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地域保健活動のための発達障害の知識と対応
ライフサイクルを通じた支援に向けて

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保健師をはじめ地域保健・公衆衛生従事者が、発達障害に関するさまざまな相談・支援に応じられるように、発達障害そのものの解説に加え、ライフステージごとの問題点とその対応について、臨床および公衆衛生学の2つの視点から具体的に解説する。
平岩 幹男
発行 2008年09月判型:A5頁:184
ISBN 978-4-260-00739-9
定価 2,640円 (本体2,400円+税)

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はじめに
ライフサイクルを見据えた対応を


 発達障害は今,社会の大きな話題となり,多くの書籍が出版されていますが,医学的な専門書にせよ,一般向けにせよ,その大半が子どもの時期,あるいは成人期など特定の年齢域の問題に絞って書かれています。
 地域保健に携わる保健師や行政職の多くは,保健所や市町村の保健センターなど公的な機関に勤務し,健康の問題に関するプロとして活躍しています。近年は,保健師の中から企業などで産業保健師として活躍する人も出てきています。このように保健師の仕事の特徴は,ライフサイクルを通じた健康管理に携わることにあり,新生児から高齢者まで幅広い年齢層をカバーしています。
 ところが,今までの発達障害の書籍の多くは,先にも述べたように対象年齢が限定されていました。そこで,発達障害がそれぞれのライフステージにおいて異なる問題を抱えること,さらに地域保健に携わる人の多くが,公務員として行政サービスの中で発達障害児・発達障害者のライフサイクルを見据えて仕事をしていることを念頭に置いて本書をまとめました。
 本書では発達障害そのものについての解説だけではなく,保健師が住民サービスを実施し,さまざまな年齢の住民からの相談に応じることを前提に,ライフステージそれぞれの問題点への対応や公衆衛生学的見地からの対応も述べていきます。
 私は大学を出てから十数年間,臨床の場で障害児医療,および小児救急の仕事をしてきました。その後15年間にわたり,障害児・障害者への医療的な対応やカウンセリングを行いながら,行政官として保健行政全般,障害児・障害者支援の仕事も行ってきました。2007年の3月に公務員を退職してからは,いろいろな形で発達障害の人々のお手伝いをしています。医療,行政,民間におけるこれまでの経験や,また取り組みの中で育まれてきた思いをベースに,本書を著しました。
 ここで本書の表記と構成についておことわりしておきたいと思います。
 最近,障害の「害」という字をひらがなで書くことが多くなってきましたが,第二次世界大戦以前はこのことばを「障碍」と書いていました。障害の「障」は「障り」,「碍」は「覆う」という意味ですから,何かよくないことを覆うという表現です。戦後に当用漢字を使うことになり,その中に「碍」の字がないため,障りがその人を害する「障害」という表現に変わりました。輿論が世論になってしまったように,変わってしまった漢字はたくさんあります。そのような経緯を踏まえて,「障害」を全部ひらがなで「しょうがい」と書いたり,「害」をひらがなにして「障がい」とする表記も多くみられるようになってきています。しかしなるべく当用漢字を用いるという観点から,現在の法律では,発達障害者支援法にしても障害者自立支援法にしても「障害」の文字が使われています。
 私自身は,障害の「害」の字をひらがなにして「障がい」と書くことが,実際に障害をもつ人たちへの理解を示す優しさであると感じています。また特に行政において,こうした方への理解が必要であるとも感じています。気持ちとしては「障がい」と表記したいところですが,本書では法律などに準じて「障害」としてあります。
 なお本書は,保健師をはじめ地域保健に携わる人たちを対象としています。したがって療育や行動療法の実際について,また特別支援教育を含む学校教育についての記述は最小限としました。これらについては成書が多数出ていますので,巻末の参考図書のリストを参照していただければ幸いです。
 2008年8月
 平岩幹男

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はじめに ライフサイクルを見据えた対応を

第1部 発達障害の理解
第1章 発達障害とは何か―種類,現状から診断まで
 1.適切な対応が社会生活の可能性を広げる
 2.発達障害の種類
 3.各障害に共通の問題点とそれぞれの問題点
 4.発達障害の原因は?
 5.一次症状から二次障害へ
 6.最近,問題になってきているのはなぜか?
 7.なぜ増加しているのか?
 8.診断はあくまで入り口
 9.診断の時期
 10.一般の医療機関で診断できるか?
 11.早期発見のために
 12.ADHDと高機能自閉症の間

第2章 発達障害とは何か―支援よりも理解を
 1.支援とはどうあるべきか?
 2.発達障害を受け止めるということ
 3.才能が表に出れば,発達障害とはばれない
 4.社会で暮らしていくために
 5.最終目標は何か?

