大腸pit pattern診断

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拡大観察に対する誤解や理解不足等により、pit pattern診断には抵抗を示す内視鏡医も存在する。本書では、その抵抗を払拭するような内容を展開。もちろん初学者にもわかるようpit pattern診断の基本から、診断に基づく治療方針、さらには将来展望まで触れ、現場で使える「pit patternの教科書」ともいえる1冊。
編著 工藤 進英
発行 2005年06月判型:B5頁:204
ISBN 978-4-260-10673-3
定価 13,200円 (本体12,000円+税)

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  • 目次
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第I章 pit pattern診断の歴史
第II章 pit pattern分類の基本
 1. 解剖学的立場からみた大腸のpit-pitとは何か
 2. pit patternの立体構築
 3. pit patternと通常内視鏡観察
 4. 拡大内視鏡観察の方法
 5. 拡大内視鏡の操作および観察のトレーニング
 -初心者・中級者のためのコツと注意点
 6. 実体顕微鏡観察
 7. pit patternにおける境界病変
 8. pit patternと病理組織の対比
 9. 大腸癌および腺腫のpit patternと形態分類
 10. 側方発育型腫瘍(LST)のpit patternの特徴
 11. pit pattern診断と癌の発育進展
 12. sm癌からmp癌における形態の急激な変化
 13. scratch signと逆噴射所見の典型像
 14. 深達度診断におけるInvasive pattern
 15. SA pattern
第III章 pit pattern診断と治療
 1. pit pattern診断に基づく腫瘍・非腫瘍の鑑別
 2. pit pattern診断に基づく深達度診断
 3. pit pattern診断に基づく治療指針
 4. pit pattern診断に基づいた治療の実際
第IV章 炎症性腸疾患とpit pattern
 1. 潰瘍性大腸炎とpit pattern
 2. colitic cancerとpit pattern
第V章 pit pattern診断の将来展望
 1. Narrow band imaging(NBI)systemを用いたpit pattern診断
 2. LCM
 3. Endo-Cytoscopy system
 4. pit pattern診断の将来
あとがき
文献
索引

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大腸pit pattern診断学の最高の教科書
書評者: 田中 信治 (広島大学病院・光学医療診療部 部長)
 昭和大学横浜市北部病院消化器センターの工藤進英教授が,大腸のpit pattern診断に関する成書を,秋田赤十字病院胃腸センター時代のお弟子さん達の貴重な助力も得て発刊された。

 大腸のpit pattern診断学の歴史は古いが,本格的に生体内で拡大観察が開始されたのは,工藤進英教授らが開発したオリンパス社製拡大電子内視鏡CF―200Zが世に出てからである。しかし,当時は先端硬性部が太くて長く挿入性が悪かったし,ズームスイッチも扱いにくいものであった。その後,拡大電子内視鏡CF―240Zが開発され,内視鏡のスペックや拡大観察の操作性が劇的に改良され,ルーチン大腸内視鏡検査の一部として拡大観察が普通に行われるようになってきた。CF―240Zが発売されるころと時を同じくして,フジノンからも電動ズーム式高画素拡大電子内視鏡が発売されたが,これもスペックは汎用機と同じで,汎用大腸内視鏡が拡大機能を持つことになった。現在では,オリンパス,フジノン東芝,ペンタックス各社から,大腸内視鏡汎用機にオプション機能として拡大機能が内蔵された高画素電子大腸内視鏡が発売されており,日常診療の中で極めて簡便に,ワンタッチのボタン操作で瞬時に拡大観察が可能になっている。これに伴い,大腸のpit pattern診断学(pitology)も飛躍的に進歩し,多くの臨床的に有用な知見が現在明らかになっている。

 このような進歩により,大腸pit pattern診断学が着実に簡便に臨床応用可能になっているにもかかわらず,大腸内視鏡操作技術の未熟さ,拡大観察に対する誤解・理解不足,単なる「食わず嫌い」などから,いまだ大腸の拡大観察を受け入れることができない先生が多いことには驚かされる。

 この原因のひとつに,拡大内視鏡観察を行っている専門医あるいは施設間のpit pattern分類・命名,診断基準などが微妙に異なっていたことが挙げられるが,確かに,このことが初学者を混乱させていたことは事実である。この打開策として,小生が司会をさせていただいた雑誌『早期大腸癌』(日本メディカルセンター刊)の座談会における「V型pit pattern呼称の統一」(VI vs VN),厚生労働省がん研究助成金による工藤班(班長:工藤進英教授)の研究の一環として開催された2004年4月の「箱根pit patternシンポジウム」におけるVI型とVN型pit patternの境界診断基準の統一など,pit pattern診断学の世界への普及をめざした歩みが着実に進んでいる。本書では,大腸pit pattern診断学の世界のリーダーである工藤進英教授自身の手によって,これらの歴史や実際が多くの美しい内視鏡画像とともに詳細に記載されており,この本を一読すると雲が晴れるように大腸pit pattern診断学が理解できる内容になっている。

