作業療法学概論

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作業療法士を志す学生のための導入編として,作業療法士の資質と適性について多方面から詳細な解説を施した。また作業療法の定義や歴史,さらに作業療法の過程および領域ごとの典型的症例の紹介まで作業療法学全般についてわかりやすく解説。応用的内容として,医療経済にも踏み込んだ作業療法の管理・運営についても紹介。
シリーズ 標準作業療法学 専門分野
シリーズ監修 矢谷 令子
編集 岩崎 テル子
発行 2004年07月判型:B5頁:240
ISBN 978-4-260-26711-3
定価 4,180円 (本体3,800円+税)
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序章 作業療法学概論を学ぶ皆さんへ
第1章 専門職に求められる資質と適性
 GIO,SBO,修得チェックリスト
 I 作業療法士に求められる資質と適性
 II 専門職として学校で学ぶ知識・技術体系
 III 専門職の備えるべき条件
 IV チームアプローチ
 V EBMと作業療法
 本章のキーワード
第2章 作業療法とは
 GIO,SBO,修得チェックリスト
 I リハビリテーションの歴史と作業療法の位置づけ
 II 作業療法とは
 III 作業療法の歴史
 本章のキーワード
第3章 作業療法の過程
 GIO,SBO,修得チェックリスト
 I 作業療法の過程
 II 評価の利点および問題点の抽出
 III 治療・指導・援助計画の立案
 IV 作業療法の実施
 本章のキーワード
第4章 作業療法の実際
 GIO,SBO,修得チェックリスト
 I 身体機能分野における作業療法過程
 II 精神機能分野における作業療法過程
 III 発達過程分野における作業療法過程
 IV 高齢期分野における作業療法過程
 V 地域分野における作業療法過程
第5章 作業療法部門の管理・運営
 GIO,SBO,修得チェックリスト
 I 作業療法部門の管理・運営
 II 記録と報告
 III コスト意識をもつ―診療報酬と医療経済学
 IV 作業療法部門の開設
 本章のキーワード
作業療法教育への取り組みと今後の発展に向けて

さらに深く学ぶために
【資料】国際生活機能分類(ICF;国際障害分類改定版)
索引

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時代の変化の只中で作業療法士をめざす学生のための入門書
書評者: 渡辺 邦夫 (帝京医療福祉専門学校・作業療法科長)
◆臨床・教育・研究の3つの視点からバランスよく

 本「標準作業療法学」シリーズは,1999年に改訂された作業療法教育課程の「大綱化」に準拠した作業療法専門分野の教科書である。特徴は,時代の変化に敏感な教科書をめざしていること,学生の主体的な学習を促し,学ぶ喜びを重視すること,学生が到達すべき「一般教育目標」と具体的な「行動目標」を各章に明記し,それらに対する「修得チェックリスト」を設けたことなどである。

 シリーズの手はじめの1冊が本書である。編者の岩崎テル子先生は,臨床と教育と研究の3つの仕事をバランスよく実践している大先輩である。本書の序文には,作業療法の道筋が分かりやすく説明され,“作業療法士になりたい”という意気込みをしっかり動機付けするという目標が記されている。そのバランス感覚は本書の各所にちりばめられ,執筆陣もそれに沿って腕を振るっている。

 本書の構成は,5章からなる。

 第1章「専門職に求められる資質と適性」では,近年の利用者中心主義の考え方,作業療法士養成教育の変遷,多職種連携型のチームアプローチの重要性,EBMのあらましなどが要領よくまとめられている。

 第2章「作業療法とは」では,作業療法の起源と歴史を概観し,主として80年代以降のカナダおよびアメリカの「作業」の概念と「作業療法」の枠組みを基盤に,「個人と文化の両者にとって意味のある作業ができるようになること」が作業療法の真髄であることをダイナミックに主張している。また,この章でWHOの「国際生活機能分類」(以下,ICF)のあらましを説明し,巻末にはICFの第2分類を付している。この背景には,近年の作業療法の諸理論とICFとの相性がよく,日本作業療法士協会発行の『作業療法ガイドライン(2002年版)』もICFを採用していることなどがある。

 第3章「作業療法の過程」では,医療モデルと社会モデルの中間的な立場から作業療法の具体的な実践過程のあらましを説明している。また,執筆者の豊富な臨床経験に根ざしているためであろうか,臨床的な留意点や,多様で柔軟なアプローチの重要性が随所に説明されている。一方,第2章で展開された作業療法の理論との整合性が不十分で,「ねばならない」といった圧迫感のある表現が用いられ,違和感が残る点も見受けられる。

 第4章「作業療法の実際」では,身体障害,精神保健,発達,高齢期,地域の5分野の作業療法について事例を中心に説明している。この章は,受身的に読めばわかるわけではない。事例と作業療法の具体的な展開を理解するために,設問に沿って資料を調べること,共感的に思考力と想像力を活用することが求められている。

