3D画像で学ぶ人体[動画CD-ROM付]
3次元画像で人体の立体的な構造をイメージできる新しいテキスト
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CT撮影による3次元画像を用いた解剖学テキスト。解剖実習を行わない看護学生・医療系学生でも、人体の立体的な構造をイメージすることができる。付属のCD-ROMには、立体的な構造を回転させるものや、内視鏡のように奥へのぞき込むもの、体表面から深部までを徐々に透かして見るものなど、多くの動画を収録。イラストや模型ではなく、血の通った「実物」で人体のしくみを学ぶことができる。 Windows Vista 版 Internet Explorer 7 をご使用のお客様は,こちらをご参照ください。 ※Windows 7 版 Internet Explorer 9 は動作対象外となります。
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- 序文
- 目次
- 書評
- 正誤表
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序文
開く
はじめに
医・歯学生向け,看護学生向け,医療系学生向けに,さまざまな解剖学の教科書やアトラスが出版されている。もちろん解剖学の最も優れた教育方法は,過去も未来にも肉眼解剖実習であることは疑いの余地がない。しかし,医・歯学系以外ではこの機会に恵まれていない。通常は,模型やイラスト,写真などで人体の構造を学ぶことになるが,いかに精巧な模型やイラストでも,抽象化されたものである。さらに模型は非常に高価で,学生1人ひとりがいつでもどこでも手にして学習できるものではない。プラスチネーションはすばらしいが,特別な機会でないと見ることはできない。解剖体の写真をいかにくふうしても,立体感がない。
ここ数年,臨床現場で導入されている画像診断技術は非常に進歩している。検出器の性能の向上はもとより,コンピューターを用いたデジタル画像処理技術の進歩により,患者にも医師にも負担が少なく,より正確に,わかりやすく診断できるようになっている。この画像処理技術を診断だけではなく,解剖学の教育に応用しようと考えたのが本書である。
本書では,フィリップス社製マルチスライスCT Brilliance40およびフィリップス社製MRI Intera 1.5を使用して3次元画像を構築し,図版として掲載した。共著者は,検査と画像処理を担当している現役の技師である。また,付属のCD-ROMには,立体的な構造を回転させる動画や体表面から深部までを順次描出する動画,内視鏡のように奥へ奥へのぞいていくような動画を多数収録した。これらは,臨床医が診断する際に見ている画像や動画そのものであり,臨床に直結するものであると言える。また,日常の診療では用いないが,人体構造の理解のたすけとなる新規の画像表現についても多数試みた。画像の解像度は非常に高度であり,0.5mmの血管内腔の病変をも明瞭に識別でき,骨の微細な突起についてもありのままに見ることができる。本書の画像と動画は模型やイラストではなく,血の通った「実物」である。字数の制約のため,すべてを解説できなかったのは残念だが,百聞は一見にしかず,素晴らしい画像をぜひともご覧いただきたい。
本書とパソコンがあれば,いつでもどこでもくり返し自分のペースで学習できる。これらの画像と動画は,解剖実習の機会のない看護学生や医療系学生が,人体の構造,とくに骨格,臓器,血管,神経系を立体的に理解するたすけになると確信している。本文やコラムには,勉強のコツや臨床医学的なトピックスを収載したので,参考にして欲しい。本書では,医療の実際,たとえば冠動脈バイパスや人工肛門などの症例も紹介している。学生だけではなく,医療現場ではたらいているスタッフの方にもおおいに参考になると期待している。