 さらに,大腸腫瘍診療への具体的な臨床応用はもちろんのこと,colitic cancer診断への応用などについても解説されているし,Narrow band imaging(NBI)や超拡大観察などの最先端の内容もふんだんに盛り込まれている。大腸癌の発育進展など現在学会で熱い議論が進行中で,まだ完全にはコンセンサスが得られていない部分もあるが,本書は大腸pit pattern診断学を一気に理解・マスターするための最高の教科書である。

 拡大観察機能が通常汎用内視鏡に完全に吸収された現在,この簡便で有意義な機能を使わない理由はないし,近い将来には,拡大機能を持たない大腸内視鏡はなくなるであろう。大腸内視鏡診断学の時代の流れに遅れないために,本書を早く購入して熟読することを強くお勧めする次第である。

大腸腫瘍の内視鏡診断学のピーク
書評者: 多田 正大 (多田消化器クリニック院長)
◆一級品の内視鏡画像

 内視鏡関連の論文,書籍に掲載される内視鏡像は美しくなければならない。科学写真として学術的に優れていることはもちろんであるが,露光条件,ピント,ブレなどの光学写真としての技術面もクリアしていなければ興ざめである。工藤進英 教授の大作『大腸pit pattern診断』を通読して,掲載されたすべての内視鏡像が立派であることに敬服させられた。一枚として無駄な画像がなく,一枚の内視鏡像を観て百の知識を得ることができる。学会や講演会で拝見する工藤教授の内視鏡像は常に一級品であるが,本書の画像も説得力がある。

 竹本忠良 名誉教授は,日本消化器内視鏡学会総会における特別講演のなかで「内視鏡写真はアートである」という言葉を述べられた。内視鏡写真は病変を正確に捉えて,診断上役立つことは当然であるが,術者の思いが込められていなければアートとは言えない。科学写真であるとともに,構図もセンスがあり美しくなければならないという意味を講演された。本書に掲載された内視鏡像はまさに「アート」であり,工藤教授の言いたいことが凝縮されて表現されている。さすがにわが国の大腸内視鏡学をリードする先駆者としての面目躍如で,読んでいて気持ちのよい書籍である。

◆世界に発信するpit pattern診断

 工藤教授の大腸癌に関する業績は枚挙にいとまがない。pit pattern診断も長年の工藤診断学のひとつである。拡大内視鏡を自在に操作して,pit patternを含めた早期大腸癌の診断学,組織発生理論を確立し,「秋田病」であったII c型早期大腸癌の存在を世界に発信したのが工藤教授の最大の功績のひとつである。秋田赤十字病院時代に「平坦・陥凹型早期大腸癌の内視鏡診断と治療―微小癌の内視鏡像を中心に」(胃と腸24;317―329,1989)の後世に残る論文で第15回村上記念「胃と腸」賞を受賞した。その表彰式で工藤教授は「自分の研究は山麓に辿りついたばかり」と謙遜して受賞の喜びを述べられたのが昨日の出来事のように思い出される。本書の完成で山頂は踏破できたのであろうか。その回答は,執筆者自らが最もよく理解できているであろう。

 それにしても,本書はまさに工藤診断学の集大成とも言える書籍であり,文章の端々に貴重な研究成果が込められた名著である。今日では小さい大腸腫瘍,表面型腫瘍の内視鏡診断にあたって,pit patternを観ずして診断は成り立たないという概念が定着している。拡大内視鏡を用いるか否かは別にして,通常内視鏡観察でもpitに注目しなければ診断が成り立たない。早期大腸癌を診療する内視鏡医,病理医にとっては工藤診断学を理解することは不可欠であり,本書を読破せずして大腸腫瘍の内視鏡診断,組織発生は語れない。

 また,それだけの価値のある内容が科学的に記述されており,共感を覚える。

◆若い内視鏡医,病理医へのメッセージ

 序文に込められた早期大腸癌の内視鏡診断に対する工藤教授の篤い思いに感銘すら受ける。若い内視鏡医,病理医は本書を通じて工藤教授のメッセージを受け止め,pit pattern診断をさらに発展させなければならない。

 本書の刊行でpit pattern診断はひとつのピークを極めたであろうが,山頂の向こうにさらに連なる峰々を感じなければならない。解決しなければならない課題は存在するはずである。それを察知できるか否かが,工藤診断学を乗り越えられるか否かの岐路である。

 若い内視鏡医,病理医だけでなく,われわれも今一度,pit pattern診断を顧みて,この方面の討論を活性化させなければならない。本書は,そのための重大なヒントを与えてくれる名著であるので,正座して熟読しなければならない。

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