看護における理論構築の方法

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理論構築に至る過程を段階ごとにわかりやすく述べ、そこで必要となる思考法・発想法や研究方法について解説。また、章末の練習問題で内容理解を確認できる構成になっている。基本事項を丁寧に説明しており、初学者はもとより「現実への適合性が高い理論をいかに開発するか?」という課題に取り組む研究者にも欠かせない1冊。
【関連記事】 〔研究ノート〕 研究活動に不可欠となる基盤 『看護における理論構築の方法』 『フォーセット看護理論の分析と評価』の活用 (江本リナ ・ 川名るり) (雑誌『看護研究』2009年08月号掲載)
中木 高夫 / 川崎 修一
発行 2008年07月判型:A5頁:336
ISBN 978-4-260-00688-0
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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訳者まえがきはじめに

訳者まえがき
 本書は,Lorraine Olszewski WalkerとKay Coalson Avantによる『Strategies for Theory Construction in Nursing, 4th edition』(Pearson/Prentice Hall)の全訳です。
 Walker教授とAvant教授はかつてテキサス大学オースティン校で一緒に教鞭をとっておられ,Avant教授は現在同じテキサス大学のサンアントニオ校に異動されています。
 本書はいままでに版を重ね,初版は1983年,第2版は1988年,第3版は1995年,そして本書第4版は2005年に出版されています。本書は初版以来,看護における理論開発に関する教科書として大学院の学生を中心に根強い支持を得てきました。そのことが第4版まで版を重ねることができた大きな原動力だったと思われます。もちろん,本書の内容がそれだけ素晴らしいことは言うまでもありません。
 本書はかつて日本赤十字看護大学大学院修士課程の教育のなかで黒田裕子教授(現北里大学)がテキストとして使用されていたもので,現在の日本赤十字看護大学の准教授の中核となっている人たちからはこの本によって看護理論の学習を深めたと聞いています。
 ところで,わたしはAvant教授の名前を実は本書を通じて知っていたわけではありませんでした。彼女は2000-2002年の北米看護診断協会(NANDA)の理事長の職を務められ,NANDAの改革の牽引者となられていました。わたしは隔年に出版される『NANDA看護診断―定義と分類』(医学書院刊)という小冊子の翻訳を長年にわたって携わってきたので,そうしたなかで彼女の名前を知り,彼女の勤務先のホームページを見て,あのAvantとこのAvantとが同じ人物だったのかと驚いた次第です。
 本書については,とくに概念分析の部分を読み,ぜひいまの大学院生のために翻訳したいと思ったのですが,出版を引き受けてくれる出版社がなく,残念に思っていました。
 そうしたときに2008年の第14回日本看護診断学会学術大会の会長を拝命し,ぜひAvant教授を招聘したいと思い,超多忙なところをこれまでの友人関係から実行委員長を引き受けてくれた黒田裕子先生に相談したところ,いま日本の看護師に求められているのは中範囲理論だから,ぜひ招聘しましょうということになりました。Avant教授の快諾ののち,再びこの本を翻訳したいという思いが強くなり,30年来のお付き合いのある医学書院の七尾清さんに「来日を機になんとか」とお願いし,了解をとりつけることができました。編集担当には看護出版部3課の長岡孝さんと北原拓也さんがあたってくださり,いつまでたっても原稿があがらないところをなんとかうまく操縦して発刊にこぎつけてくださいました。
 さて,本書の翻訳にあたり,理論という難しそうなものを題材にしていることから,英語力に自信がない身としてはぜひ英語の専門家の力を借りたいと思い,若い同僚の川崎修一講師に声をかけ,手伝っていただけることになりました。Chapter1~2,12~13は中木が担当し,Chapter3~11は川崎先生にお願いしました。翻訳の途中で何度か相談をし,最終的には中木が責任をもって原稿の形にしました。
 また,Chapter6の末尾にある「初歩統計学の自己評価テスト」は日本赤十字看護大学で疫学・統計学を担当されている逸見功准教授に校閲していただきました。さらに,日本赤十字看護大学大学院博士後期課程の阿部利恵さんには,訳文の読みやすさなどについて意見をもらいました。
 翻訳にあたっては,大学院の学生が主な読者であろうと想定し,重要な単語は初出のところで英語も併記することにしました。また,本書では理論開発のマトリックスを構成する6つの重要な言葉があるのですが,それについては哲学や論理学から借用して,concept概念,statement立言,theory理論,synthesis統合,derivation導出,analysis分析と決めました。また,頻出するtheoristも普通なら理論家と訳すところですが,それではすでにできあがった高名な理論家をイメージしてしまうので,本書を利用して理論を構築しようとする者という意味を込めて「理論構築者」としました。
 さらに原書のゴシック体はそのままゴシック体に,“ ”は「 」に,イタリック体は〈 〉でくくるということを原則としました。
 さて,本書を手にされたみなさまにはどんな印象を持っていただけるでしょうか? 本書のなかにも書かれているように,米国では前の版と今回の版とのあいだの10年間に多くの概念分析に関する論文が公刊され,理論分析に基づく改訂版が出版されるようになりました。おそらくその原動力の一端は本書にあるに違いありません。わたしたち翻訳者は日本においても同じような動きが起こることを期待しています。日本でも大学院が続々とできてきているのですから。

