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半分の脳

少年ニコの認知発達とピアジェ理論

著:Antonio M. Battro 
監訳:河内 十郎
訳:河内 薫

  • 判型 A5
  • 頁 136
  • 発行 2008年07月
  • 定価 2,700円 (本体2,500円+税8%)
  • ISBN978-4-260-00495-4
半分の脳の少年の脳と教育、心の発達に驚嘆
三歳半で右脳の皮質を失った少年ニコのその後の発達過程をふまえて、その左右両半球の代償作用と脳の可塑性について述べる。
序 文
まえがき

 このささやかな本は,脳と心と教育に関する筆者がかかわってきた個人的な実話に基づいている。それは,筆者がヴェノスアイレス大学から医学の学位を授与された40年以上も前まで遡る。脳波と神経解剖学の訓練を受けた後に,筆者はPaul Fraisseのもとで知覚に関する実験的研究...
まえがき

 このささやかな本は,脳と心と教育に関する筆者がかかわってきた個人的な実話に基づいている。それは,筆者がヴェノスアイレス大学から医学の学位を授与された40年以上も前まで遡る。脳波と神経解剖学の訓練を受けた後に,筆者はPaul Fraisseのもとで知覚に関する実験的研究を行うための奨学金をパリ大学から受けることになった。そこで心理学の学位を得て,さらにフライブルグ大学で数理論理学と哲学のコースを履修しているときに,Jean Piageが筆者をジュネーヴに招いてくれたので,発生的認識論国際センターでPiagetの指導のもとに2年間を過ごすことができた。Marvin Minskyと一緒に人工知能の研究を続けていたSeymour Papertと筆者が出会ったのはちょうどその頃のことである。20年後にPapertは,MITでLogoと呼ばれるコンピューター言語を用いて教育革命をスタートさせている。その後すぐに筆者も,ハンディキャップを持つ子どもたちのためのコンピューターの人道的活用を始め,ヴェノスアイレスに戻って聴覚障害者のための仕事に携わることとなった。筆者が教えた学生で今ではパートナーともなっているPercival J. Denhamとともに,身体的・精神的障害を持つ多くの子どもたちのために,新しい情報技術とコミュニケーション技術を広めることを始めたのである。数年間の集中的な作業と南米中を飛び回った結果,南米の多数の国々で協力者を得ることができたが,とくにアルゼンチンとブラジルでは,コンピューターを障害者のために臨床的に使用するだけではなく,より広範囲なデジタル教育にまで進めることができるようになっていったのである。
 そうしたなかでのある日,5歳の男の子が筆者の研究室に来訪し,コンピューターとネットワークを用いた新しいデジタル環境に親しむようになった。この本は,重度な難治性てんかんの治療のために筆者が出会う2年前に右大脳半球の半球切除術を受けたNicoについての物語である。Nicoと同じような状況におかれている人の数は全世界でほぼ100人ほどになるが,状態は1人ひとり異なっている。筆者の友となり生徒となったこの特殊な状況におかれた子ども,Nicoは,筆者や筆者の家族とすぐに友達になり,学校に通っても十分ついていくことができ,今では新しいデジタル世界に関する知識を急速に獲得してそれを楽しんでいるのである。筆者は,Nicoとともに研究を続けるという,特権とも言うべき類いまれな機会に恵まれることとなり,この研究の過程のなかで,脳と教育,心の発達についてのそれまでの筆者の考え方に大きな変化が生じたのである。Nicoは私たちに,私たち自身についてより深く学ぶ機会を与えてくれ,とりわけ脳が半分だからといって推理も半分になるのではないことを学ぶきわめてまれな機会を与えてくれたが,筆者はNicoと接しながら,この点に関して常に感謝の気持ちを持ち続けていたのである。
 最後になってしまったが,教育学の大学院に客員研究員として招聘してくれたハーヴァード大学と,この本を書くことを薦めてくれた友人のHoward Gardnerに心から感謝の意を表したい。Gardnerや筆者の友人や同僚たちは,この本について多くのコメントや批判を与えてくれた。この本の内容は,半球切除術を受けた子どもの病歴と,そうした子どもに対する教育の神経認知学的ルーツという2つの筋を互いに織り込みながらかたちづくられているが,これはFernando Vidal,Kurt Fisher,Thierry Deonna,Marvin Minsky,Balaz Guyas,Jacque Voneche,Ralf Kockroらの助力によるものである。さらにこの本の英語版の作成を助けてくれたPatric Templeにも感謝している。また,ケンブリッジ大学出版局で筆者を担当してくれた編集者のSarah Caroと,最も有能な校正担当者であったSteve Caroにも謝意を表したい。
 Nicoの家族や学校や幼稚園の先生たち,Nicoの生活を生き生きとしたものにしてくれたNicoの友人たちの名前は,プライヴァシーの問題があるのでここで挙げることはできないが,筆者が計り知れないほどの恩恵を受けたこれらの人たちに深く感謝していることは,読者諸氏にも容易に想像することができるはずである。彼らは,脳は半分しかないがそれでも輝かしい心を持つNicoの教育という筆者の情熱的な研究を,最良の条件で進めることを可能にしてくれたのである。
目 次
まえがき
用語解説

第1章 心は脳の中にある
第2章 新しい脳の成形
第3章 補償分析
第4章 初めて学校に行く
第5章 皮質転移
第6章 二重の脳
第7章 脳,教育と発達


文献
監訳者あとがき
索引