吟味を行うのは,時間的にも体力的にも不可能である。また,論文の吟味の方法が体系的に教育されていない。上級医師に聞いてみても人によって言うことが異なり,臨床決断に迷いが出ることも多い。さらには施設によって治療法等のやり方が異なることもある。

 「いったい,どうすればいいんだ……」。

 これらの課題を一挙に解決してくれる書物が出版された。著者の谷口俊文先生は米国で内科のトレーニングを受け,その経験をもとに,外来・病棟でしばしば遭遇する29の疾患・症状に関するエンビデンスをまとめている。個々の疾患・症状に関して現時点でのエビデンスが記載されており,自らの日常診療の振り返り(省察)が可能となる。また,「こうすべき」というマニュアル的な書き方ではなく,実臨床のさまざまな個別病態に対応できるよう,その医療行為をサポートするようなエビデンスが記載されている。

 評者が実践に役立った例を以下に挙げてみる。

●脂質異常症(4章)……治療介入が「なんとなく」になっている日常診療を反省させてくれた。日本のガイドラインは煩雑であり,外来中にはなかなか活用しきれないが,この章を学習することで治療適応や治療目標,あるいは「特定の薬剤を使用した場合にどのくらいのLDL低下が見込めるか」を常に意識するようになった。

●高血圧(5章)……上記と同様に,治療適応や治療方法,二次性高血圧のスクリーニングのタイミング等を学習し,ALLHATやJNC7に関する学習会もレジデント同士で行った。

●認知症(15章)……最近では非常に遭遇する機会の多い疾患である。「治療可能な認知症」の否定,使用されている薬剤の妥当性,軽度認知症のスクリーニングを意識して診療するようになった。

 本書の特徴の一つは,「ランドマークスタディ」を示していることである。これらを読むことで,マネジメントの大きな流れをつかむことができる(指導医としても,初期研修医に対して「この論文を読んでおいて」と,少し格好をつけられかもしれない)。同様に,「これだけは読んでおきたい重要文献」も引用文献とは区別されており,すべての論文は検索しやすいようにPMIDを示してくれている。日常臨床の中で効率よく文献検索を行うことができる上,これら論文を抄読会で他のレジデントと読み合わせ,批判的吟味を行ってもよいだろう。

 本書は,われわれの負荷を軽減してくれるばかりか,根拠に基づく診療を可能にする珠玉の書である。初期研修医のみならず,実地医家の先生方にも手元に置いておくことを強くお勧めする。ただし,忘れてはならないのは,本書で示されたものは「現時点」でのエビデンスだということである。この本をもとに,われわれ自身が情報をアップデートしていかなければならないのは言うまでもない。
エビデンス・プラクティス・ギャップへの果敢な挑戦状
書評者: 八重樫 牧人 (亀田総合病院総合診療・感染症科部長)
 日本の医療はガラパゴス化している。専門分野以外は十分な卒後教育を受けることなく診療していることが一因である。2004年に卒後臨床研修が必修となり改善はされているが,内科ジェネラリストとしてのトレーニングは依然不十分なままである。その結果,世界各国でエビデンスが不十分であるとされる薬(例えばシベレスタット)に巨額の医療費が投入され,一方で必要な治療・予防が提供されていないことも多い。後者の一例としては,65歳以上人口の肺炎球菌ワクチン接種率はいまだ15%程度である。

 エビデンスのある治療が患者さんに届いていない状態を「エビデンス・プラクティス・ギャップ」という。このギャップに果敢に挑戦したのが本書である。著者の谷口俊文先生は,コロンビア大学の関連病院であるSt. Luke’s-Roosevelt病院での内科研修を経て,『ワシントンマニュアル』で知られるワシントン大学で感染症の専門研修を修了し帰国した。留学中から,よき内科系サブスペシャリストになるためには総合内科の確固たる知識・臨床能力が必要であることを理解しており,週刊医学界新聞に「レジデントのためのEvidence Based Clinical Practice」を連載していた。その内容をグレードアップしたのが本書である。連載も素晴らしかったが,今回の書籍化では格段の進化を遂げている。

 これだけの分量を単独執筆するのは至難であったと推察するが,おかげで全体を通じての一貫性があり,通読しやすい。幅広い内科分野で最新の知見を取り入れ,エビデンスに基づいた治療を目の前の患者さんに届けるにはどうしたらよいか。そのために必要な知識がコンパクトにまとめられている。心房細動のAFFIRM研究,周術期β遮断薬のPOISE研究,集中治療室での血糖コントロールに関するNICE-SUGAR研究等,押さえるべきランドマーク研究に関しても解説した上で,実際の診療におけるアプローチが明示されている。臓器別ではなく米国の総合内科医のトレーニングを経ただけで,ここまでエビデンスを吟味して診療に役立てられるようになるというよいお手本である。

 切れ味も最高に鋭い! 「c-statisticsを提示していない,その妥当性を評価していない診断基準やリスク・スコアは使用を推奨しない」(29頁),「UpToDate®や総説の引用にはご注意」(82頁)等々。後輩のために,ここまで明確な発言ができる勇気に敬意を表したい。初学者の心にも響き,行動変容につながるであろう。また,「ベネトリン® 2mL(10mg)=喘息1回使用量の4倍」(194頁),「海外の教科書や文献にみられる高張食塩水(3%)は,生理食塩水(0.9%)400mLに10% NaCl(20mL)を6アンプル追加することにより作ることができる」(208頁)等々,病棟でのコツも随所に散りばめられていて,研修医には至れり尽くせりである。

 米国の書籍や翻訳では触れられていない日本独自のデータについても言及されている。アスピリンによる脳梗塞の予防効果を示すことができなかったJAST研究,アジア人においてシロスタゾール(プレタール®)がアスピリンと比較して非劣性を示したCSPS2研究,日本人糖尿病患者に対するアスピリンの一次予防効果をみたJPAD研究等々。EBMを日本において実践する際にはこうしたデータも必要であり,抜かりがない。日本と米国の両方で研鑽した著者ならではある。

 本書は,米国指導医による回診(Attending round)で議論される内容を参考に執筆している。こうした教育機会を得るために米国臨床留学をめざす医師にとっては,値千金の価値があるだろう。逆に国内で研鑽を積む医師は,米国臨床留学の気分でそのエッセンスを味わってみてはどうだろうか。「出る杭は打たれる」ではなく「出る杭は伸ばしてもらえる」米国で研修を受けた著者による会心の一冊であり,病棟・外来で成人の患者を主治医・担当医として診療するすべての医師にぜひ読んでいただきたい。

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