本書の出版においては,和歌山南放射線科クリニックの寺田正樹先生と岡尚嗣先生のご高配をいただいた。画像処理技術はAZE社のご協力をいただいた。また,医学書院看護出版部のバックアップをいただいた。この場をお借りして謝意を申し上げます。
2008年11月 上山敬司・中川克二
医・歯学生向け,看護学生向け,医療系学生向けに,さまざまな解剖学の教科書やアトラスが出版されている。もちろん解剖学の最も優れた教育方法は,過去も未来にも肉眼解剖実習であることは疑いの余地がない。しかし,医・歯学系以外ではこの機会に恵まれていない。通常は,模型やイラスト,写真などで人体の構造を学ぶことになるが,いかに精巧な模型やイラストでも,抽象化されたものである。さらに模型は非常に高価で,学生1人ひとりがいつでもどこでも手にして学習できるものではない。プラスチネーションはすばらしいが,特別な機会でないと見ることはできない。解剖体の写真をいかにくふうしても,立体感がない。
ここ数年,臨床現場で導入されている画像診断技術は非常に進歩している。検出器の性能の向上はもとより,コンピューターを用いたデジタル画像処理技術の進歩により,患者にも医師にも負担が少なく,より正確に,わかりやすく診断できるようになっている。この画像処理技術を診断だけではなく,解剖学の教育に応用しようと考えたのが本書である。
本書では,フィリップス社製マルチスライスCT Brilliance40およびフィリップス社製MRI Intera 1.5を使用して3次元画像を構築し,図版として掲載した。共著者は,検査と画像処理を担当している現役の技師である。また,付属のCD-ROMには,立体的な構造を回転させる動画や体表面から深部までを順次描出する動画,内視鏡のように奥へ奥へのぞいていくような動画を多数収録した。これらは,臨床医が診断する際に見ている画像や動画そのものであり,臨床に直結するものであると言える。また,日常の診療では用いないが,人体構造の理解のたすけとなる新規の画像表現についても多数試みた。画像の解像度は非常に高度であり,0.5mmの血管内腔の病変をも明瞭に識別でき,骨の微細な突起についてもありのままに見ることができる。本書の画像と動画は模型やイラストではなく,血の通った「実物」である。字数の制約のため,すべてを解説できなかったのは残念だが,百聞は一見にしかず,素晴らしい画像をぜひともご覧いただきたい。
本書とパソコンがあれば,いつでもどこでもくり返し自分のペースで学習できる。これらの画像と動画は,解剖実習の機会のない看護学生や医療系学生が,人体の構造,とくに骨格,臓器,血管,神経系を立体的に理解するたすけになると確信している。本文やコラムには,勉強のコツや臨床医学的なトピックスを収載したので,参考にして欲しい。本書では,医療の実際,たとえば冠動脈バイパスや人工肛門などの症例も紹介している。学生だけではなく,医療現場ではたらいているスタッフの方にもおおいに参考になると期待している。
本書の出版においては,和歌山南放射線科クリニックの寺田正樹先生と岡尚嗣先生のご高配をいただいた。画像処理技術はAZE社のご協力をいただいた。また,医学書院看護出版部のバックアップをいただいた。この場をお借りして謝意を申し上げます。
2008年11月 上山敬司・中川克二
目次
開く
第1章 体幹部
A 体幹の構造
B 頸椎
C 胸椎
D 腰椎
E 腰髄
第2章 頭頸部と脳
A 頭蓋の構造(正面)
B 頭蓋の構造(側面)
C 外頭蓋底
D 内頭蓋底
E 環椎・軸椎
F 頭部の血管(外頸動脈の枝)
G 内頸動脈
H 椎骨動脈
I トルコ鞍周囲
J 脳の血管
K 大脳動脈
L 脳室
M 脳
第3章 顔と頸部
A 上部の呼吸器系
B 頸部の血管
C 顔・頸部の呼吸器系・血管系
D 耳
E 外耳
F 喉頭軟骨
G 声門・喉頭
第4章 胸部
A 胸郭と肺野
B 気管支・肺分画