第3章 ADHD
 1.ADHDの歴史
 2.ADHDの診断基準
 3.一次症状と二次障害
 4.ADHDの出現頻度
 5.ADHDのパワーはすごい
 6.ADHDからそのほかの病態への移行―合併症,二次障害も含めて
 7.ADHDの治療
 8.将来を考える視線―2人乗り自転車
ケーススタディ1 成人してからADHDが判明した30代男性

第4章 高機能自閉症
 1.高機能自閉症とは?
 2.高機能自閉症の診断基準
 3.高機能自閉症の人の集中力
 4.高機能自閉症の合併症およ二次障害
 5.高機能自閉症の治療
 6.高機能自閉症の将来
ケーススタディ2 能力を生かせる仕事に就き,家庭ももった高機能自閉症の男性
 7.高機能自閉症の人の実際の生活

第5章 学習障害
 1.学習障害とは?
 2.学習障害の診断基準
 3.学習障害への対応
ケーススタディ3 読字障害をもつ女性の経済的自立まで

第2部 ライフステージごとの問題と対応
第6章 各ライフステージにおける発達障害の問題
 1.幼稚園・保育所での発達障害の問題
 2.小学校での発達障害の問題
 3.思春期の発達障害の問題
 4.成人の発達障害の問題
 5.家族性の発達障害について

第7章 有効な対応方法―とにかく具体的なアドバイスを
 1.保護者や当事者に具体的なアドバイスを
 2.対応のためのさまざまな方法とツール

第8章 発達障害者支援法と幼児期の療育をめぐる問題
 1.発達障害者支援法―総則
 2.発達障害者支援法―早期発見と支援
 3.発達障害者支援法―発達障害者支援センターなど
 4.幼児期の療育をめぐる問題

第9章 発達障害に対する保健行政
 1.保健行政で行われる事業
 2.健診事業
 3.発達障害に関わる健診以外の地域保健事業
ケーススタディ4 高機能自閉症の中1男子をめぐる地域の対応
ケーススタディ5 高機能自閉症の女性がDV被害者に

参考図書リスト
おわりに 地域保健に携わる人たちへ―耳を澄ませてください
索引

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悩める保健師を救う待望の1冊! (雑誌『保健師ジャーナル』より)
書評者: 村上 香代 (北九州市戸畑区役所)
 発達障害をめぐっては昨今さまざまな報道がなされており,障害そのものは社会的にも認知され始めている。しかし,地域で働く私たちはその対応の困難さから支援に限界を感じることもある。「私たちに何ができるのだろうか?」と思い悩む保健師も多いのではないだろうか。そんなとき,この1冊に出会うことができた。

 本書を読み終えた後の率直な感想は,発達障害に“未来,将来”を感じたということだ。厳しい現実も十分理解している。決して楽観視しているわけではない。しかし,温かい感情が心に残った。

 本書において著者は,まず発達障害に対する「理解の大切さ」を訴えている。そして,支援者ができることとして,「self-esteemの低下を防ぐこと」「障害を才能へと導くこと」の重要性を繰り返し語っている。これは著者が小児科医,行政官として,また民間での活動をとおしての広い視野と豊富な経験から,常に発達障害児・者に寄り添い学んできたものなのだろう。全編をとおして著者の発達障害児・者,家族を温かく見守る姿勢が貫きとおされている。また,関係機関の役割を深く理解し連携してきたからこそ,絶妙な支援の方法を編み出してこられたのだと思う。

 本書は乳幼児期から成人期にかけてライフステージごとにポイントを押さえ,日常生活で遭遇すると考えられる場面設定のなかで,「支援者としてできること」が具体的に記されている。子どもについては乳幼児健診・就学時健診,幼稚園・学校での対応,思春期・成人期においてはいじめや性の問題,就職における面接,障害告知の問題,パートナーにどのように障害を伝えるかなど,大切だがいままで触れられなかったこともきちんと書かれている。ツールの紹介もあり,今日からすぐ使える技や工夫が満載されている。

