消化管の病理学

もっと見る

消化管疾患の診断と治療方針決定で病理診断は絶対的条件である。内視鏡医をはじめ臨床医は生検病理組織診断を自ら的確に行う能力が求められる。病理診断の正確さは臨床診断の能力向上にも大きく反映する。本書は口腔・食道疾患から大腸・肛門疾患に至るまで,代表的病理組織カラー写真がふんだんに用いられ,体系的に解説されている。
藤盛 孝博
発行 2004年05月判型:B5頁:264
ISBN 978-4-260-10361-9
定価 13,200円 (本体12,000円+税)
  • 販売終了

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 目次
  • 書評

開く

第1章 消化管生検診断の基礎
第2章 消化管の病理組織診断-口腔
第3章 消化管の病理組織診断-食道
第4章 消化管の病理組織診断-胃
第5章 消化管の病理組織診断-小腸
第6章 消化管の病理組織診断-大腸
第7章 消化管病理に必要な発生と正常組織
第8章 消化管病理に必要な基礎的染色法と遺伝子診断に関連する技術
文献一覧
あとがき
索引

開く

消化管全般にわたって,高度な内容を要領よく記載
書評者: 寺野 彰 (獨協医大学長)
 藤盛教授が「もうすぐ出ますよ」とにんまりして筆者に話しかけた時,「え?何が?」という返事に,「嫌だなあ。『消化管の病理学』ですよ。僕のライフワークなんだから。」と不満そうな顔だったのが2,3か月前のことである。「ああそうか。ついに出るのか。」というのが筆者の感想であった。確かに数年前から,同氏が“これまでとは根本的に違った独創的な消化管病理学のtextbookを出すのだ”と息巻いていたことは知っていた。このあたりのいきさつについては序文に詳しい。序文とあとがきを読むと,同氏の本書にかけた情熱が伝わってくる。同時に,本書の完成にはきわめて多くの人びとがかかわってきたことに驚きを禁じ得ない。藤盛教授の単著の形式を取ってはいるものの,これだけの人々が症例を提供し,病理標本を作製し,すばらしい写真をとり,本書に大きな貢献をしてきたらしいことがわかるし,氏もこの点に謙虚に深甚の意を表している。

◆内視鏡学と病理学の橋渡し

 さて,本書の特徴を筆者なりに(病理学の素人として)あげてみたい。

 まず第一に,口腔から肛門まで消化管全般にわたって高度な内容を非常に要領よく,研修医にもわかるような記載で一貫していることである。これは,最近多い多数の分担による著作と異なるところで,近年稀に見るものと言ってよいであろう。このことは,この数か月,ほとんど徹夜に近いような作業で,しかも好きな酒もほとんど断って1人で著述した氏の努力,根性の賜である。すべての消化管とはいっても,やはり氏の専門である大腸疾患に対する記載に迫力がある。

 第二の特徴は,非常にクリアな病理写真とともに,拡大内視鏡,色素内視鏡も含めて多くの内視鏡写真がちりばめてあることである。真偽のほどはともかく,同氏が内視鏡の達人であると自負していることが,本書を内視鏡学と病理学の橋渡しというこのユニークで独創的なtextbookにし得た所以であろう。事実,本書の核心は,内視鏡による生検やEMRなどによる標本を中心としたものである。これは,氏の術前の正しい診断の重要性の認識と,内視鏡診断治療への厳しさの表現ともとれるものである。

 第三の特徴は,氏の得意な分子病理学についての記載である。これには,本来氏がトップに持ってきたかったものを,理解しやすさをも含めて敢えて最後に持ってきたという氏の読者,特に小生へのいたわりのようなものを感じる。これから病理学をやろうという若き学徒への氏からのshyなmessageなのであろう。

◆随所に見られる細やかな配慮と学問への厳しい姿勢

 その他にも,例えば,消化管の発生,正常組織像アトラス,生検の取り方,依頼の仕方,標本作製などに至る細やかな配慮が伺えるのも本書の特徴といえる。病理標本の取り違えなどをどのように防ぐかという観点にも言及してあるが,病理学の責任から言えばきわめて重要なことで,もっと紙面を割いてもよかったかもしれない。今後の重要な課題である。文献は,巻末に565編の英文論文のみ紹介されている。この点も氏の学問に対する厳しい姿勢の表れと筆者は考えている。邦文の重要な文献は,本文の中でのみ紹介されているというのも読者の利便性を考え,直ちに文献に当たれという氏の基本姿勢の表現であろう。

 藤盛教授がわが獨協医科大学病理学教授として赴任されて,8年が過ぎたらしい。この間,本学並びに関東では,関西から若干変わった教授が来たということで波紋を投げたこともあったようであるが,ともかくこのようなすばらしい独創的なtextbookを出版されたということは,本学にとって非常な名誉である。学会,研究会における氏の発言は,きわめて鋭く,それ故に誤解されることもなしとしないが,その向きはぜひ本書をお読みになるといいと思う。きっと胸のつかえが下りるだろう。この度発足した「日本消化管学会」においても,氏は重要な役割を果たすであろうし,われわれも大いに期待しているところである。

