眼科ケーススタディ
網膜硝子体

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症例の理解を通して網膜硝子体診療のスキルアップを目指すケースブック。31の選び抜かれた症例に即し、初診時所見・検査所見から鑑別診断、治療、経過、管理などまでを丁寧に解説。さらに疾患をより深く理解するための臨床上のPointも詳述。眼科専門医試験の症例問題対策にも最適。付録として蛍光眼底造影とOCTの最新知識をコンパクトに解説した。
編集 𠮷村 長久 / 喜多 美穂里
発行 2010年11月判型:B5頁:272
ISBN 978-4-260-01074-0
定価 14,300円 (本体13,000円+税)

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 1850年代の始めにHelmholtzが検眼鏡を発明して以来,眼底疾患の理解が急速に進行し,1860年代になると,現在私たちが知っている眼底疾患の多くが詳細に記載されるようになりました.近代医学は病理学を裏付けに進歩してきましたが,眼底疾患は他の領域に比較すれば病理学的な裏付けが必ずしも十分には取れないために,検眼鏡所見をGolden standardとして疾患の分類,病態の理解,治療効果の判定が行われてきました.このことは,検眼鏡の発明から160年後の今も変わりがありません.どれほど精密な眼底画像解析が可能となっても,眼底所見を正確に記載することが眼底疾患診断の基礎的な作業であることには些かの揺るぎもありません.
 しかし,走査レーザー検眼鏡,光干渉断層計の眼科臨床への導入以来,これまでの検眼鏡ではとらえることができなかった眼底疾患の新しい臨床像が次々と明らかとなってきました.今後も眼底診断機器はさらに高度化し,新しい機器が導入されて,眼底疾患の理解がさらに深まることが考えられます.
 本書は,代表的な網膜硝子体疾患を題材に,疾患の概念,診断と治療のプロセスを示すとともに,それぞれの疾患について最新の診断機器によって得られる画像をできるだけ多く提示することを試みました.もとより,網膜硝子体疾患のすべてを網羅するような書籍ではありませんが,比較的稀な疾患についても記載をするように心がけましたので,全体を通読いただければ,網膜硝子体疾患のかなりの部分をカバーできるのではないかと思います.
 分担執筆の書籍には分担執筆の,本書のように比較的少人数で作った書籍にはそれなりの長所があります.本書がその特徴を発揮して,読者の皆様の網膜硝子体疾患への理解を深める一助になることを願ってやみません.
 最後に,執筆にご協力いただいた京都大学眼科学教室の皆さん,そして医学書院の方々に厚くお礼を申し上げます.

 2010年10月
 吉村 長久
 喜多美穂里

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症例1 膜形成を伴う黄斑の皺
症例2 黄斑円孔
症例3 糖尿病黄斑浮腫
症例4 黄斑の毛細血管瘤
症例5 突然の中心暗点出現
症例6 橙赤色隆起病巣を伴う黄斑病変
症例7 黄斑の網膜剥離
症例8 若年女性の脈絡膜新生血管
症例9 変性近視
症例10 偶然見つかった網膜出血
症例11 原因不明の硝子体混濁
症例12 硝子体出血による急激な視力低下
症例13 外傷による硝子体出血
症例14 前房蓄膿と網膜出血
症例15 角膜後面沈着物と網膜滲出性病変
症例16 網膜動脈炎
症例17 網膜の白濁を伴う急激な視力低下
症例18 網膜静脈の拡張蛇行
症例19 血管を伴う増殖膜
症例20 若年者の網膜剥離
症例21 高齢者の網膜剥離
症例22 裂孔不明の網膜剥離
症例23 眼底周辺部の無血管野を伴った網膜剥離
症例24 蒼白視神経乳頭
症例25 視神経乳頭腫脹
症例26 視神経乳頭形態異常
症例27 網膜の白点
症例28 幼少時からの夜盲
症例29 原因不明の視野狭窄
症例30 光視症を伴った盲点拡大
症例31 眼底後極部の橙赤色隆起病変
付録 蛍光眼底造影検査と光干渉断層計検査