 2008年6月
 訳者を代表して 中木高夫


はじめに
 本書の目的は,初版以来変わらず,看護の視点から書かれた理論開発の方法を読者に提供することです。とくに,理論開発に関して初心者である学生のニーズに焦点を合わせるようにわたしたちは努めてきました。このテーマに関する複雑な哲学的作業に踏む込むことは,こうした主題を経験したことのない人たちにとっては混乱を招くことになりかねません。わたしたちは,そうはならないように,読者が理論開発の旅を始めるために用いる基本となるものを提供するようにしてきました。そのような情報が役に立つというわたしたちの信念を裏づける多くの意見を学生のみなさんからいただいています。わたしたちは本書が主に大学院で使用されることを想定しています。しかし,学士課程でも,学生が自分自身の実践モデルを組み立てるための課程である専門課程の3,4年生の科目で用いる内容を見つけるかもしれません。さらに,文献の引用による根拠で証拠づけられていることから,理論に基づく研究の科目を進めるうえで本書が有用であることを多くの看護師が見出しています。
 この第4版でわたしたちは従来から引き続くテーマと新しく加える革新とのバランスをとるようにしました。そのため,理論開発における基礎となる業績の多くは以前に書かれているので,読者のみなさんはこの版のなかに含まれている多くの古典的著作をすぐに見つけ出すことができるでしょう。発表年が古いということでそうした業績を排除するのは学問的に不誠実です。また同時に,わたしたちは看護師によって行われた最新の萌芽的な理論開発の業績を組み込むようにしました。そのため,以前の版から多くの文献がゴミ箱に追いやられる一方で,多くの新しい題材が加えられました。
 本書の各Partのはじめにある導入の小文に関してはみなさんから好意的なご意見をいただきました。そこで,それらはそのまま残したので,本書の5つのPartのそれぞれに対する短い導入として参考にしていただくことをお勧めします。また,わたしたちのより個人的な意見をお届けするために,各Chapterのはじめに「メモ」を加えました。これはわたしたちがそうする必要があると考えたからです。そしてそれがそのChapterをより魅力あるものにしていることを,読者のみなさまに気づいてほしいと願っています。
 またわたしたちは,より理解しやすい順序になるように,方法に焦点を合わせた各Chapter(Chapter3からChapter5)の順序を以前の版とは変更しました。したがって,統合synthesisに基礎をおく方法が最初になり,そのあとを導出derivation,そして分析analysisに基礎をおく方法が続くようになりました。順序を変更したのには2つの理由があります。第1に分析よりも統合のほうが実際に学びやすい方法だと思ったからです。第2に過去数年間は多くの概念分析や理論分析が行われてきたからです。看護学を発展させるためには,いまも将来も,統合や導出がより多く必要とされていると思います。さらに,統合の方法を優先して説明することで,看護実践の基礎としての革新的な根拠に基づく概念conceptや立言statement,そして理論theoryを発展させる一助となることを筆者らは望んでいます。
 最後のChapter13では,この第4版において新たな転換を行い,わたしたちが理論開発の最先端と呼んでいることに焦点を合わせました。ここでは,わたしたちが広範囲にわたって重要であると判断した話題,すなわち国際看護理論international nursing theoryおよび民族性関連看護理論ethnicity-related nursing theoryから始まります。そして,ともに発展してきた領域である看護情報学nursing informaticsと根拠に基づく実践 evidence-based practiceについて簡単に触れることで終わります。看護理論の国際的な視点に興味を抱く米国の看護師だけでなく,とくに全世界の読者のみなさんがこのChapterに興味を持ってくださることをわたしたちは望んでいます。わたしたちの調査では,国際的な看護理論の開発に関する同じような考えを見つけることはできませんでした。
 本書の舞台裏で貢献してくださった多くの人たちにお礼を言うとともに,Prentice Hall社の社員のみなさま,とくにYesenia KoppermanとSladjana Repic, Cindy MillerやTrish FinleyをはじめとするCarlisle Communications社の職員のみなさま,原稿整理編集者のSharon O'Donnellにお礼を申し上げます。また,本書の校閲をしてくださった以下の方々に感謝いたします。
Pattie G. Clark, RN, MSN
 Associate Professor of Nursing and Nursing Outreach Coordinator
 Abraham Baldwin College, Tifton, Georgia
Susan L. Fickett, RN, MSN
 Associate Professor, Saint Joseph's College, Department of Nursing
 Windham, Maine
Jean Haspeslagh, DNS, RN
 Associate Professor, University of Southern Mississippi
 Hattiesburg, Mississippi
Catherine B. Holland, RN, PhD, CNS, ANP, APRN-BC
 Associate Professor
 Southeastern Louisiana University, Baton Rouge, Louisiana
Elizabeth R. Lenz, PhD
 Dean and Professor
 The Ohio State University College of Nursing, Columbus, Ohio
Doris Noel Ugarriza, PhD
 Associate Professor, University of Miami School of Nursing
 Coral Gables, Florida