 藤盛教授は,分子病理学を得意とするように大変現代的な方であるが,他方,本書にもあるように,恩師である長廻先生を心から慕うなど古風なところもあり,まさに「温故知新」の典型的な人物である。

 病理学専門医,内視鏡専門医,レジデントあるいは医学生の諸君に本書を強く薦める。

病理医のみならず消化管専門医にも役立つユニークな教科書
書評者: 武藤 徹一郎 (癌研究会附属病院長)
◆記述は短く簡潔

 本書は従来の教科書の“常識の壁”をつき抜けたまことにユニークな本である。わずか213ページの中に,口腔から肛門までの腫瘍性疾患と炎症性疾患の病理を網羅し,さらにその理解に必要な発生と正常組織に言及し,染色法と遺伝子診断に関係する技術のエッセンスまでが記述されている。これほどユニークで読者の立場に立った教科書は類を見ないと言ってよい。病理学者の教科書は,概して記述が長く,しばしば自己主張が多いのが一般的であるが,本書はそれとは全く逆に,記述は短く簡潔で研究的データ,自己主張は一切なく,公認されている分類と必要最小限の写真が提示されているのみである。読者はまず本書の記述の思い切りのよさに感嘆するであろう。やろうと思えば,物事はここまで無駄をなくすことが可能なのである。しかし,症例を中心にまとめたと著者が述べているように,教科書としての十分な情報も満載されている。単著であるがゆえの,あれも書きたいこれも書きたいという誘惑をバッサリと断ち切って,ここまで簡略にまとめた著者の勇気と英断には,お見事と感服せざるをえない。

 著者の藤盛博士は今では高名な消化管病理の大家であるが,筆者は氏が現在のように主役を演じる以前から注目し,期待を込めて見守っていた。従来の病理医とはちょっと肌合いの違う言動に,戸惑いを感じる臨床家も少なくなかったと想像するが,分子生物学的手法を古典的病理学に積極的に取り入れる,という新しい方向をめざす姿勢には常に声援を送ってきた。氏の教室には学内外から常に多数の留学生が集まっていると聞くが,本書の出版に際して彼らの協力が大きかったことは同慶の至りである。比較的短期間にかかる大著(ページ数は少なくても内容は大著に匹敵する)が著せたのも,多方面からの資料提供を可能にした氏の日頃の情熱とリーダーシップのなせる業であると敬服している。

◆多忙な医師の生活にマッチした近代的教科書

 さて,本書のユニークな内容について簡潔に紹介する必要があるだろう。全体で8章のうち,第1章で生検,切除材料の取り扱い,生検に関する実際の諸注意が述べられている。さらに,大腸sm癌の取り扱いが説明され,大腸sm癌の種々相としてsm癌のさまざまな典型例が提示されている。この「○○癌の種々相」は各臓器別に症例報告のごとく提示されているのが独創的で,初心者はここを通覧すれば消化管病理の門をくぐったことになる。

 あとは,口,食道,胃,小腸,大腸の順に各臓器別の種々の疾患に関して,2―3行から数行の無駄のない説明と内視鏡像,病理組織写真が並び,通覧すれば消化管病理の概要は理解できるようになっている。記述が短く簡潔なので,読むのにも時間はかからない。最近の多忙な医師の生活にマッチした,近代的教科書と言うべきであろう。

 第7章が本書のユニークさの一端を示している。ここでは,通常は最初に来るであろう消化管の発生,器官形成が語られ,正常組織像のアトラスが提示されている。第8章の消化管病理に必要な基礎的染色法と遺伝子診断に関連する技術の項は,著者の面目躍如たる部分であり,本書の最大の特徴の1つをなすと言ってもよいであろう。染色法,遺伝子診断法ともに試薬の作り方から検出法までが提示されている。必要とあれば,読者はその記述に従って染色,遺伝子診断を行うことができる。何と行き届いた教科書であろうか。古典的病理学に満足しない著者の,より多くの若い病理医ならびに臨床医に,著者のめざす方向への理解を深めたいという願いが伝わってくる。

 文献は565編が巻末に収録されているが,それ以外にどの教科書にも引用されているような代表的なものは,本文中の( )の中に配置されているのも無駄がなくてよい。教科書は大成し高齢に達した大家が著すものという常識は,もはや過去のものであることを,本書を通覧してしみじみと感じた。しかし,一方で,著者が成熟の域に達した時に著す成書はどんなものであるかが楽しみでもある。本書は病理医のみならず消化管専門医にとっても有用であり,あまねく消化管の臨床家に推薦したい。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。