 第5章「作業療法部門の管理・運営」は,90年代以降の社会保障制度改革の基調と診療報酬・介護報酬・支援費制度などの動向とともに,臨床経済学による分析の知見が加えられている点が興味をひく。こうした視点から作業療法部門のマネジメントのポイント,作業療法士の自覚と責任,そしてコスト意識が強調されている。やや難解だが,学年が進んだ段階で,きっちりと押さえておくべき内容である。

◆変化の時代に戸惑う臨床現場の作業療法士にも

 本書は,時代の変化の只中で,作業療法士をめざしている学生のための入門書である。作業療法士養成施設では,他の類書と比較し,吟味しながら本書を活用することになるだろう。それと同時に,変化の時代に戸惑いを感じている臨床の作業療法士にとってもよき道標となるだろう。また,他の標準シリーズは手早い改訂で内容を充実し,多くの支持を得てきた。本シリーズも,変化を後追いすることなく,半歩先を行く先見性に磨きをかけ,コンパクトな体裁を保ち,よりわかりやすい教科書をめざしてほしい。

学生が作業療法士となるための出発点
書評者: 澤 俊二 (藤田保衛大リハビリテーション学科・作業療法士)
◆「よい教員」の役割

 毎年10校近い作業療法士の養成校が増え続けている昨今,教員のなり手がない,臨床実習地が足りない,卒前・卒後の教育が足りない,よって,作業療法士の質が低下しつつあるというように,ことあるごとに教育の危機が言われている。その通りであろうと思う。だからこそ,今,「よい学校」を作るべきではないかと思う。

 「よい学校」とは何か。「よい教員」がいるところが「よい学校」である。「よい教員」とは,学生の魂を揺り動かし,彼らのもつ秘めた可能性を引き出す教員のことであると考える。教員が,「よい教員」になる努力を懸命に行う。そして,作業療法教育において,新1年生に対して特に全力をあげて「作業療法学概論」をきちんと教えることこそが「よい教員」の役割として重要であると私は考えている。

 「作業療法学概論」は,学生が作業療法士となるための出発点であり,そこで学ぶ作業療法の歴史,広がり,理論,実践,そしてなにより,作業療法の面白さや魅力は,彼らの心を揺さぶり,自分で調べたり,見学に行ったりして実感することで,作業療法の核が育っていく。教員として,また先輩作業療法士として,一緒に悩み,考える機会は,白紙で新鮮な彼らの心に感動の波を起こす。「作業療法って何?」と聞かれて,胸を張って答えられる学生が育つ,それが,「作業療法学概論」である。また,長く臨床実習生を指導した経験から言えることは,臨床にかかわる者は次第に我見で作業療法を学生に語り,その偏りに気付かなくなってくる。だからこそ最新の「作業療法学概論」を紐解き,原点を学ぶことはたいへん重要であると思う。

◆作業療法に関する最新の知識を整理

 さて,今回,「標準作業療法学専門分野全12巻」のトップバッターとして,岩崎テル子氏の編集で『作業療法学概論』が登場した。近年では最新となる作業療法の概論である。学生のみならず,臨床に携わる若手の作業療法士にとっても,また私のように少々くたびれてきた作業療法士にとっても,作業療法に関する最新の知識を整理して得られ,かつ,作業療法を改めて考えることができる,刺激的な本である。

 第1章に,「専門職に求められる資質と適性」を持ってきている。この本の核であると思う。学生は,自分が作業療法士になる素質を持っているか不安に思っている。それに対して,専門職の備えるべき条件を示し,自分で考えるようにていねいに言葉を紡ぐ。チームアプローチの必要性を説き,さらに「EBMと作業療法」が登場し,わかりやすく説明がなされる。第2章で,「作業療法とは」がつなぐ。ここでは定義,歴史,理論の変遷を学ぶ。第3章の「作業療法の過程」で,ソフトに臨床に導入する。第4章の「作業療法の実際」で,それぞれの分野で事例をあげて,具体的に作業療法では何を目的に,何を行うのかを明らかにする。第5章で「作業療法部門の管理・運営」がくる。今までの概論で扱われなかった,給与などのコスト意識を持つためにはどうしたらよいかなど,臨床に即した視点で細かく数字をあげて,的確に管理・運営を述べている。臨床についている作業療法士もハッとする内容で参考になろう。ただ,介護保険制度における居宅介護支援事業所を法人格をもって立ち上げる作業療法士も多くなっている。居宅介護支援事業所の開設への言及を今後の版で希望する。そして巻末に,「さらに深く学ぶために」という項を設け,参考文献をあげて,自己学習が深まるように配慮している。

 本書は図が楽しい。そして,キーワードの説明がある。さらに,学ぶべき目標が定められている。全体に細やかな配慮がなされている。

 アメリカを代表する教育哲学者のデューイは,「教育が進歩しなければ社会も進歩しえない」と警告する。卒前・卒後教育において,本著を参考にして学ぶことで,一歩進歩した自分に至ると思う。

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