C 縦隔内の構造
D 大動脈
E 心臓
F 肺動静脈
G 乳腺・大胸筋
H 鎖骨下
第5章 骨盤と腹部
A 骨盤
B 腹部の筋
C 腹部臓器と消化管
D 消化管内部
E 肝・胆・膵
F 門脈
G 腎臓
H 尿管
I 骨盤臓器
第6章 上肢
A 上肢帯
B 前腕の皮静脈
C 肘
D 前腕
E 手掌・手関節
F 手指の屈筋・伸筋
G 上肢の動脈
第7章 下肢
A 股関節・大腿骨
B 下肢の動脈
C 鼠径部・大腿三角
D 大腿骨下端
E 脛骨上端
F 下腿
G 膝関節
H 足骨
I 足背・足底
索引
A 体幹の構造
B 頸椎
C 胸椎
D 腰椎
E 腰髄
第2章 頭頸部と脳
A 頭蓋の構造(正面)
B 頭蓋の構造(側面)
C 外頭蓋底
D 内頭蓋底
E 環椎・軸椎
F 頭部の血管(外頸動脈の枝)
G 内頸動脈
H 椎骨動脈
I トルコ鞍周囲
J 脳の血管
K 大脳動脈
L 脳室
M 脳
第3章 顔と頸部
A 上部の呼吸器系
B 頸部の血管
C 顔・頸部の呼吸器系・血管系
D 耳
E 外耳
F 喉頭軟骨
G 声門・喉頭
第4章 胸部
A 胸郭と肺野
B 気管支・肺分画
C 縦隔内の構造
D 大動脈
E 心臓
F 肺動静脈
G 乳腺・大胸筋
H 鎖骨下
第5章 骨盤と腹部
A 骨盤
B 腹部の筋
C 腹部臓器と消化管
D 消化管内部
E 肝・胆・膵
F 門脈
G 腎臓
H 尿管
I 骨盤臓器
第6章 上肢
A 上肢帯
B 前腕の皮静脈
C 肘
D 前腕
E 手掌・手関節
F 手指の屈筋・伸筋
G 上肢の動脈
第7章 下肢
A 股関節・大腿骨
B 下肢の動脈
C 鼠径部・大腿三角
D 大腿骨下端
E 脛骨上端
F 下腿
G 膝関節
H 足骨
I 足背・足底
索引
書評
開く
学習者の変容を促す新しい解剖学教材の出現 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 世古 美恵子 (東三河看護専門学校副校長)
今年もまた新入生を迎えている。新入生にとり専門用語は外国語を学ぶごとく,自身が自在に使えるようになるまでで四苦八苦している。とりわけ,看護学生が最初に遭遇する専門基礎分野としての『解剖学』は興味深くもあるようだが,学生たちにとり最初の関門であることは確かなようである。
しかし,難関にさせている状況は,必ずしも彼らたちに問題があるとはいえない。イメージができないため,知識(用語)が情報として組み入れにくいのである。
医学生たちのように,解剖実習があるわけではない。多くは教材として模型やイラスト,写真などで人体の構造を学ぶことになるが,解剖学の参考書も最近では多彩になったとはいえ,解剖の写真は平面的で抽象的である。また人体模型は高価の割には扱いにくく,学習の場に応じた活用という点で難がある。このような難点を払拭したのが,本書である。こんな教材がほしかったと,本書と出会い,そう思っている。
本書は診断機能として進歩したコンピュータを用いたデジタル画像処理技術を解剖学に応用させたものである。本書はマルチスライスCT画像とMRI画像を用いて3次元画像を構築し,図版として掲載されている。3次元画像は静止画像より,動画にすることにより存在意義がある。図版は付属のCD-ROMに立体的な構造を回転させた動画や内視鏡が体内に挿入されていくような動画に収録され,本書と併せ使うと興味は尽きない。
本書は1章(体幹部)から7章(下肢)に構成され,当然のことながら,付属CD-ROMもそれに対応している。マルチCTで得られたスライス断面のデータを画像処理することにより,身体を2次元(矢状断面・冠状断面・水平断面等)または3次元(3D)に画像を構築することができる。画像の解像度は大変高度であり,身体各部(骨・血管・臓器)の微細な解剖(病変)についても鮮明に観察(診断)することができ,身体各部の全体性や系統性を見てとることができる。「実物」の人体を目の当たりにし,「これはどうなっているのだろう」と,次から次へと疑問が湧いてくる。
