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知って 考えて 実践する 国際看護

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国際看護=海外での看護活動? 看護の対象が人間である以上、国境は無関係であるが、だからと言って、国外で働くことだけが国際看護ではない。本書は、看護を国際的な視点から見るきっかけやヒントを提供。海外で働くときも国内で働くときも、その視点こそが重要になる。「国際看護」に興味のあるすべての看護職と看護学生の心の窓を開く、それが本書の願いだ。「国際看護」を教える方も必携!
近藤 麻理
発行 2011年02月判型:A5頁:136
ISBN 978-4-260-01217-1
定価 1,980円 (本体1,800円+税)
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はじめに
―国際看護について考えてみませんか


 国際看護の本ができました.何年もの構想の末に,ようやく一冊の本になりました.この本は学校の講義でも利用できますが,看護職やこれから看護職につこうとしている多くの方が,ひとりでも楽しく学習できるように,筆者自身が体験した事例やコラムを取り入れ話しかけるような文章で作りました.
 この本を手に取られた方の中には,すでに看護学概論などの科目で,国際看護について教えたり,学んだりした方がいるかもしれません.国際看護の講義では,教科書の内容を教員が講義したり,あるいは関心のあるテーマを学生が自主的に発表したり,国際協力の現場で活動した経験者の講演があったりなど,その内容や方法はさまざまです.しかし,国際看護は,まだまだ看護教育の中でその重要性を認識されているとは言いがたいのが現状です.
 教える側の教員には,国際協力の現場で仕事をした経験がないという理由で,「私には教えられませんから」と謙虚に辞退される方もいます.そして,教えられる側にも,「私は国際協力なんてしませんし,外国に行きたくないから関係ないです」と講義への疑問を投げかける方もいます.国際看護と国際協力が同義語ではないように,国際看護が目指すものは,決して世界の国際協力の現場で活躍する看護職を養成することだけではないのです.ですから,「国際看護=外国で看護職が“活躍する”」という考え方には賛成できません.少なくとも日本に暮らす外国人への看護は,日常的に施設で行われているはずなのです.
 すべての看護の教育者が国際的視野をもち「世界の中のかけがえのない1人の看護職を育てている」という誇りのもとで教育に携わっているでしょうか.学生や若い看護職が,「将来は,外国で看護の仕事や国際協力をしてみたい」と恥ずかしそうに話しかけてきたとき,教員やベテランの看護職は,どのように応えてきたでしょうか.
 看護職であれば誰でも,人生のどこかでプロフェッショナルとして国際看護にかかわる可能性はあるのです.看護の対象は「人間」ですから,看護という概念には,もともと国境も,人種も,文化も超えた国際看護という考え方が備わっています.だからこそ,すべての看護職にその知識が必要であると思うのです.

 この本は,どのページから読みはじめても大丈夫です.関心のあるテーマからご遠慮なくどうぞ.また,この本は「看護教育」(医学書院)2009年1~12月号連載「誌上講義 国際看護学」(Vol.50 No.1~12)とリンクしています.教育にかかわる皆様には,掲載された国際看護教育の授業方法や資料を合わせてご覧いただけることを期待しています.
 この本を手に取られた方に,筆者の想いが届きますように,そして,皆さんの知と技に磨きがかかり,国際看護と看護の発展に寄与できますようにと願っています.

 2011年1月吉日
 近藤麻理

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第1章 世界に目を開く-国際的視野を広げる
 1.国際看護のすすめ-看護の対象は人間である
 2.世界について知ることから始めよう-MDGsと健康
 3.国際協力の仕組み-「国連」って何?
 4.日本のODAと国際協力-JICAの活動
 5.他の学問分野との連携と協調-国際協力は他人事でしょうか?
第2章 現場で何が起きているか-今,そこにある現実
 1.看護師不足と国際労働の関係-なぜ看護職は移動するのか?
 2.女性であることを取り巻く状況-ジェンダーの時代を生きる
 3.紛争と難民-難民について何か知っていますか?
 4.HIV/AIDSとスティグマ-差別される人々
 5.災害と看護-援助する側・される側というステレオタイプ
 6.世界の貧困と経済格差-貧しい人たちとは,誰か?
 7.プライマリヘルスケア-自分の命と健康を自分で守ること
第3章 見て!聞いて!体験する!-国際協力への理解を深める
 1.どこで何を学ぶか-情報収集の重要性
 2.国際的に活動するための多様な道-夢と現実
 3.国際的な仕事への挑戦-海外で,日本で
 4.海外研修の実際と課題-知的好奇心を刺激する
第4章 これからの私たちの選択-看護の力を信じて
 1.メディアリテラシー-報道をどう判断するか
 2.進化する国際看護とともに-10年後の看護の姿は?

