腫瘍内視鏡学

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超高度化した内視鏡。消化器内視鏡診断の現在位置はどこか。どこまで診断できるのか。治療はどこまで可能になったのか。食道・咽頭,胃・十二指腸,大腸・小腸,そして胆膵の各領域の現状はどうなっているのか? 本書は,現在の内視鏡診断・治療が豊富・美麗な写真とともに読みやすく整理された,21世紀の診断学の要諦である。
編集 長廻 紘 / 大井 至 / 坂本 長逸 / 星原 芳雄
発行 2004年10月判型:B5頁:264
ISBN 978-4-260-10659-7
定価 13,200円 (本体12,000円+税)
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序論 内視鏡の過去・現在・未来
第1章 食道・咽頭
第2章 胃・十二指腸
第3章 大腸・小腸
第4章 胆・膵
索引

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編者のこだわりが感じられる内視鏡学の専門書
書評者: 名川 弘一 (東京大学腫瘍外科教授)
 本書は,内視鏡学からみた消化器腫瘍の専門書である。専門書であるから,専門家に読んで欲しい。さらりと読み流すのではなく,一語一句を熟読して欲しい。編集者のこだわりが感じられるであろう。本書は,内視鏡を単なる検査,診断,治療の道具としてではなく,内視鏡学として捉えた一冊である。

 流氷は美しい。流氷を見るツアーも組まれている。この流氷をみて,その美しさに感激する人も多いことであろう。一方,流氷の静かな佇まいから水面下に隠されている大きな氷の塊を想像する人もいるであろう。本書は,食道,胃,大腸などの実際の症例を中心に,海面上の流氷を描くように,豊富で美しい写真を用いて詳細な解説がなされている。これだけで,十分,読み応えのある書物となっている。しかし,編集者の狙いは違う。本書をもとに,水面下の氷塊に思いを馳せる人を探している。これが編集者のこだわりである。

 まず,序論が圧巻である。冒頭に「序」あるいは「序文」と題して,著者あるいは編集者の意図などが1―2ページで記載されているのが通常の書籍である。本書は,通常の書籍とは異なる。本書の冒頭に「序論―内視鏡の過去・現在・未来」と題して,内視鏡学の軌跡と編集者の思いが10ページ強の紙面で綴られている。この序論によって,本書を作り上げた編集者の強烈な思いと力の強さ,そして学問に対する真摯な姿勢を読み取ることができよう。

 次に,その編集方針が特徴的である。編集者によって執筆項目が厳選されたのであろう。内視鏡と腫瘍に関わる一般的な知識については,これをすでに習得していることが前提となっているようである。本書全体で4章の構成である。第1章の食道・咽頭で6項目,第2章の胃・十二指腸で10項目,第3章の大腸・小腸で9項目,第4章の胆・膵で5項目であり,全体で30項目の構成となっている。執筆項目として採りあげられている疾患は,26を数えるのみである。冒頭に「専門家に読んで欲しい」と記載した所以である。

 編集者の真の狙い,すなわち今後の内視鏡学のブレークスルーのために,各章のはじめに「展望」を置くことによって,そのヒントが与えられている。流氷の美しさに感激しているだけではなく,氷山全体を見て欲しい,そしてその不思議に気付き,さらに謎を解明して発展させて欲しい。編集者のこのような思いが伝わってくる一冊である。

各領域について今日の内視鏡の到達点を確認できる
書評者: 多賀須 幸男 (多賀須消化器内科クリニック院長)
 「腫瘍内視鏡学」という書名からは,内視鏡検査の対象になるすべての腫瘍の診断・治療を網羅した書物を想像するかもしれない。しかし本書の内容は少し異なる。編集者の長廻は序論で,本書の目的についておよそ次のように書いている。

 『内視鏡はどこへでも入っていき何でも見つけて,必要とあれば退治するといった時代になった。内視鏡のゴールとして治療が重視されるようになると,病変の範囲・深さ・所属リンパ節転移などまで,より細かく正確に診断する必要が生じる。内視鏡の進歩の到達点を示して,最新の機器の性能を最大限に生かす努力の拠りどころとして欲しい。そして読者のなかからさらに先へ内視鏡の地平を広げるひとの出現を目的としている。本書は網羅本ではない。「一を聞いて十を知る」よすがとされることを求めるものである。』

 本書は「食道・咽頭」「胃・十二指腸」「大腸・小腸」「胆・膵」の4章よりなり,各章ごとに「内視鏡診断・治療の到達点と展望」と題した総論があって,それに続いて下咽頭癌,Barrett腺癌,食道表在癌,微小胃癌,スキルス,MALTOMA,GIST(gastrointestinal stromal tumor),Colitic Cancer,IPMT(intraductal papillary―mucinous tumor)などの,たびたび学会でシンポ・パネルが開催され専門誌の特集号の主題になっている事項を中心に,30項目が57名の専門家により分担して執筆されている。

 下咽頭・食道では拡大観察による上皮乳頭内毛細管ループ(IPCL)の診断的意義が中心になっている。内視鏡的粘膜切除術(EMR)の適応からはずれる表在食道治療癌の展望として,chemo―radiation治療(CRT)の手技と目覚ましい成績・安全性についてかなり詳しく述べられているのは,著者らが述べるごとく,食道癌の治療法の選択に内科医も積極的にかかわらねばならぬ時代の時宜を得ている。

 胃・十二指腸では超微小胃癌のきれいな症例が印象深いが,早期胃癌やリンパ腫の診断において拡大観察や超音波内視鏡の意義について著者らは懐疑的な様子で,スキルス胃癌の早期診断についての目新しい記述はない。また内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)について著者らの国立がんセンター中央病院のデータが率直に記述されていて,非常に参考になる。

 大腸でpit patternについての記述が少ないのは,これがすでに周知の知見であるためであろう。内視鏡医の共通の悩みである微小腺腫の取り扱いと,1,000μm以上のsm浸潤癌の診断およびEMRをしてしまった場合については,執筆者らのデータを示して詳述されている。Colitic Cancerの項で著者の多田は持続する炎症で粘膜表面が修飾されているために通常の大腸癌のpit patternと異なると述べているが,胃癌の場合に当てはめると,大半が胃炎粘膜に発生する胃癌の拡大観察には細血管像などそれとは異なる視点が求められる理由がわかる。小腸では,カプセル内視鏡などの新しい手技の現状が紹介されている。

 胆・膵領域ではIPMT,膵嚢胞性疾患,腔内超音波検査(IDUS)などのきれいな写真が掲載されているが,紙数が限られているので,この領域の診断・治療のさまざまなモダリティーの紹介に止まっているのは致し方なかろう。

 言うまでもなく腫瘍性疾患は内視鏡の診断・治療で最重要である。内視鏡を用いた診療に従事しているものが,各領域について今日の内視鏡の到達点を確認できる手頃な書物である。あわせて臓器による内視鏡像などの異同を見比べることができる利便性があり,他では得られない示唆がある。しかしコンパクトに集約された内容であるので,それなりの予備知識がないと読みこなせないかもしれない。

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