 わたしたちの個人的なつながりでは,以下の方々に特別に感謝をしています。冷静にインターネットにアクセスして情報を共有するだけでなく,複写し,ダウンロードし,プリントアウトすることに変わらず良心的な援助をしてくれたTim Walkerに感謝を。この作業やほかの多くの生活上のことのために宿舎を提供してくれたBob MedhurstとPauline Medhurstにこころからの感謝を。ほかの計画を犠牲にしてこの本に関する仕事のときに尽きることのない忍耐と勇気をくれたGayleにもたくさんの感謝を。

 Lorraine Olszewski Walker
 Austin, Texas
 Kay Coalson Avant
 Waco, Texas

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PART I 看護理論開発の概要
 CHAPTER 1 背景からみた理論開発
 CHAPTER 2 理論開発の要素・アプローチ・方法
PART II 概念開発
 CHAPTER 3 概念統合
 CHAPTER 4 概念導出
 CHAPTER 5 概念分析
PART III 立言開発
 CHAPTER 6 立言統合
 CHAPTER 7 立言導出
 CHAPTER 8 立言分析
PART IV 理論開発
 CHAPTER 9 理論統合
 CHAPTER 10 理論導出
 CHAPTER 11 理論分析
PART V 看護理論についての概観
 CHAPTER 12 概念,立言,そして理論の検証
 CHAPTER 13 看護理論開発と看護知識開発の最先端
索引

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看護師間の共通認識を深めるために,わかりあえる看護を導くガイドブック (雑誌『看護教育』より)
書評者: 京極 真 (社会医学技術学院)
 理論研究とは,さまざまな信念を持つ看護師たちが「わかりあえる」,そんな実践・理論を創りだせる可能性の方法である,と評者は考えている。特に現代医療はチーム・アプローチを抜きには成りたたないため,看護師間の共通認識を深めることは重要となる。

 しかしながら,医療界において,これまで理論研究の方法を包括的,体系的に論じた書籍は極めて少なかった。つまり,看護師たちの間でわかちあえる実践・理論を作ろうと思っても,具体的な作業手順が明確でなかったのである。本書は,理論構築の方法を具体的にかつ体系的に概説しており,こうした現状に風穴を開けるものといえよう。

 本書が示す理論構築の方法は9つ(概念統合,概念導出,概念分析,立言統合,立言導出,立言分析,理論統合,理論導出,理論分析)である。著者らは「ふさわしい理論構築方法を決定するために,理論を構築する者は,まず自分の関心領域が何であるのかを明らかにしておかなければならない」と論じ,目的に応じて適宜上記の9つの方法を活用していくよう強調している。

 具体的に説明すると,たとえば,ある看護研究者が「『ケア』という概念が曖昧なため,『ケアとは何か』を巡って,多くの看護師がわかりあえないでいる。看護師であれば誰もが了解できるような『ケア』の概念を構築したい」という研究目的を持ったとしよう。著者らの議論に従えば,この研究目的に応じて,上記の9つの方法から概念の洗練化に役立つ「概念分析」が選択されることになる。概念が洗練されれば,そのぶん多様な解釈が成りたつ余地が減るため,多くの人がわかりあえる可能性も増す。評者は,方法とは目的を達成するためのツールであると考えるため,方法を選択する根拠を研究目的に設定する本書の提案は極めて妥当であると考えている。

 ただし,本書はあくまでも理論構築の方法を示したものであり,構築された理論を“どのように執筆すれば,査読者や読者を納得させる内容に仕上げられるか”については言及していない。評者はこれまで多くの理論研究を志す人たちに助言してきたが,たいてい理論研究の初心者は論文を執筆する段階でつまずく。理論研究の論文執筆は,量的研究や質的研究とは異なるノウハウが必要になることがあるため,読者は理論論文の書き方についてはまた別に学ぶ必要があるだろう。

 とはいえ,本書の登場は,理論研究を実践するための,非常によくまとまった強力なツールを手に入れることができる,ということを意味するものであり,その意義は強調しすぎることはないだろう。読者が本書を使い勝手の良い道具として活用し,多くの看護師たちが「わかりあえる」ような実践・理論を構築していくことを期待したい。

(『看護教育』2008年11月号掲載)

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