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紙上で講義が展開されているような表現と豊富な実例
書評者: 時本 圭子 (倉敷中央看護専門学校 副校長兼教務部長)
 本校では2009年のカリキュラム改正時に,統合分野の看護管理の中に国際看護と災害看護を位置付けた。基礎知識とともに世界の実情を知り,さまざまな状況下における看護の役割について広がりを持たせて学習するようにしている。当時,岡山大で教鞭をとられていた著者の近藤麻理先生(現・東邦大)の研修を受ける機会があり,現在も実践的な部分は講師をお願いしている。

 著者は,AMDA国際医療情報センターのコーディネーターとしてコソボ難民緊急救援活動に従事された経歴など,これまでの多くの国際協力の経験を踏まえ,国際社会の課題(HIV/AIDS,紛争と難民,貧困と飢餓,災害と看護等)について,基礎知識から国際協力の実際に至るまでさまざまな視点から述べている。本書は特に著者が語りかけるような表現で記されていることが特徴であり,まるで紙上での講義が展開されているようで,読者は国際協力が身近なこととして感じられるだろう。

 著者からの問いにじっくりと考える機会も与えられる。本書には参考となるホームページ・図書・映画が多く紹介されており,自己学習をしていくための多くのヒントが用意されている。また,著者の豊富な経験から多くの事例が紹介されている「考えてみましょう」や「COLUMN」は実に興味深く,日ごろいかに狭い社会や考えの中にいるかを考えさせられる。実際に多くの学生は「さまざまな習慣・文化・価値観を知り,固定概念でなく広い視野で物事を考えていくことの大切さを感じた」「自分たちがいかに狭い世界の中で生活し,狭い視野で物事を考えているかを実感した」と感想を寄せている。

 「将来は海外で国際協力に貢献したい」と入学する学生もいるが,これは特別なことではなく,今後ますます国際化が進む中,地球規模で人々の健康を守ること,看護を学ぶことは重要になってくる。本書は新しい時代を生きていくこれからの学生たちに,社会に関心を向け,国際的な視野を持つことや看護職として社会の中で何ができるのかを判断し行動していくための道標になる。著者からのあたたかなエールも随所に感じられる。

 本書は一貫して,看護の対象は「人間」であることを説いている。同時に,看護教員自身が国際的視野を持ち,学生たちが卒業後広い視野を持って活動できる人材になるために,「世界の中のかけがえのない1人の看護職を育てている」という誇りを持って教育に携わっているかという問いも投げかけている。多くの看護学生・看護教員にぜひ読んでもらいたい一冊である。
個別性の高い看護を実現するために (雑誌『看護管理』より)
書評者: 門間 典子 (東北大学病院 看護部長)
◆被災地で活きる「国際看護」の考え方

 皆さんは「国際看護」という言葉から何を思い浮かべるだろうか? 国際看護=青年海外協力隊,とか,英語がペラペラ,と思ってはいないだろうか? 実は私がそうだった。「英会話できないし,この年齢(!?)になって海外で看護活動はしないから,関係ない」と思っていた。

 著者の近藤麻理先生との出会いは,2010(平成22)年の“アメリカの病院における看護管理と継続教育”研修がきっかけだった。海外での看護経験を熱く語る近藤先生の話はおもしろかったが,そのときはやはり,自分とは無縁のことと思っていた。本書を手にして「ふーん,国際看護って文化や考え方,生活習慣の違いを理解することから始まるのね」とパラパラと読み終わったころ,東日本大震災が起きた。

 3月11日午後2時46分,そのとき私は岩手県の沿岸部にいた。長い大きな揺れのあと停電になり,津波警報が鳴り続けるなかで暗くて寒い夜を過ごした。交通網は寸断され,携帯電話もつながらない。大きな余震が続き,仙台に帰らなくては,と焦る気持ちとはうらはらに,さらに数日をそこで過ごした。仙台に戻ったとき,私がすべきことを考えながら,またこの本を読みなおした。