本書は,単に解剖学としての参考書にとどまらず,機能障害・不全に陥ったときなどの,臨床で遭遇する気管切開や冠動脈バイパスなどが取り挙げられ,活用範囲は極めて広い。また,掲載されている「コラム」は無条件におもしろい。初学者ばかりでなく,「なるほど!」と思わず手を打ちたくなるものもあり,解剖学に親しみを覚えるのである。
本書のような「実物」を3次元画像として視覚的に捉え,理解させようとする解剖学の出現は,それを学習者が手にするとき,大きな変容が起こるに違いないと確信するのである。
(『看護教育』2009年9月号掲載)
実存する人体の構造を画像でいかに表現するか
書評者: 坂井 建雄 (順大教授・解剖学)
解剖図 anatomical illustrations には,ヴェサリウスの『ファブリカ』(1543)以来の長い歴史がある。木版画から始まり,16世紀後半から18世紀までの銅版画,19世紀のリトグラフと木口木版画を経て,20世紀の写真製版による解剖図に至るまで,印刷技術の発展は解剖図のあり方に大きな影響を与えた。21世紀のコンピューターによる情報技術が可能にした驚異的な解剖図は,『プロメテウス解剖学アトラス』(医学書院,2007-2009)の中に見ることができる。人体のあらゆる構造について,理想の姿を追究して画像化したものである。基盤となる骨格の上に,筋,血管,神経,内臓,中枢神経などの構造が歪みなく積み重ねられ,さまざまな角度から描かれている。一つひとつの図に,誰かが描いたという人為を感じさせない,自然の表情が表現されている。アルビヌスの『人体骨格筋肉図』(1747)も,同様に理想の人体を追究した解剖図譜であり,銅版画による解剖図の最高傑作と目されている。解剖図の歴史については,拙著『人体観の歴史』(岩波書店,2008)を参考にしていただきたい。
人体解剖図の歴史には,理想の姿を求めるものと対極にあるもう一つの伝統がある。それは,実在する人体の構造を求めるものである。いくら詳細に描いたとしても,理想を追究すれば絵空事になってしまう。実際に存在するのは,個性豊かな一人ひとりの人間の身体である。銅版画の解剖図ではビドローの『人体解剖学105図』(1685),最近のものでは解剖体の写真を用いたローエン・横地らの『解剖学カラーアトラス』(医学書院,2007)などが,この方向を追究したものである。しかしこれらの解剖図に描かれているのは,死んだ身体であり,生きている人間の身体ではない。それが,実在の人体を描こうとする解剖図の抱える大きな問題点であった。しかし現代の画像診断技術は,この障害を乗り越えることで,生きている人間の身体を解剖図として描くことを可能にした。前置きが長くなってしまったが,ここに紹介する『3D画像で学ぶ人体』は,そのような歴史的な意義をもつ書物である。
本書には,CTとMRIのマルチスライスイメージから再構成された3次元の画像をもとにした,多数の解剖図が掲げられている。骨格を取り出したもの,造影剤を入れた血管系を取り出したもの,3次元の画像の中に断面図をはめ込んだもの,臓器の輪郭線を手作業で同定し再構成したものなど,手段を尽くして,さまざまな種類の器官を描き出している。どの画像にも,実在する人体からとられた緊張感がにじみ出ている。付録として添えられたCD-ROMは,再構成された3次元画像を動画として見せてくれるもので,紙面に印刷された画像だけではわからない立体感が得られ,さらに大きな迫力がある。
本書の内容は7章に分かれている。「体幹部」「頭頸部と脳」「顔と頸部」「胸部」「骨盤と腹部」「上肢」「下肢」と全身を網羅している。掲載されている画像は,骨格,血管,中枢神経については質・量ともに充実しているが,内臓,骨格筋,末梢神経については物足りなさを感じる。これは画像診断の技術がもつ,そもそもの制約によるものである。