 読み進めていくと,いつの間にか頭のなかがすっきりと整理されている。専門的知識として必要な診断基準や治療についても網羅されており,豊富な事例も掲載され,160ページのなかにエッセンスが凝縮されている。後段では法律の押さえもしてある念の入れようだ。

 本書は巻末の「耳を澄ましてください」というセクションで締めくくられている。私たちが障害を理解することの必要性,同じ人間として生きていくことの大切さを本書では最後まで訴えかけてくる。穏やかな語り口調の文章ながら,社会をも動かしていこうとする著者の強い意思が感じられる。私も「何かできるのではないか。いや,何かやらなければ」と思った。示唆に富んだ,勇気を与えられた1冊である。

 私たち保健師に著者のエールは届いた。支援者が壁にぶつかったときにも著者の熱い思いが心の支えとなるだろう。悩める支援者の手元にぜひおいてほしい。

(『保健師ジャーナル』2009年1月号掲載)
発達障害を持つ子どもの支援を行うすべての人に
書評者: 五十嵐 隆 (東大大学院教授・小児科学)
 秋葉原での無差別殺人事件などに象徴される現代の若者が起こす重大事件の原因は単純ではありません。しかしながら,若者が起こす重大事件の原因の一つに,現代社会における人間関係の希薄化現象が深く関係していることが指摘されています。このような社会現象はわが国固有の問題ではなく,先進諸国に共通した問題になっています。

 先進諸国の中でも特にわが国では子どもや青年を育てる地域や社会のシステムが数十年前に比べ本当に貧弱になってしまいました。わが国ではこのような子育てや教育のシステムにおける多様性がもともと少なかったことが問題でしたが,その傾向はさらに強まってきています。

 一方,家庭内においても,親が子どもと一緒に過ごす時間が減っていること,子育てにメディアが入り込みすぎていること,子どもたちのコミュニケーション能力が著しく低下していることなどが問題視されています。時間と手をかけて個性や能力に応じてじっくり腰を据えて子どもや若者を育て上げるシステムが日本の家庭内だけでなく社会全体においても崩壊しつつあることは実に憂慮すべき問題です。子育てをする親への国からの経済的支援や子どもの教育にかける国家予算のGDPに占める割合が,OECD加盟28か国中わが国が最下位であることもこうした傾向と無関係とは言えないかもしれません。

 現在の子どもの人口の7%とも10%とも言われている発達障害の子どもたちのことが医療・保健や教育の現場で問題になっています。これまでは発達障害の子どもや青年に対する医学的・社会的認識が低く,問題として認識できなかったことも事実ですが,発達障害の子どもの数が以前よりも増加あるいは顕在化してきたことも事実のようです。このような傾向は現代日本における社会の変化と関係していることも指摘されています。

 確かに発達障害の子どもや青年に対する医療や社会での認識は以前に比べると深まってきました。しかしながら,発達障害と医学的に正しく診断されることが遅れたり,正しく診断はされたが本人と家族に対して医学的な対応が不十分であったり,保健・福祉や教育の現場での発達障害の子どもへの支援が十分に行われていないなど,実際には現場ではさまざまな問題が残されています。

 本書の著者は,長年にわたり多数の発達障害の子どもとその親を治療し支援しています。著者の豊富な臨床経験,アイデア,確固たる信念,そして発達障害の子どもや青年とその家族に対する深い愛情が本書にはあふれています。発達障害の子どもがそのライフサイクルに応じて遭遇するさまざまな問題と支援の具体的方法など,地域の保健現場で役に立つ貴重な情報を本書から得ることができます。発達障害の子どもが自分の「障がい」を正しく認識した上で,自分自身にself esteemを持ち,一人の社会人として自信を持って社会の中で生きていくことができるようにすることが著者の願いであり,この本の重要なコンセプトになっています。発達障害の子どもたちを理解し,支援を行っている保健・福祉・医療に関係するすべての方にぜひとも本書をお薦めしたいと思います。

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