 被災直後の避難所で見聞きしたこと,仙台の病院に戻ってから時々刻々と変わる現場の状況を肌で感じながら,今まさにこのときに「国際看護」の考え方が必要だということに気づいたのだ。

◆日本人のなかでも多様な価値観を受容する

 本書に以下のようなことが書かれている。「大規模災害により情報の不均衡が起こり,援助者もまた被災者であるという事実が忘れられ,援助する側・される側というステレオタイプがつくりだされる。看護する側は,正確な情報を集め,そこにある現実をしっかりとみつめ,そして対象の多様性に配慮することが必要となる」。まさにその通りで,報道では『被災地』というくくり方をされるが,その地域によりニーズや価値観が違うことに援助する側,される側が共に戸惑っていた。国際看護では,人種や言語・宗教の違いにより価値観が異なることについては推測可能であろう。しかし日本人のなかでも価値観は多様である。被災地のまっただなかで暮らしてみて,今さらながらそれに気づいた。このとき「多様な人間の価値観や文化の差異を知ることにより,摩擦や誤解が減少し,相互の良好なコミュニケーションが可能となり,質の高い看護ケアが提供できる」というダイバーシティ(diversity),すなわち多様性あるいは多様性の受容が重要となる。

 かつて新人類という言葉があったが,ますます世代間のギャップが拡がっているように思う。看護管理者はこれを受け入れたうえで,人材育成を行なうことを求められている。さまざまなものが多様化している現代だからこそ,看護管理者は国際看護の考え方を学ぶことが必要なのではないだろうか。

(『看護管理』2011年7月号掲載)
グローバルに思考することと多様性の受容の重要性を改めて知る (雑誌『看護教育』より)
書評者: 服部 直子 (関西看護医療大学看護学部)
 本書を手に取り読み終えるまでの間,私はなんとも胸躍る,そしてうずうずするような時間を過ごしていた。国際看護に経験あるいは興味をおもちの方であれば,おそらく同様の感覚を抱かれることだろう。また,本書はこれから国際看護を学ぶ学生にとっても,十分に好奇心をかきたて,そして考えさせる内容であると思う。殊に第3章では,国際看護の学び方や国際協力関連の仕事についても紹介されており,国際看護に携わっていきたいと思われる方はぜひ参考にされるとよい。

 「今までの日本の看護教育はあまりにも国際的なことに目を向けてこなかった」という著者の指摘には私もまったく同感である。グローバルに思考することと多様性の受容は,看護においても重要である。著者がICNの倫理綱領を示して強調する通り,看護の対象は「人間」であり,国籍も人種も宗教も条件とはならない。このことこそが「なぜ国際看護?」の問いに対する根源的な答えである(そもそも医療や看護に「国際」と冠すること自体,日本的な発想なのかもしれないとも思う)。また,国際看護イコール「海外で看護をすること」でもない。今や日本の人口の約60人に1人が外国人であり,外国人の患者に対応した経験のある看護師も少なくないだろう。そこには,言葉や異文化などさまざまな問題があり,対処をしていくための考え方を看護基礎教育に取り入れていくことは喫緊の課題といえる。

 さて,実はこれを書いている最中に東日本大震災が起こった。日本国民のみならず世界中の人々がこの大災害の惨状に胸を痛め,さまざまな支援活動を繰り広げている。現地には発災直後より国内のみならず諸外国の緊急援助隊や医療チームが入り,私たち自身も国際医療・看護の対象として援助される側になりうるのだと,私は今さらながら気がついた。

 また,著者は本書の第2章で,被災者への支援のあり方や被災者でもある現地の看護職者のディレンマについて述べているが,今まさに現場で奮闘されている方々の辛苦を想像すると,我々全国の看護職たちがもっとダイナミックに動く手立てを考えていかなくてはいけないと思う。

 今回の震災における医療支援も復興もまだ道半ばではあるが,これから地球上のどこかで起こる災害や紛争,あるいは感染症の流行に関心を持ち,「次は私たちの番」と,時に国境を軽々と越えて行動する看護師が増えていくことを期待したい。そして,国や人種の別なく人々の命と健康を守ること,それが看護の使命であり可能性でもあるということを,学生たちと語り合っていきたいと本書を読みながら強く思った。

(『看護教育』2011年5月号掲載)

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