標準感染症学 第2版

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21世紀を迎えると同時に新興感染症SARSが世界的な話題となった。ウイルスの同定は迅速に行われたが,治療はまだ緒についたばかりである。多彩な人の交流や航空機の発達により,諸外国から日本にはなかった微生物が運び込まれ,いつ重篤な感染症が発症するか判らない時代となった。専門家の手薄な分野の貴重な教科書。全頁2色刷。
シリーズ 標準医学
編集 齋藤 厚 / 那須 勝 / 江崎 孝行
発行 2004年03月判型:B5頁:400
ISBN 978-4-260-10300-8
定価 6,050円 (本体5,500円+税)
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  • 目次
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第I章 感染症に関する基礎知識
 1 感染症の成立とホスト側の問題点
 2 感染症の診断へのアプローチ
 3 感染症の治療
 4 感染症の予防と疫学
第II章 感染症各論
 1 小児感染症
 2 高齢者感染症
 3 性感染症
 4 輸入感染症
 5 人畜共通感染症
 6 病院感染
 7 日和見感染症
 8 不明熱
 9 HIV
 10 成人T細胞白血病
 11 重症急性呼吸器症候群
第III章 臓器別感染症
 1 敗血症
 2 感染性心内膜炎
 3 上気道感染症
 4 下気道感染症
 5 結核
 6 肝臓感染症
 7 腸管感染症
 8 胆道,腹膜感染症
 9 尿路性器感染症
 10 婦人科感染症
 11 脳神経系感染症
 12 眼科感染症
 13 皮膚感染症
 14 筋腱感染症,リンパ節感染症,骨感染症,関節感染症
付表
索引

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学生から専門医まで使える,実用性の高い教科書
書評者: 山口 惠三 (東邦大教授・微生物学)
◆地球環境や社会的背景の変化がもたらす感染症の世界への影響

 21世紀に入り,地球環境の変化はさらに加速されてきているように思える。経済先進諸国のみならず,中国,ASEANなどにおける近年の急速な国土開発や経済発展は,大気や海洋汚染を生み出し,地球温暖化の1つの大きな要因ともなっている。一方,世界人口の対数的増加傾向は依然としてとどまるところを知らず,必然的に弱小国においては貧困と飢饉の問題に直面し,衛生状態の悪化を招いている。また,交通網の充実や東西冷戦構造の崩壊は,世界のグローバル化を生み,モノやヒトの大規模な流通や交流が活発となっている。

 このような社会的背景の変化が感染症の世界にも大きな影響を与えつつある。SARS,AIDS,エボラ出血熱のように忽然として出現した新しいウイルス性感染症,忘れ去られた感染症の再燃,そして感染性蛋白“プリオン”による感染症―狂牛病(BSE;牛海綿状脳症)など,20世紀後半からみられるようになったいわゆる新興再興感染症の出現は,まさに社会的要因の投影であると言っても過言ではない。21世紀に入ると,これまで存在した薬剤耐性菌はさらに多剤高度耐性を獲得し,世界中に蔓延している。そして,これらの病原体に起因した院内感染症は抗菌薬療法に抵抗性を示し,臨床上大きな問題となり,抗菌薬の適正使用が叫ばれている。

 このような状況の中で,明治以来守られ続けてきたわが国の伝染病予防法ではついに対応できなくなり,新たな感染症予防法として100年ぶりに改定されたのは周知のことである。本書は,そのような時代の要望に応えるべく改訂出版された,時宜を得た感染症教科書として位置づけることができる。

◆新たなウイルス感染症も解説

 第I章では,感染症基礎知識として宿主の感染防御機構,診断法,治療法に関する最新の知識が網羅されており,第II章では個々の感染症について,第III章では臓器別に感染症を分類し,それぞれの分野における第一線の感染症専門医,研究者によってわかりやすく記述されている。

 さらに,今回の改訂では本邦ではいまだ報告されていないウエストナイル熱,ニパウイルス熱,リッサウイルス熱などの新たなウイルス感染症なども取り上げられ,ていねいな解説が加えられている。

 また誌面も2色刷りで見やすく,さらに読者の知識の整理のため,テスト形式のコラムShort Notesが随所に掲載されている。巻末には付表として感染症法に基づく分類表と,疾患別にみたわが国における最近の報告症例一覧や,235種類におよぶ病原微生物の種類とそれらの特徴をまとめた概説表,微生物危険度分類,ワクチン一覧表も掲載されている。

 本書は,医学生,研修医,そして感染症専門医も含め,多くの医療関係者にとって実用性の高い価値ある教科書といえるだろう。

すべての感染症を把握する基本となる1冊
書評者: 山中 喜代治 (大手前病院・臨床検査部長)
◆感染症治療・入院患者の感染症コントロールの実践に役立つ

 昨年の新興感染症のひとつSARS騒動時にはわが国の多くの医療機関がこれに備え,今冬は高病原性鳥インフルエンザの猛威に獣医学と食品微生物関連部門が対応に当たった。また,MRSAをはじめ多くの耐性菌が病院内感染の原因菌として注目されてきたのも近年の高度医療に伴う感染症の多様化現象のひとつであろう。

 このようにあらゆる微生物による広域感染症は,地域,人種,時間を問わず出現し,日頃無害菌(常在菌)と既存病原菌の病原性差も接近してきているように思われる。特に,栄養状態と免疫力の強弱,そして微生物本体の毒力によっては感染症原因微生物の特定は困難であり,このような状態を踏まえて私は微生物検査成績を『瞬間値』と呼んでいる。この瞬間値をうまく判断し,初診時における感染症の診断治療そして複雑な入院患者感染症のコントロールに当たるのが,担当医師,看護師,微生物検査担当技師であり,その実践に役立つのがこの『標準感染症学』ではないだろうか。もちろん,医学部をはじめとする医療関連学校の教科書として推奨されてはいるものの,卒後のバイブルとして多くの方々の懐書になるものと信じている。

◆利用者の要望を踏まえた構成

 本書は,第1章の感染症成立とホスト,診断治療,予防と疫学を中心とした《感染症に関する基礎知識》,第2章の各種感染症(小児感染症,高齢者感染症,性感染症,輸入感染症,人畜共通感染症,病院感染,日和見感染症,不明熱,HIV,ATL,SARS)別にそれぞれの専門家が解説する《感染症各論》,そして第3章の循環器,呼吸器,消化器など14領域(敗血症,感染性心内膜炎,上気道感染症,下気道感染症,結核,肝臓感染症,腸管感染症,胆道・腹膜感染症,尿路性器感染症,婦人科感染症,脳神経系感染症,眼科感染症,皮膚感染症,筋腱感染症・リンパ節感染症・骨感染症・関節感染症)別に解説する《臓器別感染症》の大きく三部から構成されている。さらに,付表として感染症法に基づく分類表と疾患別にみたわが国における最近の報告症例数一覧や,232種類におよぶ病原微生物の種類とその特徴をまとめた概説表,そして微生物危険度分類・ワクチン一覧表が掲載されており,利用者の要望を踏まえた構成と思われる。そして受験生を対象とした簡単なテストがshort notesとして部門ごとに随所に盛り込まれているのもユニークな特徴と言えよう。

 院内感染対策の基本は《すべての血液・体液を危険性ありとみなして取り扱う》ことであり,これをいち早く唱えたのがCDCのstandard precaution(標準予防策)であった。そこで,感染症学についても《すべての感染症を把握する基本》として本書『標準感染症学』を推奨したい。5,775円は安い。

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