そして本書の画像の最大の特徴は,生理的および病的を含め,変異を含む人体の構造がそのまま表現されているところである。気管は拡張して彎曲している。椎骨動脈は左右で太さが異なり,右は第4頸椎で横突孔に入っている。冠状動脈にはバイパス術が行われている。腰椎が6個ある。これらは解剖学教育の一般的な教材としては使いにくい点である。しかし,人体は実際にはこのように変異に富むものだという大切な教訓を与えてくれる。
画像診断をもとにした,生きている人体の解剖図が現れた。掲載されている画像は,これまでの解剖図では得られない実在感を漂わせている。これをどう使い,どのように医療や医学教育に生かしていくか,それこそ現代の医学者に突きつけられている大きな課題ではないだろうか。
書評者: 世古 美恵子 (東三河看護専門学校副校長)
今年もまた新入生を迎えている。新入生にとり専門用語は外国語を学ぶごとく,自身が自在に使えるようになるまでで四苦八苦している。とりわけ,看護学生が最初に遭遇する専門基礎分野としての『解剖学』は興味深くもあるようだが,学生たちにとり最初の関門であることは確かなようである。
しかし,難関にさせている状況は,必ずしも彼らたちに問題があるとはいえない。イメージができないため,知識(用語)が情報として組み入れにくいのである。
医学生たちのように,解剖実習があるわけではない。多くは教材として模型やイラスト,写真などで人体の構造を学ぶことになるが,解剖学の参考書も最近では多彩になったとはいえ,解剖の写真は平面的で抽象的である。また人体模型は高価の割には扱いにくく,学習の場に応じた活用という点で難がある。このような難点を払拭したのが,本書である。こんな教材がほしかったと,本書と出会い,そう思っている。
本書は診断機能として進歩したコンピュータを用いたデジタル画像処理技術を解剖学に応用させたものである。本書はマルチスライスCT画像とMRI画像を用いて3次元画像を構築し,図版として掲載されている。3次元画像は静止画像より,動画にすることにより存在意義がある。図版は付属のCD-ROMに立体的な構造を回転させた動画や内視鏡が体内に挿入されていくような動画に収録され,本書と併せ使うと興味は尽きない。
本書は1章(体幹部)から7章(下肢)に構成され,当然のことながら,付属CD-ROMもそれに対応している。マルチCTで得られたスライス断面のデータを画像処理することにより,身体を2次元(矢状断面・冠状断面・水平断面等)または3次元(3D)に画像を構築することができる。画像の解像度は大変高度であり,身体各部(骨・血管・臓器)の微細な解剖(病変)についても鮮明に観察(診断)することができ,身体各部の全体性や系統性を見てとることができる。「実物」の人体を目の当たりにし,「これはどうなっているのだろう」と,次から次へと疑問が湧いてくる。
本書は,単に解剖学としての参考書にとどまらず,機能障害・不全に陥ったときなどの,臨床で遭遇する気管切開や冠動脈バイパスなどが取り挙げられ,活用範囲は極めて広い。また,掲載されている「コラム」は無条件におもしろい。初学者ばかりでなく,「なるほど!」と思わず手を打ちたくなるものもあり,解剖学に親しみを覚えるのである。
本書のような「実物」を3次元画像として視覚的に捉え,理解させようとする解剖学の出現は,それを学習者が手にするとき,大きな変容が起こるに違いないと確信するのである。
(『看護教育』2009年9月号掲載)
実存する人体の構造を画像でいかに表現するか
書評者: 坂井 建雄 (順大教授・解剖学)