出典一覧
索引

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疾患の診断,治療選択の思考過程を学ぶ最適の書
書評者: 根木 昭 (神戸大大学院教授・眼科学)
 本書は京都大学眼科教授・吉村長久氏,前同大学准教授,現兵庫県立尼崎病院眼科部長・喜多美穂里氏編集による網膜硝子体疾患,31症例のケーススタディである。執筆者はすべて,京都大学眼科の教室員および同門会員である。項目は日常よく遭遇する網膜硝子体疾患,眼底・硝子体所見や主訴からなり,典型的な症例を挙げ,主訴,初診時所見,全身および眼科的検査所見,治療と管理という診療経過順に記載されている。合間に囲み記事として,まず症例のポイントの要約や,そこから考えられる鑑別診断,検査結果からの疾患の理解がまとめられている。次いでポイントとして検査結果の読み方,注目すべき点,関連疾患との鑑別の要点などがまとめられ,さらにメモとして確認事項や現在の論点,最新知識が取り上げられている。最後にはこの疾患を勉強する上でキーとなる文献を,その貢献内容とともに網羅してある。

 本書の特徴は,各症例が初診時から結末まで,担当医の思考過程に沿って経時的によく整理されている事である。まさに紙上の症例検討会であり,眼底所見や画像所見をどのように表現したら良いか,どう読んだら良いか,その結果をどう解釈していくのかという判断の模範が示されている。なにより特筆すべきは,最新の光干渉断層計(OCT)や造影などの画像所見と肉眼的眼底所見が美しい写真とともに経時的によく対比されている点であり,読み進めていくうちにまるで学生時代のCPC(clinico-pathological conference)を受けているような錯覚に陥った。もちろんそれは光干渉断層計(OCT)の進化のおかげであるが,CPCでは最終末の病理組織所見が主体であるのに対し,OCTでは疾患の経時的な,ある意味光学的顕微鏡所見にも匹敵する構造的変化を把握でき,組織標本を超える情報力を提供している。これは網膜硝子体という透光組織で初めて可能なものであり,本書はその特色を最大限に利用して疾患病態を解説した新しいタイプの眼科教科書といえる。

 加齢黄斑変性やポリープ状脈絡膜血管症,中心性網脈絡膜症等の項目は著者らの教室が最も力を入れている領域であり,言葉の解説から,最新の病態の考え方まで簡潔明瞭に解説されている。代表文献の解説も大いに有用である。黄斑浮腫や黄斑前膜に対する治療効果の解説,手術治療効果の現実的評価にも好感が持てる。サルコイドーシスや急性網膜壊死,アミロイドーシスなど,まぎらわしい疾患への考え方,対処の順序に加え硝子体サンプルの採取方法等実践的知識もあって,臨床医のニーズによく答えている。後半には網膜剥離症例の手術選択方法,難治例対策にも触れてあり,手術医にとっても興味深い内容である。最後の付録にある画像の基本ルールも用語を整理する上で有用である。本書が全体にわたって理解しやすいのは,多くの施設の共著ではなく,同門による執筆のため,考え方や執筆スタイルが統一されている事によると思われる。

 本書は日常遭遇するほぼすべての網膜硝子体疾患を網羅しており,その診断と治療選択に至る思考過程の教科書である。若い人には症例の診かた,病巣の表現方法,プレゼンテーションの仕方の手本となるであろうし,専門医にとっても日進月歩の知識を整理する上で最適の書である。美しい画像写真は特筆ものであり,行間が広く読みやすい。ケーススタディとされているが,網膜硝子体疾患の最新の実践的教科書といえる。このような企画を思い立ち,実現された編者に拍手を送りたい。是非とも皆様にもご一読される事をお勧めしたい。
現場での情報を基に病態を推理する
書評者: 大橋 裕一 (愛媛大教授・眼科学)
 『眼科ケーススタディ 網膜硝子体』が,吉村長久先生と喜多美穂里先生を編者に医学書院から発刊された。板塀を思わせるチョコレート色の瀟洒な表紙の本書,京都大学医学部眼科学講座が精魂を込めて完成させた網膜硝子体疾患のガイドブックであるが,一見して,その構成に多くの創意と工夫が凝らされていることがわかる。基本線として,患者背景や主訴あるいは眼底所見をベースにした31に及ぶ症例バリエーションが呈示され,それぞれにOCTを中心とする詳細な病態解説が続く。次の【Point】では,類似症例をリストアップし,鑑別診断のコツが要約されているほか,随所に散りばめられた【Memo】では,その項目に関連した豆知識を学ぶこともできる。眼底写真をはじめとする多数の図表,そして程よい量のテキストの中,フリーな気分で網膜硝子体疾患を学ぶことができる設計になっているのである。

 「序」において編者らも述べているように,光干渉断層計(OCT)の出現は網膜硝子体疾患の臨床に革命的な変化をもたらしたと言える。眼底所見や蛍光眼底といった平面的な情報を基に感覚的に網膜硝子体疾患を考える時代から,個々の眼底所見を病理解剖学的な側面から確認しつつ,生じている病態をより深いレベルで考察しうる時代に入ったからである。本書編集のリーダーシップを取られている吉村先生はわが国を代表するclinician scientistであり,基礎研究者としても,また臨床家としても卓越した識見の持ち主であるが,この書に彼の理想とする網膜硝子体の臨床のあり方が具現化されているに違いない。京都大学眼科と言えば網膜硝子体が看板であるが,これほどの長きにわたってその伝統が続いている教室は全国でも他に類を見ない。本書の行間にその歴史が生み出す凛としたオーラを感じるのは評者だけであろうか。

 あえて言うならば,呈示された症例バリエーションは合わせても31,編者らも記しているようにこれだけでもかなりの網膜硝子体疾患が網羅されているのだが,疾患スペクトルの幅広さを考慮すれば,異なった切り口からの症例バリエーションもまだ残っているはずである。もしも紙面の都合で収めきれなかったような材料をお持ちならば,吉村先生,喜多先生にはぜひとも第二弾の刊行を期待したいものである。とにもかくにも,現場での情報をもとに病態を推理するというコンセプトは素晴らしく,門外漢の評者ですら,知らず知らずのうちに読み込んでしまった。網膜硝子体の専門家を志す若手はもちろん,研修医から開業医まで,一度は触れていただきたい好著である。
網膜硝子体疾患の理解と整理に有用な良書
書評者: 湯澤 美都子 (駿河台日大病院教授・眼科学)
 京都大学の眼科は網膜硝子体疾患のメッカである。伝統の中で育まれた優秀な研究者たちによって膨大な網膜硝子体の基礎研究と臨床研究がなされてきた。また,日本で最初に硝子体手術を行った盛新之助先生をはじめ,非常に優れた多数の網膜硝子体サージャン,優れた網膜硝子体スペシャリストを輩出されてきた。

 その中のおふたり,吉村長久先生と喜多美穂里先生が編集され,京都大学眼科学教室に在籍中あるいはかつて研鑽を積まれた先生方が執筆された『眼科ケーススタディ 網膜硝子体』が上梓された。31の症例提示とそれについての解説がきれいなカラー写真,光干渉断層計,蛍光眼底造影写真を用いて解説してある。必要に応じてシェーマも多用され,よく整理されていて理解しやすい。

 31の疾患は黄斑上膜,黄斑円孔,加齢黄斑変性,網膜剥離などの比較的頻度の高いものから家族性滲出性硝子体網膜症,動脈炎性前部虚血性視神経症,癌関連網膜症まで多岐にわたる。優れものはポイントの項で,可能性のある鑑別疾患について,そのポイントが写真付きでわかりやすく解説されている。

 ケーススタディの場合,読者は受動的に読むのではなく,症例についていろいろ考えながら読むことになるので,実践向けの知識が身に付きやすいと思う。その分書き手には臨床経験と疾患に対する整理された知識が要求される。個々の網膜硝子体疾患のたくさんの患者さんを診て,治療し,それらの診断,治療について整理してこられた京都大学眼科学教室だから,深みのあるケーススタディができあがったのだと思う。

 難は症例提示が31疾患であることである。網膜硝子体疾患は多岐に及び数も多い。ぜひ他疾患について続編を出してもらいたいと思う。その際には,典型症例のみならず,同一疾患のバリエーションについて解説してもらいたいと思う。いずれにせよ本書は網膜硝子体疾患の理解と整理に有用で,明日から自分の臨床に役に立つ「良書」である。また専門医試験の臨床実地試験の対策としても有用であると思う。

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