解剖図 anatomical illustrations には,ヴェサリウスの『ファブリカ』(1543)以来の長い歴史がある。木版画から始まり,16世紀後半から18世紀までの銅版画,19世紀のリトグラフと木口木版画を経て,20世紀の写真製版による解剖図に至るまで,印刷技術の発展は解剖図のあり方に大きな影響を与えた。21世紀のコンピューターによる情報技術が可能にした驚異的な解剖図は,『プロメテウス解剖学アトラス』(医学書院,2007-2009)の中に見ることができる。人体のあらゆる構造について,理想の姿を追究して画像化したものである。基盤となる骨格の上に,筋,血管,神経,内臓,中枢神経などの構造が歪みなく積み重ねられ,さまざまな角度から描かれている。一つひとつの図に,誰かが描いたという人為を感じさせない,自然の表情が表現されている。アルビヌスの『人体骨格筋肉図』(1747)も,同様に理想の人体を追究した解剖図譜であり,銅版画による解剖図の最高傑作と目されている。解剖図の歴史については,拙著『人体観の歴史』(岩波書店,2008)を参考にしていただきたい。
人体解剖図の歴史には,理想の姿を求めるものと対極にあるもう一つの伝統がある。それは,実在する人体の構造を求めるものである。いくら詳細に描いたとしても,理想を追究すれば絵空事になってしまう。実際に存在するのは,個性豊かな一人ひとりの人間の身体である。銅版画の解剖図ではビドローの『人体解剖学105図』(1685),最近のものでは解剖体の写真を用いたローエン・横地らの『解剖学カラーアトラス』(医学書院,2007)などが,この方向を追究したものである。しかしこれらの解剖図に描かれているのは,死んだ身体であり,生きている人間の身体ではない。それが,実在の人体を描こうとする解剖図の抱える大きな問題点であった。しかし現代の画像診断技術は,この障害を乗り越えることで,生きている人間の身体を解剖図として描くことを可能にした。前置きが長くなってしまったが,ここに紹介する『3D画像で学ぶ人体』は,そのような歴史的な意義をもつ書物である。
本書には,CTとMRIのマルチスライスイメージから再構成された3次元の画像をもとにした,多数の解剖図が掲げられている。骨格を取り出したもの,造影剤を入れた血管系を取り出したもの,3次元の画像の中に断面図をはめ込んだもの,臓器の輪郭線を手作業で同定し再構成したものなど,手段を尽くして,さまざまな種類の器官を描き出している。どの画像にも,実在する人体からとられた緊張感がにじみ出ている。付録として添えられたCD-ROMは,再構成された3次元画像を動画として見せてくれるもので,紙面に印刷された画像だけではわからない立体感が得られ,さらに大きな迫力がある。
本書の内容は7章に分かれている。「体幹部」「頭頸部と脳」「顔と頸部」「胸部」「骨盤と腹部」「上肢」「下肢」と全身を網羅している。掲載されている画像は,骨格,血管,中枢神経については質・量ともに充実しているが,内臓,骨格筋,末梢神経については物足りなさを感じる。これは画像診断の技術がもつ,そもそもの制約によるものである。
そして本書の画像の最大の特徴は,生理的および病的を含め,変異を含む人体の構造がそのまま表現されているところである。気管は拡張して彎曲している。椎骨動脈は左右で太さが異なり,右は第4頸椎で横突孔に入っている。冠状動脈にはバイパス術が行われている。腰椎が6個ある。これらは解剖学教育の一般的な教材としては使いにくい点である。しかし,人体は実際にはこのように変異に富むものだという大切な教訓を与えてくれる。
画像診断をもとにした,生きている人体の解剖図が現れた。掲載されている画像は,これまでの解剖図では得られない実在感を漂わせている。これをどう使い,どのように医療や医学教育に生かしていくか,それこそ現代の医学者に突きつけられている大きな課題ではないだろうか。
正誤表
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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。
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